俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十四節 籠の中の鬼。3/4

 

 

 

 

 

「あぁ! うそうそうそォ!! 何で日が落ちてから即刻出会うわけ!? エンカウント率バグってない!? 大丈夫!?」

「うるっさいわね! この不細工!! 私のこの姿を見たんなら、潔く死になさいよ! 鬼殺隊でもないのに、なんでそんな死なないわけ! 意味わかんない!!」

 

 飛び込んでくる帯を避ける。黒髪を散らしながら、破廉恥な格好をした鬼が俺の方を気持ち悪いものを見る顔で罵倒してくる。死ね、不細工、クソ野郎。いや言葉汚過ぎ!

 

「これでも精一杯生きてるんですぅ!! 気を抜いたらすぐ死にそうなんですぅ!!」

「嘘吐くんじゃないわよ! ただの人間が私の攻撃をここまで避けれるはずないでしょ! 雑魚ならすぐ死ぬわよ!!」

「俺はただの一般人です!!」

「だから! 嘘吐くなぁ!!」

「ところがどっこい! 嘘じゃないんだなぁ! コレが!!」

 

 生き物の様に帯が動き、瓦が飛び散る。瞬時に距離を詰められて伸びた爪を振るわれるが、転がり屋根から落ちる事で避けた。受け身を取って衝撃を和らげて前転。先程までいたところに鬼が落ちてきた。衝撃で砂埃が舞う。

 嘘は吐いてない、嘘は。油断すれば今にも死にそうだし、こうして鬼の攻撃を避けられてるのは自身に礼装のスキルを掛けてるからだ。もし彼女に会う前に掛けてなければ、すぐさま死んでいた。サーヴァントですら苦戦する鬼相手に死んでないのは奇跡に近い。

 

「あーもう、面倒くさい。そもそもなんで手加減しなきゃならないわけ? アンタ、なんなの? 鬼殺隊じゃないなら、何で私の事嗅ぎ回ってたのよ」

「鬼殺隊の協力者。まぁ情報屋みたいなもんかな(嘘だけど)」

「ふーん。で? 私の情報流すの?」

「生きてたら?」

 

 死にそうですもんね。情報流すって言っても、鬼殺隊の柱である宇髄天元がここに来ているのだからもう流れていると言っても過言ではない。ってか情報屋ってもっとマシな嘘はなかったものか。何で情報屋が鬼に殺されそうになってるの、もうちょっとしっかりしろ。情報屋じゃないけど!!

 首を傾げながら、右手の指を鉄砲の形にして左手を添える。俺の姿を見た彼女は同じように首を傾げながらも、馬鹿にしているのか鼻で笑う。その整った見目がくしゃりと歪んだ。

 

「ハッ、なにそれ? 脅しのつもり? バンバーンって」

「うーん、脅しじゃないんだよな」

 

 ———魔術礼装(Convert) “カルデア戦闘服”

 

 俺の周りを電子の粒子が舞い、刹那のうちに着ている服が着物からピチピチのスーツへと変わった。

 

「なっ!?」

「ガンドォ!!」

 

 俺の早着替え的なものに驚いたのか、隙ができた鬼にすかさずガンドを撃つ。近距離だった為に避けられる事なく受けてくれた。

 全体強化を俺に掛けて、オーダーチェンジで遠くにあった木箱と俺の位置を入れ替える。そのまま走り出そうとして、スキルの重ねがけの負担で脚に痛みが走る。思わず崩れそうになるけど、どうにか持ち直して駆け出した。

 カルデア戦闘服のオーダーチェンジは所謂、RPGで良くあるスイッチである。前方に出ていた人が後方に後退し、代わりに後方にいた人が前方に出るのを瞬時に行う魔術。サーヴァント相手ならどうとでもないが、自分の意思関係なく無理矢理移動させられるので人間がこれをすると負担になる。例えるならば船酔いしたみたいな感じ。ちょっと今でも吐きそうだけど、ぐっと飲み込んで我慢する。

 

 ———魔術礼装(Convert)

 

「(“カルデア”ッ!)」

 

 懐かしい白い制服が身体を覆う。今じゃあまり常には装備しないけど、この礼装は単純に強いから使い勝手が良い。何かとお世話になってます。

 

