俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十八節 日鳴獣の柱稽古出張版。2/4

 

 

 

 嫌がる善逸を捕まえた炭治郎に行ってくるとだけ告げてその場を去る。ひらひらと手を振ってから小走りで駆け、竹林に入ってから一気にスピードを出した。いや最初から出すのも良かったけれど、それだと強者感が出るから嫌なんだよな。恥ずかしいというか、自然にやってしまう柱達は凄すぎる。かっこいいのはわかるぜ? 音も無く消え去るのはある程度強い奴だけしかできないからな。でも実際するとなると小っ恥ずかしいです。

 まぁそんなことは置いておいてだ、今は伊之助だ。大人になって多少はマシになったとはいえ、野生み溢れるあいつのことだその辺を駆けずり回ってるのだろう。伊之助の音が聞こえては途絶えたりしている。早くも同調しかけてる(・・・・・・・)な……これは見つけるのが困難だと舌打ちを一つ零した。

 肌感覚を鋭くさせて自身の周囲を広範囲に感じ取れる空間識覚という技を使う彼はその逆もできてしまう。つまりは自身を周りの感覚と合わせてしまうことによって、隠密を可能にした。これには元忍びである音柱さえも驚いたことで、完全に周りと同調してしまえば俺が聴覚に頼っても、炭治郎が匂いを嗅いだとしても薄れててあまりわからないという精密さだ。森に生きてた伊之助ならではというか、幼い伊之助なら我が強すぎてできない芸当だな。大人になって周りに合わせるという事を学んだからこそ生み出された技だと思う。

 

「(俺たちにとっちゃ、傍迷惑だ!)」

 

 奇襲するのならこれほど良い手はないし、逃げるのにもこれ以上の手はない。バーサーカーな癖に気配遮断的なのすんなよと思いつつ、バチリと一つ魔力を零した。

 

「(感覚に対抗するのなら感覚で)」

 

 お前だけが成長してるわけじゃない。まぁサーヴァントに成長なんでものないけど、工夫はできるってんだ。大人になって共同任務が少なくなったし、柱になってから完全に別行動をしていた。でもそうなっても新しい技ができたからって見せに来たのは悪手だったな! 伊之助! 見えないのなら、感じられないのなら、聞こえないのなら、無理やり聞こえるようにするまでよ!

 走っていたのを止めて止まる。

 

「お前の空間識覚、真似させて貰うけど悪く思うなよ」

 

 ニッと笑って魔力を迸らせる。俺の身体を通じて地面に流れ出た雷達は、餌を求めるように竹藪を突っ切って走って行った。スッと目を閉じて、耳に強化魔術を施す。バリバリと地面を這う音が聞こえる最中、その一つに何かが触り弾けた。途端に聞こえた痛がる声に思わず、笑ってしまう。迂闊すぎるだろ、わからないとでも思ったのか?

 脚に力を入れてそこへ向かう。一秒も経たないうちに見えた歪んだ綺麗な顔にくつくつと笑い声が自身の口から零れでた。

 

「つーかまえた」

「はっ!? ———ガッ!!」

 

 俺の声にやっとのことで気がついた伊之助を嘲笑うかのようにその背中を地面に縫い付ける。軽くでは跳ね除けられてしまうので重くのし掛かるようにすれば、流石の伊之助も対応できなかったらしい。ジタバタと地面を這っている。

 

「同調までして逃げんなって、そこまで嫌なの? 柱稽古」

「おりろ!! くそ逸!! 嫌に決まってんだろ! 面倒くせぇ!!!」

 

 肩の関節を外したらしい伊之助は腕の可動域を超えて、実体化させた刀を振るって来た。丁度背中に蹲み込んでいた俺の首に向かって来るものだから仰け反って避けるも、もう片方からも振るわれた刀に背中から退けるしかなかった。

 俺が降りたのを確認して立ち上がった伊之助は外れた関節を手を使いもせずに嵌め込んだ。相変わらず聞いていて嫌になる音だ。関節が外れた音と嵌めた音って痛々しいんだよな。耳が良い俺にはダイレクトに聞こえてくるもんだから尚更に。

 

「生前みたいにやれば良い話じゃん。しかも今回は幼い俺たちだぜ? 他の隊士よりも面白いでしょ」

「だからだ!!」

「だから?」

「……なんでもねぇ」

 

