俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
そんなわけで善逸と伊之助が俺の所へやって来たのは数日後。久しぶりに燃えたと笑う炭治郎に押されてやって来た彼らはやつれていた。どことなく機能回復訓練を受けた後みたいな表情をしている。あれより過酷だろうけど……まぁご愁傷様です。
心の内で手を合わせて、いつ稽古が終わったのかと聞くとさっきと言われて青ざめた。休憩もなしにここに放り込まれたのか!? サーヴァントになったから他人の体力とか考えてないのか! 彼奴は!
「(いや多分そんな事忘れたんだろうけど!)取り敢えず、休憩がてら説明会しましょうか。その後少し身体を動かして、終わりにしましょう」
流石に直様稽古とかさせられないので、笑顔でそう言いながら地面に座っても良いよと促しながら、さてどう説明したら良いかと思案する。うーん、と唸ってまぁひとまず説明して理解されなかったら考えよう、と思考を放棄する。
「日柱竈門炭治郎の稽古で基礎と反射神経を鍛えてもらったところで、ここでする事は一つ!!」
ごくりと唾を飲み込む音がした。そこまで身構えなくて良いのに。俺の稽古は炭治郎の様に筋トレプラス何かとかではない。ただ、ただ楽しく遊び、学ぶまで。
「缶蹴り、だ!!!!」
ババーン! という効果音が付きそうな感じで腰に手を当てて言うと善逸と伊之助はポカンと口を開けては間抜けな面を晒した。いや反応うすっ、俺が戸惑うわ。
「かんけりってなんだ? 新しい型か?」
「せ、セイバー? 自信満々に言ったところ悪いけど、かんけりってなに?」
「いやまぁ、そんな反応なのはわかってた」
知らないよな、知らないですよね。知ってた。時代が違うもんな。
周りにある竹藪の中から手頃な竹の枝をへし折っては、地面に座っている彼らの前に同じように座った。
「缶蹴り……ってもこの時代じゃ缶詰めしかないので代用品の竹筒を用意しました」
懐から竹筒を取り出して地面に置く。
「遊び方は単純。竹筒を広場の中央に起き、一人がそれを蹴りその竹筒を元の位置に戻すまで他の人は逃げたり隠れたりする。そうして置かれたら開始の合図です」
缶蹴りに必要なアルミ缶。前世では公園に行ったらポイ捨てされていたそれを使い遊んだものだが、今は大正。アルミ缶なんてものは発明されておらず、スチール缶に至っては缶詰めに使われるのみ。決して飲み物を入れるようなものではない。確かそういう缶ジュースというのが発売されたのは昭和のはずなので、まぁあるはずがなかった。
ので代用品は竹筒で行く。幸いここには竹が豊富にある。一本ぐらい貰って加工したって誰も気がつかないだろう。確証はないけれど。
「竹筒を最初に蹴った人は鬼とします。鬼は隠れたり逃げた人を見つけ触って捕まえるのが目的で、全員捕まえたら鬼の勝ち。しかし反対に竹筒を蹴られたら鬼の負けになります」
「つまり鬼は竹筒を守りつつ全員を捕まえて、鬼じゃない人は竹筒を狙って蹴りに行くってこと?」
「そいうことですね」
善逸は流石に理解が早かった。彼の言葉に頷きながら、カリガリと地面に描いていた絵に鬼とその他というのを付け足した。勿論縦書きにしてます。
ちらりと伊之助の方を見る。彼は理解しているのだろうか。一応わかりやすいよう説明したつもりだけどと反応を見ると、その猪の被り物は微動だにしていなかった。あーこれ、わかってないなー。
「遊び方わかってなさそうなんで、缶蹴りもとい竹筒蹴りをしましょうか。実践した方がわかりやすいだろ」
よいしょと立ち上がる。休憩は終わりだ。流石鍛えてる隊士達、あんなに疲れた音と表情をさせていたのにもうけろっとしている。若いなぁなんておじさん臭いこと思いながらも何も、二人に立つよう促した。
幸いここはある程度広い。住宅街の中にある公園の広場ぐらいにはあるので缶蹴りをするのには申し分ない。
「最初は俺が鬼をしますね。善逸はそこのわかってなさそうな猪と一緒に逃げながら教えてあげてくれ」
「わ、わかった」
「猪じゃねぇ!!」
「今反応するところじゃないから! 伊之助!!」
