俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十三節 月が欠けた代償。4/4

 

 

 

 

 

 はたまたところ変わって花街、吉原。昼間だと言うのに賑やかなこの場所で俺達四人は歩いていた。カランコロンと下駄が鳴り、欲に塗れた音が煩わしい。中には澄んだような恋の音も聞こえるけれど、それは一部分だけだ。

 明治の頃、遊女屋から貸座敷と名前を変えたこれらは何も色を売るだけではなく芸事やその見目を売ったりしている。つまりは風俗店とキャバクラを足して割った感じだ。まぁこう言ったらどの店にも失礼だとは思うけれど。

 しかしながら歩き難い。思ったよりも脚を前に出せないのが辛い。横に並んでいる彼らもそう思っているのか少し眉を寄せている。その顔やめれ、余計ブサイクに見えるぞ。

 

「よくこんなブサイクに化粧できますね。ある意味才能では?」

 

 前を歩く着流を着た超絶イケメンが振り返った。いつもの化粧を取っただけなのに何故そんなに変わるのだろうか。道行く人がすれ違い様に頬を染めては此方を見て青褪めてるのが腹が立つ。俺たちは引き立て役か何かですかね? え? 違う??

 

「ばーか、わざとだよ。お前らは下地だけはいいからな、きっちりと化粧して売れたら身動きが取れねぇだろうが」

 

 それはそうかもしれないけれど、でもこの化粧は今になってもナイナイ。白粉を塗りたくり、ベタベタに紅を塗り、頬紅……チークをこれでもかと濃く丸く塗っている。目に至ってはシャドーもラインも引いてないし、マスカラはやり過ぎて睫毛が固まってるし、そもそも俺の睫毛って金なのに塗ってるの黒なの嫌がらせなの? 嫌がらせだよな??

 そうこうしているうちにあれよあれよと売られていき、最後には何故か俺が残った。

 

「また俺かよ!!!!」

「また……?」

「こっちの話です!!」

 

 生前も俺が最後だったな! わかってたけど!! わかってたことだけどさ! 炭治郎と伊之助相手ならまだしも立香と小太郎相手でも俺は負けるらしい。いや二人とも顔立ちは良いからな! 他の英霊と比べると見劣りしてしまうけど良い方だからな! 当たり前っちゃ当たり前だけど! 二度に渡って敗北するとは……!! 金の髪って逆に見世物として良いのでは!? 客寄せにぐらいにはなるでしょうよ!

 因みに初めに小太郎、次に立香の順に売られていきました。これはあれか? 悔しいです! とか言って変顔するべきなのか? その前に頬を殴られなきゃいけない感じですかね?

 

「ちょっとは儲けになるな。今日の昼飯はちょいと豪華なのにするか」

「俺達を売って贅沢するとか何? 鬼か?」

「人間です。良いだろうよ、お前らは働き先が決まり俺様は贅沢できる。良い関係で行こうぜ」

「お前しか得してないだろ」

 

 ふざけんな、そんなWIN-WINな関係は要らぬ。

 それにしても何故こうなったのか。上弦の参との戦い、つまり無限列車編から一週間ちょっとしか経っていないと言うのにもう遊郭編ですよ。生前じゃ、怪我の回復に機能回復訓練も入っていたのと他の細かな任務とかで約三、四ヶ月ぐらいは間が空いていたはずなのだが、ここまで間隔が狭まっているのはどういうことなのだろう。カルデアが来たからか? それとも上弦の参を倒してしまったからか? バタフライエフェクトというのは起こされた側は原因がわからないのだから嫌なものだね。

 はふ、と息を吐いて最後の店へと辿り着く。正直ここが本命だ。音柱嫁三人衆が潜入していた貸座敷はときと屋、萩本屋、そして京極屋。そのうちの一つ、京極屋に鬼がいる。というか俺が売られた場所で鬼に会ったって記憶が強いから多分京極屋で合ってるはずだ。ときと屋と萩本屋はもう行ったしたな。

 店の人に出迎えられて、音柱に背中を押される。チャリンと聞こえた音からして売れた金額は二束三文(大体四円程度)。わぁい生前よりも上がったぞぉ。

 

「(って他のと同じ値段やないかい!!)」

 

 生前から上がったのに並んだだけってこれいかに!?

