俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十四節 籠の中の鬼。1/4

 

 

 

 

 

 召喚された時から不満ばかりが募る。

 目の前にいた仮の(・・)マスターはとってもイケメンだったけど私の好みじゃなかったし、自身の中にいる不愉快なものに気分が悪くなる。自身が求めるものもこの時代にはない。

 どうして喚ばれたのだろう。その理由はわかってる、でもどうして応えてしまったのだろうかとずっと考えていた。

 

「(千代女が殺された……?)」

 

 ある日、同じように喚ばれたサーヴァントが一騎殺されたとマスターから報告が入った。同僚であるサーヴァントの仕業ではない、敵対はできても殺し合うことはできないのだから。

 だとしたら私達と違う勢力の仕業だ。

 

 ……もしかして。

 

「(カルデア……?)」

 

 あの星見と呼ばれる人理を修復する存在だろうか。サーヴァントならば知らない者はいないだろう機関、それがこの場所にも来た。

 確かにこれだけのサーヴァントを召喚、しかもマスターは聖杯を所有している。そもそも本来はいない鬼がいる世界だ、特異点になっていてもおかしくはない。

 

「……そっかぁ」

 

 私は他のサーヴァントとはどこか違う。呼んできた者に連なる者だからだろうか、他の彼らよりも縛りが弱い。その気になれば今のマスターだって裏切ることができる。

 ならば私は、この為に応えた(・・・・・・・)のだろう。マスターを止める為に、彼らを手助けする為に……そして。

 

「(まだ己の時代が続くと思ってる愚かなジジィを殺す為に)」

 

 サンキュー、喚ばれる前の私。きっとアンタが自分の心を押し殺してでも喚ばれてなければ、今の自分はいないはずだから。

 

「いーじゃんいーじゃん! そういう事なら頑張っちゃうし! JKセイバー、侮っちゃ駄目ってね!」

 

 喚ばれたときの私の役目はこの時代を壊す事。でもそんな事この私がするわけないし!

 

「生前の事、忘れたとは言わせないから!」

 

 私がもうアンタらの言いなりなんてなるわけがないでしょ。そういう考えなしなトコロ、全く変わらないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女装して敵を欺くなんて新宿以来だろうか。あの時は自分に合うウィッグを付けて、男性だとわかる骨格を隠して高そうなドレスを着て、新宿のアーチャーに化粧を施してもらった。その時見た自分はとても男だとは思えないほどの仕上がりで、変身の達人である新宿のアサシンの目を欺ける程だったけれど、今の自分はきっと正反対だろうなと息を吐く。

 気の良さそうな老人夫婦に売られた。こんな人達が遊郭を営んでいるとは見た目では考えられないけど、ブサイクに仕上げられた俺を渋々ながらも買い取ってくれるので良い人だとは思う。宇髄さんのイケメン顔に奥さんがメロメロだったとしてもね。

 着物は多分それなりのものなんだろうけど、髪の毛は短いままでリボンの髪飾りをつけられただけだし、白粉はやばいほど濡れたくられてて気持ち悪い。マスカラのせいで目蓋がちょっと重いのが難点だけど、そんな文句を言ってても仕方がない。情報収集しなくては。

 

「次は何をすれば良いですか?」

 

 俺の見た目から売れないと判断されたのか、それとも入ったばかりの子は雑用から始まるのかは知らないけど、色々な雑用をこなしていた。二束三文で買われたとは言え一時的に寝泊りをさせて貰える身、働かないわけにはいかない。

 というかちょっと楽しい! ウルクの時を思い出す。少し違うけど。

 

「え、あぁ……次はー、これを運んで頂戴」

「わかりました!」

 

 ただ、楽しんで働いてばかりでは意味がない。俺はここに情報収集、潜入任務としてきてるんだから。実にミッションインポッシブル。アイルビーバックとか言えばいいのだろうか。あっこれ違う作品か!

 差し出された物を指定された場所へとわっせわっせと運ぶ。正直まだこの建物の構図は完璧に覚えてないけど、言われた場所へ行くには支障はない。

 

「———」

 

 たまに落ちそうになる荷物をバランスを取りながら運んでいると話し声が微かに聞こえた。誰が話しているのだろう、動かしていた脚を止めて部屋を隔てている襖に近づく。アサシン達の気配遮断を思い出して気配を消す。あまり聞こえない声量からすると噂話の類、耳を欹てて声を必死に拾う。きっと善逸達ほどの耳の良さならばこんな事しなくても中の話し声が聞こえるんだろうなぁなんて思いながら、ふぅと息を吐いた。集中。

 

「———足抜け?」

「はい、須磨花魁が」

「須磨ちゃんはいい子だったわ、そんな事しないはず」

「私達もそう思うんですけど……でもそういう噂が」

「現に何処にも姿が見当たりませんし……」

「……そんな」

 

「(ッ! “須磨”!)」

 

 それは宇髄さんの嫁の一人の名前。須磨、まきを、雛鶴という三人の嫁を探しに俺達はここに来た。この人達はその一人である須磨さんを知っているという事。彼女らも潜入任務していたとは言え、花魁まで上り詰めてたとは凄い。いや感心している場合じゃないな! この機会を逃すわけにはいかないよね!

