俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十六節 真実は事実から生まれる。3/4

 

 

 

 鈴鹿御前。

 又の名を立烏帽子(たちえぼし)

 今より千年以上前、まだまだ魑魅魍魎達が跋扈していた時代。彼女は人の世を妖の世とするべく命を受け、天より降り立った。

 初めはそれこそ命に従い人の世を脅かそうと当時名を馳せていた一人の鬼と手を組もうとしたが断られ、その後一人の男と出会い一目惚れしてしまい、当初とは打って変わって人の世を救うべく様々な鬼を退治したという。

 その冒険譚こそが鈴鹿御前が後の世に名前を残した理由だけど、今重要なのはそこではない。

 

「(鈴鹿御前は天から遣わされた天女……彼女が親と呼ぶ存在は一つしかない)」

 

 つまり彼女を送り出した天界そのもの。

 

「第四天魔王……」

 

 そうポツリと呟くと彼女は首を傾げながら此方に振り返った。さっきみたく頭を撫でてくるのかなと思いきや、にまーと笑うだけで何もしてこない。

 

「マスター、私の親知ってんだ?」

「そりゃね? 鈴鹿御前のマスターですから」

 

 うちにもいますから、貴女。

 そう言うと彼女は納得したのか頷きながら組んでいた脚を変えた。無駄に色気を発しては鬼殺隊の子達の視線を釘付けにしている。メイヴちゃんみたいなことをするんだなぁと思いつつ、苦笑いを零した。

 

「マスターの言う通り、私は第四天魔王の愛娘。ま、生前じゃとある男子に一目惚れして裏切ってやったけど、今回もなんでかわかんないけど呼ばれたんだし。生前のこと忘れたのかよ! マジでキモい! 拒否ろ! って思ってたみたいだけど、よくよく考えたら放置したらマズイ奴なんじゃねって気づいたっぽい、気づいたら召喚されててさぁ……めちゃ爆笑した!」

 

 どこか他人事の様に話す鈴鹿御前。実際、座で召喚に応じる彼女とコピーされて器に入れられ降り立った彼女は同一人物でありながら別人でもあるので他人事なんだろう。どうやら召喚されたらその前後だけ記憶が飛ぶタイプみたいだ。

 

「にしても第四天魔王か……カーマの親戚?」

『その例えはどうかと思うよ? 立香君』

「ダ・ヴィンチちゃん?」

 

 机の上に置いてある通信機が勝手に作動して立体的な絵が浮かび上がる。元気にしてる? と手を振ってきた彼女は相変わらずで、その横に並んでいるマシュも元気そうにこちらを見ていた。

 

「マシュも、どうしたの?」

 

 最近は特異点のズレが大きくなりつつあり、俺の存在証明に力を割くから通信は控えるとかなんとか言っていたのに何故通信してきたのだろう。そのまま聞くと余裕が出来たからとかなんとか。そもそも一方的に此方の声は拾っていたりするので介入するタイミングを図っていた様だ。ダ・ヴィンチちゃんが呆れながら俺の言葉に補足を付け足した。

 

『確かにカーマはマーラと同一視され、愛の女神ながらに第六天魔王でもあるけれど、彼女の親戚というわけじゃないよ。どちらかと言えば部署の違う同僚だね』

「うーんめっちゃわかりやすい例え」

 

 苦笑いをしながらダ・ヴィンチちゃんの説明に納得する。神と言うからには当然全てが親戚だと思ってしまうけれど、彼女の親達はそうではないみたいだ。

 

『仏教でおける天界の話は少し難しいからね、割愛させて貰うけど、もし本当に鈴鹿御前を呼んだのが第四天魔王なら一大事だよ』

『特異点の時点で一大事ではありますが、今回のはとっても大変な一大事です!』

「マシュが可愛い」

『先輩!?』

 

 いやだって握り拳を作って一生懸命に大変さを伝えようとしてくるマシュが可愛く無いはずがなかった。上目遣いだったのに気付いてないのかな、今だって顔を赤らめて焦ってるのもとても可愛い。サーヴァント達で顔の良さに慣れてなかったら、イチコロでしたよイチコロ。

 

「オイオイ! 自分の嫁が可愛いのは俺だって派手にわかるが話を進めろ! その第四天魔王ってのが黒幕なんだろ?」

『嫁!?』

「マシュはまだ嫁じゃないですー!!」

『まだ!?』

「やめてさしあげろ!?」

 

 宇髄さんに急に話の続きをと促されたけど聞き捨てならないフレーズがあったので言い返していたら善逸さんが介入してきた。思わずそっちを見ると、真面目な話の途中で惚気んじゃねぇ!! とお叱りを受けてしまう。すみません! でも惚気てないです! なぁ! マシュ!? と聞くと彼女は映ってはいなかった。こてりと首を傾げる。

 

『マシュならリタイアしたよ。立香君のおかげでね』

「えっ、俺のせいなの?」

『わー無自覚ってこわぁい』

 

