俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「金時! 後ろ!」
「わかってらァ!!」
金時の真後ろに迫った帯に気づいて声を上げるけど、彼は知っていたようで難なく弾いた。そしてそのまま此方を見た金時の横から別の帯が向かってくる。
「マスター! 行ったぞ!!」
「わかってる!」
飛んできた帯を避ける。金時の攻撃に意識が行っているからか、俺への攻撃が疎かになっている。これならばスキルを使わなくても避けることができる! まぁかと言って本来の力を取り戻した彼女の攻撃は速すぎて見えないんだけども!!
「(でも予測はできる!)」
単調な攻撃しか来ないので予測は容易い。彼女自身帯達をオート操作しているわけではないらしく、偶にこちらに視線を寄こしてくるのでいつ攻撃くるのかもわかり、向かってくる速度はともかく初動は俺でも見えるぐらい遅いので軌道予測は容易い。あとは油断せずに冷静に避ければ、金時が攻撃して意識を割いてくれる。
けどこのままじゃジリ貧だ。鬼を討伐するのが目的とはいえ、俺達にここの鬼を退治する方法がない。鬼を倒すには日輪刀と呼ばれる特殊な刀で首を斬らなければならないけど、金時じゃそんなものを持ってないので無理だ。多分太陽系のサーヴァントならその攻撃で頸を刎ねればいけたかもしれないが、金時は雷神。例えその雷神と云われる赤龍が太陽から生まれたと云われていたとしても、彼の場合雷神の意味合いが強すぎる為に消えている。そもそもそんなに属性が付属されるようにはできてないから、雷神だけで精一杯だと思う。多分。
「金時! 大丈夫!?」
前に出過ぎていたと判断したのだろう、金時が堕姫の攻撃を弾いてから後ろに下がって来ては、此方に被害が及ばない程の魔力が伴った雷を放出させながら俺の言葉に頷いてくれた。
「オレっちは良いけどよぉ、問題はあの嬢ちゃんだぜ」
「やっぱり金時でも倒せない? 太陽系ならいけると思うんだけど」
「オウ。オレの親父である赤龍は太陽の御子かもしれねぇが流石にオイラまでそれを受け継いでねェ。今みてぇにゴールデンオンリーになってたとしてもな。だから無理だぜ、マスター。オレじゃ倒せない」
雷神であることは受け継いではいたが、太陽の御子ということまでは受け継いでなかったらしい。予想通りかと落胆する。
「にしても今の鬼は厄介だな。強さで言っちゃぁ彼奴らの方が厄介だが……特定の条件でしか死なないとか本当に鬼か?」
「元あっち陣営だったじゃん」
「関わらなかったから知らなかったんだよ」
バリバリッと空気が裂ける。金時のマサカリが雷を纏わせて帯達を斬っていく。あの見た目でちゃんと斬れるって凄いな、と感心しながら少なからず回復した魔力で援護をした。
「(どうする、炭治郎を呼ぶか?)」
いやさっきの念話での会話からしてあまり手が開いていないのは事実。此方から色々頼んでいる事からあまりこれ以上負担をかけたくない。そもそも彼らがどこら辺に行ったのか聞いてないから、これ終わったあと向かって貰うってのも時間ロスになる。
