俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「あっぶな!? あっぶね!? 爆発って何!? 怖!! 先に来てた俺と同時に技を放つとか何考えてんですか! アンタ!! というか良くこれ防げたな! 俺!!」
「お前、善逸に似てんな……」
「善逸ですけどぉ!?!?」
「は?」
キラリと提灯の灯りに合わせてとある額当てが光る。その隣には金色もいて、俺は振り返って兄の方の上弦の陸と戦っている善逸さんを確認してから、言い合いをしている彼らの名前を呼んだ。
「善逸! 宇髄さん!」
金時と共に彼らに駆け寄る。勿論警戒は怠らないが、鬼殺隊の彼らが来てくれた事に俺は安堵して笑顔になる。俺の気づいた彼らは振り返り、それぞれ俺の名前を呼んでくれる。
「立香」
「藤丸さん!」
「善逸、久しぶり。なんでここに?」
「セイバーがいるって聞いて」
「あー……なるほど」
本当に愛されてるね、善逸さん。
間髪入れずに答えた善逸に苦笑いを返しながら宇髄さんの方向を向いた。ここに来てくれたという事はお嫁さん達の事は終えたのだろう。無事かどうかは分からないけど、でも自分の嫁を放って敵と対峙する事はないはずだから、俺はペコリと頭を下げてお礼を言う。
「増援ありがとうございます」
そう言えば、宇髄さんはきょとんとした顔をしてから呆れたような表情に切り替わった。それから隣にいた善逸の頭を指差しながら、首を振る。
「俺がしたわけじゃねぇよ、勝手にこの善逸に似たやつが来ただけだ」
「だから善逸だってば!!」
「それに、俺はお前に帰れって言ったよな?」
善逸の抗議も聞き入れず、此方を真剣な目で見てくる宇髄さんに息を飲む。本当に心配してくれてるのだろう、何故だか俺が無茶した時に怒ってくるサーヴァント達が宇髄さんに重なって見えた。
帰ったらエミヤのご飯食べたいなぁなんて考えながら、お返しとばかりに俺も呆れたような表情を浮かべて見せた。別に帰れって言われたけど強制じゃなかったし、そもそも鬼殺隊の協力者とはいえ、柱の命令は絶対遵守なんて言われてないからね。あくまでカルデアは協力者の立ち位置、つまりは対等な位置にある。だからそんな事言われても従う道理なし。
それに。
「逆に聞きますけど、宇髄さんはあんな事言われて帰れると思います?」
「…………派手に思わねぇな!!」
ニッと笑った宇髄さんはその包丁のような日輪刀を担ぎながら、出てきた上弦の鬼の方に振り返る。加勢してくれるのは有難い、正直金時と坂田さんじゃ決め手に欠けていた。最初っから本気って言ったけど魔力量の関係でそんなに実力を出せなかったから、多分まだ体力があるであろう彼らが来てくれたことに安堵している。絶妙なタイミングで登場されたから、ちょっと心労があるけど。無駄にドキドキしてしまった。もう少し良い登場の仕方なかったのだろうか。カッコ良かったけど!
未だ鳴り止まぬ緊張から来る心臓の音を息を吐きながら整える。そして声を張り上げた。
「みんな! こっからだよ!! 相手は上弦の陸! 多分、二人で一人なタイプだから! 同時に倒さなきゃ駄目だと思う!!!」
「はっ?」
「チッ!」
目の前にいる堕姫がなんで? と言うような顔をして、少し遠くで戦っている兄の方の鬼が大きく舌打ちをした。そして、やっぱりかと心の中でガッツポーズを取る俺。あの反応は図星である証拠だ、思いの外わかりやすくて助かる。
「善逸さん、応援いる!?」
「正直猫の手も借りたいぐらい」
「OK! 坂本さんお竜さんは!?」
「もうすぐ来るよ」
「なら坂本さんは善逸さんのところへ! 宇髄さん、善逸、金時は堕姫の相手ね!」
「派手にお前が指揮をとるのかよ!」
「そうしないと俺がいる意味ないし!」
指揮はマスターの特権と言って良いだろう。というかそこぐらいしか彼らに貢献できないし、止めやら何やらを任すのならば俺が俯瞰的な視線の役目を負わなくては。例え目が追いつかないでおこうとも! 善逸さん達が速過ぎるんだよなぁ!!
