俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
『刀鍛冶の里?』
『あぁ。本来なら炭治郎の刀が折れて向かう場所で、あの場所には今も炭治郎が愛用してる刀が隠されてるんだ』
『それをこの時代の炭治郎に渡したい』
『うん……でも理由はそれだけじゃない』
この里に来る前の話を思い出す。炭治郎の刀を折る前、絶対に刀鍛冶の里へ行く為に立香に提案とお館様から許可を貰う為にまずは説明と俺が覚えてる限りのことを話した。
だがあまり覚えてない俺より炭治郎の話の方が分かりやすかったが、まぁ重点だけは教えられたと思う。
刀鍛冶の里へ来なければいけない理由。それは炭治郎の刀を新調する為なのと。
「この里を鬼が襲撃するやて? それも上弦が? そんな馬鹿な」
上弦の鬼が里を襲撃する為だ。
「今はただ可能性を秘めてるだけですが、相手がやがてこの場所を捕捉しかねないのでこうして参った次第です」
立香の言葉に里長は怪訝そうにしている。お面の所為で詳しい表情はわからないけど、音と雰囲気がそんな感じだ。実際にそうなのだろう、上弦の鬼が二体も襲撃しに来ると言われても現実味がない。今までそんな兆候がなかったわけだし、この秘境の地を探し出せると思ってなかったのだろう。そりゃそうだ、鬼達だってトップに命令されてなきゃ探してない。
ただ今回は本当に上弦の鬼が二体だけなのかが怪しい。上弦の陸である妓夫太郎と堕姫のところに鈴鹿御前がいたように誰かしらサーヴァントがいる可能性もある。戦力の補強という意味ではサーヴァントは即席でできるから便利だ。鬼の場合新しく作っても育つまで時間がかかるしな。
あと本当に上弦の肆と伍が来るとも限らないので上弦の鬼が襲撃しに来ると説明した。参と陸を倒してしまったからもしかしたら戦力を出し惜しみして一体だけになるかもだし。まぁそこは未来なのでわからないのだが。
「杞憂なら良いんですけどね。それで俺達を暫くこの里に置かせて頂きたいのですが」
「あっそれは良いよ。共に鬼を滅する為に働く身、隊士の子らを無碍に扱わんよって」
それにその話が本当なら有難いこっちゃ、と里長は何度も頷く。
「ワシらには刀を打つ技術はあっても鬼を討つ術はない。鬼殺隊の生命線を担っとるのに結局、隊士達に守られんといけんからそういう理由なら大歓迎」
此方としても刀を打つ刀鍛冶がいなくなれば鬼殺隊としての根幹は崩壊する。全力で守る方針だ。その重要さをわかっている立香だって神妙に頷いていた。
「里のことは任しとき、君らはゆっくりするとええよ。ここの温泉、疲れた身体にめっちゃ効くからね」
その代わり襲撃されたら頼むわ、と里長はその口の長いひょっとこから、フシューと息を吹いては安心させる様に手を振った。嘘の音はない、本当にどうにかしてくれるようだ。
ご老体でありながら、やる事があるらしい里長は解散ねと護衛達と鋼鐵塚さんを引き連れて何処かへ立ち去っていった。
湯煙が立ち昇り、しっとりと肌を濡らす。曝け出した上半身に少し寒気が走るけれど、それ以上に興奮が勝った。風呂、風呂だ。
「露天! 風呂!!」
もし漫画やアニメならカポーンという効果音が入っていたであろう景色。刀鍛冶の里の秘湯である露天風呂に俺たちは来ていた。
「いやー露天風呂なんて久しぶり。百重の塔以来かな」
「あの露天も良かったですが、ここも良いですね。風情があって、僕は好きです。特にゆっくり休めるところが」
「あー……ははっ」
立香と小太郎が死んだ目をしている……! きっと辛い記憶を思い出してしまったのだろう。百重の塔と聞こえたから、あの百階まで登る奴かな? エレベーターもない塔の往復はきっとキツイに違いない、と味わった事のない辛さを想像しては実感の湧かないそれに苦笑する。
彼らが入るのを見届けて、俺も入るかーと足をつける。風呂なんて入るの久しぶりだ。召喚されてからずっと入って来なかったから、この暖かさも懐かしく思える。肩まで浸かってあ゛ーなんておっさんみたいな言葉が口から零れた。いやまぁおっさんなんてとうに超えてお爺さんなんて言って良いほどの歳食ってると思うけど。主に座に昇華されたおかげで。
「禰豆子、大丈夫かな……一人で入れてるのか?」
「俺の禰豆子もいるから大丈夫だぞ」
「確かにそっちの禰豆子はしっかりしていそうだけど……やっぱり心配だ」
立香達が入っている反対側、露天風呂の中央にある仕切りの側に浸かっている二人の炭治郎。心配そうに仕切りの向こう側を見ては鼻をスンスンと動かしている。ジトリと視線を向けては見るけど直す様子はない。はぁとため息を吐いた。
本当、女子がいる風呂の方向いて匂いを嗅いでるのは変態臭しかしないのでやめた方が良いと思います、ハイ。炭治郎だから下心とかないのわかるし、入ってるのは自身の妹だからまったくもって何もないんだろうけど側から見たらやべぇからな?? やめろよな?