 ダ・ヴィンチちゃんに呆れた様な視線を貰ってしまった。えぇ? と更に首を傾げるも彼女は苦笑いを零すだけで追加の説明は一切くれなかった。マシュを見れないのは残念だけど仕方ない、と元の話に戻す。

 

「で、何が一大事なの?」

 

 ラスボスが神というのは何も今に始まった話ではない。会ったこともないのでどのくらいの強さとか倒し方とかまだわからないけど、けど絶対にどこかに隙はあるはずだから今更怖気つくわけじゃないし、特異点は正さなきゃいけないから諦めるわけにもいかない。

 例え漂白した人理を元の人理に戻せたとしても、特異点が発生したままならばそこからまた崩壊してしまうかもしれないから。

 だからうん、何が来てもどんと来い。

 

『第四天魔王が鈴鹿御前を地上に降したのは、人の世を妖の世にする為、だったよね?』

 

 うん、まぁ。そう聞いてる。

 彼女の夫と出会ってからはその使命を裏切り、妖達を屠っていったはずだ。それは先ほども彼女が言っていたから間違いはない。

 

『今回はサーヴァントとしてだけど鈴鹿御前を呼び、鬼の首魁を触媒として鬼の要素を持つ者達も呼んだ。本来よりも鬼が蔓延る時代、さぞや呼びやすかっただろうね』

 

 そこでだ、とダ・ヴィンチちゃんは続ける。

 

『君達はあの“泥”について覚えているかい?』

 

 そりゃ覚えている。B級パニック映画もかくやなぐらいのパンデミックを見てしまったんだ、衝撃的なぐらいだよ。

 殺されたら殺してきた人と同じように人外になり人を襲う。そこに意思があるようには思えず、ただ人間達だけを標的としていた。

 

『軽く検査したところアレは高密度の魔力体でもあった。触ってしまったら人体に影響を及ぼす程のね……記録によると似ているのはティアマトの海かな? ケイオスタイドにそっくりだ』

 

 ティアマトの海は彼女の権能によって新しい生命を生み出したり、触れた者を強制的に隷属させる効果がある。それと似たような事を起こしているのがあの泥だと言う。流石に新しい生命を生み出すことはできないらしいけども。

 

『詳しい事は胡蝶君に任せてはいるけど、第四天魔王の登場で我々の推測は的を得ていると確信した』

 

 立香君、とダ・ヴィンチちゃんに名前を呼ばれる。ダ・ヴィンチちゃんのその真剣な表情と声音にこちらも背筋を正して向き合う。傷がちょっと痛んで唸ってしまったけど。

 

『第四天魔王が鈴鹿御前を送り出した理由、もう一度教えてくれるかな?』

「さっきダ・ヴィンチちゃんが言ってたじゃん。人の世を妖の世にする為って……まさか」

『うん気づいたみたいで良かった』

 

 にこりと彼女は笑う。可愛らしい笑みだけれどその裏にある焦りのようなものを感じてゴクリと唾を飲み込んだ。

 第四天魔王が鈴鹿御前を送り出したのは人の世を妖の世にする為。今回の召喚でもそれが理由だと鈴鹿御前は言っていた。

 あの“泥”は第四天魔王に呼ばれたサーヴァント達が人を殺すとその死んだ人たちが何故か動き出したりする。そしてその泥はティアマトの海、ケイオスタイドに似ている。眷属の増殖と言って良いと思う……つまり。

 

「その泥を使って、全ての人を妖……つまり鬼に変えて人の理を破壊するってわけか」

 

 バッと顔を上げる。善逸さんが眉を顰めながら、なるほどなぁと呟いた。

 

「まさしくパンデミック。ゾンビみたいだとは思ってたけどさ、本当にその通りだとは」

 

 いや頭蓋骨割っても動き続けるんだからゾンビより厄介か、なんて言う彼はなんて事ない様に言葉を続けていく。何故か困り顔で笑う彼は平常運転に見えた。

 

「今更広がり過ぎてるこれを止める術も無し、か。できるのは感染源を特定して駆除する事……で、大本である第四天魔王をどうやって倒すんです? 天界そのものなんだろ?」

『なにも第四天魔王自身が降り立ってきたわけじゃない、倒すも何もこの現象を止めれば良いだけの話さ』

「いやでも」

 

 それはできない。

 善逸さんの言った通り、この泥による影響は広がっていっている。俺達が知らないだけで、数ヶ月前にお邪魔させてもらった柱合会議でもそれなりの被害は出ていると言う報告があったから、今更広がりを止める事はできないと思う。だから、この方法を考えついた原因である第四天魔王を倒すしか方法はないはずだけど。

 

『お忘れかい? その場所は“特異点”だよ?』

「————ッ!!」

 

 息を吸うのを失敗した音がした。善逸さんの方を見ると彼は青い顔をしてダ・ヴィンチちゃんの方を見ている。まるで衝撃的な事を聞いた様な、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。心配そうに善逸が善逸さんのクラス名を呼びかけるが、彼に返事する事なく息を整えて緩く頸を振った。

