俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十八節 日鳴獣の柱稽古出張版。1/4

 

 

 

「えっ鋼鐵塚さんが逃げた?」

「いえ、逃げたというより俺を追いかけた後突然消えた感じで」

 

 匂いはあるんで、里の中だとは思いますけど、と言う炭治郎にそっかーと返す。どうやら炭治郎を散々追いかけた後消えたらしい鋼鐵塚さんを思い浮かべて、ひくりと口角が引き攣った。

 刀鍛冶の里に着いてから数日。ここの生活にも何とか慣れて来た頃、暇ができたのでたまたま甘味屋で休憩でもして団子食べようと思って注文したみたらし団子を頬張ってると何処かへ行っていたらしい炭治郎がやって来て上記の様な報告をして来た。

 里長に何を言われたのかはわからないが大人しくなった鋼鐵塚さんが炭治郎の刀を打ち始め、昨日あたりに完成してたはずだ。折れて無くなってたはずの刀剣を携えて、大人な炭治郎と一緒にいたのを覚えてる。その日の夜に二人で特訓するんだと言ってきていたのでてっきりそうだと思っていたのだが、何故今日になって鋼鐵塚さんに追いかけられたのか。

 理由はまぁ一つしかないよね。

 

「刀、折ったのか?」

「あー、はい。でも今回は俺の過失です。未来の俺と真剣で稽古していたんですけど、技を放ったら折れてしまって」

「えぇ…」

 

 そんなことあるぅ?

 炭治郎は嘘を吐けないから本当の事なのだろうけど、そんな直様折れるとは。きっと炭治郎も予想だにしてなかった展開だろう。大人な炭治郎も少しは慌てたらしい。

 

「それで鋼鐵塚さんを見かけたら教えて欲しいんです。あの人にはとても悪い事をしたので」

 

 眉と目尻を下げて落ち込む炭治郎の頭を撫でる。見た目は彼だけどやはり中身はまだまだ十五歳の子供で、わざとじゃないのならそこまで責任を感じなくても良いのになと思ってしまう。自分が悪いと思ったのなら上出来だろ。

 あの? セイバーさん? と困惑気味にこちらを見る炭治郎ににこりと笑ってやり、店員さんに二人分のみたらし団子を頼む。お金ないのによく頼めるなって? 聞いて驚け、この甘味屋は鬼殺隊士にはタダで提供している。だから懐が痛むことはないのだ! 色々と条件があるのだけど、一日一回限定で何円以下とかな。ま! 今回はその金額を超えてしまったので払わなくちゃいけないけど! 意味無っ!!

 頼むときに持ち帰り用と言ったお陰か、包みに入れられて運ばれてきたそれを受け取り店員さんにお礼を言ってから炭治郎に手渡した。彼は目を白黒させながら、みたらし団子と俺を交互に見ている。

 

「稽古と走ったおかげで疲れてるだろ? そういうときは甘いものです。遠慮せずに炭治郎と二人で食べておけ」

「えっ、でも」

「良いんだよ。これタダだからさ」

「えっ!?」

 

 良いから良いからとぐいーっと押し付けて、くるりと炭治郎の踵を翻してやり背中を押した。押されて一、二歩たたらを踏んだ彼に和かに手を振れば、諦めたのか頭を下げてから走り出した。元気だなぁと子供を送り出す大人みたいなことを考える。いや大人だけどな。

 子供は遠慮する意味はない、大人に甘えとけば良いのだ。ただ炭治郎の場合、長男なのでその機会が無くなっていったのと頼れる大人が先立たれたのが甘え下手な原因なのだが、色々と追い詰められなきゃ良いなと思う。

 

「(ま、炭治郎だからなぁ)」

 

 ぱくりと残っていたみたらし団子を口に含み、咀嚼し味わう。うむ、ここのみたらしは甘さ控えめで団子の味を引き立たせているから美味しい。ただただ甘いだけじゃないから炭治郎達もきっと気に入るだろう。俺はもっと甘くても良いけども。

 ポーチからがま口財布を取り出して、店員さんに勘定を頼む。言われた金額より少し多く出してお釣りを貰い、ご馳走様でしたと頭を下げてから甘味屋を出た。うーんと背伸びをしてからどうしようかと歩みを進める。

 

「俺も鍛錬しようかなぁ」

 

 身体が鈍ることはサーヴァントなのでないが、あまり長いこと剣を振ってないと勘を取り戻し辛い。それに正直霹靂一閃だけではどうにもこれから来るであろうサーヴァント達に対抗できない気がする。相手するかはわからないけど。