まぁ俺達しかいないから良いけど。
「声を聞く限り禰豆子ちゃん達だけじゃなさそうなんだよなぁ……この声と音、確か」
「ガハハハハァ!! 山の王、見・参!!」
「わっぷ!?」
ザパァアン! と水飛沫を上げて風呂に入ってきた自称山の王に頭から風呂水をかけられた。本人にはその気はないだろうが、比較的側に飛び込まれた俺にとっては迷惑この上ない。流石に俺たちが知る方の伊之助なので頭には猪を被っていないけれど、その代わり端整な顔が笑顔に染まっていた。見慣れたものだけどイラッとくるような顔の良さだわ、ほんと。
「伊之助!! もうちょっと静かに入れよ! 頭から水被って、髪がちょっと崩れたじゃんか!」
「あ? そこにいるテメェが悪い」
「ア゛ー! この俺様野郎め!!」
温泉に髪の毛をつかないように後ろで団子結びにしていたのに伊之助のせいで崩れたし、温泉に浸かってしまった。わりと大変なんだからな? 団子結びにするの。ポニーテールならば慣れたらそうでもないけど、それ以外の髪型って一人でするの難しいんだから。そう思うとアルトリアの髪型って絶対一人でしてないだろと思ってしまう。事情を知る侍女的なのがいたはずだ。仮にも王様だし。
指を指して怒る俺を無視して伊之助はガハガハ笑いながら温泉の中を泳ぎ始めた。風呂は泳ぐ場所じゃないんだよ! 子供か!! やりたい気持ちはめっちゃわかるけどさ!!
「はぁ」
ため息を吐いて浸かり直す。
因みにここにいるのは俺に立香、炭治郎二人に、大人な伊之助、小太郎である。禰豆子ちゃん達は横の露天風呂に入ってたりする。これが今回の任務のメンバー。坂田金時、鈴鹿御前、坂本龍馬や沖田オルタといったサーヴァント達は各地で増加傾向にある泥の影響によって増えた鬼達の対処に当たっている。塵一つ残さないように倒さないといけないのでサーヴァント以外では相手にならないのだ。ただの鬼ならば日輪刀で頸を斬るだけで済むけど、この鬼達はそうもいかないから。
あとこのメンバーに加えて柱二人に隊士一人が参戦すると思うので、これが鬼殺隊側の戦力だ。前のように上弦の肆と伍だけならばまだしも、増えたら少し厳しいかもしれない。数では勝ってるけど、確か相手の能力は眷属を召喚できるタイプだった気がするから刀鍛冶の人達を守り切れるかはわからない。事前に里長に知らせたので何か変わると良いのだが。
「(まぁ柱一人は確実にいるとわかったから心強いかな……)」
本来なかった隣の女湯。そこから聞こえてくる強者の音は柱合会議で聞いた音だ。何度も高鳴る胸の鼓動と共にしなやかでキレのある音は間違いない、あの恋柱の音だ。
そもそも柱に女性は二人しかいないわけでして、もう一人の柱であるしのぶさんは蝶屋敷を拠点に活動してるのであまり移動はしない。特殊な刀なので定期的にメンテナンスをしているだろうけど、頻繁に刀鍛冶を訪れることはなさそうだ。偏見だけどさ。
そんなわけでして、消去法的に恋柱だと判断できる。まぁ聞こえてくる女性特有の悲鳴のような声がどう考えても恋柱しか思えない台詞だったんで、考察するまでもないけども。
「可愛いわ、そんなお鼻に泡なんてつけて! もうキュンキュンしちゃう! お姉さんが洗ってあげる!」
「むー!」
「むーん」
いやどういうシチュエーションなんですかね、それ。
きゃっきゃと聞こえてくる楽園の音は頭の中をぐるぐると回る。俺がサーヴァントでなければ覗き込んでたなこれ。というか任務でいないマスターなら確実に覗こうとしてたわ。
マスターである善逸は今回お休みだ。前々のように勝手に出てきたわけじゃない、ちゃんと話し合って善逸や伊之助も来るってなったときに任務が入っただけである。お館様に許可取る前だったんで仕方ないとは思うけど、休ませるわけにもいかなかったんで送り出した。だからその任務が終われば多分こっちに来るはずだ。お館様の采配によるけども。
