俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「おかえり鈴鹿御前。きちんと退職できたみたいで安心した」
「別にあっちにずっとスパイってな感じでいても良かったけどねー」
「それは鈴鹿御前が嫌でしょ」
「……よく分かってんじゃーん! ははっ! 流石カルデアのマスターっしょ!」
嬉しそうに笑顔になる鈴鹿御前は当たり前のように立香の側まで寄り、そのベッドの上に座った。ギシリとスプリングの音が響き、脚を組んだ彼女はネイルを見始める。
「ま、これで私も目を付けられたけどね。そこの派手金のサーヴァントとおそろって奴だし」
ひぇ。鈴鹿御前の言葉を聞いた瞬間に善逸がこっち見たんだけど。今まで可愛子ちゃんが登場したって事で鈴鹿御前に釘付けだったのにさ、何故いきなりこっちを見る。動作が怖いんだよ。
どういう事? とそれなりに低い声で脅してくる彼から視線を逸らして苦笑いになる。頬を人差し指で掻きながら、だいぶ前の事になるんですけどねと前置きをしてから理由を話す。
「上弦の壱に遭遇して逃げ切った事があるので、それが理由かと。勿論、鬼舞辻無惨のサーヴァントを倒したのも理由に入ってると思うけど」
十中八九それだろう。エリちゃんにも何故か認知されてたし、鈴鹿御前にだって。最初は望月千代女を倒した事がきっかけだったかもしれないが、その前に上弦の壱に遭遇しておきながら生還したのが理由としては大きい。
唯一無惨を追い詰めた始まりの呼吸の剣士の一人にして、月の呼吸の使い手である彼は人間だった時点で鬼殺隊の誰よりも強いのに鬼になってほぼ四百年間生きている事で更に強さに磨きがかかっている。そもそも鬼と人では胆力が違うのに、その上剣術の経験の差が物凄くある。これで強くないって思う奴は頭がおかしいが……そんな出会ったら即死レベルの相手から逃げ延びたんだ。寧ろ目を付けられてない方がおかしいし、なんなら姿を見られたとか言ってもう一度上弦の壱がやってきてもおかしくはない。そう考えると運がいいなぁ俺。俺の幸運ってCだった気がするんだけどなぁ。
「上弦の壱と遭遇して生き残った? ハッ! 派手に運が良いな! ハハハハハッ! がふっ!」
「宇髄さーーーーん!?!?」
「血ィ吐きやがったぞ! コイツ!!」
「吐血の仕方まで派手とか、流石派手柱」
逆に運ないな、アンタ。布団の上に吐き出すとか、布団って洗うの大変なんだからな? 上のカバーだけが汚れてたら良いけど、十中八九中まで浸透してるだろうしさ。アオイちゃんに怒られれば良いさ、無理矢理連れてこうともしてたし、一回ビンタでもされたら良いんじゃねぇか? この色男。
呆れた視線を音柱に送っていたら、ガシリと襟首を掴まれて無理矢理善逸の方へと向けさせられる。ジトリと蜂蜜色の瞳が此方を睨んでいた。ひくりと口の端が引き攣る。
「いつ、どこで、なんでそうなったの?」
「……善逸が鼓屋敷の任務をしているとき。どこで、は覚えてないです、必死だったんで」
「……あんときか」
意外に強く掴まれている手を解いて、椅子に座り直す。襟首を正してから息を吐いた。
上弦の壱に遭遇したけど、獪岳が居たことについては話さない。きっとプライドを傷つけることになるだろうし、俺が自分勝手な理由で助けただけだから。俺の世界の炭治郎にはもうバラしたけど、善逸には言わないつもり。
「元マスターに殺せって言われたの、千代女が殺られたときね。あの時は巴と花札で遊んでたからどーでも良かったんだけど」
花札で良い感じに盛り上がってたときに言われたんだそうな。多分念話で言われたんだろうけど、花札に負ける鬼舞辻無惨の命令ってこれ如何に。
日の光に当てながらネイルジェルを丁寧に塗る彼女は、本当に見た目だけで言ったら女子高生である。服装も相まって余計見えるが、ミニスカートって何かと目立ちそうだよな。というかそのネイルジェル、学生鞄から出てきたんだけど鞄の中身どうなってんですかね。
