俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十五節 兄妹狐の鳴声が轟く。1/5

 

 

 

 

「セイバー! 起きろよ!! 起きろ! 今は蛇の姿とはいえ、美少女の口ん中で気絶するとか羨ましッアッ違った! 失礼だぞ!! 起きろ! そして今まで何があったか教えろ!!」

 

 ガクガクと胸ぐら掴んで揺さぶるけれど、一向にセイバーが起きる気配はない。剰えスピーッと小さな寝息を掻いてる始末だ。可愛らしい寝息だな!? 俺のはそんなんじゃないのにさ!?

 頬を叩いたら起きるだろうかと思案していたら隣から俺の名前を怪訝そうに呼ぶ声がした。その声の主は炭治郎であり、何と振り返れば心底嫌そうな顔をしていた。いや何その顔!?

 

「善逸……いくら女の子が好きとはいえ、その発言はどうかと思うぞ……?」

「エッ引いた!? 今の引いた感じ!? 前に胸、尻、太腿が二つずつあって良い匂いするから女の子が好きって説明したときよりも!?」

「いつ俺がそんな説明受けた」

「記憶から抹消してやがる……!」

 

 こいつ最終選別で会った事すら忘れて、初対面は鼓屋敷での任務だって言う奴だから不都合な事は記憶から消えるタイプなんだろうか!! 切ない! 俺は切ないよう!

 機能回復訓練でいち早く回復した俺が受けていた内容を、後から加わった炭治郎と伊之助が疲れたような顔をしてたからちょっと怒った時にそう説明したんだけど記憶から消えてるらしい。本当失礼だよな、だってわざわざ時間削ってまで俺達の相手してくれて、合法的に女の子達と触れ合えるんだから喜びはすれど疲れたなんて妄言吐くなんてさ。お前らは! 女の子と! 手を繋げる! 喜びを知れ! っていう話だよ。

 

「羨ましいならお竜さんに咥えられてみるかい? 彼女の唾液には回復作用があってね、疲れや細やかな傷が消えるよ」

 

 えっ。

 いつの間にか蛇姿のお姉さんの背中から降りてきた優男もとい坂本龍馬さんがそう声をかけてきた。思わずなんて? と聞き返したけれど、ニコニコと笑みを浮かべながら同じ事をもう一回言ってくるものだから聞き間違いじゃなかったらしい。

 

「確かに疲れてますよ? 美味しいケーキ食べて日が落ちるまで休んだとはいえ、任務で負った細やかな怪我は治ってないし、完全に疲れが取れないまま距離が離れてるこの場所まで超特急で何の安全設備もない蛇の背中に乗せられて落っこちそうにもなってたんだから。だからと言って咥えられてみる? 何言ってんだ、アンタ」

「ん? 嫌だったかな?」

「よろしくお願いしますッ!!!!!!」

 

 腰曲げ九十度、勢い良く頭を下げれば隣から聞こえる俺の名前を呼ぶ声。声音と名前を間違える事から炭治郎と伊之助だと思うけど、きっと呆れるような視線をしているのだろう。下げていた頭を上げて恐る恐るそちらを見ると、やっぱりというか想像した通りの表情をしていた。つまりやべぇ物を見るような顔だ。

 

「なんだよぉおお! そんな顔すんなよぉおお!! 傷とか疲れが取れるなら良いじゃんかよぉおお!!! 別に羨ましいからってだけじゃないからぁああ!!」

「気持ち悪ぃぞ、気持ち悪逸」

「きもちわるいつ!?」

「思ってても口に出すものじゃないぞ、気持ち悪逸」

「炭治郎まで!?!?」

 

 嘘でしょ!! そこまで!? 伊之助の悪口っぽいのが炭治郎に移ったんだけど!?

 

「そうです、善逸殿。口に出せば害になるならば心の内に秘めておくもの、オタクならばそれは当たり前。そうマスターも言っておりました」

「ゔわぁあああああっ!!」

 

 びびった! めっちゃびびった!!

 まさかの炭治郎達の態度に驚いていると、気づかぬ間に隣に蹲み込んでセイバーのことを見ている風魔小太郎さんがいた。確か藤丸さんのサーヴァントで、忍とかなんとか言ってた気がする。なら急に現れるのも納得するけど、合図をしてくれ、合図を。心臓がまろび出るかと思ったわ!!

 心臓を押さえながら長く息をする。口から引きつったような音がしたけど無視して彼を見る。暫くセイバーを観察していた彼は立ち上がり、そんなことよりと続ける。

 

「貴方方が来てくださり助かりました、是非主殿の力に。僕はこの中に目当ての方々がいるので失礼します!」

 

 行きましょう、音柱殿!

 お竜さんが開けた穴に飛び込んだ風魔さんを見送る。見た感じ深さがめちゃくちゃあるのに躊躇なく飛び込んだ彼に慄きながら、聞こえてきた言葉に首を傾げる。音柱殿?

