俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十七節 喚ばれた理由は何処へ。2/4

 

 

 

 

「お前って柱だったんだな」

 

 座った状態から立ち上がった獪岳にそんな事を言われた。え? と困惑しながらそちらを見ると彼は隊服に付いた埃を払いながらも、ズレた刀の位置を直していた。何気なく聞いて来た感じか……まぁうん、と頷く。

 

「生前の話なんで、今はそうじゃないけど」

「でも“だった”んだろ」

 

 だったよ。だからこの姿で現界しているわけだしな。

 誰も何も気にしてなかったけれど、知っている人は疑問に思っていたのだろうか? この金色のボタンに。普通の隊服にはないこれは柱の者だけの特別仕様でもある。確かに柱になったならば、自身の刀の刀身に“悪鬼滅殺”という文字が刻まれるのでそれも目安になるけれど、一番わかりやすいのはこのボタンの色だ。普通なら銀色だが、柱だけは金色となる。そっとボタンに触れながら、ここだけ変えられないかなぁと考える。無理なんだけども。

 

「けど、たいした事ないさ。空席になっていたところの埋め合わせってところあったし、他の知り合いがなるからさぁ……成り行きってところもある」

 

 俺としては柱なんてならずに鬼達を屠っていたかったけれど、でもお館様に“継承者の少ない雷の呼吸を絶えさせてはいけないよ、柱となって広める事も残された者の務めだと私は思うな”なんて言われてしまったのでならざるを得なかったのだ。

 いやだって無限城の戦いを経て、ずっと張り詰めていた糸が切れて罪悪感マシマシになりながら、それを引き摺っては鬼殺の任務について寝不足とかで精神削られてたところにあの声だよ? 断る方が無理じゃね? お父様もそんな声を持っていたが、子供の方にも引き継がれてましたよしっかりとな! そんなことがあったからあの声苦手なんだ! 俺は!

 まぁ本当にたいした事はない。きっと俺が我妻善逸でなければ、雷の呼吸の使い手でなければ柱なんて任命されなかっただろうから、どうにも他人の手柄を横取りした感があって柱合会議とか肩身が狭かった思い出。

 

「あいたぁ!?」

 

 そんな事を考えていたら脛に衝撃が走った。思わずその部位を摩りながら下手人を見る。すっごく嫌そうな顔をした獪岳がいて文句を言おうにも言えない雰囲気だ。

 というか魔力乗せて蹴ったな!? この野郎! 流石サーヴァントのマスター! 心得てるぅ!

 

「なんでセイバー蹴ったんだよ! 獪岳! なんかした!?」

「しただろうが! くっそ面倒くせぇ発言しただろうが!」

「はぁ!?」

「テメェもわかってねぇのかよ! わかれよ! そういうところだぞ! お前らのそういうところが嫌いだわ!」

「俺も獪岳のこと嫌いですけど!?」

「今そんな話してねぇだろ!」

「してたじゃん!?」

 

 何故か庇うように前に出た善逸が獪岳に食って掛かるけれど、それだけで引くような彼ではない。互いに喧嘩腰になりながら言い合っている。痛みから立ち直り、彼らの間に入るようにする。喧嘩するのは良いけれどここは蝶屋敷だから、このまま続けているとしのぶさんかアオイちゃん辺りが来てしまうかもしれない。

 

「二人とも落ち着いて、ここ蝶屋敷だから」

「っ、う、うんごめんセイバー」

「チッ!」

 

 素直に謝る善逸と違って獪岳は舌打ちをしながら踵を返した。歩き出そうとする方向は同じ事からきっと彼も立香の所へ行くのだろう。沖田さんのマスターであるので協力者という立場でもあるから。

 

「なぁ」

 

 後ろからゆっくり歩いて来ていた炭治郎と合流し禰豆子ちゃんに盛り上がる善逸の首根っこを引っ掴んで獪岳の後に習おうとしたところで、肝心の彼からそう声をかけられた。何? と脈絡もない呼びかけに首を傾げる。

 

「柱だったんだろ……師範の言う通りになってたか?」

 

 振り返らないまま投げかけられたその言葉に俺はどう返そうか迷って息が詰まる。でも彼には悟られたくはないから、呆れたような息を吐いて誤魔化して頷いた。

 

「勿論だ」

 

 嘘が口からまろび出る。心臓よりも簡単に出てしまうそれは、ただの言葉のはずなのに重苦しくて息がし辛い。

 

