俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
いつも何処か夢見心地だった。
下弦の壱の台詞をパクったわけではない、ただ単にそう思っているだけだ。
ふわふわと何処かを漂う感覚が生前いつもあった。けれどその柔らかそうな感覚とは裏腹に、ピリッとした痛みを伴うこともたまにはある。
「(でも今回は……)」
鮮烈な程、痛みが走る。起きなきゃと思う程、痛みによって沈んでいってしまう。
まるでまだ起きるなと言っているように、任せとけと言っているようにビリビリ、パチパチと忙しなく与えてくる信号に俺は従うしかなかった。
———大丈夫、全部俺がしておくからさ
誰だテメェ。
そんな言葉を発する事なく、俺の意識は再びとぷんと沈んでいってしまう。
バチリ、バチリ。閃光が目蓋の裏から見えた気がした。
———霹靂一閃・神速
「ぐうっ!」
強い、と素直にそう思う。
両手で持った鎌で受け止めた刃を弾き返しながら斬り付ける。しかし後退する事によって避けられ、弾いた刀を振り下ろされて同じように避ける。その瞬間に鎌を投げつけるが、来ることが分かっていたのか難なく弾かれた。こっそり投げていたはずのもう一つの鎌すら防がれ、手元に戻ったそれにため息を吐いた。
「厄介だなぁあ、うざいよなぁあ。目ェ瞑ってるくせにどうしてそんな動きができるんだぁあ?」
同じく上弦の陸である堕姫の兄、妓夫太郎は目の前にいる長い金髪を靡かせた男を睨みつけながら、バリボリと首元を苛立ちながら掻き毟る。爪と指の間に自身の皮膚が入り、血が首元から流れ出すが妓夫太郎は気にしない。こんな傷すぐに治ってしまう。
そう、すぐ治ってしまう。だからどんな攻撃を受けたとしても気にはしない。弱点である頸さえ守れば、いつだって復活できるのだから。しかしかと言って、攻撃全てをまんまと受けるような馬鹿でもない。ないのにだ……スッと斬り付けられた胴体を触れる。どくどくと心臓が脈動しては血が流れていく。傷つけられた、確実に避けたのに何故か攻撃をくらっている。
「……」
「だんまりかぁあ? 鬼とは話せねぇってかぁあ?」
「何話したって興味ないでしょ」
「あぁねぇなぁあ。俺は妓夫太郎だからなぁあ、取り立てにしか興味がねぇんだよなぁあ」
鬼になっても覚えていた名前、妓夫太郎。その名の通りに他人から物を取り立てる。鬼である今、その物の対象は専ら人の命であり、それは目の前の男に対しても変わらない。
金色の鬼狩りは自分達の命を取り立てに来た、ならば此方がその命をもらうまでだ。
———血鬼術 飛び血鎌!
ほぼ黒に近い赤い血が刃となって善逸へと襲いかかる。妓夫太郎が鎌を振るう度に出現するそれらを驚く事もせず、難なく刀を操りながら斬り付けては、血鎌をただの血へと変えていった。
幾つものそれを顔色変える事なく対処していくのは素直に褒めよう。声には出してはやらんが、今までの柱でも完璧に対処していたのは少なかった。大体が妓夫太郎の攻撃の速さにあまり付いていけていなかった。そもそも二対一は誰だって不利だろう。血鎌に混ぜた帯の攻撃に不意を突かれて、やられてしまうのが殆どだったのだから。
「(帯まで対処すんのかよ)」
あぁ苛々する。
二人で一人の鬼である妓夫太郎と堕姫はその精神を共有することができる。頭の足りない堕姫がこの花街で花魁としてやっていけてるのは、単に妓夫太郎のおかげでもある。彼がいなければ、人目がつく場所で殺しをしては素性を晒していただろうから。それを諫めるためにも彼は堕姫を通じて花街を見ていた。何なら堕姫を操れもする。それを用いて堕姫の攻撃で不意を突くのが妓夫太郎の強みではあるが、目の前の存在には通用しないらしい。
「(堕姫の方も厄介な奴らだしなぁあ。あぁどいつもこいつも見目が整ってやがる、しかも強い。さぞ苦労しなかったのだろう、さぞもてはやされたに違いない)」
堕姫が相手している坂本龍馬と坂田金時を堕姫の視界越しに見て顔を歪めた。
見目麗しい者はそれだけで勝ち組だ。特別整った容姿を持つ妹が花魁としての素行が悪くとも追い出される事なく続けられてるのがその証拠だ。
だからこそ妓夫太郎は妬む。自身が醜いからか、それとも取り立て屋としての癖からかわからないが、整った容姿と強さに嫉妬する。自分は強さしかなかったものだから、きっと良い人生を送ってきたんだろなぁと勝手に想像しては怒りを募らせた。
良いなぁあと呟いては両手に持っていた鎌を腕を交差させて空中に投げる。善逸を挟み左右に飛んでいったあれらは的を外しているように見えるが、そもそも直線的に飛ぶようなものでもない。妓夫太郎の血鬼術である飛び血鎌で善逸を動かさないように牽制しながら、風を切る音を立てて戻ってくる鎌が善逸に当たるように調節する。すすっと小さく動いたそれを見て妓夫太郎はこの位置ならば相手の首を一刀両断するだろうと推測した。