 

「柱って確か」

「待ちやがれ! 神である俺様より先に嫁の下に駆けつけるのは許さねぇぞ!」

 

 風魔さんに続く様に誰かが通り過ぎた。一瞬しか見えなかったし、声の感じからして男で俺よりとても背丈がある人だとは分かったけど、でもその一瞬だけどもキラリと軒先の提灯の光で暗闇でも光ったそれはやけに目についた。

 

「なんかめちゃくちゃ派手な人が通り過ぎたんだけどー!?!?」

 

 派手も派手、キラキラと微かな輝きが目に届き、それに伴ってジャラジャラとした音が耳に届く。穴の底から天元様ー! と呼ぶ声が聞こえることから、天元という名前らしい。女の子の声が四つぐらい聞こえたけど、そのうちの二人がさっきの人に寄り添ってってる。おモテになりやがりますね、この野郎。

 

「あの人、柱合会議にいた人だ」

 

 とは炭治郎の言葉だ。

 

「やっぱり柱なのね!?」

 

 個性強すぎない!? 前にあった煉獄さんもそうだけど、柱って見た目第一だったりする!? 見たら一生忘れんわ! 煉獄さんは素で派手だったけど、あの人は作ったような派手さだな!

 下から剣戟の音が聞こえてくる。偶に爆音も耳をつん裂き、口の端から悲鳴が零れる。何で戦ってるだけなのに爆音も聞こえんの!? と思ってたら細長い何かしらがまた俺達の側を通り過ぎた。いや今の鬼だ!

 

「グワハハハー! 今の鬼だぜ! どうする! 紋八郎! 権逸! 追いかけるか!?」

「えっ追いかけるの!? 明らかにヤバそうな音と見た目してたけど!?」

「藤丸さんがいるかも知れないから、行った方が良いと思うけど……」

 

 風に乗って藤丸さんの匂いが鬼が行った方向から臭ってくる。そう言った炭治郎はきゅっと眉を顰めて、悩んでいる様な音をしていた。実際悩んでいるのだろう、この下には巻き込まれた一般人がいるから放っておいて鬼の方に行って良いのかって話だ。

 炭治郎の考えていることがわかってしまったからこそ、俺も悩む。というか俺はセイバーをここに置いていくのも嫌だし、かと言って藤丸さんを助けないのも嫌だ。でも俺は何もできないから、行ったって足手纏いにしかならない。

 じとりと嫌な汗が流れる手を握り締めてると、誰かが俺の手を大丈夫だよと言うように優しく触ってひとつひとつ指を解いていく。強く握り締めてたのか手の平に痛みが走ったけど、それよりもこの手は誰のだろうかと目を動かしてハッとする。

 

「せ、セイバー……? 起きたの?」

 

 ゆらりといつの間にか立ち上がっていた彼が俺の手を撫でる。そして俺の頭をもう一つの手で撫で始めて困惑した。彼の顔を見ようとしても、長い髪がまるでお洒落な蚊帳の様に彼の表情を隠している。まるで見てはいけないと言っているようだ。

 

「大丈夫、俺が行くよ」

「えっ」

 

 唯一隠れていない口許が弧を描いた。笑ってる、微笑んでる。でも彼からは起きている人の音はしない、一定の間隔で心臓から鐘の音を鳴らしていた。

 

「坂本さんも行くよね?」

 

 俺から手を離し近くにいた坂本さんに声をかける。敬称は付けてはいるけど、敬語でもないそれに坂本さんは怒ることなくセイバーの言葉に頷いた。カツリと革靴を鳴らして一歩前に出る。

 

「君がサーヴァントの方の我妻善逸君だね、噂は予々」

「お世辞は良いし、貴方が何故ここにいるかも聞かない。今聞いても覚えてないだろうし」

 

 ともかく、とセイバーは続ける。

 

「俺は立香の応援に行く。貴方も来てくれると助かる、アレは複数人で取り掛からなきゃ倒せないから。後からでも良いよ、先に巻き込まれた人と宇髄さんのお嫁さん達をお竜さんの唾液で回復させてからでも遅くはない」

 

 どうかな? とセイバーは首を傾げた。にっこりと笑う口許は相変わらず見えてるのに、何故か鼻から上は全く窺えない。それがなんだか怖くなってセイバーの袖の端を掴むけど、彼は気にする事なく坂本さんの方をずっと見ていた。

 

「おい、雑魚ナメクジより強そうな雑魚。生意気だなお前、もう一回食うぞ」

 

 パカリと大きな口が此方に向けられる。シュルル、蛇特有の舌を震わせた音が鼓膜に届いた。口に収まりそうにもない牙からは何かが垂れてたけど、悲鳴を上げることなくセイバーの後ろに隠れる。怖い、怖いけど彼女は女性だから叫んだら失礼だ。ギョロリと切れ長の瞳孔を動かしながら彼女が此方を向いた。

 そんなお竜さんの言葉と態度にセイバーは怖がる事もなく、ただ苦笑してやめてくれと言う。

 

「ベタベタになるからやめておくれ。それに今は坂本さんと話してるんだ」

「お竜さん、ちょっと待ってようか」

 

