俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十四節 籠の中の鬼。2/4

 

 

 

 

 

「(屋根の上で報告会って、なんでだよ)」

 

 窓からよじ登り、平成じゃあまり見かけなくなった瓦の上へと躍り出る。ぐぉお、着物じゃ上がりにくい! と四苦八苦してるとぐいっと手を引っ張られて、屋根の上へと放り投げられる。

 

「大丈夫ですか? 主殿」

「あ、うん、大丈夫。ありがとう小太郎、頭打ったけどさ」

「えぇっ!? すみません!」

 

 謝る事じゃないから、と笑いながら起き上がって屋根の上へと座る。少しでも気を許すと落ちてしまいそうだと思いながら、お互い着物姿のままで話し合う。

 ときと屋では須磨さんがいたが数日前から行方不明だという事、足抜けだと噂されてる事を話し、小太郎がいた萩本屋ではまきをさんが同じく行方不明で足抜けだと言われてることがわかった。奇しくも同じような時期に居なくなっている。これだけじゃたまたま同時に足抜けしたんだな、で終わるけれど彼女達は宇髄さんの嫁であり、彼女達は任務でここにいる。それを放棄して逃げ出すのは有り得ないことから、何かあったのだと考えるのが妥当だ。

 ずっと考えてた事を小太郎に伝えると彼も同じ事を考えていたらしく、俺の言う通りだと思うと言ってくれた。諜報の達人にそう言われると嬉しく思うな。

 

「そういや、善逸さんは?」

 

 ここに集合なのは解散前から決めていた事だ。小太郎とならまだしも、個々で繋がる通信機器を持たない俺達はこうして会って状況を報告するしかない。仕事が始まる前の朝方であるし、耳が良い善逸さんに至っては報告会をサボるなんてことはないはずだ。だってサーヴァントだし元鬼殺隊だし、なんだかんだで真面目だとは思うので。

 あー…………自分のサーヴァントじゃないから連絡も取れないのがもどかしい。善逸さんに何かあったんじゃないだろうか。でも……強いしなぁ善逸さん……聖杯の助力もあるのかも知れないけれど、やられる様な人じゃないはずだ。

 

「善逸は来ない」

 

 バッと振り返る。声が聞こえた方向には宇髄さんが瓦の上へと座っていた。此方からは顔が見えないが、きっとあの強い目力のまま何処かを見ているのだろう。その背中からは少しの後悔と、覚悟があった。

 

「善逸さんは来ない?」

「どういう意味です? 音柱殿」

「どうもこうもそのままの意味だ。昨日から音沙汰がない。夜半に確認しに行った時にはもう姿がなかった」

「そんな……」

 

 そんな馬鹿な。

 仮にもサーヴァントだ。それも戦闘に特化した、対人戦に強いであろう人だ。ある意味アルトリアより沖田さんタイプな彼が消息を経ったなんてあり得ない。室内とは言え戦えないはずがないし、サーヴァント相手にどうにかできる人間なんてこの世にはいない。いるとすれば……鬼、ぐらい。

 

「まさか……上弦」

 

 俺の呟きに宇髄さんはこくりと頷いた。あり得ない話ではない。人目が多い吉原で擬態し、剰え人を食う鬼。それなりにずる賢く、それなりに強くなければ今まで送った鬼殺隊の人達だけで討伐できてるはずだ。なのに要である柱が投入され、人知を超えた存在であるサーヴァントすら手篭めにする存在なんて上弦と呼ばれるめちゃくちゃ強い鬼ぐらいしかあり得ない。

 

「お前らは帰れ」

「え」

「この任務はお前らに背負わせて良いものじゃなかった。誤算だ……本当に上弦だった場合、対処できない。俺ですら敵うかわからないからな。それに……風魔はまだしも、立香は戦えすらしないだろ」

 

 だから、帰れ。

 そう怒りを少しだけ滲ませる宇髄さんが言ってきた。相変わらず瓦の上から動こうとも、此方を振り返る気配もない。ただただ真っ直ぐ何処かを見ながら、そう告げる。

 きっと彼は自分自身に怒ってるのだろう。お嫁さんからの連絡が途絶えて周りが見えてなかったに違いない。大事な人が危険な状態にえるなら焦っていたとしても仕方ないし、状況を見誤った事を反省しているのも流石だと思う。けど……まだ彼は冷静にはなってない。