〝主殿、囚われていた一般人の避難が完了しました〟
「藤丸さん! 後から炭治郎達が来ると思う!」
小太郎から念話で、善逸からは口頭でそう言われて頷く。善逸にはわかったと返して、小太郎には俺達が戦っている付近の一般人の方々の避難をお願いする。魔力量の問題もあるけど、他にある長屋にいる人達のお陰で全力が出せない。金時は宝具を放てないし、多分善逸さんも無理だろう。真名開放をしないで放つのもアリだけど……それじゃ威力が心許ない気がする。
幻想強化を坂本さんにかけ、持っている礼装一覧を頭の中に並べる。
———
因みに“第五真説要素環境用カルデア制服”という名前だけど長過ぎるので第五カルデア制服と呼んでいる。礼装の名前は俺が思い浮かべやすくしてるだけで、喚び出すのには特に名前を正式に呼ぶ必要はないとはダ・ヴィンチちゃんの談だ。
「それじゃぁみんな!」
周りを軽く見渡す。頼りになる仲間と協力者たち。俺はいつも助けられてるな、なんて笑って両手をみんなに向けて広げた。魔力を練り上げ、スキルを発動させる。
「一斉突撃ィイ!!!」
「「「「「応ッ!!!!」」」」」
俺の号令にそれぞれがそれぞれの敵に突撃していき。
「人数増えたって一緒なんだから!」
「取り立ててやるよぉ、全員諸共なぁあ!」
上弦の陸である兄妹は俺達に負けないように吠えては、技を繰り出してきた。
怖い。恐い、こわい、コワイ。
恐怖が身体中を駆け巡る。普段なら鼻水垂らして、涙を撒き散らして、声を荒げて誰かに縋り付きたくなる怖さが俺の脚を絡めとろうとしてくる。
やめたい、逃げたい。今すぐこの場所から逃げ出して、彼らに任せていたい。そうした衝動が身体の内側から溢れ出る。
「(あぁあ! 怖い怖い怖いコワイこわい!! 無理無理無理ッ!! 俺ッこうやって鬼と戦ったの初めてなんですけど!? 今まで気絶してたら誰かが倒してくれてたから大丈夫だったけど!! 今回だけはそれは無さそうだし!!!)」
———壱ノ型 霹靂一閃!
震える手脚を必死に押さえ込んで型を取って放つ。これをするのも久しぶりだけど、身体が覚えていてくれたらしい。いやいつも寝る前ぐらいに確かめる為に鍛錬はしてるけどね! 寝てる間に誰かが鬼を倒してくれるから今まで役に立った事なかったけど! 普通に放てて良かった!! 帯に防がれちゃってるけど!
迫り来る藤丸さんが堕姫と呼んでいた鬼の攻撃を避ける。どうにか距離を取っては攻めあぐねてしまい、いまいち攻撃ができない。
速くて見えないんだ。俺の実力じゃ多分堕姫の攻撃は見切れないし、敵わない。今攻撃を避けられているのは単に柱の人と坂田さんのおかげだ。というかあの人ら見た目が派手すぎるな!
それにもし上弦の頸を俺が斬れるとすれば、神速しかないけどアレは脚にとても負担がかかる。二度使ってしまえば足が駄目になってしまう。例え強化魔術で脚を強化してもそれほど連発はできないから、意味はない。というか避けるのにも霹靂一閃使ってるから、安易に神速に切り替えれないっていうか!
「善逸みてぇなやつ!!」
「うぇっ!? はっ、何です!?」
炭治郎が柱と呼んでいた人が俺の名前を呼ぶ。みてぇなやつじゃなくて善逸です! と返そうとして、そんなことどうでも良い! と言われてしまった。いやどうでも良くねぇよ!?