「流石、じぃちゃんだよね」

「……ふん」

 

 超感覚持ちな後ろの二人を手で静止ながら努めて明るくそう振る舞えば、満足したのか歩き出す獪岳。彼が音で遠ざかった事を確認してから、いつの間にか止めていた息を吐いた。この緊張が彼に伝わってなければ良いけど。

 後ろの二人が何か言いたげそうな表情と音をしているけど無視して、人差し指を口許に持っていく。俺の心情と嘘は内緒にしておいてと言葉もなしにそう告げると、彼らは納得していないながらも頷いてくれた。真面目なこいつらだ、大丈夫だろう。

 

「(にしても……)」

 

 質問の意図は分かったけれど……俺が我妻善逸だって獪岳に言ったっけ? 頭の良い彼奴のことだ、共通点の多い俺たちの事情に気づかないとは思ってなかったけど、まさかバレてるとはなぁ。

 はぁと息を吐いて頭をガシガシと掻き毟った。纏めた髪が乱れるけれど、色々と罪悪感がヤバくてそれどころじゃなかった。

 

「……(とりあえず、立香の所へ行くか)」

 

 うじうじしてても仕方がない。バレちまったんだから、うん。最近は色々と隠してなかったしな! 狐のお面とか今も被ってないし! 自業自得です! さよなら! ハイ解散!

 ふんすと鼻息を荒くして気合を入れ直して歩みを進めた。後ろから困惑した声と音がしたけれど無視だ、無視。構ってられるかっての。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、新しい協力者?」

「うん、そだよ」

 

 聞き返した俺に対してベットの上で笑う彼の言葉はとても軽い。今日の晩ご飯は何々だってーぐらいのノリである。流石カルデアのマスター、その飄々たる態度で数多の英霊を誑かして来たのだろう。この男は歯の浮くようなセリフを簡単に言えてしまうような乙女キラーであるので、俺たちのような非リア充の敵だ。……いやそんな事はいまはどうでも良いんだよ。彼のコミュ力がカンストしてるのは我妻善逸になる前から知ってる事だろ。

 あの後獪岳を追って病室に来た俺は俺を呼んだと言う立香の下へと来ていた。態々俺を呼ぶくらいだ、何か大切な事なのだろうと思っていたら“新しい協力者ができた”と言うではないか。驚いて思わず鸚鵡返しに聞き返してしまった。

 

「坂本さんがね、もしかしたらいるんじゃないかーって探してくれてたんだけど、一人じゃあれだから炭治郎達に協力してもらって、つい先日見つかったんだ」

 

 坂本龍馬が遊郭の任務の時にこっちに来たのは協力者達を見つけたかもしれないという報告する為だったらしい。彼らはマスターとサーヴァントという関係でないから念話を使えない。だから直々に報告に来たらしい。距離も近かったからとかなんとか。炭治郎達が担当していた方は少し遠かったようだ。

 ちらりと炭治郎の方を向くと彼は肯定する様にこくりと頷いた。

 

「で、協力を得られたは良いけど常に一緒に行動するわけじゃないから、善逸さんには教えておこうと思って。因みに他の人達は知ってる」

「マジか」

「マジ」

 

 マジなのか。

 ところでその協力者達が何なのかと聞くと、サーヴァントだと答えられた。なるほど、特異点によくある野良サーヴァントですね。マスターを持たず召喚されては放置される人達。一応やるべき事やら何やらは頭に入っていたりするけど、イレギュラーな召喚な為に少しだけリスクもあったりする。たまに欠陥抱えてたりするんだよな。サーヴァントってだけで強力なんで文句なんて言いようがないのだけど。

 そんなサーヴァントが二騎、今回発見したらしい。こちらのサーヴァント達と合わせたら、俺入れて十一騎。相手は残り五騎、と上弦の鬼達。比較しても充分すぎる程の戦力である……戦いにきちんと加わってくれるならの話だし、俺が頑張ったらの話だけど。

 

「そのサーヴァント達だけど、数年前にはもう召喚されてたらしいんだよ。善逸さんは何か知ってる?」

「え」

 

 いまなんと……?