 

「……失礼致します」

「「「!!」」」

 

 スッと襖を開ける。正座のまま三つ指を付けてお辞儀をして部屋の主を見た。綺麗な人だ。禿(かむろ)と思われる女の子二人が側に付いており、真ん中にいるお姉さんはまさに花魁然とした格好をしている。名前はわからないけど、その雰囲気からベテランだと感じた。

 驚きながらも平然とした様に俺の方を見た花魁と禿達は警戒心を少し滲ませながら、誰ですか? と問うてきた。もう一度頭を下げる。

 

「本日からここにお世話になる事になりました、立香と申します」

 

 俺の名前は女の子の名前だとしても問題はまったくない為にそのまま名乗ってる。でも小太郎と善逸さんは一発で男の人だとバレる名前をしてるので変えてるらしい。女装姿での名前は知らないけど。

 

「それでその……立ち聞きしてしまったんですが、須磨さんがどうのわぁあ!?」

 

 頭を上げながら、なんとなく視線を合わす勇気がなくてしどろもどろにそう問いかけると急に腕を引かれた。倒れ込む形で部屋の中に入り、痛みに呻きながら起き上がる。それからパタンと音がして、思わず後ろを見れば俺が運んでいた荷物の山に閉じられた襖が見えてしまった。その両端には禿の子達がこちらをジッと見ながら襖に手を添えている。サァッと血の気が引いた気がした……これは拙い。

 

「(閉じ込められた!)」

 

 礼装を着ていない俺なんて魔術の使えないただのマスターだし、サーヴァントも連れてないから丸腰に相当する。いざとなれば襖を突き破れば良いけど、それをするとここにいられなくなるかもしれない。情報を得てそれを報告する前にそれは拙い。

 ただこの体勢のままではまずいので立ち上がりいつでも動ける体勢へと変える。着物なので脚を広げるわけにもいかないので、少しだけ踏ん張る程度だけど。

 

「(目の前の彼女が鬼だったら終わるな、俺)」

 

 サーヴァントと人間すらあまり区別できないのだから、人に扮した鬼を見分けるなんて無理だ。一般人に何を求めるってんだ。鬼相手に何もできないぜ! 何せここに来て最初に出くわして逃げ回ってたんだからね! どうにかできてたらそんなことしてないから!

 

「あの……」

「アッハイ! ナンデショウ!」

 

 目の前の花魁が話しかけてきた。後ろの禿達にも警戒しなきゃならないのに、目の前の彼女にすら警戒しなきゃいけないなんてマスターにさせる事じゃない。誰か後ろフォローして。

 

「貴方は須磨ちゃんの何なのでしょう?」

「えっ」

 

 えっ?

 

「今日ここに来た、と貴方は言いました。そんな貴方が須磨ちゃんのこと知るはずがない筈です。彼女は数日前から姿を消しているらしいので」

「(数日前)」

 

 それがいつからかは分からないが鬼殺隊の人の嫁である須磨さんが任務を放棄して逃げ出す筈が無い。三人分とは言え、大量にあった報告書からして長く潜入していたのだから、それを全て捨てるなんてあり得ないと思う。だからうん、きっと何かあったんだ。

 

「(そしてこの人は少なからず須磨さんを知っている)」

「……黙るのならば、それ相応の対応をさせてもらいます」

「アッ、えっと須磨さんは私の友人の大切な人でして!」

 

 そう言えば彼女は驚いた様な顔をした。嘘は言ってないぞ! 嘘は! だって嘘を吐く時は真実を織り交ぜれば良いってダディが言ってたしね! アッ嘘じゃないから!! 違うから! 今のは言葉の綾です!

 

「その人が探してたんですけど、吉原に売られたって聞いてそれで……」

「……そう、友達の為に貴方までここに。良い場所じゃないのはわかっているでしょう?」

 

 華やかなのは表だけ、裏を返せばどす黒い面が出てくる。煌びやかに輝くほど影が伸びるのは何処も必然の摂理。良いことばかりじゃないのはどこでも一緒だ。そんなのは何回も見てきた。

 こくりと俺は頷く。

 

「(力強い目……それでいて何処までも澄んでる。でも少しの気弱さも垣間見えるわね……うん)貴方になら話しても良いわ」

 

 話せる事なんて少ししかないけど。

 そう答えてくれた彼女に俺は力を抜いて畳の上に座った。今までの態度と質問の言葉からして彼女が敵対している者ではないことは明白。なら強がらなくても大丈夫だ。

 息を吐いていそいそと体勢を整える俺に笑みを零した彼女は、俺の後ろにいた禿達においでと招き手をする。ススっと両端から女の子達が目の前に現れた。

 

「貴女達、話してあげなさいな」

「はい、鯉夏花魁」

「わかりました」

 