 そうだよな、と彼は呟く。

 

「特異点を修復すれば全て元通り。元凶である聖杯を回収すれば、収まるってことか」

『そういうことだね。ただそれまでに犠牲になった人々までは元に戻せない。つまりやるならなるべく早く正さなきゃいけない』

 

 正直、時間がかかり過ぎているのも困りものだと彼女は言う。

 確かにこれほど長期間レイシフトしたのはいつぶりだろうか。バビロニアで約一ヶ月は過ごした事はあるけど、それが最長だと思う。他の特異点や異聞帯では平均半月程だから、この特異点の様に何ヶ月も過ごす事はあまりない。そこまで時間の余裕がないのもあるけれど、大体が特異点と認知されるときが終盤辺りというのも大きい。何週間も前に発現しても小さくて感知できないなんてこともあるらしいから。

 

『修復した後、泥の影響力は消えるだろう。けれど、全て消えるかはわからないから胡蝶君にサンプルをあげたんだけど……結果はまだみたいだね』

「彼奴は派手に毒専門だぞ。その泥ってーのは毒なのか?」

『種類と言えばそうではないけれど、人類にとって毒なのは変わりないよ』

 

 そもそも魔術師でもないのにあのサンプルを用いてどうにかできるのだろうか。ケイオスタイドと似ていることから、あれは鬼の血鬼術の類ではなく、魔術の類なのだから。まぁど素人な俺にはなにもできないから、なにも文句を言うこともできない。彼女に渡すのはダ・ヴィンチちゃん達と決めたことだしね。

 

『とにかく、早くどうにかしなきゃ日本に人間はいなくなる。今は一地域だけど、やがて日本中に広がるよ。何せ鼠算式に増えるからね』

「だから鬼舞辻無惨の持つ聖杯を回収しなきゃならないけど……相手のサーヴァントがなぁ」

 

 残っているのはあと五騎。たった五人と言うなかれ、サーヴァントはその言葉通り一騎当千。しかも戦いが不得意なサーヴァントではなく、残っているサーヴァントは皆が皆戦闘できるタイプだ。専門と言って良いだろう。

 それに対して此方のサーヴァントは全九騎。数で勝ってはいるけれど、聖杯のブーストを受けているといないのでは差があり過ぎるし、それに相性が悪い。多分勝っているのは鈴鹿御前と坂田金時ぐらいかな……炭治郎達がどれだけ頼光さんに通じるかわからないから。

 

「それに加えて鬼達だ。上弦に会い派手に思ったことだが、正直言って今の鬼殺隊じゃ全滅する。お前らサーヴァントに加えて柱の俺様、(みずのと)の新米と言えど鬼殺隊員が束になっても苦戦する相手だ。しかも上弦の下の下、陸ときた。ハッ! 笑うしかねぇな!!」

「笑い事じゃないと思います! けど俺も頑張りますんで、落ち込まずどうにか鬼舞辻無惨を倒しましょう!」

「やめろ炭治郎! やめろ! そんな意思表明すんな! 俺達がどうにかできる相手じゃないのはわかってんだろ!?」

「ゴメンネ、ヨワクッテ」

「なんで伊之助今落ち込んだのぉ!?!?」

「アハハ! 面白! というかなんで猪の皮被ってんの?」

「今更!?!?」

 

 わーわーぎゃーぎゃー。

 鬼殺隊の子供達が柱である宇髄さんと鈴鹿御前と共に何かを言い合っている。一気に騒がしくなった病室にこの蝶屋敷で患者達を面倒みている看護師が黙っているわけもなく、思った通り扉がスパーン! と開かれて青い瞳が此方を射抜いてきたのには思わず笑い声を零してしまう。

 小さな子供である炭治郎と伊之助、善逸が、大きな大人である善逸さんと宇髄さん、鈴鹿御前が一緒くたになって怒られている。怪我をしている彼らは看護師であるアオイちゃんに見放されたら、なす術もない。鈴鹿御前と善逸さんはそうでもないけど。

 けれど、しょんぼりと謝ってる彼らを見ていると、どうにもさっきまで抱えていた不安がどっかにいってしまった。くすくすと笑いを零しては、何が可笑しいんだと一斉にこちらを見るものだから俺は更に笑ってしまう。

 

「ふふっ、いやも、なんか、ふくっ、可笑しくって……! は、ははっあはは! 仲良過ぎ!」

 

 いてて。

 笑った事で衝撃が傷に響いてしまうけど、どうにも止められない。ふくくと笑いを殺そうとすれば更に傷に痛みが走った。

 

 

 

 

 あーぁ。

 

 こういうのがいつまでも続けば良いのにな。

 

 

 

 

 

 

 無理なのはわかってるけど、そう願わずにはいられない。

 

 

 

 

 

 




第四天魔王自体、設定がふわふわし過ぎてちゃんとしてくれ!と思ったけど、設定ふわふわな小説書いてる私が言うことではなかった。
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