「(からの、緊急回避!)」

 

 刹那。ズドン! とすぐ隣に鬼である彼女が落ちてきた。四肢で衝撃を和らげて着地している姿は一種の美を感じるけれど、そんなのは一瞬で消えた。恐怖で顔が青褪める。緊急回避を自身にかけるのがあと一歩でも遅ければ、俺はミンチにでもなっていたかもしれない。ヒュッと息を吸うのを失敗して、両脚に力を入れた。

 

「瞬間強化ァア゛!」

 

 脚に力を入れながらそう叫んだ。途端にごふりと血が口内を濡らす。塊にして吐き出しながら、息を吸う。まずい、スキルを使い過ぎた。サーヴァントにかけるような魔術を自身にかけ、剰えそれを使う魔力すら無くなりかけている。負担が大きすぎる。このペースのままじゃもたない。

 逃げながら急いで連絡を入れる。

 

「〝あー、テステス! マイクテス! こちらマスター・藤丸立香! サーヴァント・セイバー応答せよ! どうぞぉ!〟」

 

 念話を飛ばしながら降って湧いてくる攻撃を躱す。ガンドからの復帰がそこらの鬼よりも早過ぎる。前に鬼に会った時には言葉も話せないほど痺れて固まっていたのに、動きがぎこちないとは言えあまり時間が経っていないのに関わらず攻撃してくるなんて誰が思うだろうか。やっぱ上弦の鬼なのだろうか? 俺が相手して良い相手じゃなくない?

 これは可及的速やかに俺に増援があって然るべき。

 

「〝せ、セイバー!? 聞こえてるだろ! 応答してくれ! 炭治郎!!〟」

〝あっ俺か!!〟

「〝お前以外に誰がいんの!?!?〟」

「なっ、に、ごちゃ、ごちゃ! 喋って、ん、のよ……!!」

「ギャァあっ!」

 

 セーフ!! これはギリギリセーフ!!

 爪を振るわれ、そのまま地面に激突する。地面が割れ、手の形に凹んでいた。一歩間違えればあぁなっていたのは己の方だと思うと、泣きたくなってくる。衝撃で飛び出した口許の血を拭い、もう一度走り出した。吉原をぐるぐるしてるけど、何で誰も来てくれないんですか! いやみんな忙しいのは知ってる! 俺だって小太郎に行っていいよとGOサイン出してなかったら、もう少し善戦してた筈だ。人任せで申し訳ないけど!

 采配ミスったかなー!!

 

「〝炭治郎か伊之助! どっちか呼んでも大丈夫!? 直ぐに戦う事になるけど!〟」

 

 ゲホゲホッと苦しさから出る咳をしながらそう問いかけると、彼はこちらの事態を悟ったのか硬い声で伊之助なら大丈夫だと言った。

 

〝それか金時さんにしてくれ。彼は目立つ〟

「〝成る程! 向いてないってわけですか!! ごめんね!!〟」

〝いや立香の所為じゃない。戦力を取って隠密性を考えなかった俺の落ち度だよ。ちょっと待って、今確認する〟

「〝オーケー! お願い!!〟」

 

 そう言った途端に緊急回避が切れたのがわかった。もうそんな時間が経ったのかという事実と、これからは自分で避けなければいけないという絶望に襲われる。これ以上己の身体にスキルをかけてしまえば動きが極端に遅くなるとは自覚していたので、炭治郎からの連絡を待ちながら自力で回避するしかない。

 大丈夫! 大丈夫! ヘラクレスに追いかけられた時より! 魔術王に全滅させられた時より! 何より、異聞帯(ロストベルト)の王たちと対峙した時より怖くなんてない!! 側に誰もいないっていう心細さはあるけどな!!

 

「何をしたのよ! 何をしたァ! 血鬼術なの!? 身体が痺れてっ、上手く動かないじゃない!!」

「いやもうこの短期間で動けてるのおかしくない!? というか解けかかってるね!! もう!!!」

「意味わからないのよ!!」

 

 ゾッと悪寒が走り、咄嗟に横に避けた。ざくりと地面を押し除ける音と爆音に背筋が凍る。見れば三つぐらいの帯が一点集中して地面を抉っていた。いやこわ! 無理!!