じゃぁ伊之助か? となるけど、それも首を傾げざるを得ない。三人で当たっていたものなのに二人になって、更には一人になってしまえば空いた穴を埋めるのは難しい。禰豆子ちゃんもいるけど、炭治郎と禰豆子ちゃんは二人で一人だ。引き離せないし、今じゃ多分金時を呼んで空けた穴を埋めてくれてるんじゃないかと思う。
思考がぐるぐると周り、やるせなさからギリ、と歯を食いしばれば。
———霹靂一閃・神速
そんな声と共に雷鳴が轟いた。金時の魔力とも違う、黄色の閃光だけでなく青白い光も混じったそれはバチリバチリと地面を這って拡散する。この声を、あの姿を俺は知っている。
「善逸さん!!」
俺の声が届いたのか俺の側まで駆け寄ってくる彼にホッとする。彼が来てくれたならば倒せる。善逸さんは元鬼殺隊、持っている刀は日輪刀だ。ならば、あの鬼の首を斬れば倒せるだろう。
「やっぱゴールデンだぜ! ホーリーブレード!」
「それやめてって。それより、まだ頸斬ってなかったのか?」
ワハハ! と笑って褒める金時をさらり流しながら、此方を向いて善逸さんがそう問うて来た。ヴッと言葉に詰まる。面目ない。
「言葉の刃が凄い」
仕方ないじゃん、金時が首を斬ったとしても倒せないのだから。
そう返せば彼はため息を吐く。知らないから仕方ないかもだけど、と続けては納めている刀に手を添えた。
それよりずっと目を閉じてるのには突っ込んだ方がいいのかな。まるで見えてるかのように振る舞ってるけど、きっちりかっちり閉じられている目蓋はピクリとも動いていない。決して目蓋の裏から見える明暗で判断しているわけでも、眼球が動いてるわけでもなさそうだ。
……突っ込まないでおこう。
「あれは頸を斬らなきゃ始まらないよ」
「どういう……?」
善逸さんの言葉にどういう事だと聞こうとして、お前!! という堕姫の言葉に遮られた。すぐさまそちらを向く。
「あの方が殺せと言っていたさーゔぁんとね! 鬼狩りの格好に、長い金の髪の男。見たことある顔だと思ったけどまさか、女の格好して入って来るなんて良い度胸じゃない」
キャハハ! と嬉しそうに笑う上弦の陸はどうやら善逸さんへとターゲットを定めたようだ。彼女が言う“あの方”とはこの世界に蔓延る鬼達の祖である鬼舞辻無惨の事で、そんな鬼舞辻無惨から指定されて殺害命令出されてる善逸さんって一体……?
彼が何をして目を付けられたのかは知らないけど、どうやら相手は善逸さんの事を少なからず知っているようだ。その首をあの方へ持っていけば褒められる、と喜んではいる。サーヴァントは倒したら粒子になって還ってしまうので持ってけないと思うけど、かと言って簡単にやられるわけにも行かない。善逸さんは善逸の唯一のサーヴァントだから。
けど相手に嬉々として殺してやると言われている善逸さんは構える事もなく、こてりと首を傾げた。
「暢気に話していて良いのか?」
「は? 何?」
「弱いって知ってたけどさ、そこまでとは思わなかったよ」
呆れたように善逸さんはもう一度息を吐いた。さらりと金時とは違う金髪が羽織を流れる。
「俺が技放ったのに、頸斬られてることすら気づかないし、せめて可能性くらい考えるだろうに。それすらないって上弦としてどうなのさ」
あの音柱よりも分かりやすく斬ったつもりだぜ?