 

「……(生まれ変わる前の知識があるにせよ、本当に対峙するまで力の差なんてわからないしな……)」

 

 所詮画面越しで見ていた世界。想像はできても実感はできないから、相手がどのくらい強いと言われても理解し辛いもの。鬼舞辻無惨は戦ったことあるからある程度わかるけどさ、源頼光とかほんと。

 考えても仕方ない。成長は出来ないが技巧を鍛えることはできる。ある程度対処できるようにしなくちゃな。

 

「努力とか、前世含めて生前から苦手ですけどね」

「セイバーだ! おーいセイバー!」

「お?」

 

 聞こえてきた声に振り返る。遠くに見える黄色とオレンジ色の羽織を揺らしながら手を振る金髪の子に手を振り返す。マスターだ! その後ろには伊之助もいる! 着いたのか。数日かかったが、そんなものだろうな。良かった、ちゃんと任務を終えてきた様だ。

 霹靂一閃を使いながら飛び込んで来る善逸を受け止めて衝撃を逃す為に一回転すると、俺も俺もと同じ様に飛び込んできた伊之助を再び受け止めた。抱きついてくる様に来た善逸と違って突進して来たので諸に鳩尾にクリティカルヒットしたけど、意地で耐える。いや痛くはないんだよ? ただ衝撃が痛い。

 

「元気ですね、伊之助」

「山の王だからな!! これぐらいでくだばってんじゃねぇぞ! デケ逸!」

「セイバーに猪突猛進してんじゃねぇ! 伊之助この野郎!!」

「あぁん!? テメェがやったからしたんだよ!」

「してないけどォ!?」

 

 早速とばかりに言い合いを始めた二人に息を吐く。仲が良いんだか、悪いんだか。まぁ初対面の出会いが最悪だったからそれを考えたら快挙みたいなもんだろうけど。相手が伊之助で善逸でなければ、こうはならなかったろうな。俺は初対面のとき伊之助だからなぁと諦めてたけど、善逸はそうじゃなかったと思うから。

 公衆の面前での言い合いはやめてくれと二人の首根っこを掴みつつ、宿に向かう。彼らが来た方向は里の入り口の方なので、ここに来たばかりのはずだ。まずは宿に行って泊まるという事を女将さんに報告しなければならない。直前に言うと何言われるかわからないからな。変人が多い刀鍛冶の里の宿の女将は肝っ玉母ちゃんなところがあるので、怒られる可能性がある。

 宿に辿り着き、すみませーんと声を張り上げば聞こえてくる女将さんの返事声。彼女が玄関まで来ると善逸と伊之助を立たせて、背中を少し押した。

 

「この二人の部屋、用意してくれませんか? 今日から泊まるので」

「新しい子かい? 良いよ、部屋割りはどうする?」

 

 どうやら少し融通させてもらえる様だ。二人の方を見ると伊之助は首を傾げ、善逸は決まってるのかバシッと腕を上げた。

 

「俺、セイバーの部屋!」

「却下」

「えぇ!?」

 

 善逸が嫌とかいうわけではない。ただ一人部屋ではないので自分一人で決めることができないのと、これ以上人数を増やせないからだ。確かにマスターとサーヴァントという関係上側にいた方が良いんだが、今回は別だ。

 仕方ない、俺が割り振ろう。

 

「女将さん、緑の市松模様の羽織を着た二人組いましたよね?」

「いたね」

「その小さい方の部屋にこの子達を入れてください」

 

 三人になるけど、その方がわかりやすい。

 良いのか? と視線で問うて来る女将さんに頷き返してみれば、彼女は分かったと同じ様に頭を上下に動かしてから宿の奥へと去っていった。きっと色々準備してくれるのだろう。殆ど鬼殺隊員にしか相手しない秘境の宿屋なんてあまり儲からない仕事だろうに。ご苦労様です、と心の中で頭を下げる。

 

「えぇー! 俺セイバーとが良いんだけど! 伊之助ってば寝てても煩いから嫌なんだよ!」

「そう言う紋逸も煩せぇんだよ!!」

「確かに善逸は鼾が煩いからなぁ。それにこの方がわかりやすいんで、我慢してください」

「そんなぁ!」

 

 俺達大人組と、善逸達子供組で別れた方がわかりやすいし、立香は小太郎と部屋が一緒だ。全部で三部屋使うことになるが、その方がこの宿にとっても有難いはずだ。一人一部屋だったら八つ用意しなくちゃいけなくなるからな。

 まぁ俺達大人組にとっては部屋は少しだけ狭く感じるけれど。

 