「お前は立香を守ってろ! 正直地味に足手纏いだ! 上弦相手に震えて縮こまってる場合じゃねぇぞ!!」
「はっ……!」
息が詰まった。
言い訳すらできない。実際その通りだから。鬼の攻撃を避けるのに精一杯だ。攻めようとしても恐怖が優って、柱の人や坂田さんみたく深いところまでいけない。
俺達の階級は最下級の
「というわけで、護衛役となりました。弱いけど、よろしく藤丸さん!」
「……良いけど、良いの?」
「……っ」
努めて明るく言って退けたのに、心配そうな音をさせながらそう問いかけてきた藤丸さんに言葉を返せない。
良くない、良くないよ。返事の為にそう頭を左右に振っては、ギリッと歯を食いしめた。
「(悔しい……)」
そりゃ俺は弱いよ? びっくりするぐらい弱いよ?? なんで鬼殺隊に入ったんだって言われても仕方ないぐらいに弱いさ。でもさ、でもそれでもやりたいんだよ。セイバーもさ戦ってるのにマスターである俺が戦わないなんて情けないじゃん? いつも喚き散らす俺が何言ったって説得力ないかもだけど、俺だって男の秩序っていうか、そういうのはあるから。
怖い。恐い、こわい、コワイ。
恐怖が身体中を駆け巡ってる。すぐさま喚き散らして泣き出して、後ろにいる藤丸さんに縋り付きたい。その優しい音が俺を心から心配しているのはわかっているから、その優しさに突け込んでしまいたい。
「(でもそれをすると多分、俺は駄目になるから)」
バリバリッと雷が地面を這った。視界の端に写る俺と同じ羽織。未来の俺であるはずなのに俺ではなくて、俺よりもずっと強くて優しくて凄いセイバーが必死に戦っている。俺より綺麗な霹靂一閃が繰り出されては相手に防がれていた。
落ち着く為に息を吐く。目を瞑った。視界が閉ざされ、音だけが俺を支配する。ドクドクと自分の心臓が五月蝿くて、でもそこに届く暖かい音が心地良くて俺は閉じていた目蓋を開けた。
「(強くなりたい)」
彼らの足手纏いにならないぐらいに。
「(強くなりたいっ)」
もう俺だけが置いてかれるのは嫌だ。
「(強くなりたいッ!)」
セイバーの隣に並び立てるぐらいに!
「(強くなりたい……!!)」
あつく、熱く。身体の内側から熱くなる。熱を持ったそれは身体を蝕んでいるようにも思えて、思わず刀から手を離して掻き毟る。胸が痛くて、喉が熱くて、ゲホッゴホッと咳をしては音が遠くなる。轟々と何かが燃える中、藤丸さんの叫ぶ声が聞こえたけど、何を言っているのか全然わからなかった。可笑しいな、耳だけは俺良い方なんだけど。
いつもやけに聞こえていた耳が聞こえなくなっていって、相対的に意識はハッキリとしていく。やがて咳が治った時には、何故だか世界がゆっくりと回っているように見えた。
意味のわからない現象に目を見開いては。
———斬れる!
そう確信した。
根拠はない、でもそう思ったんだ。周りが暗くなって一筋の光が突撃していってる彼らを縫うように上弦の彼女の頸へと結ばれている。まるで稲妻のようなそれに嫌悪感はなく、俺の味方をしてくれてるのだと漠然と思った。
震えはもうない。最初から知らなかったことのように、恐怖はなかった。
———雷の呼吸 壱ノ型
繰り出すは雷の呼吸最速の型。俺が逃げ出しては頭を叩いてきていたじぃちゃんの言う通り、俺ができることをずっとやってきた成果。セイバーなら出来てるであろう型を、今までの俺じゃ出来なかった型を繰り出し。
———霹靂一閃・神速
そのかっ頸を叩っ斬るッ!
「———
身体の中から轟音が鳴り響く。
まるで雷が己の身体に落ちた時のような音を気にすることもなく衝動のまま、その見えていた道筋を辿って行けば、ぽーんといつの間にか上弦の陸の頸が刎ねては、地面をころりと転がっていた。
「え……?」
呆然と此方を見上げる彼女の表情を最後に俺は力が抜けて倒れ込む。顔面から地面に思いっきり当たったけど、痛みは何故かなかった。
「(初めて斬った頸が女の子なんてなぁ……)」
ちょっと嫌だなぁなんて、傲慢な事を考えながら俺の意識は落ちていった。
「「善逸ッ!」」
あれ? この音。
炭治郎と伊之助?
火雷神だと思った?残念!神速でしたー!
因みに最後、声なのに音って言ってるのは彼は声含めて全部音って言いそうだなって思っただけですね。深い意味はない。