途端にズリっと落ちる首に、はっと息を飲む。思わず善逸さんの方を見るけど、彼はなんて事ないように刀に手を添えて見守っていた。
「(いつの間に……)」
彼の宝具もそうだが一貫して攻撃が速すぎる。落雷音と光によってハッキリとは見えてなかったが、金時も驚いていることから彼が一閃したのを見極めることができなかったのだろう。そう言えば彼と金時が戦っている時、金時は大体技を受けていたなと思いだす。雷神そのものである今の金時をもってしても見る事が叶わない彼の型は、まさに神の域だ。抜刀術であるそれは、柳生さんとどっちが早いのだろうか。
「は……?」
かくんと膝から力が抜けたのか堕姫は座り込んでしまう。自身の頭を抱えながら困惑したような表情をする彼女に怪訝な顔を向けてしまった。あまりにも無防備なそれに逃すまいと金時に攻撃命令を出そうとして、善逸さんに止められた。
「今攻撃しても意味はないよ」
ジッと堕姫の方を向きながら、注意のようなものをして来た善逸さんにどういう事だと視線で訴えてみるけど、此方を向く事なく無視される。
ところでいつまで目を瞑っているんですか、貴方。
「えっ、あっ、はっ……ぁああああ! うわぁあああああああん!!!」
「「ええっ!?」」
金時と顔を見合わせて驚く。徐々に涙を溢れさせ大声で泣き出した堕姫にどうすれば良いかわからなくなった。
まるで幼子のように脇目もふらず泣き喚く上弦の鬼はしゃっくりを繰り返しながら、やだやだやだ! と駄々を捏ねる。
「あー、どういう状況なんだい? これは」
「坂本さん!」
苦笑いのまま困惑していた俺達に声をかけて来た男にまた驚いた。坂本さん、坂本龍馬だ。目立つ白いスーツに埃が付くのも憚らずに、隣に並び立った彼に首を傾げた。いつものようにぴったり付添うセーラー服の女の人がいない。長い黒髪を靡かせながら、濃い桃色のカラータイツと蛇柄のマフラーが特徴的なあの人がいない。彼女は彼の宝具なのに。
「わぁあああん!!」
「坂本さん、お竜さんは?」
「うぇええええん!」
「お竜さんは巻き込まれた人達を助けてる。もうすぐ来るはずだ」
「ひっぐ、えっぐ。うううっ!」
「そっかぁ……」
「うわぁああああああああん!!!」
「いやいつまで泣いてんの!?!?!?」
坂本さんと話しているというのにずっと泣き声が邪魔してあまり話せない。ずっと泣いている彼女に思わず突っ込みを入れてしまった。
「首をっ、首を切られたぁああ!! うわぁあああああん! おにっ、おにいいちゃぁああん!!!」
お兄ちゃん?
「ぁ、ふわぁあ。ったくおちおち眠れやしねぇ……あーぁ、可愛そうになぁあ。情けねぇなぁあ。首ぐらい自分でくっ付けろよなぁあ」
誰かが堕姫の中から出てきた。帯の中に入っていたのか、ぬるりと這うように出てきたそれは堕姫の頭を持って首を戻した。血肉がぶつかる音が聞こえて、彼女の頸はなんて事もないように動き始めた。
緑かかった黒髪に明らかに異形である身体を持ったその鬼であろう彼は堕姫の頭を愛おしそうに撫でる。それは家族に対して想いやる姿そのもので、彼女がお兄ちゃんと呼んでいた事からあの人は堕姫の“兄”なのだろう。それにしてはあまり似ていないけど。
「おに、お兄ちゃん! あいつら虐めてくるのよ! 私っ頑張ってるのに! 寄ってたかって首を、私を!!」
「あぁ、あぁ。わかってるさぁあ、お前は頑張ってる。ない頭で良く頑張って、偉いなぁあ、お前はなぁあ」
「ううっ、でしょっ! ひっぐ、でしょう!」
「そんなお前を寄ってたかってなぁあ。許せねぇなぁあ、俺の妹をなぁあ虐めてなぁあ」
ズビビと鼻水を啜る見目麗しい花魁の妹が、世間的に言う醜いという部類に入るであろう兄に泣きついている。兄は堕姫の頭を一つ撫でると徐に立ち上がり、一対の鎌を取り出す。良くある死神が持つような大鎌ではなく、庭を整理するときに使うような鎌だ。あれがあの鬼の武器かと臨戦態勢に入る。
「鬼って群れないんじゃなかったっけ?」
