俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
縁側で座り込む。膝を抱えながらぼんやりと庭を眺めた。全盛期の姿で通行の邪魔にならないよう小さく縮こまった。
ふぅと息を吐き、だよなぁと呟く。周りには誰もいないことは己の耳でわかっていた。
「(特異点、特異点なんだよなぁ)」
何回も自分で言っていたのに自覚がなかった。ダ・ヴィンチちゃんの言葉で自覚したというか、彼女がはっきりと言ってくれなきゃずっとわかってるようでわかってなかったかもしれない。
この世界は特異点、決して平行世界とかではないのだ。だからこれが終わったら彼らは俺の事など忘れてしまう。
「(本来なら現界できないはずだもんな、俺。今回だって喚んだのが本人だし、雷神と混ざったから霊基があるようなもんだし)」
色々と特殊なケースなのはわかってる。わかってたけど……数年彼と過ごしていただけで少し麻痺してしまったのかもしれない。
俺が消えるのは別に良い。マスターを守って座に還れるならサーヴァントとして誇らしい。でもその全てを彼が忘れるとなれば、当然心のどこかが痛むワケでして。
ぎゅっと目を瞑って首を振るう。胸を押さえて息を吐く。
何が心苦しい、だ。寧ろ良いことだろうに。ここが修復され本来の姿に戻ったとき、サーヴァントというのはいてはいけない存在である。だから人々の記憶から消え去る。立香達と会ったことすら忘れる。
「(鬼舞辻を倒し、第四天魔王の目論見を外し、鬼のいない世界が訪れる……)」
そこで彼は笑うのだ。幸せな顔をして、今まで出会った鬼殺隊の人達と馬鹿を言い合って、いつか綺麗な子と結婚して幸せな家庭を築いて、そんな人生を送る。
きっと良いことだ。俺のように大人になっても鬼殺隊を続けて罪を償おうとして死に急ぐよりもずっと。
ここに来て生じた歪みはきっと直されてしまうけれど、でも俺が過ごした一生よりは良い人生を送れるはずだから……だから、俺が忘れられても。
「良いはず、なんだけどなぁ」
「何が良いんだ?」
「どぅわぁっ!?!?」
突然側で聞こえた声に驚いて庭に転がり落ちてしまう。あちこちぶつけた気がするけど一応サーヴァントの身だ、どこにも怪我はなかった。痛みもないけど土埃だけが全身についてしまった。
勢い良く立ち上がって下手人を確認する。市松模様の羽織に花札のような耳飾り、これでもかってぐらい主人公な表情と音をさせたそいつは俺の友人であるサーヴァント・竈門炭治郎だ。大人の姿をしているので間違いはない。
ビシッと指を指す。
「いきなり声かけんな! 驚くだろう!! 合図をくれって何度も!」
「いやごめん、てっきり気付いてるかと」
「気付いてるなら声かける前に振り返るわ!! というか耳元で話すな! ぞわっとしたわ! ぞわっと!」
声をかけられた方の耳を押さえながら叫ぶ。流石主人公ながらに良い声をしているそいつが耳元で囁くように話したのなら背筋が震える。怖いんだよ、わりと怖いんですよ。無駄に声が良いから!
「むー?」
「ねっ禰豆子ちゃーん! 久しぶりだねぇ、柱合会議以来じゃない? 元気にしてた??」
「む! むむっ! むっふー!」
「うーん相変わらず何言ってるかわかんないけど、可愛いから全て良し!」
でれっとしながら彼女の答えにサムズアップする。サーヴァントな禰豆子ちゃんにちゃんと会ったのは実に会議以来だ。久しぶりすぎて嬉しさが天元突破してしまいそう。宇宙には行かないけど。
可愛いねぇ、可愛いなぁと触ったら汚れるので決して触らずに禰豆子ちゃんとニコニコ一緒に笑っていたら、げほんと隣にいた炭治郎が咳払いをした。締まりのない顔を元に戻して炭治郎の方を向く。
「なんだよ」
「禰豆子と話すのは良いが、何か悩んでいたんじゃないのか?」
「え……あ、あー……うん。別になんでも」
炭治郎から視線を逸らしてそう答えた。炭治郎には関係ない、これは俺自身の心の問題だから押し殺せば良い話だ。マスターが幸せになるのなら俺のことなんて別になんでも良い話である。
「善い「そういや! 炭治郎はどうしたんだよ。今までどっか行ってただろう? 急に帰ってきてさ」……はぁ」
「なんだよ!」
彼の言葉を遮って突然蝶屋敷に帰ってきた炭治郎に理由を訊こうと思ったのにため息を吐かれてしまった。ジト目で彼を見るけれど、呆れたような視線を投げ返してくるから声を荒げる。有難い事に何も聞かない事に決めたらしい、渋々と言った風にため息を吐きながらも蝶屋敷に帰ってきた理由を話してくれた。
「用事が終わったからだ。伊之助もいたんだが帰ってきて早々裏山に行ってしまった」
「伊之助らしいね」
「色々と蝶屋敷は窮屈なんだろうな」
まぁ今は彼女がいるからな、それを持ち前の超感覚で感じ取ったのだろう。きっと逃げる様に裏山に行ったに違いない。