「決定的なのは上弦の参って奴が殺されたとき。それまで、できたら良いな程度だったのに、明確に念押ししてきたんだし。もし会ったなら“必ず殺せ”って」
お、おう。殺意が高まってるぅ……ちょっと引き篭もっても良いですかね? 涙目になりそう、というかもうなってる。鬼の首魁からの指定殺害命令とか俺何かしたっけ? ……してるな。上弦の参の首斬ったし、千代女もエリちゃんも倒した。それに加えて今回上弦の陸の討伐にも加担している。これで目を付けられない方がおかしい。
そんな熱烈なラブコール要らない、寧ろ野郎からではなく素敵なお姉さんからの方が良い。相手が女体化できるとかそんなこと言っちゃいけない。中身変わってないから俺的にはナシです。
「それで善逸さんの事を相手が知ってるのか……手の内とかバレてるのかな」
「いや、それはない」
立香の心配事にズバッと否を提示してみれば、彼は否定されるとは思っていなかったらしく驚いた顔で此方を見てきた。
「どうして?」
「鬼舞辻無惨にそういう能力ないからだよ。あいつ、頭良いくせに悪いし。例え、俺の事を目の前を何度も横切る蝿だと分かっていても、その横切り方のパターンとか何でここに居るのかとか考えずに蠅取りで取り敢えず殴るようなタイプだから」
その上、その蠅取りを何度も躱してみせれば諦めるんじゃなくてキレて速度を上げてくる様な奴。不毛な事を全力でするし、大体それは空ぶったりする。
そもそもの話、鬼になったからと言って適当に鬼を増やしすぎたんだよ。最初は上手く隠れてたんだろうけど、鬼舞辻無惨という名前が知れ渡ってるし、炭治郎には姿バレるし。何かとやる事がテキトーすぎる。なのに人間に擬態したり、取り入るのが上手い。なら鬼とか作らず隠れときゃ良かったんだ、作るとしても何人かだけでそいつで実験して日を克服できなかったら処分するとかさ。いくらでもやりようはあったのに。
ほら、頭良いくせに頭悪いだろ?
「だからあのパワハラブラック上司にはバレとらんよ……バレてるとすれば今んとこ上弦の壱だけだろうな」
そう締めくくったら何故か呆けたような表情をしたのが一つ、二つ、三つ……というか鈴鹿御前除いて全員じゃん。音柱に至っては、何言ってんだコイツ? みたいな顔をされた。酷い。
思わずこてりと首を傾げると苦笑した立香が詳しいんだねと言ってくる。その言葉を数秒咀嚼してやっとのこさ理解する。つまり何故鬼無辻無惨の性格に詳しいのだろうか、って事かな? ちょっと知り合いみたいな感じで話しちゃったけど、そうでもない。相手は俺のこと知らないだろうし、一方的な鬼舞辻無惨についての感想だ。少し間違ってるかもな。
でも。
「一度会ったし、話は聞いてたから」
「話?」
「鬼舞辻無惨は近年稀に見るクソ野郎って。人伝に聞いただけだけど、鬼殺隊の事を“頭が可笑しい連中”と言い、“そんな連中に命を狙われる自分は被害者だ”、みたいなこと言ったらしい。胸糞悪くて殆ど覚えてないけど」
いやお前も加害者やんけー、なんて突っ込んだっけ。確かに鬼舞辻無惨も望んで鬼になったわけじゃないだろう。その点に関しては被害者でもあるだろうけど、鬼殺隊は大体鬼舞辻無惨が増やした鬼の被害者の集まりなんですけどー、とも言った。本人にじゃなくて後から話してくれた炭治郎にだけど……あの時の炭治郎の音ヤバかったな。怖かった。
「これを聞いただけで人の話を客観的に見ず、自己中心的に見る奴だってわかるだろ。そこから数々の行動やら何やら見てたら性格なんてわかりやすいものです」
基本的に小者なんだよな、鬼舞辻無惨て。考えてる事が自己中心的なのは別にボスっぽいけど、やる事なす事が小者。小心者。中ボスでももう少し性格は良いぞ。
半分愚痴みたいなものを言いながらそう答えると立香は頷いては肯定してくれた。
「まぁ、大事を起こす人って大体自己中心的だから是非もないよ。例え人の為だっていう思いで起こした事だとしても相手にとっては迷惑で、誰も望んでない事だってある」