ごく自然な疑問が湧き上がった。炭治郎に鬼のことを聞いた時は鬼の始祖である鬼舞辻無惨に徒党を組んで逆らってこないように鬼同士お互い相容れないようにしていると聞いた。まぁ相容れないというより共食いする様にとかなんとかだけど、あんな風に“兄妹”として存在するのはあまり事例のないことではないだろうか。
俺の呟きに善逸さんがそうだねと肯定してくれた。
「基本的には、ってつくけど鬼達は群れないよ。徒党を組むメリットよりも一人で狩りをした方が合理的だし、第一他人を気にかけるようにはできてない。そこまでの理性がないんだよ」
でも、何事にも例外は存在する。
「鬼は大体鬼になった時点で人間だった頃の事を忘れる。でもその時抱いていた強い想いまでは消せないから、それが身体に現れたり血鬼術として発言したり、意味もわからず行動に出たりする。あの上弦の陸にとってはそれが“兄妹”というお互いの存在だったってだけだよ。倒すのには変わりない」
どうでも良いことだ、と善逸さんは話を締めくくった。途端に背筋にぞくっと悪寒が走り、何故か善逸さんのことが気になって彼の名前を呼ぶ。けれど返事はなく、彼は刀に手を添えて前傾姿勢になる。雷の呼吸、壱ノ型という単語が耳に届いた刹那、落雷音と共に彼の姿は消えていた。
———霹靂一閃・神速
「ッハァア、速ぇなぁあ。見えなかったぞぉお」
「にしては受け止めてるよね」
「そりゃぁ単純だからなぁあ」
「そ」
金属が弾き合う音がする。刀と鎌、形状は違えど同じ刃物だ。少しでも気を抜けば斬り付けられる中、善逸さんは二刀流の鬼を相手に引けを取らずに刀を振り回している。
「(み、見えない)」
まるでサーヴァント同士の戦いだ。俺には何をどうしてるのかはわからないけど、当事者達にはわかるのだろう。平気な顔をして向かい合っては斬り合っている。
舗装された道路の土を押し出しながら後退してきた善逸さんは未だ目を閉じたまま坂本さんの事を呼んだ。彼は消していた刀とホルダーを出現させながら善逸さんに返事をする。一歩踏み出せば、カチャリと刀身が揺れた。
「金時と一緒に堕姫の方をお願い」
「そっちは大丈夫かい?」
「鬼狩りのプロだからね」
そしてそのまま兄の方の鬼へと向かって行った善逸さんに坂本さんは少し面食らってから息を吐く。笑顔のそれはどこか嬉しそうで何かを思い出しているか、仕方ないなと言っているかのようだ。
「そりゃ頼もしい。そうは思いませんか? 坂田さん」
「言ったらオレっちもゴールデンプロなんだがなぁ」
「実績で言ったら彼の方が上ですよ」
「そりゃそうか!」
金時は鬼狩りというより京に仇をなす妖怪達を倒していたので、鬼狩りという点については善逸さんには敵わないだろう。酒呑童子が有名どころなだけで鬼専門というわけではないし、善逸さんは鬼殺隊に入って死ぬまで鬼を狩り続けただろうから、実績がどうのって言われたら負けてしまう。
でもそんな事を気にするような金時ではなく、なら負けてられないな! と笑顔になる。
「任されちまったんだ、しっかりとやらねぇとな!」
「僕達は日輪刀を持ってないからね、倒すことはできないけど……でも時間稼ぎぐらいはできる」
あの子達が来るまでの時間ぐらいは稼ごう。
「立香君」
「ハイ!」
坂本さんに呼ばれて背筋が伸びる。親しみやすい雰囲気を醸し出している彼だけど、どうにもこうしっかりしなきゃと思わせるような何かがある。歴史を変えた時代の寵児のカリスマ的な何かなのだろうか。持ってらっしゃるけど、カリスマ。
俺の反応に苦笑した彼はスラリと刀を抜き放って、堕姫がいる方向へと向いた。これから彼が相手する上弦の陸はどこか楽しそうだ。先程まで泣き喚いていた鬼とは思えない程の自信振り……兄の存在が大きいのか、何かあるのかは彼女のみぞ知るってヤツかな?
「援護頼むよ」
まずは牽制だと刀を持っていない方の手で拳銃を取り出した彼を見ながら俺は礼装をコンバートして“月の裏側の記憶”へ変える。スキルの霊子向上・全を坂本さん、金時、善逸さんへの三人へとかけて、俺は坂本さんに向けてサムズアップをした。
「任せて! マスター歴二年半だからね!」
ほんと、世間のマスターと比べたら長すぎる期間だよな!
兄ちゃん言うほど醜くないよね。