 

「い゛っぁ!」

 

 踵を翻してもう一度逃げようとするも、足首に衝撃が走って転けてしまう。力が上手く入らない。痛みが走った。

 恐る恐る振り返る。見えるのは足首から血を流す己の足と、それを覆う帯の数々。少しでも動けば切断するぞとばかりに帯の先端を足首にピトリと引っ付けていた。

 

「ここ、なんて言ったかしら。足首を切ると人間てみんな歩けなくなるのよね。鬼はそんな事ないのに」

 

 何を当たり前のことを言ってるのだろうか。そこはアキレス腱だ。足を支え、人が歩く為には重要な場所。太腿を切られたって歩ける、脹脛を切られたって走れる。でもそこは、そこを切られれば誰だって走れないだろう。そもそもの話、足を切断されたら誰だって歩けなくなるでしょ! 鬼だって元人間なんだから、わかるだろ! いやわかってての発言か! わかった!!

 

「〝たっ、炭治郎! まだか!? 炭治郎!!!〟」

「キャハハ! 今更助け求めるつもり? とっくととうにやっておけば、ちょっとは生き延びれたかもね?」

 

 じゃぁね、生きる価値もない不細工。

 そう言って余裕ぶるように帯を上空に掲げる瞬間、炭治郎から連絡が来た。

 

〝OKだ!! マスター!!〟

「令呪を以て命ずる———ッ!!」

 

 ———来い! バーサーカー・坂田金時!!!

 

 途端に吹き荒れる突風。俺を中心に渦巻く竜巻となった魔力の奔流は上弦の鬼であろう彼女すら吹き飛ばす。その際に帯も外れて、俺は即座に回復魔術を自身に施した。流れていた血液と痛みが引いて、ホッとする。

 

「待たせたな! 大将(マスター)!! オレっちが来たからにはもう安心しな!」

「き、金時ぃいい〜〜〜〜!!!」

 

 俺のサーヴァントがこんなにもかっこいい!! いや俺が召喚したわけじゃないけど!

 

「というか、立香。俺を呼ぶんだったら何で直接言ってこなかった? わざわざレッドデビルの奴を介してよ」

 

 あっ。全然思いつかなかった……何で直接念話しなかったのだろう。それだけ切羽詰まってたって事だけど、これじゃぁマスター失格だ。素直に金時に謝って、念話で炭治郎にも謝礼を言う。きっと炭治郎も頑張ってくれた筈だから。

 

「って、レッドデビルって何?」

「ん? あぁ、炭治郎の事だぜ。聞いた話じゃ、鬼を殺す隊で鬼殺隊ってのに所属してたらしいじゃねぇか。ならデーモンスレイヤーだろ?」

「ドーモ、タンジロウ=サンってやれば良いのかな?」

「で、赫灼だからレッド。けどレッドデーモンスレイヤーじゃ長ぇから、略してレッドデビル」

「スレイヤーどこ行った??」

 

 それじゃ赤い悪魔って意味になるけど、そうなると別人が出てくる気がするからやめておいた方が良いんじゃないかな?

 なんて言葉は遠くで起き上がった鬼によって続くことはなかった。飛んできた帯達を金時がその大きなマサカリで弾いていく。布であるはずのそれは甲高い音を出しながら軌道を逸らされ、それでも食らいつくように金時に迫る。それすら金時は何でもないように防いだ。

 

「おまえ、お前っおまえぇえええ!!! 知ってるぞ! お前!! あの方のさーゔぁんとって奴って!! なんでそっち側にいる!? なんで私に攻撃するのよ!!!」

「あーあー、五月蝿ぇな。オイラがそっちのマスターを見限ったって話なだけだ。元々オレの性に合う相手でもなかったしな」

「そんな事であの方から離れたの!? 意味わかんない! 訳わかんない! あの方は素晴らしいお方よ、この私を認めてくださり上弦の位を与えてくださった! 堕姫と言う名前をくださった! そんな方を裏切るのか!」

「……救えねぇなぁ、アンタ。そうとしか思えないなんて……ゴールデン可哀想だ。あの野郎は悪党だぜ? それも根っからのな」

「五月蝿い五月蝿いうるさいうるさーい!! あの方を侮辱するのか! この不細工!! 死ね!!」

 

 また帯が飛んでくる。そう身構えた瞬間、何処からか大量の帯達が飛んできた。一人でに飛ぶそれに驚き、そのまま堕姫と名乗った彼女の中に入っていくのを見て思わず固まってしまう。何? 何が起こった?