だんだんと慣れてしまって微温く感じてきた露天風呂から立ち上がる。脇に置いていたタオルを腰に巻いて、顔に張り付いた前髪を掻き分け立香へと声をかけた。
「何、善逸さん……ゎぉ」
「? 先に上がるな、藤丸さん。宿に戻っとくから」
「オーケー。俺たちはもう少し入っとく」
ひらひらと手を振って脱衣所まで向かう。途中で立香がポテンシャルやべぇとか何とか呟いてたけど、何がヤバいのだろうか。長風呂に入れるかどうかとか? ……んなわけねぇか。
備え付けられてあったタオルで身体や髪の毛についた水分を拭いてから、浴衣に袖を通す。髪型だけは元に戻していつもの髪紐で結べば完了だ。いつもの服を実体化させても良いんだが、せっかくの温泉と宿だ。浴衣で雰囲気を味わうのも良い。脱衣所の扉を開けカランコロンと下駄を鳴らして石でできた階段を降りていく。
このまま順当に行けば宿に辿り着く。刀鍛冶の里に泊まりに来た隊士達が温泉への道に迷わないように整備されたんだろうけど、とても有難い。ただの山道ならば例え露天風呂が最高だったとしても帰りが憂鬱になってただろうから。
宿が見えてきてもう少しで休めるというところで、宿の扉がひとりでに開いた。木に挟まれた磨りガラスが揺れた音が響く。中から出てきたのは小柄な長髪の男の子。毛先にかけて淡い水色に変色した髪を持つその隊士は此方を一瞥もせず何処かへ出かけていく。カァと鴉にしては高い鳴き声が持つ鎹鴉が去っていく男の子を追いかけて飛んで行った。やけに睫毛が長い鎹鴉だった。
というか柱二人確定か。
「霞柱か……」
霞の呼吸を使う柱、時透無一郎。入隊して二ヶ月、若干十四歳にして柱の地位を得た天才剣士だ。その病気としか思えない忘れっぽさと思考能力をした彼だが、その実力は申し分ない。
「これも修正力ってやつかね」
そんな事を思いながら宿の中に入っていく。時刻はもう夜に近い。そんな中霞柱が出かけるのはどうも気になるが、多分目的はあの人形だろう。
霞柱は刀のメンテナンスに来た恋柱と違い、別に刀が折れたわけでもない。ただ実力を伸ばす為に特訓人形を頼りに来ただけだ。俺が思うに焦る必要はない気もする。きっと今より早く生まれていればもっと強くなっていたはずだ。早熟というだけであって伸び代がもうないというわけじゃないはずだから。まぁ今からその時間があるかどうかと聞かれたらないけど。
霞柱と恋柱。この二人は生前でも原作でも炭治郎が刀鍛冶の里に来たときに同時に泊まっていた人物だ。この二人がいたからこそ、上弦の肆と伍は倒せたようなものだと炭治郎が言っていたから、いてくれたらなと思っていたけど本当にいるとは。
時期的に本来はいないはずなんだ。炭治郎達が無限列車を無傷で終えたことや、遊郭編でも前のような重傷を負わなかったので回復は早い方だった。だからこそ柱二人がこの里に訪れるのは本当はもう少し先になっていたはずだ。でもこうなって来ると上弦の肆と伍がこの里を見つけるのも時間の問題かもしれない。
「(時期尚早だと思いながらこの里に来たのに、そうでもないとか……)」
まぁ時間はないかもしれないけど限られた中でやる事はやろう。
この里に来た理由は単純。一つは炭治郎の刀、もう一つは上弦達による被害を少なくする為、最後の一つは。
「(生前より弱いここの炭治郎達を鍛える為)」
これは単に経験不足のことを言う。無限列車編では下弦の壱と相対するはずなのにしてないし、遊郭編に至っては参戦したのが後半戦。色々な任務は確かにこなしているけど、それは実力が相手を上回っているものばかり。接戦や圧倒的実力差というものがない。いや後者は死ぬから望んでないけど。
「(あの人形、貸してくれると良いけど)」
貸してくれないなら他の手を考えよう。
精神が後退してしまってるとはいえ、年子の妹と一緒に入る十五歳の少年って考えたらやばい。少年誌でよかった……ラノベならスケベ展開だよ……(尚玄弥)
次はー21ー、21でございまーす。