「甘いんじゃないかな」
鎌がその首に吸い込まれる直前、善逸は視界から消えるように地面に伏せて躱した。ザクッと何かが切れる音がしたが、切ったのは人の首ではなく一房の髪の毛だ。一括りにしていた善逸の髪の毛が、伏せる彼と違って重力に逆らい鎌で切られてしまった。サラサラと金色の髪の毛が提灯の火に灯されながら地面に落ちていく。
「チッ」
思わず舌打ちが零れる。戻ってきた鎌達を両手で受け止めた妓夫太郎はそのまま血鬼術を発動させた。
———
全方位に飛び出る黒い血達は妓夫太郎を守るように円形へと変化する。その瞬間に聞こえる雷鳴と視界の端で見える刀の煌めきにもう一度舌打を零しながら、妓夫太郎は血鬼術で地震を覆う前に鎌を投げては飛び血鎌も発動させた。
「ッ! タイムラグなしとか!」
霹靂一閃を防がれた善逸は慌てて後退するが、飛んできた鎌と血鎌の対処に遅れて食らってしまう。幸い深くは斬り付けはされなかったが、手足には何本もの赤い筋ができてしまった。
「(わかってたけどッ、あまり無理な動かし方はできないんだよなッ!)」
人の関節というのはある一定の方向にでしか動かない。伊之助のように関節を外すということをすればできるかもしれないが、それは本来なら激痛を伴う方法。さらりと行っている伊之助の方が異常なので、この身体でそれを行うわけにもいかない。
ズズっと食らった傷から何かが入ってくる感覚がした。まだ残っているはずの記憶を探し当てて、それが目の前の妓夫太郎による毒だと判明させる。普通なら掠る程度で即死という強力すぎる毒を体内の魔力で傷付近で押し留める。電気が傷口から漏れ出した。
「食らったなぁ? やっと食らってくれたなぁあ。上弦である俺の攻撃を人間の身でここまで避けるなんて、良いなぁあ、良いなぁあ。強いなぁあ。見目も良くて強いなんて羨ましいなぁあ!」
「……強くないよ」
あ?
首元をボリボリと掻いていた妓夫太郎は善逸が零した言葉に手を止める。ゆらりと腕を下ろしては彼の方を見た。
「今の俺が強いのは単にスペックが良かったのと、サーヴァントになる時に混じった神性のお陰だ。それを抜いたらお前を圧倒できなかったかもな」
「嘘吐いたって良い事ねぇぞぉ?」
「嘘じゃない、本当だ。それに……」
俺より強い奴なんてこの世にごまんといるさ!
———霹靂一閃・神速 六連!!
「説得力がねぇんだよなぁああ!」
———血鬼術 飛び血鎌・乱!!
「ちょこまか! ちょこまか! うざったいのよ!」
「そうしないと君に勝てないからね」
「勝つ気ねぇくせに良く言うよなぁあ」
「ハッハ!! バレてらァ!!」
「実際倒せないしね!!」
堕姫に対峙している金時と坂本さんを邪魔しないよう援護しながら、そう笑った。
二手に分かれた俺たちは一応堕姫の相手をしているけれどさっきよりも攻撃の精度が上がった彼女に少し苦戦している。決定打がないのもあるのかもしれない。
ところでいつから額にも目が生えるようになったのだろうか。カルデアでは多腕であったり異形だったりはいるけど、額に目が生えた人はいなかった気がする。あの目が生えて来てからは時々口調が変わったりするので、何かがさっきと違うのだろう。最初は金時にも敵っていなかったのに、何故か坂田さんを加えて二対一になっているのに余裕すらある。さっきと変わらず怒ってはいるけど、切羽詰まったような表情ではないのは明らかだ。
「倒す手段も持ってないくせによく私達と戦おうと思ったわね……俺が相手してる鬼狩りの方が日輪刀を持ってる分驚異だけどなぁあ」
お前らは何ができるんだぁ? と堕姫に聞かれて確信する。彼女、いや彼は堕姫を通じて此方の事も知れるらしい。額に生えた目にも“陸”と描かれていることから、片目だけの視界を此方に移しているのかも知れない。
なんてこった。善逸さんの相手をしているのに此方にまで意識を割く余裕があるとは……戦闘のセンスはサーヴァント並みではないだろうか。
「倒す手段が無いだけで戦えないわけじゃ無いからね。これでも幕末を生きたんだ、多少の揉め事ぐらいわけないさ」
坂本さんがそう微笑みながら拳銃を撃つ。乾いた音が周囲に響き渡るが、当然堕姫には当たっていない。当たったとしても大した傷にはならないので牽制なのだろう。その間に金時が後ろから回り込み、マサカリを勢い良く叩きつけた。騒音が鳴り瓦礫が舞うが、単調な攻撃だった為か避けられてしまう。
「彼奴に比べりゃぁお前さん達なんて、赤子みてぇなもんさ! それに耐久戦は生前からゴールデン得意なんでな!! オレっちバーサーカーだが!」
眩しい笑顔で言い放った金時は堕姫が避けた方向へとマサカリを振るった。無数の帯達に防がれて斬る事は敵わなかったけど、そのまま堕姫の横腹に蹴りを加える。衝撃音と共に近くにあった長屋の壁が壊れる。無数の打撃音も聞こえたから多分、二個ぐらい壁突き破ってるねアレ……!