 笑顔でひらひらと手を振って去っていく音柱から目を逸らして心の中でそう突っ込む。というか逆に何故上がったのだろうか、気になるところだけど俺の価値って二束三文しかないのかななんて虚しくもなる。生前はそれ以下だったが過ぎたことは気にすんな。

 

「アンタ、不細工だねぇ。背も高いし、その金の髪は綺麗だけどね……」

 

 くるくると俺の周りを回りながら検分するおば様に俺はその通り過ぎて何も言い返せない。髪の毛だけ褒めてくれたけどそれだけだ。肩幅は男にしてはない方だし、背丈もあの音柱に比べたらひよっこなので許して欲しい。追い出すのはやめてくれ、任務遂行できなくなる。終わったらトンズラするけど!

 

「化粧直しの時間も無いし、今日はこのままで行こうかね。アンタ何かできるかい?」

「三味線ぐらいなら……一回曲聞いたら完コピ、じゃなくて完璧に弾けます」

「何? そりゃ本当かね?」

 

 本当本当、これはマジの大マジ。善逸ができてたけど俺には無理だろう、三味線どころかギターなんて触ったことのないど素人なのにと生前思ってたのに普通に弾けたやつが俺です。いやぁ俺にも一応才があったらしい。これ言うと多方面から刺されそうな気がするけど、まぁ気のせいだ。

 肯定のためにこくりと頷くと彼女はそうかい、と呟いて歩き出した。慌てて付いていく。

 

「今日は三味線を披露する筈だった子が風邪でね、代役を探していたんだ。アンタが三味線できるってんなら心強い。言葉に偽りはないね? 一回で覚えてもらうよ?」

「大丈夫です!」

「良い返事だね」

 

 さてはて。

 

「(ここからが気合の入れところだな)」

 

 なんでサーヴァントになっても鬼狩りをしなくちゃならないのかはさておき、やると言ったのだからやらなくては。

 震える手足を押さえ込み、笑顔を顔に貼り付けて、付いてきなと笑った彼女の小さな背中をとことこと追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ゛?」

 

 地の底から這い出たような声が出た。そう聞き返すのが精一杯で、心の奥底でぐつぐつと煮えたぎる音が耳の奥に届いたような気がした。

 怒ってるのか? と隣にいた炭治郎にそう聞かれて、あぁ俺は怒ってるのかと納得した。うん怒ってる。めちゃくちゃ怒ってる。だってさ? こんなの怒らないはずがないでしょ。

 

「もう、一度言ってくれる? アオイちゃん」

 

 でも女の子を困らせるわけにはいかないと頭に手を当てて深く息を吐く。落ち着け、今怒ったところで状況は変わらない。だから今一度聞き間違いがなかったかどうかだけ聞いて……。

 

「聖刃さん達は私の代わりに任務に行ってくださいました……すみません、私が不甲斐ないばかりに……」

「アオイちゃんは悪くないでしょ。悪いのは勝手に連れてこうとしたその音柱? って奴だし。なぁ、炭治郎、伊之助」

「あ、あぁ! そうだな! うん、そうだな!」

「ソウダヨ、ゴメンネ」

「え、何その反応?」

 

 サッと目を逸らしながら俺の言葉に答える友人達。伊之助ならともかくあの炭治郎すら目を合わせてもくれない。あんまりな反応に怒っていたことすら忘れて涙目になる。

 えっ俺嫌われるようなことした? 別に炭治郎達には怒ってないんだけどな? そう言いながら目を合わそうとしても即座に逸らされてしまう。えぇ、俺傷付くよ? 俺の心って飴細工のように弱いからね??

 

「と・に・か・く! まぁた俺に黙ってどっか行ったセイバーを連れ戻す為に俺たちも行くぞ!」

「えっ、俺たちも行くのか!?」

「紋逸だけ行きゃぁ良いじゃねぇか」

「何言ってんの?? えっ、何言ってんの???」

 

 今までの話の流れでお前らは行かないなんて選択肢あると思うか? ないよね? ないな。

 心底意味がわからないという表情を浮かべながら炭治郎達を見るとまたもや目を逸らされた。片言で俺に謝ってくれるけど、その態度に俺ってやっぱり嫌われたのかな? なんて思ってしまう。いや今はそんなことどうでも良く、はないけど! セイバーの方が先だ。

 