善逸にツッコミを入れられながらもズルズルと引っ張られる伊之助に笑いながらも、行きますよと彼らに声をかけた。竹筒は見た目通り軽いのでものすっごく弱い力で蹴る。ポーンと放物線を描きながら飛んでいくのを見届け、それが止まってから取りに行った。もう既に善逸達はいない。まぁ話し声は聞こえるので比較的近くにはいるんだろうな。気配は探らないでおこう。
手に持った竹筒を最初の位置に戻したらゲーム開始だ。竹筒の上に足を置き相手の出方を待つ。
「伊之助、セイバーが踏んでる竹筒を蹴ったら俺たちの勝ちなんだよ」
「はぁ? 簡単じゃねぇか!」
「簡単じゃないわ! セイバーに一瞬でも触れられたら俺たちの負けだかんな!?」
あーこれ、明日から耳栓用意しよう。自分が喋らないからか善逸達の会話は丸聞こえだし、少し動いただけの布擦れの音まで聞こえてしまって位置が丸わかりだ。全くもって隠れてる意味がない。こうなると善逸が鬼をした場合も同じになるだろう。
まぁ耳栓したって聞こえるものは聞こえるけれど、それでも確かに防がれてはいるので多少は音が小さくなる。完全な音の遮断にはならないが、耳で位置を探ることはできなくなるはずだ。
うーんと悩んでると伊之助達が突進してきた。最初はそんなんだよなぁと思いつつ、彼らをタッチするために竹筒から足を下ろす。
「(とりあえず遊ぶか!)」
稽古は明日から。今日はルールを覚えてもらうための準備段階。張り切っていこう。
というわけで翌日。
昨日は三人できゃっきゃうふふしながら缶蹴りを楽しんで伊之助にもルールをわかってくれたところで解散となった。楽しかったーと笑顔で帰っていった善逸ともう一回しようぜ! と何回も挑んでくる伊之助を見てほわほわしながら、普通に遊ぶのはやっぱり大人になっても楽しいなと思う。子供ならまだしも大人になるとそういう無邪気なことできなくなるし、鬼殺隊に所属している時点で子供がするような遊びをできないから、満足してくれて良かったと思う。
でも二人共、これが柱稽古だってこと忘れてませんかね??
「
「決まりごと……?」
やっとルールを覚えた伊之助にまた覚える事を追加するのは少し不安があるけれど、これが俺の柱稽古なので仕方がない。首を傾げた善逸にそうだよと頷く。
追加するルールは至って簡単。自身の五感に頼りきらないこと、だ。
「善逸は耳を、伊之助は肌を。それぞれの五感を使うのは禁止……って言いたいけど完全には無理だから、耳栓と隊服を用意しました」
じゃーんと取り出したものをそれぞれに渡す。耳栓を善逸に、隊服を伊之助に。
伊之助が嫌がって隊服を捨てられそうだったので、サーヴァントの素早さを活かして着せてやった。気持ち悪そうに顔を歪めては、脱ぎ方がわからないのか引っ張ったりしている伊之助に無駄だと告げる。そんなんじゃその隊服は破れないぞ。
息を吐き、もう一つの耳栓も取り出して俺も付ける。こうでなきゃ公平じゃないからな。サーヴァントと人間という時点で公平じゃないとか言っちゃいけない。見た目だけでも公平にしなくちゃ。
「少しは音を遮断されるし、伊之助はぞわぞわしてそれどころじゃなさそうだな。でもそれに慣れるように。それと今回からは武器あり、呼吸あり、魔術ありのなんでもありな竹筒蹴りになるから」
「え゛!?」
「流石に真剣は使いませんよ? 木刀も用意してます」
何処にしまってたかって? それは内緒だ。
きっちり三本、善逸達の刀を回収して代わりにそれらを渡してやった。俺の分の木刀も勿論ある。
「遊び方は変わりません。ただ全力でやってもらう……その代わりこちらとしても全力でいきます」
ビリッと魔力を放出させれば、生唾を飲み込む二人。そうこれは柱稽古、楽しい楽しいお遊びだけというわけじゃないのだ。
まぁ本当の全力ではいかない。流石にそれをしたらこの辺り一帯がヤベェことになる。サーヴァントの力ってそんなもんだし、防御系宝具でもなければ宝具を放てば竹藪の一つや二つ吹き飛ぶだろう。発展の為の自然破壊はまだまだ先である。
それにほら、某猫娘もこう言っていた。全力で行く、これが手加減だ! ってな。
「それと、鬼の交代はなしです。ずっと俺が鬼なんで」