 あ、鯉夏さんと言うのか。可愛い名前だ、なんだかピッタリだと思ってしまった。源氏名みたいなものだろうけども。

 そうして彼女達から語られた内容は鯉夏さんが言っていた事を少しだけ掘り下げた話だ。須磨さんは器量良し、実力良し、見目良しな三拍子揃いだったらしくいつか成り上がるだろうなとは思われていたそうな。ここのナンバーワン花魁は今は鯉夏さんだが、次は彼女かな? と期待されてたんだなぁ。いや凄いな、宇髄さん嫁。

 

「少し気の弱い人でしたけど優しくて、私達禿の間でも評判の花魁でした」

「少ししか会った事のない私達の事も覚えて頂いてましたし……そんな人が足抜けなんてするわけがないってわかってるのですが」

 

 寂しそうに微笑みながらそう言う彼女達にどう返したら良いか分からなくて、でも沈黙を続けるわけにもいかないから足抜けについて訊ねてみる。

 

「……逃げ出すことよ。この街から、この仕事から」

 

 鯉夏さんが答えてくれた。その意味を噛み砕いて飲み込んでから理解する。

 

「それは……」

「良くあることだわ。私みたいに最後までする事なんてあまりないもの。売れなければ、嫌な思いをするのが吉原。美しさを保ち、稽古に耐えて、周りからの嫉妬を無視して、微笑みながら見知らぬ御仁に身体を許さなくちゃいけない。普通なら気の許す同僚もここじゃ商売敵……いつまで経っても一人。私はお世話してくれるこの子達や旦那さん達が良い人だから耐えられてるし、天職だって思ってるけどね……普通なら耐えられずに誰にも言わずにここを去る。それが足抜け。でも、花魁しかした事のない世間知らずは多分、この世では生きていけないわ」

 

 籠の中の鳥が羽ばたいても、野生の鳥に食べられるだけだもの。

 

「……だけど、須磨ちゃんはそんな子じゃなかった。私とも良く話したし、この子達とも良くしてくれた。だから一言も言わずに去る、なんてことしないはずだから。今となってはわからないけど」

 

 そこで言葉を区切った鯉夏さんは口を閉じた。伏し目がちに視線を逸らしていた。化粧を施された綺麗な睫毛の隙間から見える瞳は、少し潤んでいる様にも見えて……でも決してその涙を流そうとはしない。メイクが崩れるからだろうけど、それ以上にその人のプライドが涙を押し留めているのだと俺は思う。勝手な想像だけどね。

 ありがとうございます、と礼を言う。話をしてくれた事に。

 

「見ず知らずの私にそんな話を……」

「良いのよ、貴方は須磨ちゃんの知人みたいなものなんでしょう? それに私がしたくてしただけだから、良いの」

 

 優しい。えっ凄く優しい。あと顔が良い、推せる。鯉夏さんサーヴァントになってたりしない? それぐらい顔面偏差値が高い。なってたら何がなんでも喚ぶのに。あ、でもあまり俺達の戦いに関わらせたくはないから別に良いです。

 耐えきれなくなってもう一度頭を下げると、彼女はそっと俺の顔に手を添えて面を上げさせる。うわ眩し、近い。

 

「ふふ、不細工なお化粧。でもわざとね、綺麗にしたならきっと映えるのに勿体ないわ」

 

 すり、と頬を撫でられた。あの塗りたくった白粉が手につくからやめた方が良いと思うんですが、あの、あのぉ!

 俺の心の声が届いたのか、鯉夏さんが飽きたのかは分からないが頬を撫でていた手は離されて、代わりに俺の片手を握られて持ち上げられる。ことり、と掌に落ちるのはキラキラ光る包装紙、形状からして飴だとわかった。バッと鯉夏さんを見る。飴なんて甘味はこの時代じゃ高級なんじゃないだろうか、わかんないけど!

 

「大丈夫よ、信頼できるお客さんから貰ったものだから」

 

 あっ、毒とかの心配はしてないんで大丈夫です。何故か俺には毒は一切効かないので、全身猛毒であり体液に至っては即死ものの静謐のハサンとキスをしても死ななかったので。舌が痺れて暫く動けなかったけどね!

 

「隠れて食べるのよ?」

「あ、ありがとうございます」

 

 断れる雰囲気じゃない!

 

「わっち達にも!」

「花魁、花魁」

「はいはい、話してくれてありがとうね。こっそりお食べ」

「ありがとうございます!」

「花魁! ありがとうございます!」

 

 ころころと転がる飴を見てからギュッと手を握った。須磨さん以外の話は聞けなかったが、話題に上がらないということはこの場所にはいないと言う事だと思う。肝心の須磨さんも数日前から失踪。宇髄さんの嫁さん達はそれなりに戦えると聞いてるので、今回の鬼結構ヤバイ相手なのでは? 前みたいな上弦の参? だっけ、それぐらいの。

 

「(いざとなったら令呪で呼び寄せなきゃ)」

 

 小太郎だけじゃ火力不足だからね。もし上弦と呼ばれる相手ならばの話だけども。

 すり、と右手の甲を撫でてながらお菓子を貰って喜んでる禿達を見守った。

 

「立ちゃん」

「(りつちゃん!?)」

「お仕事の途中じゃなかったの?」

 

 あっ、やっべ。

 

 

 

 

 

 

 

 




鯉夏花魁……好きだ(突然の告白)
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