「心配すんな大将! 人はいねぇ」
俺の心配を感じ取ったのか、金時が安心させるような笑顔を浮かべてそう言ってくれた。ほっと息を吐く。もし巻き込んで怪我や死なせてしまったらと思うとゾッとしてしまうので、巻き込まれた人がいない事に安心した。
「それにしてもどうしようか」
魔術礼装を“月の裏側の記憶”から“極地用カルデア制服”へと変更する。備わっているスキルがもう少しで
この場合のどうしよう、というのは止めの事だ。幾ら傷をつけたって致命傷を与えたってそれが弱点ではなければ彼らは復活する。日は落ちてから数時間も経過してないので期待はできず、かと言って俺達には倒す為の日輪刀や藤の花の毒もない。善逸さんが彼方の鬼を倒したって、俺たちが堕姫を倒せなきゃ意味がないだろう。
「(ニコイチって大体そんな感じだし)」
二人で一人なタイプってどちらかに依存しているか、どちらとも倒さなきゃ意味がないタイプだ。坂本さんとお竜さんはサーヴァントと宝具という関係なので、坂本さんがやられれば諸共消滅してしまうけど、仮にお竜さんだけならばそうでもない。またアン・ボニー&メアリー・リードは二人共倒さなきゃならない。因みに炭治郎と禰豆子ちゃんは坂本さんタイプで、禰豆子ちゃんがお竜さんポジ。宝具じゃないけどね。
俺の呟きを拾った坂本さんがそうだねぇと呟き、少しずれていた帽子を元の位置へと戻していた。砂埃で汚れた白いスーツを着ているのにも関わらず、それは何処か様になっている。イケメンて汚れた服着ててもイケメンなんだな……。
「立香君の心配ももっともだけど、それはもうする必要はないよ」
「え」
心配する必要はないとはどういう事なのだろう?
頭を捻って考えるけどよく分からない。この人はわざと言葉数を少なくしているような気がするから、此方が真意を読み取らなきゃならない。でも彼の様に策士ともなると、俺はあんまり付いてけないんだけど。
しかし大体彼の言葉が少なくなるのは話す様なことではないか、話す必要がないか、相手の力量を測るときぐらい。その中で今の状況を当て嵌めると……最後の以外だろう。そう考察するけど、やっぱりよく分からない。
だって相手を倒すのに必要なものが善逸さんが持つ日輪刀以外……あ。
「まさか」
日輪刀は鬼殺隊士ならば誰だって持ってるもの。この吉原には誰と来たのかを思い出せれば、必然的にわかってしまう。つまりはだ。
———血鬼術
「ッ!」
小さく瓦礫が崩れる音がしたと思えば、いつの間にか堕姫が起き上がっていた。途端にぞくりと来る悪寒に金時! と声を上げれば、ちらりと此方を見た彼が俺を抱えて後退してくれた。まって俺だけじゃなくて坂本さんもして欲しかったんだけど! くそ!
———予測回避ッ!
後退することなく受け止めようとしている坂本さんに手を伸ばして、その背がすぐ小さくなってしまった。
———八重帯斬り!!
景色がスローで流れる。一分一秒が遅く感じて、無数の帯が重なり合うように坂本さんへと向かっていく。あれは駄目だ、帯の数が多すぎる。俺を追いかけ回してた時よりも倍以上もの数になっている。
坂本さんにかけた回避は因果を曲げ、“攻撃を避けている”という結果を先に付随させる事によって、例え攻撃を受けたとしても避けた事になる魔術。緊急回避なら暫く続くけど、予測回避の場合は一回だけになる。つまり最初は免れてもその次の攻撃を躱せるかどうかは坂本さん次第になる!
「坂本さんッ!!」
予想通りに幾つかの攻撃は坂本さん自身の刀などで弾いて防いではいたけど一つだけ、俺にでもわかるほどに避けられないものが坂本さんに迫る。声を荒げるが、間に合わない。一歩踏み出そうとも金時が止めてきた。
「(あのままじゃ……!)」
坂本さんがやられてしまう!
そう思ったとき。
———音の呼吸
———雷の呼吸
「「壱ノ型ァア!!!」」
視界の端を金と白が舞った。
———
———霹靂一閃!!
善逸の気絶癖を病気に当て嵌めようと調べて、耳のせいでの寝不足(高血圧)→恐怖・ストレスでの急激な低血圧化で気絶(反射性失神)→夢遊病ってまで当て嵌めて笑顔になりました。楽しい。
冒頭のはあんま意味はありません。