いくら肌が敏感とはいえ、気配に凄く敏感とはちょっと今となっても想像はイマイチできないけれど、そういうものなのだから仕方ない。俺の耳だって炭治郎の鼻だって、他人にはよくわからない感覚だ。そういやあの目の良い少年、元気かね。
「会ってけば良いのにな」
誰、とは言わない。だけどそれだけで理解した炭治郎は草鞋を実体化させながら、俺がいる中庭へと降りて来た。伊之助は伊之助だからなぁと謎の言葉を言いながら炭治郎はどんどん同じ目線になっていく。見上げていたのにいつの間にか同じ視線になっていた。姿を変えたのだろう、目の前にいるのは十五歳の竈門炭治郎である。
「久しぶりに見るなぁその姿。列車のとき以来だ」
「つい最近じゃないか。それにお前に合わせただけだよ」
そう言われて、あーと言葉を零す。そういや俺も十五歳の姿になっていたのを忘れていた。なんだか炭治郎がでかいなとは思ってたんだよ、禰豆子ちゃんも同じぐらいの目線でおかしいなって。ま、炭治郎に驚かされて全盛期の姿になってたのをすっかり忘れてしまってましたけど、違和感は感じてたよ。ほんとだって。
相手に合わせて姿を変えてきた友人から目を逸らし、そーですかと適当な返事を返して話を元に戻す。内容は何をしていたのか、だ。
「立香にお使いを頼まれてな、少々遠征をしてたんだ」
「遠征、ねぇ。こちとら大変だったんだぞ?」
「知ってる、上弦の陸だろう? 全盛期の俺達で倒せた相手だ、心配することはなかったはずだが……俺の判断が遅れたせいでマスターに怪我を負わせたのは失敗だったな」
「前と同じ相手だからって油断するなよ。敵にサーヴァントが加わってたり、なにかが違うかも知れないんだしさ」
「わかっている……少しだけとはいえ歴史を変えているんだ、多少の揺り戻しはあるだろう」
それより討伐お疲れ様、と肩を叩いて来たのでお返しにお前こそ遠征お疲れ様と叩き返す。自然に肩を組み合うような形になった。
こうして肩を組み合うのは座で協力プレイでしてたゲームのラスボスを倒したとき以来だな、なんて考えてしまう。あの時は歓喜余って抱き合ってから二人ではしゃいだな、うん。
……生前の事より座の事の方を先に思い出すとか俺の記憶ってどうなってんだよ。
「で、俺んとこには何で来たのよ」
真面目な炭治郎が主人への報告も無しに蝶屋敷を彷徨いている筈がないし、それこそ報告が終わったからと言って休息があって暇だからと俺の所へ来るような奴でもない。俺ならそうするけど炭治郎はマスターを優先するだろうからな、俺に声をかけたのは何か理由があるはずだ。
肩を組み顔を近づけながら小声でそう言うと彼もおなじように小声で俺の言葉を肯定してくれた。炭治郎のそういうとりあえず乗っておこう的なノリ嫌いじゃないぜ?
因みに小声なのには意味はない。
「マスターが善逸を呼んでるんだ」
「だと思った」
炭治郎の言葉を聞いた瞬間に離れる。両腕を上げてから頭の後ろで手を組んだ。空を見上げて見ると雲一つない快晴で、眩しい太陽が俺を照らしてくる。
「だと思った、って……わかってたのか?」
「そりゃまぁ予想ぐらいはできるさ。炭治郎達はカルデアからレイシフトして来た組だろ? 藤丸さんの主力と言って言いお前が長期任務に行っていたんだ、それぐらい重要な事だろうし、そんな任務から帰って来たお前がこうして態々俺のところに来るんだから、藤丸さん関連だと思うだろ? 寧ろそれ以外あるか?」
「久しぶりに友人に会いたかった、とか?」
「何故に疑問形……それこそあり得ん、座で散々会ってるだろ」
「……善逸」
ムッとした顔で見てくる炭治郎から視線をまたもや逸らし、俺は会いたかったけどねーと付け足す。特に禰豆子ちゃんにな! と言うと呆れられた。酷くない? お前と会いたくなかったとは言ってねぇよ? 俺的に優先順位が禰豆子ちゃんが一位になるだけで、他は友である炭治郎や伊之助が来るんだから許してくれ。因みに善逸は禰豆子ちゃんと同ランクな。
ひらひらと手を振って屋敷の縁側へと戻る。庭に落ちたのは炭治郎の所為であって、別にここに用があったわけじゃない。ただ単に一人になりたかっただけなので、立香が呼んでいるのならいる必要はない。
草履を霊体化させ背丈を元に戻す。さらりとうざったい金の髪が肩から流れては、重力に従って滑り落ちる。羽織の中で手を組んだ。
「行こうぜ。藤丸さん、待ってるんだろ?」
「あぁ」
「むー」
同時に頷いた兄妹をくつくつと笑いながらも歩みを進める。藤丸さんがいる病室はわかっている為、迷う必要もない。ただこのまま行くと嫌な音を出す知らない人達に出会すから道を変えようか悩む。知らないこの時代の子達とあまり関わらないほうがいいだろうし、面倒ごとは避けたい。その手前辺りで曲がり角があるはずだから、そっちに行こうかな。
「(あれ? でもこの音……)」
獪岳と善逸?
