俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十六節 真実は事実から生まれる。1/4

 

 

 

 起きたら何もかもが終わっていた件について。

 えっ? は? と意味のない言葉が口から漏れ出る。息を吸う度に何故か全身痛いし、気怠ささえある。魔力切れか? いや、現界できてる時点で最低限のはあるようだけど。

 

「む、むー?」

 

 ふとそんな声が側から聞こえた。ゆるりとそちらに視線を向けると禰豆子ちゃんがいて、心配そうに眉を八の字にさせながら此方を覗き込んでいた。彼女の黒い髪で光が更に遮られてしまう。

 禰豆子ちゃん? と問い掛ければ、彼女は嬉しそうにむーと返事をしてくれる。笑顔になったと思えば、コクリと頷いてとっとこどっかに行ってしまった。いや可愛いかよ。

 よっこいせなんておっさんくさく立ち上がる。全身の気怠さと痛みでしんどいが、まぁ動けないわけじゃない。繋がってるパスと聞こえてくる音を頼りに歩き出す。

 俺の最後の記憶はお竜さんに食べられたところだ。気絶したとは言え、最初に聞こえた言葉だけは覚えているためにそれは間違いない。声からして坂本さんに加え、善逸、炭治郎、伊之助があの場にいたはずだ。つまりこのいつの間にか終わってる戦いにも彼らが参加していた可能性がある。

 

「(というか、禰豆子ちゃんからサーヴァントの気配しないから確定なんだろうけど)」

 

 さっきの禰豆子ちゃんは俺のところの禰豆子ちゃんではなかった。この時代に生きる、ちゃんとした鬼の禰豆子ちゃんだ。ちゃんとした鬼ってなんなんだろな。

 とにかく、聞こえてくる音というか声からして無傷っていうわけではなさそうだ。さっきから痛いよぉおおなんて泣き声が鼓膜を震わせている。うーんこの情け無さを残しておきながら、本気で泣いている感じの声は善逸しかないな。というか声同じだし。

 瓦礫に隠れた隙間。そこを覗き込むと金色が見えた。さらりとしたその髪は砂埃や小さな瓦礫で汚れていて、少し汚い。

 

「善逸」

 

 そう声をかければ、バッと此方を向く善逸。充分音でわかる範囲だろうに気づかなかったのは自分の泣き声で俺の音が聞こえてなかったのだろう。大きな瞳に水の膜を張らせては、それをポロポロと零し出した。

 せ、せいば〜なんて情けない声を出す彼に苦笑しながら目の前に回り込む。ふむ、足が瓦礫に挟まって出れないとな? まじまじと見れば、うん、ここら辺を斬れば瓦礫が倒れることもなく善逸の足だけが取れるだろう。スゥッと刀を抜けば、何故か彼が慌て出した。

 

「い、いや! 斬るのはどうかと思うよ!! いくらセイバーがやることでもそれは許容できないかなーなんて! 痛いと思うので! じぃちゃんみたくなれないと思うので!!」

 

 やめてぇぇええええっ! と更に泣き出す善逸は何か勘違いをしてらっしゃるようだ。どうにも俺が助け出す為に善逸の足を斬ると思っているようだ。まだ助かる足を切断するわけがないのに、何故そう勘違いするのか。それに足だけとは言え止血剤と麻酔薬がない今、出血多量と痛みによるショックで死んでしまうと思うんだけど。

 はぁとため息を吐いて刀を振るう。見事に瓦礫だけを斬ってみせれば、善逸は泣くのをやめて自分の足を振り返った。多少の打撲と内出血はあるけど、骨が折れてたりはしてないようだ。良かった、良かったと歩けないであろう彼を抱き上げる。うぇ? と涙声ながらに困惑して見上げる彼の顔を肩に押し付けて背中を優しく叩いてやる。

 

「そんなことするわけないでしょう」

 