 遠くにいる彼女は頭を押さえながら、そう、そうなのねと呟いた。ゆらゆらと帯が揺れ、それに合わせて揺れる綺麗な黒髪が脱色していき白髪へと変わっていく。

 姿が変わった! さっきの帯は分裂していたものだろうか? 切り離した一部を取り戻した事で本当の姿になったのだろうか。あれ? 力の一部を切り放して分離しているボスみたいなもの? つまり、今までのは弱体化していた状態だったわけで……?

 

「(嘘だろう!?)」

 

 これ以上強くなるわけか!? 成る程! それで俺が逃げ切れてたのね!! 理解した!!

 

「あぁもう、貯蔵してた食糧全部逃しちゃったじゃない! 最悪よ! 最悪! アンタ達が来てから! もう良い、手加減なんて、もうしてあげないんだから」

 

 スッと細められた綺麗な瞳がぐつぐつと煮え滾ったような炎を灯していた。上弦、陸と書かれた瞳を見てやっぱり上弦か! と心の中で叫ぶ。

 魔術礼装・極地用カルデア制服にコンバートする。その刹那に先程の帯よりも倍以上に増えたそれを金時に向けてくる。俺は立ち上がり、技が届かないような場所まで移動する。バリバリと空気を裂く音が響き、綺麗な模様をした帯達が焼け落ちる様を見届けてて、俺は幻想強化を金時にかけた。

 

「別にしなくて良いぜ。オレっちも相手が女だからと手加減はしない……いつもならするけど。マァ、ケジメみてぇなモンだ。最初(ハナ)っからぶん回すぜ!! 行けるか!? マスター!!」

「応よ! もってけドロボー!」

 

 手加減なんてして勝てる相手でもないだろうから、最初から全力で行こう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り。洞窟内。

 

 飛んでくる剣を弾き返す。二連撃、三連撃と神通力を使った三刀流が俺を襲った。彼女自身は一つの刀剣しか使ってないのに、ふよふよと浮く二つの刀剣が鬱陶しすぎる。自動で攻守をしているのも地味に厄介だ。

 

「アハハッ! そんなんじゃ私を倒せるわけないってーの!!」

 

 わかってるっつーの!! そんな事は!

 防いでばかりじゃ駄目だ、攻勢に出なくちゃ倒せるものも倒せない。けどできないのだ。霹靂一閃は全て避けられ、剰え途中で止められたりする。こんな事初めてだ、軌道を逸らされるのは何度か、それこそさっきもあったのに止められるなんて人生とサーヴァント生含めて初めてである。ふざけんな。

 

「(この数の帯を避けながらこいつと戦うのは無理だッ!)」

 

 この帯達にも意思がある。鬼から分裂した奴だろうから当たり前だが、ギョロリと開いた目がこちらをずっと見ていた。傍観してくれるのはありがたいけれど、かと言って近づくとこっそり切ろうとしてくるのは何なのだろうか。危なくて近づけやしない。

 でも、このままじゃジリ貧なのも目に見えてる。それに……。

 

「(何故か、相手も手加減してくれてるみたいだし……)」

 

 何でなのかはわからない。でも何回か油断して攻撃できる場面があったはずなのに、斬ろうとしなかった時がある。それに刀を振るうとき、誘導されてるかのように帯の前に出たりしてしまう。そのまま振り抜けば帯が切れ中にいる人物が開放されてしまうだろうに、それをしろと言わんばかりの行動だ。

 期待しても良いのだろうか。仲間じゃないんだろうか。金時みたいに……こっち側についてくれるんだろうか。

 

「(一か八か!)」

 

 ———雷の呼吸 壱ノ型

 

 賭けてみる価値は有り!

 

 ———霹靂一閃・神速

 

「(八連ッ!!!)」

 

 洞窟内に落雷音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 




最近新たに二人ほど、鬼滅にハマらせました。イェーイ、そのままずぶずぶハマレー熱く語り合おうぞ。
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