獪岳は帰って来たのだろうか? それにしては沖田さんの音がしないけど。それに善逸は病室から出て良いって許可出てたっけ? また盗み食いでもしようと思ったのかな。
少し疑問に思って耳を澄ます。そうして聞こえてくる会話についついため息を零した。どうした? と後ろを歩いていた、いつの間にか大人の姿に戻っていた炭治郎になんでもないと返して止まっていた足を進めた。
「(今、かぁ。今だったっけ? 覚えてねぇわ)」
近づくと聞こえてくる罵声。きっとずっと前に獪岳と合同任務をした人達なのだろう。最近は沖田さんと契約したのもあって普通の鬼殺の任務はしていないはずなので、多分そうだ。
獪岳を気に食わないのかずっと彼の悪口を言っている。やれ態度が悪いだの、やれ人を見下してるだの、やれ壱ノ型が使えない無能なのだの、言いたい放題。それも獪岳自身に向かってじゃなくたまたま出会した善逸に向かってだ。獪岳はすぐ側で隠れて聞いている。
「聞いたぜ? お前も壱ノ型しか使えないってな。ハハッ、雷一門は出来損ないしかいねぇのかよ」
「不出来な弟子を持って育手かわいそ〜!」
「いやいや、逆に育手が無能なんだろ」
あ、やばい。
善逸は自身の事は良い。言われ慣れてるから、そうだと思ってるから。でも他人の事となると、ましてや兄弟子と師範の話となると別だ。獪岳の部分は本人が近くにいるから我慢できていたけど、師範まで馬鹿にされてブチ切れそうになっている。
獪岳も自身がどう言われようと興味はないし、善逸のことについてもどうでも良いはずだ。だからこそ静観していたし話を止めなかった。けど善逸と同じく師範のことだけは別らしい。
二人から出ている怒りに気付いてないのか、楽しそうにお喋りをする知らない隊士達。特徴もないそいつらを心の中でモブって呼ぶぞ! と良くわからない罵倒をしながら、殴りそうになっていた善逸の腕を止めて、飛び出して来た獪岳にバチッと電流を流して勢いを弱める。余程痛かったのか、膝をついた彼を見て善逸の腕を離しながらモブ達の方へと向いた。
「罵倒する相手を選ぶんだな。下手したらお前ら、ボッコボコにされて顔の原型無くなってたかも知れんよ?」
「誰だよ! お前! 邪魔すんな!」
おーおー威勢の良いこと。折角作った笑みが崩れそうじゃないか。一応この世界のではないけど善逸と獪岳の師範である桑島慈悟郎は俺の師範でもある。俺は怒ってないなんて見当違いも甚だしいぞ?
どうしようか? 一発殴ったら目覚める? いやでもそれじゃ止めた意味無くなるしな、なんて考えていたら側にいた別の奴が吠えていたワンコロにやめろと必死に止めていた。その顔は青ざめていて一体どうした? と首を傾げる。
「お前あの釦が目に入らないのかよ」
水戸黄門かな?
「釦? あの金の……金。あ、ぅぁ」
「やっと気付いたか! 馬鹿! 謝るぞ!」
「あ、あぁ」
因みに彼ら小声で話でいるけど地獄耳な俺たちには筒抜けである。説得に成功したのか同じように青ざめていった威勢の良かった奴は隣の奴と同時にビシッと頭を下げて、すみませんでした! と謝る。ビキとこめかみに青筋が走った気がした。
「謝る相手が違うだろう?」
なんで俺に頭を下げるの? 馬鹿なのかよ、馬鹿だったな。
俺の言葉に気付いた彼らは膝を突いている獪岳と善逸に向かって腰曲げ九十度の綺麗なお辞儀をして精一杯すみませんでした!! と叫んだ。そしてそのまま走り去っていく彼らにため息しか出ない。目上だとわかった瞬間に謝るとかタチが悪いよな。そもそも俺みたいなの柱にいないんですけども、隊服だけで判断するとかまだまだだな。新参者だったのかも。
呆然とこっちを見ている獪岳と善逸に大丈夫だったか? と聞くと獪岳はそっぽを向いて、善逸は涙を流しながら抱きついて来た。
「あーはいはい、よしよし」
「ううっ! せいば〜!」
怖かったとは善逸の弁だが、俺にとっちゃお前らの方が怖かったよ。色々と。
転げ落ちる善逸とブチ切れ善逸、喧嘩を止める善逸を書きたかっただけ(書けてない)
誤字脱字の報告ありがとうございます!お陰であの方の苗字を間違えていたことに気づけました。誤字脱字がひどいのはいつものことですがまさかあの方の苗字とは…………うん、別に無惨様だから良いかn(血塗れ)