「柱の任務って事は十二鬼月相当の鬼が出るって事でしょ? セイバーなら大丈夫って思うけど、前の事もあるから心配なの!」

「確かに協力してとはいえ上弦を倒したセイバーさんなら並大抵の鬼は脅威じゃない。でももしまた上弦でも出たらセイバーさん一人じゃ難しいだろうけど……けど追いかける必要はあるのか?」

「ジョウゲンってのは六人しかいないって聞いたぞ! 前のを抜けばあと五人だ!」

「柱の任務だからって上弦に会うとは限らないから大丈夫だって?」

 

 こくりと二人が頷く。

 確かにそうかもしれない。上弦の鬼は無限列車で遭遇したのを抜けばあと五人だけだ。遭遇する確率は低いだろう。他の鬼とは違って上弦はその強さ故に自身がいる狩場以外にあまり出歩かないらしいから、炭治郎達の言い分もわかる。俺が行ったって足手纏いにしかならないし、連れ戻すってたって柱の任務を放棄させることになるから隊律違反になってしまうんじゃないだろうか。

 でも、でもな? そうじゃないんだよ。

 

「そうかも知れない……けど俺が言いたいのはそうじゃない。あいつを連れ戻したいのはそういう事じゃないんだよ!」

 

 ぐっと拳を握り締めて、だって!! と叫ぶ。

 

「あいつが何処に行ったとか聞いてたか!? 二人とも!!!」

「吉原だろう? それがどうかしたか?」

「それがどうかしたか!?!?」

 

 どうかしてるだろうよ!!!! 充分に!!!!!

 

「お前! おっまえ!! 吉原を知らんのか!?!? あの!!! 花街!!!! 吉原だぞ!?!?!?」

「はな? ん?」

「花が咲いてんのか?」

「頓珍漢な回答ありがとうよ!! そうじゃねぇよ!!」

 

 花街!!! 吉原!!! 男なら誰でも知ってるような夢の街!!!! 綺麗に着飾ったお姉様方がお出迎え、三味線に歌、舞を披露したりしてくれるところだ!! その代わり金が飛ぶけどな!! お姉様方ときゃっきゃうふふ、ランデブーできるんだよ!!! 綺麗な紅が付いた唇を薄く広げて微笑んでくれるんだよ!!! そして夜になると優しく!! 妖艶な!!! お姉様がお相手をしてくれる!!! ナニとは言わせねぇ!!! そう! 夢の国!!!

 

「そこに!!! セイバーが任務で!! 向かったってことの方が俺には重要だ!!!」

 

 だってだって!! 俺には黙って!! 俺には黙って!!!! そんな場所に向かって任務とはいえお姉様方ときゃっきゃうふふできるんだぞ!! というかしてるだろ絶対!!! ハァアア!!! 許せねぇ!!! あいつのことだ!! 絶対に楽しんでやがる!!! だって俺ではないけど俺だし!? 我妻善逸さんですし!? 男ですし!?!? 楽しまないはずがないでしょ!!! 羨ましねッ!!!!!!!

 

「ぁ゛ああああアア!! だから俺には内緒で任務に行ったのね!! 自分だけ楽しむために!! 裏切り者ー!!! このうらぎりものぉおお!!!!」

「善逸、善逸」

「何ィ!?!?」

 

 頭を抱えながらそこら中を転がってると伊之助に足で止められ、炭治郎に名前を呼ばれる。涙が頬に流れるを感じながら、友人達の方を向いた。

 

「アオイさんが引いてる」

「あらやだごめんなさいね!?!?」

 

 素早く立ち上がり涙と鼻水を拭ってシャキッとする。うんみっともないところを女の子に見せてしまった。それぐらいセイバーが羨ましかったんだから許してほしい。いつもはこんなに喚かないから、ほんとだから。

 やべぇものを見るかのような表情を隠しもせずこちらを見ているアオイちゃんに頭を下げる。その表情には一言、いや二言ぐらい言い訳をしたいのだけど、今は時間がないから何も言わないでおく。まぁ心に響いちゃってるけどね!! 痛いや!