 

「嫁も善逸も俺がどうにかする。お前らは帰れ、花街(ここ)を出ろ。良いな?」

 

 そうして彼は消えた。追いかけるのは野暮だろう。きゅっと着物の裾を掴んで、眉を潜める。

 

「……宇髄さんの言う通りかも知れない」

「主殿……」

 

 俺は戦えない。魔術師として三流、いや百流も良いところの俺はサーヴァント達と前線へ出てなくちゃ魔力供給すら滞りなく行えないマスターだ。レイシフト適性が異常に高いだけの、ただのボンクラ。前線にいるだけサーヴァント達の邪魔。何度もそう思い、何度もそう言われてきたか。

 だから、努力して……指揮を、状況を把握するのに頑張って、魔術師ではなくマスターとして一人前になろうと思いながらここまで来たんだ。人理を修復し、また白紙化されちゃったし……こんな特異点にレイシフトしてきちゃったけど、精一杯やる事はやってるつもりだ。うん、だから。

 

「言う通りかも知れないけど……でも、それで引き下がれるかって話だよね。人理を修復した人類最後のマスターを舐めんなっての」

 

 小太郎、と目の前にいる彼の名前を呼ぶ。

 

「宇髄さんはきっとお嫁さん達と善逸さんを探し出してくれる。だから俺達は鬼の方をどうにかしよう。俺は今日でときと屋の調査は一通り終わるから、夜には合流で」

「わかりました。それじゃぁ僕が主殿を迎えにあがりましょう。夜に一人で出歩くのは危険ですから」

 

 だよね。俺じゃ鬼に会った瞬間にお陀仏確定なので、なるべく早く迎えに来て欲しい。チキンとか言っちゃいけない、生きるための策だから。

 

「そういや俺の方は須磨さん以外に何も情報なかったけど、小太郎の方は? まきをさん以外のことわかった?」

 

 そもそも鬼の情報もいるのだ。俺だけで出会ったら駄目だけど、小太郎とならはまだ大丈夫。いやわかんないけどさ、即死なんてことにはならないはずだ。

 俺の質問に小太郎は一度思案してから、伝えるべきか迷ったのですがと前置きをしてから話し始めた。

 

「一度鬼と思われる気配を感じ取りました」

「いやそれめちゃくちゃ重要な情報! 何で迷った!?」

「すぐさま消えたので。ほんの僅かな気配でした。多分ですが、本体じゃないものですね」

 

 小太郎が言うにはあの上限の参とは毛色の違う、さりとて同じ様な気配はこの吉原に来た時からあったと言う。ここは自分の縄張りだとして主張しているかの様に薄く広く漂っているとかなんとか。俺はそういうのはわからないので小太郎が言うのだからそうなのだろうと納得する。けどそれと同じぐらい、いや少し強いぐらいの気配がしただけですぐに追跡不能になったとか。だから本体じゃない。

 

「この吉原自体が鬼の縄張りである事には間違い無いですし、その気配を追っても恐らく本体には辿り着けないと判断したので」

 

 それに主殿を一人にしては従者失格、ですから。

 

「……流石小太郎! 頼りにしてます!」

「はい! お任せください!」

 

 笑顔で答える小太郎に癒されながら、さてと立ち上がる。いつまでもここにいちゃいけない。寝泊りしている部屋に誰かが入ってきて俺がいなかったら足抜けだと思われる。それなりに交流関係はあったのでここで崩すのは拙い、せめて夕方というか調査が終わってからでないと。

 小太郎に支えて貰って部屋の中へ戻る。サーヴァント達の戦いについて行くためにも鍛えてはいるけど、こういうパルクール的なのはできないから手伝ってもらうしかない。森の中を走るのは得意なんだけどね!