それを止める為に俺達がいるんだけど、と続けた立香にまぁそうだろうなと共感する。カルデアの目的は人理を取り戻す事。一度は焼かれ、今度は漂白された。そしてここは特異点となりやがて人理の脅威となる。その脅威を取り除く為に彼らはここに来ている。そして今回のその脅威は鬼舞辻無惨だ。
まかり間違っても鬼無辻無惨は人の為とかではないけどな。
「まっ! 狙われてる同士、仲良くするっしょ! 善逸だっけ? 私鈴鹿御前ってーの、鈴鹿って呼んで? ヨロシク!」
そう笑って鈴鹿御前はふわりと浮かび上がり、俺の頭の上に乗ってはこちらを覗き込んできた。いやどうなってんの? と一瞬思ったけど、そういや神通力使えるんだったなと納得する。にしては失礼だけど。
「よろしくって言うなら人の頭の上に乗るなよ……見えてんぞ?」
「これ、見せパンだから」
「はー、出た出た。見せパンだからって言って見たら、変態って罵ってくる奴だろ。知ってる」
「見られても大丈夫ってなだけで、ジロジロ見んなって話っしょ」
でもこの時代に見せパンなんて風習はないのでもう少し大人しくして欲しい。見てしまった炭治郎と善逸が顔真っ赤になってしまってるから、純粋な青少年を揶揄う真似はやめてあげてくれ。
頭の上に手を振って鈴鹿御前を地面に降りさせる。ふわりと降り立った彼女は、ニシシと快活に笑っては今度は藤丸立香の方へともう一度戻っていく。立香に抱きついた彼女はその偽物の尻尾を振りながら、立香の頭を撫でていた。いやぁおモテになりますね。音柱だったらアレだけど、立香だったらなんだか許せる。モテるばかりが良い事じゃないのは彼が一番知ってるだろうし。
「鈴鹿御前、俺の頭を撫でてないで説明。そういう約束でしょ」
「マスターの髪質良過ぎるのがいけないっしょ。ふわっふわなのにこの指通りの良さ……風呂上がりにオイル使ってたりする?」
「しない」
「マジで!?」
そういうのには気が回らなさそうだよな。大体特異点を渡り歩いている彼は野宿とかが当たり前だし、日用品的なのはレイシフトで持って行けないだろう。だから風呂に入れたとしても髪の毛のケアまで意識してないはずだ。
驚いた鈴鹿御前は立香の髪をもう一度くしゃりとひと撫ですると、ベッドの上にどかりと座る。スプリングがギシギシと音を立て、鈴鹿御前が上下に揺れていた。
「んー、まずは私が呼ばれた理由から話す?」
「お願い」
「おっけー」
鈴鹿御前曰く、鬼舞辻無惨が彼女を召喚できたのは鬼の要素を持つからだと。彼は神の一種ではあるけどそれ以前に鬼種でもある彼女は鬼無辻無惨に喚ばれた。鬼舞辻無惨は触媒無しに召喚していったらしく、召喚したのはどれも鬼関連。本来の鬼種と違うとも自分自身が鬼の棟梁、首魁、そして祖だからという概念を持つからこそできた芸当らしい。そうでなければここまで綺麗に鬼種関係のサーヴァントを喚び出すのはできなかったとか。
まぁどこかバグって金時は鬼の要素落っことして来たし、炭治郎達が戦った清姫は鬼というより竜という方が近い。エリザベートの鬼種に関してはサーヴァントになってから付け加えられてたものだ。そこら辺の判定は少しガバガバなのだろう。
鈴鹿御前は自身の髪をくるくると弄りながらも、耳と尻尾をゆらゆら揺らしながらなんて事ないように続けた。
「でも私達はアイツの呼びかけに応じたんじゃない、呼んでいた声は確かに無惨じゃなかったから」
鈴鹿御前のその言葉に脳内でエリザベートが言っていた言葉が蘇る。彼女は消えるとき何と言っていたか……確か。
『
そう、無惨は彼女らを呼んでいないとかなんとか。めちゃくちゃ重要そうなことで……まさかと鈴鹿御前の方を向く。
彼女は知っているのだろうか、自分を呼んだのが誰なのか。エリちゃんでさえ違うと思っただけで、わからなかったのに。
「無惨は触媒として利用されただけっしょ」
『アレはただの触媒。少なくとも
「本当に呼んだのは」
「私の親達だし」
善逸ってパッと見は完全パリピなんで、鈴鹿御前となぎこさんに囲まれながらウェイウェイして欲しい。しないだろうな。