笑顔でそう告げると彼らは良い反応をしてくれる。取りに行くスリル感も良いが、取られるかもしれないという緊張感も味わいたいみたいだが、今回からはそれは無しになります。第一、俺が鬼じゃなかったらすぐ終わるからな。鬼でもすぐ終わらせるけどさ。
「はぁ!? んなのつまんねぇじゃねぇか!」
「つまんなくなるかは、伊之助次第だよ」
「あ? どういう意味だよ」
そのまんまの意味だよ。負け続けたら誰だってつまんないもんな、だから勝てるよう頑張れということだ。
「俺の柱稽古はこの竹筒蹴り。俺が鬼を務め、他の隊士達は俺が持つ竹筒を狙う。ま、つまりは俺を負かしたなら、この柱稽古は終了ってことですね。代りに俺が触っても君達の負けにはならないから安心してくれ」
タッチして負けという制度を入れてたらずっと負けるからな。
さぁて、頑張っていきましょう! と手を叩いてから竹筒を軽く蹴ると、昨日散々教え込んだからか反射的に逃げ始めた二人にクスリと笑ってしまう。文句は後でいくらでも聞こう、でも君たちが強くならないと意味がないんだよ。
「(そういや幼い炭治郎は稽古に参加するのかね……?)」
多分今はあの人形相手に苦戦してるところなんだろうけど……あれに勝てたのなら多分原作どおりの強さにはなってるはずだ。大人な炭治郎もここに来てその人形を壊したと言っていたから間違いはないはず。
ゆっくり歩いては竹筒を拾う。元の場所に戻り、それを置けば何度もやった缶蹴りの始まりだ。さてどこからでもかかってこいやぁ!
「っと、その前に」
今は必要ない刀達を巻き込まないよう、広場の端に置く。乱雑においては怒られるかもなのでしゃがみつつ丁寧に置く。カチャリと刀と鞘が擦れた音がした、と同時にその場を離れて竹筒に向かっていた伊之助に足払いをかける。躓いた彼は転けそうになるが、持ち前の運動神経でそのまま手をついて回し蹴りをしてくるが俺はそれを受け止める。
「チッ!」
「愚直な突進は伊之助ならではだけど、ここでは悪手です」
よっ! と伊之助を振り回し気配がする方向へと投げ飛ばす。ギャァー!! という甲高い悲鳴が聞こえたので、位置はあってんだなと安堵する。いや聞こえては来るんだけど、耳栓のおかげである程度しかわからないから少し場所がズレる。だから気配を探る方法も使っては位置を特定した。
気配を感じるということは確かに五感を使うけどそれよりも第六感に近いのかもしれない。ぞっとする、あそこに人がいる。そんなのを感じ取るのには五感だけでは足りない、それに加えて第六感で補うんじゃないかと俺は思う。思ってるだけで違うかもしれないんだけど、こればっかりは感覚的なものだからわかんないんだよな。
まぁ別に五感に頼るなとは言っていない。頼りきるな、疑え。
「伊之助だけか!? 他人に頼りきって自分は動かないのか!? 伊之助も伊之助だ! 考え無しに突っ込んでも格上相手だと足を救われるだけだぞ!!」
深く深く息を吐く。常中に更に呼吸を重ねる。俺は魔力を使わない。さっきのは脅しただけなので意味はない。それに魔力を使えばマスターである善逸を早く疲れさせるかもしれない。まぁ聖杯があるのでそこまで疲れることはないが倦怠感が出るかもしれないから。
シィイイイ! と言う音が口の端から零れる。善逸の悲鳴が聞こえた気がしたが、無視して声を張り上げた。
「かかってこい! かかってこないのならば……俺が向かうまでッ!!」
———雷の呼吸 壱ノ型
バチバチッと地面を雷が這う。木刀を腰に当てて前傾姿勢をとった。善逸にとっては見慣れた体勢に悲鳴が更に大きくなり、伊之助の怒鳴り声も聞こえ始めた。
うぃひひと笑う。
———霹靂一閃!
さぁ。
「楽しく遊ぼうぜ!!」
「ギャァアア!! 無理! 無理無理無理ッ!!! セイバーの霹靂一閃とか食らったら死ぬ!!!! 死ぬ死ぬ死ぬぅ!!!」
「うっるせぇぞ! 紋逸!! アレもテメェなんだろ! どうにかしろ!!」
「馬鹿野郎!! セイバーと俺を一緒にすんな!! セイバーはもの凄く強いけど俺はもの凄く弱いんだぜ!?!? どうにかできるわけないだろ!!」
「じゃぁどうすんだよ!!」
「どうしようもないッ!!!!(キリッ」