 窓の縁で待機する小太郎に礼を言う。

 

「もし今度、鬼の気配がしたら追ってみて。もしかしたら須磨さん達がいるかも知れないから。俺に何かあったら令呪で呼ぶからさ、その前にあっ念話で知らせてね」

 

 さっきの約束を破る事になるけど、それでも手掛かりは逃したくない。

 見えてないけどちゃんとある小太郎の目と視線を合わせてそう言うと、彼は渋々ながらも頷いてくれた。

 

「……わかりました、追えるところまで追ってみます。主殿、お気をつけて」

「うん、いつも気をつけてるよ」

 

 ひらりと手を振って別れる。影が瞬時に見えなくなり、俺は乱れた衣服を整えた。

 ぱちぱちと頬を叩き、よしと気合を入れる。

 

「(いくか……!)」

 

 ここからだぞ! 藤丸立香!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どういう事なの、これ。

 生前と同じ展開で泣いてる女の子を慰めてたら上弦の陸である堕姫に見つかって殴られてから気絶した振りをした。それから運ばれた部屋で一定時間経ってから起きようと思ったら、なんかまた帯に飲み込まれてしまって気絶してしまって起きたらこれだよ。

 地面の中にあるであろう大きな空間に、飾り付けてあるかの様に張り巡らされた帯の数々。その中にはリアルな人の模様が描かれていて、拐われた人達なのだと推測できた。いやそこまでは良いよ? 生前の記憶ってか、虫食いだらけの原作知識でも拐われて伊之助に助けられてたのは覚えてるから、二度ある事は三度ある事なんだなぁーって思ってたのに。

 のに、だ。

 

「アンタ、バリ金金じゃん! 毛先にかけてオレンジ色混ざってるし、何々! どーなってんの? コレ。天然? 天然なんだよね? 私のは作ってるけど、ハァー! コレは弄りがいがあるっしょ!」

 

 袴服を制服に改造した服装に、良くある学校指定の鞄、綺麗な薄い桃色に染められた髪の毛はさらりと流れて、その頭の上には二つの狐耳が陣取っている。それに合わせた尻尾がゆらゆらと揺れ、時々帯刀している刀の鞘へと当たっていた。

 女子高生を思わせる姿に話し方、狐のケモ耳っ娘に刀。めちゃくちゃ見覚えのある姿だ。自身をJKセイバーと名乗りそうなサーヴァント、つまり。

 

「鈴鹿御前……」

 

 だ。

 やばい、やばいぞ! クッソやばい! ここで出会うサーヴァントじゃないだろ!! 俺一人で対処できる範囲を超えてるわ!! 無理! 無理無理無理!!! 千代女とかエリザベートとは比べちゃ駄目なタイプのサーヴァントだぞ! 星四だからって侮ったらすぐやられるからな!? あれってレアリティで攻撃力とかそういうの変わるけど、本当はサーヴァントは知名度とか生まれとかで変わるから!! 鈴鹿御前は神霊に近いから!! というかそのものじゃなかったっけ!? ふざけた格好してるけど! 本人は至って真剣だけど!!! 俺今度こそ死ぬわ! コレ!!! 死ぬ死ぬ!! もう死ぬ!! ごめん、善逸……セイバーはここまでみたいです。

 

「あれ? 私の名前教えたっけ? ってゆーか、何変な顔してるし。気持ち悪いんですけどー」

「直球!!!! 心の中で生涯の別れを切り出してるのに!!! 辛辣すぎない!?!? 見た目可愛い女の子にそんな別の生物を見る顔でそんなこと言われるとか精神的に死ぬ!!!!」

 

 うわぁああああ!! と叫びながら転げ回り、鈴鹿御前から距離を取る。と言っても限られた空間の中、すぐさま端っこに辿り着き背中を打ち付けた。めちゃくちゃ痛い、衝撃が痛い。エッ思ったよりも痛いんだが!?

 届く範囲まで背中を摩りながら痛い痛いと嘆く。痛みで落ち着き始めたけど、混乱し過ぎて善逸みたいになってしまってた。いや生前は散々同じ様な事してたけどね? 柱になってからとサーヴァントになってからは自重してたのに、想定外の出来事で飛び出てしまった。これを善逸に見られたら本当に精神的に死ぬ。顔の良い可愛い女の子に軽蔑の視線を投げかけられるより死ぬ。

 

「は……はは、アッハッハッハ!!」

 

 ん?

 オロロと涙を零してると鈴鹿御前が何故か笑い出した。聞こえてくる音からも本当に面白いと思っている音が聞こえて、首を傾げる。彼女がいる方向を見ると鈴鹿御前は腹を抱えて転げ回っていた。めちゃくちゃ笑ってる……涙が出るほど笑ってる。これ、俺が笑われてる? 笑われちゃってる? 失礼すぎない?

