俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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陸ノ型

 

 

6.壱ノ型

 

 

 

 ———霹靂一閃。

 

 ドン! と雷が鳴ったような音がした。だだっ広い中庭で、善逸は今日も霹靂一閃を極めている。

 十四歳。壱ノ型以外は全部覚えられないと知ったじぃちゃんが善逸に、壱ノ型は極めるようにと指導してから約数か月。とんと成果は出ていない。

 まぁ指導したからと言って、じぃちゃんも壱ノ型以外教えるのを諦めたわけではないのだが、もし本当に使えないのならと指導方針を変えるのも一手だ。寧ろ、基本の型となる壱ノ型は使えるのに他の型が使えないなんてじぃちゃんからすれば可笑しな事なのによく見捨てないものだ。じぃちゃんは本当に優しい。

 ……獪岳っていう前例があったからかもしれないけど。

 

「ね、ね! セイバー! 今のどう? 結構良い感じだと思ったんだけど」

 

 とてとてと駆け寄ってきた善逸が発した言葉に首を傾げる。今のどう? とは、どの辺の事を指すのだろうか。

 

「霹靂一閃って一撃必殺じゃない? だから早く撃てるように、って思って」

「あぁ抜刀の部分ですね」

「そう!」

「そんなに変わってませんよ?」

「うそ!?」

 

 嘘ではない。抜刀速度は同じ。踏み込みの力も速度も同じだ。多分善逸の言葉からすれば、神速を会得しようとしてるのだろう。

 雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・神速。これはただただ霹靂一閃を極め、速く斬れるようにと速さを突き詰めた結果の技だ。速度が普通の霹靂一閃と段違いな為に、工夫次第では硬い首を持つ鬼でも斬れるだろう代物。持っておいて損はないけれど……俺が習得したのはいつだっけ……? あんまり覚えてないんだなこれが。成り代わってもビビりなのは同じだったから、もしかしたら気絶して放っていたのかもしれない。いやわかんないけどさ。

 

「善逸、まずは抜刀よりも踏み込みの方を意識した方がいいかもしれません」

「踏み込み?」

「えぇ。今の貴方は踏み込んで力を溜めてから技を放ってます。速さを極めるのなら、あらゆる状況あらゆる角度からでも霹靂一閃を放てるようになってからでも遅くないのでは?」

 

 善逸が受ける予定である最終選別まであと二年。こうして毎日技を極めることだけを考えられるのは今だけだ。せっかく俺がいるのだからとアドバイスを送ると、なるほどと善逸は頷いた。あら、聞き分けの良い。

 

「それと、速さを極めようとして力を入れすぎですね」

 

 善逸が最初に踏み込んだ場所にしゃがみ込んで撫でる。そこは雷が落ちた様に白い石が散り土が見えていた。ただその円状になったその場所は踏み込みの強さを表しているが、同時に荒さも感じられる。

 霹靂一閃は居合術。相手に抜かせたことも、斬られたことも、納刀したことも悟らせない程の速さで行うもの。それは一筋の光が過ぎ去る程だと錯覚させなければいけない。そもそも我々は壱ノ型以外はできないのだ。これを見極められてしまえば、打つ手はなくなる。

 

「踏み込みは甘くはありませんが荒い。あらゆる状況であらゆる角度からでも放てるようにもなるのはもちろんですが、やはり一連の動作を流れる作業にしなくては」

「流れる作業?」

「えぇ。抜刀、斬首、納刀。全て合わせて霹靂一閃という技。この三つの工程を一つにする、という事です」

「……んー?」

 

 首を傾げる善逸に苦笑する。よくわかってないんだろう。まぁ今は別に良いだろう。最終選別までには間に合わないだろうが、最終選別を抜けてから自分の呼吸を手探りで開発したりする奴もいるので焦る必要はない。

 お前が善逸なら、きっと大丈夫だから。

 くしゃりと頭を撫でてやる。わわ! と慌て始めた善逸から手を離して、大丈夫だと言ってやる。

 

「焦らず、自分のペースで。一つずつこなしていけば大丈夫でしょう」

「そ、そうだよな!」

 

 焦りの音がちょっと聞こえていたので、そう言ってやると善逸はうんうんと頷いていた。やはり他人に言われるのと言われないのでは意識のし易さが違う。安心した音が聞こえた。

 

「にしてもセイバー、霹靂一閃に詳しいな」

 

 なんで? と首を傾げる善逸に、少しびくりとする。表には出していないけれど、その鋭い質問に驚いてしまった。まぁ表に出さなくても音でバレてしまっているだろうけどそれはそれ。

 

「ずっと見てきましたから」

 

 生前からずっと、じぃちゃんの霹靂一閃を。己の霹靂一閃を。

 ま、俺のは見れないけれどな。それでもずっと慣れ親しんできた技だ。ましてや教える相手は小さき己。わからないはずもないだろう? 神速がいつできたか忘れているのはさておき、な。

 そう言って微笑んでみると、彼は成る程と呟いた。

 

「じぃちゃんのこっそり見てたんだな」

 

 くふ、と吹き出す。ふふふっと笑いを殺す。なんだよ! と不機嫌な音を出す彼を見て落ち着こうとするけど、やっぱり面白い。

 

「ずれてんなぁ……」

「ぇ」

 

 きっと聞こえたであろう独り言を誤魔化す様にわしゃわしゃと頭を撫でてやる。ちょっと素が出てしまったけれど、まぁ今更だろう。

 善逸が霹靂一閃で逃げてしまうまで、この行為は続いた。

 

 

 

 

 




善逸は弟属性(確信)
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