 俺がお前を傷つける事は例え天と地がひっくり返ってもあり得ない事だ。だってマスターではあるし、お前は我妻善逸だから。

 聞こえてくる心臓の音に合わせて叩いてやる。そしてそのまま禰豆子ちゃんが歩いて行った方向へと歩き出す。トクトクと規則的な心地よい心音をBGMに、善逸に負けずとも劣らない泣き声が聞こえてきた。声的に多分須磨さんだろう。あの人結構な泣き虫だし、偶に俺が引くぐらい鼻水垂らしてたりする。まぁ素直な子って可愛いんだけどね。

 そんな音を頼りに須磨さんと禰豆子ちゃんを見つける。その近くには音柱がいて、三人の嫁と禰豆子ちゃんに囲まれていた。は? 何そのハーレム状態。実際に目にすると怒りしか浮かんでこねぇな! 公衆の面前でいちゃいちゃしないでくれますぅ!? いや生き残ったのを喜んでるのはわかってんだけどね!

 音柱をボッと炎で燃やした禰豆子ちゃんに近づく。ギャーギャー騒いでいる嫁達と禰豆子ちゃんを引き離して彼女の頭を撫でる。むー? とまるで何? と言うように此方を見上げた彼女に笑いかけた。

 

「炭治郎のところに行ってやりな。そろそろ目覚めるだろうから」

 

 聞こえてくる炭治郎の音が一定から不規則なものになっている。この音の変化は寝ている人が起きそうになっている時に起きるものだ。だからそろそろ起きるし、その時に禰豆子ちゃんが側にいなかったら驚くだろうし。

 コクリと頷いた彼女は俺が抱えていた善逸を燃やし比較的近くにいた伊之助をすれ違い様に燃やし、炭治郎へと続く道すがら出会った人たちを燃やして行った。そんなお手頃な感じで上弦の鬼の毒を飛ばす禰豆子ちゃん強すぎでは? 頼し過ぎて心が乙女になる、ならないけど。

 

「……俺ってバレてた?」

 

 良い歳になって抱えられている恥ずかしさからか、俺の肩口にぐりぐりと頭を押さえつけながらそう小声で聞いてきたけど安心して欲しい。

 

「さぁね」

 

 彼女は俺たちの事を珍妙な蒲公英としか思ってないだろうから、きっと人間に戻ったら忘れてるさ……うん、多分な。

 大丈夫だと言うように背中を叩く。恥ずかしいからやめてくれと抗議されるが、疲れてるだろうからお前が寝てくれたらなと思っているだけなんだが。

 そんな俺達を見た音柱がクツクツと笑う。俺は覚えてないけど、きっと最後に食らったのであろう血鎌の傷を押さえながらビシッと指を指してきたので直様その手を叩き落とす。人を指差してはいけません。

 

「少なくとも俺にはバレてんぞ、善逸」

 

 そうしてまた指差す。俺がもう一度叩き落とすと肩に顔を押し付けていた善逸が音柱の方へと振り返った。聞こえてくる音は不満の音、善逸曰くお前には言ってないだとよ。んふ、うひひと笑い声が漏れ出る。ぎょっとする善逸を無視して音柱を見て目を細める。

 

「嫌われてんなぁ、音柱殿」

 

 うるせぇとぶっきらぼうに返す彼を俺はもう一度笑ってやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は? 俺が?」

 

 善逸の困惑したような声が聞こえた。どうしたのだろうかと少し心配しながらも俺は廊下を歩く。

 ところ変わって蝶屋敷、俺達は休養の為にお世話になっていた。俺達サーヴァントの傷は魔力供給さえあれば完全回復するが、善逸達はそうもいかない。藤丸さんも含め、善逸、伊之助、炭治郎、そして音柱が同じ部屋に押し込まれていた。柱と一般隊士が同じ場所なんてと思うが、詳細を聞くのには最適なんだそうだ。そりゃ聞く側が部屋を移動するより聞かれる側が一ヶ所に集まっていた方が何かと手間は少ない。色々聞くのは怪我がある程度治ってからとはなっているけど。