 

「とにかく教えてくれてありがとう! アオイちゃん! 俺たち行くからしのぶさんに宜しく!」

「えっ、休まれて行かれないんですか!? 帰ってきたばかりでしょう!」

 

 疲れてませんか? と先程の態度とは打って変わって心配そうにこちらを見てくるアオイちゃんは天使か何かで? 優しすぎない?? 俺のこと心配してくれるとかどんだけ良い子なんだ。これはもう結婚では? え? しない? あ、そう。

 確かにアオイちゃんの言う通り、俺は疲れてる。そりゃぁもうとても疲れてる。今すぐお布団に入って寝たいぐらいには疲れてるよ? でも今いかなきゃ今日中に吉原に着けないでしょ。セイバー達がこの蝶屋敷を出て行ったのは昨日だと言うじゃないか。ならもう何かあってもおかしくない。潜入任務だからって長期間とは限らないんだし。その間に何かあったら俺は死んでも死に切れない。

 

「なんと言われようとも俺は行くよ。疲れてたって怪我したって死にそうになったって、セイバーの側にいるって決めてるから。あいつが死にそうな時に側を離れてるなんて家族じゃないし、マスター失格でしょ。だから俺は行く」

 

 ジッとアオイちゃんを見つめながらそう答えると彼女は少し狼狽えてから目蓋を伏せた。俺の気持ちが伝わったのかな、諦めたように息を吐く。

 

「そうですか、残念です。聖刃さんからお詫びにとくれたお菓子を振る舞おうと思ってたのですが」

「エッ!?」

「なんでも彼の手作りだとか。西洋のお菓子なので良く知りませんが……確か名前は、ちーずけぇき?」

「チーズケーキ!? えっ、ラムレーズン入りだったりする!?」

「? 木の実のようなものは入ってた気が」

「マジかよチクショウ!!!!」

 

 謀ったな! 謀ったな!! セイバーッ!!!

 ラムレーズン入りのチーズケーキはこの前喫茶店で獪岳に無理矢理奢ってもらった時にセイバーが頼んでいたものだ。一口貰ってめちゃくちゃ美味しかったから覚えてる。その時にセイバーが定員さんにケーキをどう焼いているのかとか聞いてたのも覚えてる。俺が羨ましそうにケーキを見ていたのがバレてたのかな? だとしてもこんな時に出さなくても!! 作らなくても良いじゃん!!

 四つん這いになって地面に拳で叩く。涙が溢れてきた。己のサーヴァントに自分の行動が筒抜けだったとは!

 

「うがぁぁあああ!!! 食べたい!! セイバーの手作りケーキ!!!! しかもチーズケーキッ!!!! 絶対美味いじゃん!! 絶対美味しいじゃん!!! でも食べてたら時間がないじゃん!!! どうしろと!? どうしろと!!!!」

「食べていけば良いさ。僕たちが送ってあげるよ」

「そうは言うがリョーマ、それはお竜さんが運ぶってことだろう? 嫌だぞ? クソ雑魚ナメクジよりクソ雑魚を私の背に乗せるのは」

「まぁまぁ。そうは言わずに頼むよ、お竜さん」

 

 突然聞こえてきた声に顔を上げる。見えたのは良く磨かれた革靴に上等な白いスラックス。見慣れぬそれに驚いて立ち上がる。土埃を払って言葉を挟んできた彼らを見た。

 

「やぁ、君が我妻善逸君だよね? 話は聞いてるよ」

「クソ雑魚のくせに聖杯持ってるとか生意気だな。ま、お竜さんには関係ないけどな」

 

 全身を白で決めた顔が整った優男に、隣でふよふよと浮いている黒髪セーラー服の美女の視線を一身に受けて身体を固めてしまう。いつの間に来た? いつの間に目の前にいたのだろう。炭治郎達もなんだか驚いてるし、伊之助に至っては急に現れた彼らに向けて威嚇している。

 というかなんであの美女浮いてるんだろう。めちゃくちゃ美人だし仲良くしたいけれど、聞こえてくる音が人間の音じゃない。でも鬼の音じゃないし、隣のイケメン野郎からは芯の強い優しい音が聞こえてくるから心配はないのだろうけども…………どうして。

 

「俺の名前……」

 

 ポツリと呟いた言葉を聞き取ったのか、優男がお洒落な帽子を片手で押さえながらニコリと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 




一方その頃、別にそんな事考えてなかった聖刃さん。
「へっ、へっくしゅん!!」
「もう少し可愛くできないもんかね。余計不細工になってるよ」
「す、すみません!」

二束三文って割りに合わない値段って意味なので、一体彼らは何円で売れたのでしょうね……わからないので適当に値段つけました。ごめんね。
次は25日かな!
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