 

「面白すぎっしょ!! マスターが念押しして殺せって言ってた奴、どんな奴なんだろなーって思ってたのに、こんな面白い奴だなんて!! アハハハ!! アハ!」

 

 ヒーヒーと呼吸困難になってる鈴鹿御前に引いてしまう。何処が面白いんですかね、詳しくそして三行ぐらいに纏めて論文にして提出して欲しい。三行ぐらいの論文とかないけどな!!

 

「ふ、ふふ。はぁー、面白かった。これで千代女とエリザを倒したとか、マジ面白すぎ。神霊の気配もあるから、まぁ納得はできるんだけどね」

 

 溢れ出た涙を拭い、ゆったりと立ち上がった彼女はスカートや鞄についた汚れを落とす。耳と尻尾を数回揺らしてから、特殊な形をした鍔を持った刀を引き抜いた。刀身と鯉口の擦れる音が響く。

 

「相手としては申し分なしっしょ! 丁度ヒマしてたんだー、ちょっと付き合ってよね」

 

 にまり。

 笑った彼女はゆらりと前に倒れて刹那には目の前で刀を振り被っていた。展開について行けない俺はその場で転がり、体勢を整えてからまだ空いている空間へと後退する。勿論日輪刀に手を添えながらだ。

 しかし逃げるのは許さないとばかりに刀を握り、今度は下からの袈裟斬り。仰け反って躱し、お返しとばかりに俺は刀を抜き放ちながら勢い良く振るった。まぁ見切られる範囲なので防がれて弾かれる。くるりと半回転、その頸を切断しようと振るわれた日輪刀は半歩後退することで避けられ、その状態から彼女はアンダースローの要領で刀を此方に投げてくる。ゼロ距離の投擲、俺に届くまでまさにコンマゼロ秒。反応できたのは奇跡に等しい。眼前に迫ったそれを顔を逸らすことで避けることに成功する。後方の壁に刀が突き刺さり不協和音を鳴らした。

 

「ヒェッ」

 

 思わず悲鳴が零れる。

 壁に突き刺さった刀は消え去り、鈴鹿御前の手元に出現する。しゃらりと何処からか鈴の音が鳴り、同時に風切音も耳に届く。キィインと金属がぶつかり合った音がこの空間中に響いた。

 咄嗟に防いだけど、何処からか現れた黄金の剣と白銀の剣が彼女の真後ろで俺に向けて刃を向けた。ひくりと頬が引きつり、受け止めていた刀を弾きバク転して躱す。逆さまになりながら見えたのは地面に突き刺さる二振りの刀剣で、神通力ってのは厄介だなと心の中でごちる。

 

「アハハッ! 凄い凄い!」

 

 いや俺は全然面白くないんですけどね!

 三本に増えた剣撃は一振りの剣で防ぐには厄介が過ぎる。太刀筋がめちゃくちゃ過ぎて読めないのも一因になっている。なのに刀を振るう速度だけはやけに速いから、受け止めきれずに生傷を増やしていった。

 

「だぁあ、うざったい!」

「おっとっとー」

 

 スーパーサイヤ人の如く魔力放出をして刀に這わせて勢いよく振るった。避けられたけど想定内! そのまま納刀して息を吐いた。

 

 ———壱ノ型

 

「霹靂一閃」

 

 雷鳴が轟く。血が舞ったけれど、この量は普通に避けられたっぽい。地面を勢い良く滑りながら半回転すると、見えてきたのは腕を斬られた鈴鹿御前の姿。サーヴァントにしてはまだ擦り傷に入るものしか付けられなかったらしい。いや、これは……避けられたんじゃない! 軌道を逸らされた!

 手に響く震え。ふよふよと彼女の周りを浮遊している刀達が警戒しているかの様に鋒を此方に向けてきている。あれの所為で逸らされたんだと理解して、刀をもう一度握り込んだ。

 

「アハハハ。私に傷を付けるとか、もしかしてそれなりの神性持ち? いーじゃん、そうでなくっちゃね。私に一方的に嬲られるってのは嫌っしょ?」

 

 振り返った彼女はそれはもう楽しそうに、そして嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




鈴鹿御前……好きだ(突然の告白2)

見た目で親しみ易さ出てるのにどうしても神というか人間的じゃない部分が出てくるの好き。
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