 ふいっとそっぽを向いてまた何処かへ走り出そうとする伊之助をまぁ待てと肩を掴んでその場に踏み止ませる。だから? と聞き返したけれど、かと言ってその内容を理解していないわけではない。伊之助の意識がこっちに向いたのを確認してからふぅと息を吐いた。

 

「妬いてんの?」

「ッはぁ!?」

「図星かよ、わかりやすー」

「テメッ!」

 

 刀を振るって来たので大きく後退する。相変わらず柔らかい身体だな、振るわれるスピードが普通の奴より早い。でも避けられない俺ではない。それは伊之助もわかってるのだろう、大して悔しがってはいなかった。

 

「俺達にはそんな機会なかったもんな。自分達より遥かに強い己が、自ら鍛え上げてくれる。強くなれる絶好の機会、もしかしたら今の自分より強くなるかもしれない」

「……」

 

 こいつは妬いている、それも自分自身に向けて。俺と善逸と違って炭治郎や伊之助は過ごした世界線は違うともここにいる彼らは自分自身だ。俺は善逸が強くなっても良い、その方が自分自身の身を守れるだろうし、流石だなと思う。炭治郎だって幼い己が強くなったって自分も頑張らないとなと思うだろう。でも伊之助はそうは思わない。

 確かに彼は成長した。大人になった……でもそれでも子供染みたところがある。可愛いところがあると思えば良いのか、面倒だと思えば良いのか。どちらにせよ、戦闘に関しては伊之助ほど頼りになる奴はいないし、俺の数少ない友人だからさ……まぁ放っとくわけにもいかないよな。

 打算的な思いもあるけれど。

 

「でもさ、別にどうでも良いことじゃない?」

「どうでも良いって何だよ!! 俺はッ!」

「伊之助らしくないんだよッ!!!!」

「っ……は?」

 

 あぁ、あぁ! そうだ! 伊之助らしくない!! 落ち込むときはとことん落ち込むお前だろうけど、でもこんな風に相手に嫉妬して拗ねるなんてことお前らしくないんだよ!!

 そんなこと! お前にとっちゃどうでも良い事だろうに!

 

「生前経験しなかったからって何だ! 幼い自分が己より強くなる!? そんなのどうだって良いだろ!! 結局お前が強くなりゃ良いんだからさぁ!!!」

 

 なぁ伊之助。落ち込んだって良い、だってそれはお前を奮い立たせるバネになるから。でも環境の違いを理由に嫉妬してそこで蹲ってちゃお前じゃないだろう。らしくないだろう。

 より強い奴が居ればそれを乗り越えて、更に強くなる。それがお前だろ。何自分自身にビビってんだよ!

 

「それに幼い俺らが強くなれるだけ、俺達にも可能性はあるだろ。確かにサーヴァントじゃ成長はしない、伸び代があったってもう伸びない。でも強くはなれる」

 

 それは肉体的な成長ではない、精神的な成長。技術も心も、サーヴァントになったって成長するものだ。

 

「こんなところで悩むなよ、妬むなよ。お前はお前らしく猪突猛進して、子分を引っ張ってあげなきゃだろ。なぁ、親分」

 

 未熟な親分(お前)と未熟な子分(俺ら)を引っ張ってあげてくれ。お前が壁を作ってどうすんだ、壁のないお前が人の壁を壊さなきゃ。

 返事のない伊之助にもう一度なぁと呼びかけると、彼は肩にかけていた猪頭をズボッと被って踵を翻した。まだ拗ねるつもりかと思い耳を澄ませるが、聞こえて来るのは嫉妬の音ではない。燃え上がるように轟々と聞こえて来る音に俺は苦笑いを零した。

 

「お前の出番は数日後になるだろうけど、ちゃんと帰って来いよ!」

「ふん! 俺様を誰だと思ってんだ、山の王だぞ!」

 

 ガハハハハ! と笑い声を上げて竹藪の中に消えていく伊之助を見送ってふぅーと息を吐く。どうにかして協力を取り付けたな、これで一歩前進だ。さてはて、伊之助に回る前に俺のところに回って来るだろうから何をするか考えないと。いつものでも良いだろうけど、それじゃぁ遊び心がない。

 さぁてどうしようかなと伊之助が行った方向とは真反対に踵を翻して。

 

 ———ありがと、な。

 

 聞こえて来たその言葉にふはっと吹き出してしまった。

 あぁ、全く。

 

「素直じゃないなぁ!」

 

 俺じゃなきゃ聞こえてなかったよ、伊之助。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 晩御飯の時間になり、大所帯だからか大広間に通されて運ばれて来た食事を前にぐったりとしている三人組に頬が引き攣った。ご飯を前にすると目を輝かす伊之助ですら、箸が動いていない。善逸の目は死んでるし、炭治郎に至っては何やらもの凄く悩みながら持っている箸が見当違いの方向へと進んでいる。目、見えてるのだろうか?