 どうにも無傷で勝利とはいかなかった上弦退治。でもめちゃくちゃ重症というわけでもないのでラッキーではあったのかも知れない。ただ最後に食らったという血鬼術のお陰で漏れなく全員切り傷と毒のプレゼントを貰ったので、禰豆子ちゃんがいなければ死んでいたし、隠の到着が思いの外早くなければ出血多量で死ぬなんて事になっていたのかも知れない。ま、過ぎたたらればは幾ら考えても仕方がない。今は全員助かって元気なことを喜ぼう。

 

「(まぁ音柱が柱引退にならなかったのは想定外というか……)」

 

 なんも対策もしてなかったものなので。

 いやはや、まさかこんな事になるなんてなぁと思わぬ誤算に笑みが深くなる。そのまま病室の扉を開けては善逸の側まで歩み寄り、備え付けてある椅子に座る。そうして何故か俺の方に視線が注目しているのに気付いて首を傾げてから、あぁと掌を軽く振った。別になんもないぞ、と伝える為に。

 

「話を続けてどうぞ。私の事は空気だと思いやがってくださいな」

「いや口調」

 

 善逸に飽きられながらそう言われたけど無視して持っていた木皿に入っている饅頭にカプリと齧りつく。うん美味。

 そんな俺を善逸が羨ましそうに此方を見ていたのでその口にもう一つの饅頭を押し付けた。むぐっと驚いたように仰け反った彼だったが、ちゃんと噛り付くともぐもぐと食べ始めた。顔がふにゃりと綻ぶのを見届けてから俺も続きを食べ始める。

 

「むぐ、ん。まぁ聞いていたんで話の内容わかるんですけども……善逸が上弦の陸の片割れを倒したとかなんとか」

「まぁそうなんだけどさ、善逸さん」

「なんです、藤丸さん」

「その饅頭、どうしたの?」

 

 あぁこれ?

 

「ちょいと台所から拝借してきました」

「窃盗!!!!」

 

 失敬な、ちゃんと置き手紙してきたので窃盗ではないです。と言えばどっちも同じだと突っ込まれた。なんでだよ。

 まぁそんな冗談は置いておいてだ、普通に貰ってきた。いつもいつも善逸が饅頭を盗み食っているのがバレているのかアオイちゃんに午後のおやつにと貰ったのがこれだ。遠慮しようとは思ったけど気分転換は必要だし、俺も饅頭は好きなので有り難く貰った。あのもそっとした食感が何とも言えんのよね。

 ちょいと立ち上がり余った饅頭達を配る。やはり一人一個の計算だったのか、全員に配り終われば木皿に入っていた饅頭は一つも無くなっていた。これ俺の分も入ってた感じだったな……聖刃さんも一つどうぞって言われてたから戴いたけど。

 

「これで共犯だな」

「策士ッ!!」

 

 盗んだものだと思ってる立香はそんな事を俺に言いながらも饅頭に齧りついた。いや食べるのかよ。確かにもうみんな食べ始めているけどね。伊之助なんて渡した瞬間がっつき始めたし、音柱に至っては普通に食べてる。善逸は言わずもがな、炭治郎は戸惑いながらも口にしていた。小さくお腹が鳴っていたので空腹に耐えられなかったのだろうな。長男だからとしっかりしてる部分もあるが殆どは子供みたいなもんだし……炭治郎程純粋な奴もいないしな。ま、周りが食べたからってのもあるだろうけどさ。

 

「話を戻しますけど、本当に善逸が上弦の陸の片割れを倒したのか?」

 

 聞いていたはいたけど、理解はできても納得はできなかった。話によると善逸一人がパパッと倒してしまった様だ。俺の記憶通りならば今の彼の実力だと堕姫相手でも苦労するはずだし、斬ろうと思ってもスパッと斬れるような相手でも無い。相手の首って帯になってるし、振り抜く力が強く速くなくては到底斬れないだろう。でもそんな事はなかったと言う……そこだけ聞くと実力は(みずのと)を遥かに超えて(きのえ)でもおかしくないぞ。