「置く荷物とかあります?」

「え? ないけど、別に」

 

 なるほど、身一つでこの里に来たと。

 

「じゃぁ行きますか」

 

 何処に? とは聞かれたけれど答えることはない。それに答えたら彼らは直ぐに逃げるだろうから、特に善逸。これから行うことは地獄と言って良いかも知れないから。

 首を傾げる二人を米俵の様に持ち上げて外に出る。おろせおろせと伊之助に背中を叩かれるが無視して息を吸い、シィイイイと息を吐いた。流石に善逸は何をするのか見当がついたらしい。焦った様な音を出して伊之助と同じ様に背中を叩いて来た。下ろさないけどな!

 

「舌、噛むなよ」

 

 自分で動くのとじゃ違うし、サーヴァントと人間では膂力が違うのでスピードも段違いだからな。カウントダウンの様に雷の呼吸、壱ノ型と言ってから腰を落とした。

 

 ———霹靂一閃

 

 上空に躍り出る。流石に街の往来で使う程馬鹿ではない。迷惑かけない様にするのなら空が一番だと判断したまでだ。あっ善逸が気絶した。空飛ぶの初めてでしたか、それは悪い事をした。

 何故か喜んでる伊之助の声をBGMに目的地へと近づいて行く。途中から瓦屋根に降り立ってしまったけど、そこからは流石に走って向かった。最初のは距離を稼ぐ為に使っただけなので連続では使用しない。瓦が壊れてしまうしな。

 街の中から林の中へ。竹林の中にある少しだけ開けた場所に辿り着いて脚を止めた。ブレーキがあまり効かず滑ってしまったけれど想定内なので慌てず、完全に止まってから二人を地面に下ろした。気絶した善逸とテンションが上がってる伊之助を前に俺はにこりと笑って。

 

「とーちゃく!」

「善逸?」

 

 おや? 炭治郎さんではないか。

 驚いた様に此方を見る大人な炭治郎が駆け寄って来たので、よっと禰豆子ちゃんみたく片腕を上げた。そこからきょろりと周りを見渡して禰豆子ちゃんと小さな炭治郎がいないことに気がつく。

 

「お前だけ? 炭治郎と禰豆子ちゃん達は?」

「幼い俺は小鉄君に連れてかれたよ。禰豆子達はマスターが見てくれてる」

 

 ふーんと相槌を打ってから気絶している善逸の肌に這わせる様に魔力を放出する。中に流すのではなく外に這わせることで、まるで静電気の様に流すことができる。バチィッと静電気にしては鳴ってはいけない様な音がしたと思えば、善逸が跳ね起きた。何々!? と恐怖に顔を染めながら周りを見渡して、俺がいる事を確認して落ち着いたらしい。ほっと息を吐いて立ち上がった。

 

「おはようございます、マスター」

「あ、うん、おはよう。状況的にここに連れて来たかったのはわかるけど、あれはないよセイバー」

「すみません、マスター」

「え、何? 笑顔がめっちゃ怖い。謝る態度じゃない」

 

 ありゃ。怖がらせない様に笑顔を浮かべていたけどそれが逆に怖いらしい。まぁ自分自身と同じ顔が笑顔で見て来るってなると怖いよな、そりゃそうだ。

 笑顔を止めて炭治郎の方に向き直る。いつの間にか立ち上がった伊之助に突っ掛かれてる善逸を尻目に彼らがさっきここに着いた事を知らせた。

 

「宿へはもう報告してる。けど今日着いたばかりで少し疲れてるかもしれないから、程々で」

「わかった。あと伊之助だが」

「説得は俺がするよ。聞くかはわからんけど」

「すまないな」

 

 良いってことよ! 元々俺が言い出したことだし、伊之助には無視されるだろうなってわかってたから。ただ幼い伊之助が里に着いたから少しは興味持ってくれると良いんだけども。

 パンパンと手を叩く。

 

「さてはて、そこで喧嘩してるお二人さん。柱稽古のお時間ですよ」

 

 柱稽古? と二人揃って首を傾げる新人隊士君達に意地の悪い笑みを浮かべてやった。嫌な予感がしたのか善逸は身震いをし、伊之助はキラキラと顔を輝かせていた。猪頭なので本当に顔を輝かせているかはわからないけど、まぁ雰囲気がそんな感じだ。

 

「そう柱稽古、柱の下で稽古することね。ということでまずは、この日柱様のところで基礎を伸ばそうか!!」

「はいぃいいい!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 




修行パート入りました。何をするんだろう、この人ら。
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