 隣に座った涼しげな顔をしている大人な炭治郎に何をしたんだよと耳打ちをすると、彼はとても良い笑顔を浮かべた。嫌な予感しかしない。

 

「幼い俺はわからないが他の二人なら、俺がつい楽しくなってな? 普段の三倍ぐらいにしてしまった」

「わぁ」

 

 俺の目が死んだ。

 炭治郎の柱稽古は基礎能力を上げるものである。しかしただ上げるものでも、育手の下で行うような基礎体力を上げる奴ではない。常に刀と同等の重さを持った木刀を帯刀させて筋トレさせる、までは良いのだが炭治郎自身がたまに襲って来る。

 ……言ってて意味わからんな。でも本当に襲って来るのだ。炭治郎曰く、罠を用意できない代わりにとか言っていたが、日柱が襲って来るとか罠以上の殺傷力なんだよなぁ。

 まぁそんなわけで走り込みの最中、素振りの最中、腕立て伏せの最中、もう色んな場面で炭治郎が音も無く木刀を手に振りかぶって来るのだから悪夢だ。しかも防ぎれなかったり避けれなかったりして、その攻撃を食らってしまえば更に追加の課題が加えられる。終わらない筋トレの課題、遅い来る柱最強の日柱。体力の限界に日柱への恐怖が重なり、断念する隊士が続出。流石に拙いとそこからは多少は優しくはなったけど、それを三倍かぁ。どうやって? とは聞かない。

 

「程々でって言ったよな? 俺」

「……言っていたな、忘れてたけど」

「忘れんなよ! 大事な事だよ! 無理させてどうすんだよ!」

「別に無理はさせてはない! 善逸と伊之助ならいけると思ったまでだ!」

 

 いやムン! じゃないんだよなぁ。終わってしまったから何とも言えないんだけどさ。

 ふぅと息を吐くと炭治郎の隣にいた立香がハハっと笑った。いや笑い事じゃないんですけどね、少なくとも善逸や伊之助にとってさ。

 

「炭治郎ってこれだと思ったら突き通すところあるよね、美徳だとは思うけど」

「物理でも思考でも頭が硬いのは、サーヴァントになっても治らないんだな」

「生前からこうなんだ」

「生前からこうなんです」

 

 すみません、ほんと。ご迷惑をおかけしています。そう立香に謝ると、炭治郎はまだマシな方だから大丈夫だよと謎の許しを貰えた。

 立香がマスターを務めるカルデアのサーヴァント達の中では炭治郎はまだマシな方という言葉に戦慄を覚えながら、いざ実食と目の前の食事達と作ってくれた宿の方に感謝を込めて手を合わせる。美食ハンターは途中まで読んでた。

 

「(ほんと要らない事覚えてんな、俺)……そういや伊之助は?」

「伊之助ならまだ帰って来てないぞ? 上手く行ったのか?」

「あー、まぁ?」

「何故疑問系なんだ」

 

 確証がないからだよ、大丈夫だって思ってるけどな。

 

「まぁとにかく参加はするから、回す前にくたばらせんなよ」

「わかった」

「本当にわかってんのか……?」

 

 ニコニコと笑う炭治郎に怪訝な表情を向けるけれど、其奴はわかってると言うだけで食事に取りかかった。目の前にいる善逸達に食べないと明日持たないぞーなんて嬉しそうな声音で食事を促すものだから、彼らは怯えた様に身体を揺らしてから慌ててご飯を食べ始める。心なしか聞こえて来る音も確かに怯えてる音だった。

 炭治郎が担当だから何も言わないけど……俺に回って来たときは優しくしてやろうかなんて息を吐いた。

 

「あっ、昼間の団子美味しかったぞ! ありがとう! 善逸!」

「あーはいはい、あれタダだから礼とか別に良いよ」

「えっ!?」

 

 

 

 

 

 

 




大人になった伊之助(中身がなるとは言ってない)
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