 

「いやだから何か知ってる? って」

「そうじゃなくて、数年前に召喚されたって……」

「あぁそれ」

 

 あぁそれって、軽いなおい。

 立香が言うにはその二騎のサーヴァントは数年前に召喚されたは良いが、マスターもおらずすることがなかったらしい。召喚された理由は聖杯戦争に違いないが、最初から起こったイレギュラーにやる気を失せたそうな。いつ終わるかわからない聖杯戦争を続ける気はないサーヴァント達はどんどん退去していき、最終的に残った二騎が今し方協力を得た人達だとか。

 

「召喚された場所は全国各地。だからその街が舞台と思っていたサーヴァント達は他のサーヴァントの気配もなかったからって退去したんじゃないかって話。残った二人はせっかくの現界だからと現世を楽しんでたみたい」

「楽しむ?」

「うん、店を作ってたんだ」

「はい?」

 

 いやちょっと意味がわからない。

 一文無しから始めた事業は今やちゃんとした店までに昇華できたらしい。ある程度稼いではいるし、この時代のコネもあるようだ。どうやら時代に名を残した人物達は商売の才能もあったようだ。武功に長けてるだけの人物じゃできないことだから多少は頭良い人っぽいな。

 

「えーっ、と……真名(なまえ)は?」

「紫式部と織田吉法師だよ」

「ひぇ……」

 

 大物過ぎて思わず悲鳴が漏れてしまった。ここに善逸達、鬼殺組がいないことだけが救いだ。彼奴らにはちょっとこうカッコつけておきたいというか、なんというか。いやでも手遅れな気がするけど、そうだとは思いたくはない!

 紫式部と織田吉法師。前者は平安時代に活躍した作家であり、かの有名な光源氏物語の作者。後者は後に織田信長と名乗る、戦国時代で乱世の世を統一しようとした武将である。どちらとも歴史の教科書に載る程の偉人であり、小学生でもその名前を知っているほどだ。そんな二人が協力者? マジで??

 

「紫式部の方は“藤原香子”って名乗ってたみたいだけど、やっぱり知らない?」

「知らない知らない。あ、いや知ってるけど会ったことはないよ。そんな歴史上の人物なんかに」

 

 そんな人達が召喚されてるって知ってたら真っ先に教えてるわ。というか聖杯戦争用に数年前からサーヴァントが呼ばれてたことすら知らないんだけど。

 

「名前は知ってるんだ」

「そりゃ勿論」

 

 日本人ですもの、知らないわけないでしょう。

 そう彼に言うと炭治郎は知らなかったのになと返されてしまった。思わず炭治郎の方を向くと彼は苦笑いしながらも頷く。

 俺が普通に知っていたから炭治郎と知ってると思い込んでたけどそりゃそうだわ、彼は鬼殺隊に入るまでは山奥で薪を焼いてひっそり暮らす大家族の一人だったんだ。街に降りるのは買い物するときか、炭売りするときぐらいだろうからそう言う事を知らなくても仕方ない。柱になった後だってそう文化に触れる機会なんてなかったし、座に昇華されて俺の場所へお邪魔させたときだって態々歴史なんて習わなかった。やるゲームだって俺の好みでファンタジーが多かったし。歴史上の人物が出るゲームはしなかったな、うん。

 

「というか吉法師なんだな、信長じゃないのか?」

「そこは俺も謎」

 

 そもそもの話、Fate作品における織田信長はFGOの世界線とは全く別の場所のサーヴァント。人理が焼却し不安定になったからこそカルデアに召喚されているようなものだ。だから彼女自体召喚されるのもこの時代が特異点だからこそ、だろう。霊基が不安定になっていても仕方ない、そういうこともあるかもしれない。

 ……にしても。

 

「……聖杯戦争、か」

「善逸……?」

 

 炭治郎に名前を呼ばれたけど、なんでもねぇよと返して頭の中に浮かんだ予想を隅に追いやる。もしそうだとしても終わった話だし、今はもうこの世界は本来の理から外れて世界の染みとなってしまってる。聖杯戦争なんてしてる場合ではないから脅威もないはずだ。だからこそカルデアに協力すると約束した。

 

「ま、ともかく俺は会ったことないよ。現界して俺以外のサーヴァントに会ったの炭治郎と禰豆子ちゃんが初めてだし」

「そうなんだ」

「そ。じゃこの話は終わりな」

 

 俺からも藤丸さんに話があるんだと話を変える。

 

「刀鍛冶の里について、だ」

 

 俺の言葉に立香は首を傾げ、隣にいた炭治郎は驚いたように心臓の音を跳ね上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ノッブの霊圧が消えた……?

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