 

「うん、女の人の方ね」

「善逸の実力的に善戦はできても倒せはできないはずだけど……」

「うっ確かに俺は弱いけどさ! ってその時セイバーもいたじゃん!」

 

 見てたでしょ! と言われるけども覚えてない。その時は意識はなかったので彼らが何をしていたのかは俺は知らない。大体予想はできるけどさ、その時の言葉も映像も何も覚えてないのだ。

 善逸の言葉にふるりと頭をゆるく振ると、善逸は頑張ったのに! と騒ぎ出す。いやごめんて、見てなかったんだって、物理的に見えなかったんだって。まぁ色々言い訳しても彼には関係ない事だから意味ないのだけども。

 

「(にしても……)」

 

 周りの反応からして本当の様だ。善逸からも嘘の音はしていない。つまり善逸は堕姫を倒して、しかもそれは起きている時に起こした出来事だということ。信じられん。

 現に善逸はその怖がりから気絶してからではないと本来の力を発揮できないという鬼殺隊士としての欠陥を抱えている。けどその実力は折り紙付きであり、気を失ってからの彼ならば大抵の鬼は敵わない。気が付く前に頸を斬られてるからだ。しかし寝ている事によって恐怖心を薄れさせて本来の力を発揮しているのなら、その恐怖心さえどうにかなれば起きながらでも鬼を倒せる事になる。

 けどそれを初めてするのは……無限城が初めてのはずだ。

 

「(うーん……いくらバタフライエフェクトだと思っても実力が足りてなきゃできないしなぁ)」

 

 よくわからん、と思考を放棄して饅頭にもう一度齧りついた。

 因みに冒頭の善逸の困惑声は、階級の話で善逸だけ(ひのえ)になるだろうって話からだ。炭治郎や伊之助は直接倒したわけじゃないから上がらないんじゃないかと。癸から丙に昇進なんて凄いって話だが、それだけ危険な仕事が舞い込んで来るので善逸は嫌なのだろうな、さっきから恐怖と悲哀の音が鬩ぎ合ってる。偶に幸せの音も混じってるから饅頭で緩和されてんのかな。

 そんな事を考えながら饅頭を食べ終わり、木皿をベッド横にある机の上に置いた。後で洗って返しに行こうと思いつつ、立香の方へ振り向く。ここに来てから不思議に思ってたことがありそれを聞くためだ。

 気を失う前の懸念、それは彼女がちゃんと協力者になったかどうかで。

 

「ところで藤丸さん、鈴鹿御前は———」

「たっだいまー!」

 

 どうなった? と聞こうとして割り込んできた声に驚く。この変にテンションが高い声は! と聞こえた方向を向くと、この病室の扉が勢い良く開けられていた。そしてそこにいるのは女子高校生に憧れるサーヴァント、鈴鹿御前だった。

 噂をすれば何とやらだけど、いくらなんでも登場が早いわ。一秒も経ってねぇよ。

 

「聞いてよ藤丸ー! 無惨の奴、私が一所懸命に書いた退職届け破り捨てたんだし! いくらなんでもひどいと思わない? ムカついたから予備に書いてたもう一つの退職届け、顔面に叩きつけてその頸斬ってやったっしょ!!」

 

 さらっととんでもねぇ事言いやがったな!? こいつ!!!

 

 

 

 

 

 




キラキラのアーチャー(清少納言)当たりました。「1パー(の中の0,8パー)の壁を超えたんだ……!!」とガッツポーズした翌日モンストで始まる鬼滅コラボ、五十連引いて全部揃いました(震え声)

そんなわけで後ろから誰かに刺されないかとビクビクしながら過ごしてました。お久しぶりです。
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