 どうどうと馬を宥めるように大きな口を開けていたお竜さんの首下を撫でた坂本さんは、そのお洒落な帽子を押さえながらセイバーの方を向いて微笑んだ。

 

「君の事は我妻君と呼ばせてもらうよ、君のマスターの善逸君と区別する為にね。良いかな?」

「……良いけど」

「そう、良かった。で、君の提案だけど乗らない手はないよ。そもそも僕らは立香君目当てだからね、助け舟を出さないわけにはいかない」

「そ……ならどうする?」

「僕が先に行こう。お竜さん、この下に行ってみんなの怪我を治しておいて。それから僕の下へ戻ってきてくれるかい?」

「わかった、リョーマがそう言うならな。其奴は生意気だけど、今は我慢してやる」

「ありがとう、お竜さん」

「ふん」

 

 話がどんどん進む。そっぽを向いたお竜さんが穴の中に入る為に人型に戻ると、ふわりと浮かびながら洞窟内へと直進していく。逆さまになりながらもスカートが捲れない現象はちょっと意味がわからないけど、今は些細な事。下からの怒鳴り声がお竜さんの登場によって変化したのを耳が受け止めていた。

 

「鈴鹿御前!!」

 

 坂本さんの決定に満足したのか、セイバーが突然お竜さんが落ちていった穴の方へと声をかける。すずかごぜん、とは誰のことだろうか。大層な名前だとは思うけど、今風ではないのは確かだ。

 中から何ー? という間抜けた声が聞こえた。可愛い女の子の声だとは理解するけど、それを発した者は人間の音を立てていない。短く息を吸って長く吐いた。

 

「宇髄さんと小太郎に協力してやってくれ!」

「このハデハデとサーヴァントの奴?」

「そうだ! 協力してくれんだろ!」

「まっ言った手前、しないわけにいかないじゃん。かしこまりぃ!」

「因みにサーヴァントの方、カルデアのサーヴァントだから」

「マジ!?」

 

 アハハハ! 星見の!? マジで!? ラッキーじゃん! テンション爆上がりだしー!

 謎の声が楽しそうに笑う。小太郎さんの困ったような音も聞こえたから、きっと絡みに行ったのだろう。カルデアのサーヴァントって言ったらここにいるの風魔小太郎さんだけだし。洞窟内から炭治郎と同じような声が焦った音を絡ませて響いてきた。

 

「じゃ、行こうか。坂本さん」

「案内してもらえると助かるよ」

「最初からそのつもり」

 

 動きそうな雰囲気だったからギュッとセイバーの羽織を引っ張った。坂本さんの方に向いていた意識が此方を向いた気がして、自然に張っていた気を少し緩める。そろりと頭をまた撫でられた。ムッとする、まるで子供扱いだ。その見た目じゃ確かに俺は子供かもしれないし、撫でやすい位置に頭があるのかもしれないけどさ、守られるだけの存在じゃないんだからやめて欲しい。いやね、俺は弱いけどさ! 迷惑かけるほどはないはず……だと思うけど!! うぉおお! 断言できない!!

 

「大丈夫だって、心配すんなよ」

 

 そう言ってセイバーは消えた。

 

「えっ、は? セイバー?」

 

 確かに掴んでいた羽織はもう無くて、手の平にあるのはふわりとした空気の残滓。俺のとは違う、少し年季が入ったそれの手触りだけが残っていた。周りを見渡すけどいなくて、でも遠くからセイバーの音が確かに届いていて……何かが俺の中でキレた気がした。

 

「…………んだよ」

「ぜ、善逸?」

「意味わかんねぇよ、ふざけんなよ。説明しろよ、良い加減にしろ」

 

 一人で何でもかんでもこなそうとして、ヤバそうな音をした鬼相手に俺たちを頼らず立ち向かおうとしている。きっと俺達はセイバーに比べたら弱いのだろう……そりゃそうだ年季が違う。セイバーは一生を終えていて、俺はまだ十六年しか生きていない若造だ。経験の差も、鍛錬の差も当然ある。でも、でもさ……それでも説明ぐらいはしてくれても良いんじゃない? 俺達を巻き込んでも良くない? そう言ったじゃん、巻き込んでって巻き込んでくれるって。でもこれはどうなの、どうなんだよ。巻き込んでねぇよ、俺から行かなきゃ知らないまんまだったじゃん。

実力が足りない? 知ってる。弱い? とっくに知ってる。足手纏い? わかってる。

 冷静な部分が囁く。一般の人達の保護を最優先に、セイバーは簡単にはやられない大丈夫だから。

 んなこと、わかってる。これが正しい選択とはならないだろう、列車の時の任務のように傍観している方が良いはずだ。でも、それじゃ多分後悔するから。

 ……俺は。

 

「行くぞ、炭治郎、伊之助」

 

 彼らは何も言わない。ただ驚いたような音をさせて、お互いに顔を見合わせてはこくりと頷いてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 




現実にいたら嫌われるタイプだよなー、気持ち悪逸。

なんて。

十九巻発売日だけど……ないんだろうなぁー。
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