俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十九節 壺商人の天狗様。1/4

 

 

 

 

 鬼殺隊士の朝は遅い。敵である鬼の活動時間が夜に限られてくるからだ。眠らない鬼とは言え、日に当たると死んでしまう為に日中は活動しない。つまり夜行型ではあるのだが、昼行型であるただの人間がそれに合わせるとなると昼夜逆転してしまうのは間違いない。

 昼頃、朝日が登った頃に就寝についたのであろう鬼殺隊士がふわとあくびを零しながら宿の廊下を歩いていた。部屋から出てきたのか、キチッと隊服を着ているが任務は夜からなのかとても気を抜いている。里の護衛任務の人間は大変だなぁと思いつつ、ゆらゆらと羽織を揺らしながら歩みを進めた。

 

「お疲れ様ぁ」

「ハッ! お疲れ様ですッ!! ……え?」

 

 すれ違い様に声をかけると疑問の声を出しながらも返事をしてくれた名も知らぬ隊士ににっこりと笑いながら、部屋へと向かう。和風なので扉はないそこに、失礼しますと声をかけて襖を開けた。中には黒い塊が二つ程転がっている。うゔっという呻き声も聞こえた。

 

「セイバー……もうちょっと静かに開けて、襖のせいで不協和音ががが」

「ぎも゛ぢわ゛り゛ぃ゛」

 

 地獄かな?

 あれから四日。どうやら獣柱の稽古は順当に終わったようで、こうして善逸と伊之助は自身の部屋で蹲っている。少し睡眠を挟んでいるとは言え三日三晩戦い続けたからか疲労が蓄積され、昨日の夕方にぶっ倒れた! と伊之助が二人を運んできたので布団に寝かせた。そのままこんこんと眠り続ける彼らが起きたのは今朝である。まぁ十二時間は寝たんじゃないだろうか。

 しかし、起きた途端に吐くものがないのに吐いていたり、身体中を掻きむしったりしだすから驚いた。理由を聞くと今までにないぐらいに感覚が研ぎ澄まされていて気持ち悪いらしい。完全に俺の稽古で五感が強化された弊害が起きていた。きっとランナーズハイかなんかで伊之助の稽古では感じなかったんだろうな……そんな余裕も無かったのかもしれない。

 善逸はずっと耳を塞ぎながらカンカンカンカン五月蝿いと喚き、伊之助は自身の動きすらずっとぞわぞわするのか大人しく座っている。袴は脱ぐなよ、伊之助。

 

「水を貰ってきましたから、飲んで。少しでも口に入れないともたないぞ」

「いや吐く、水でも吐く。絶対に吐く」

 

 そう言われて水を引っ込ませる。

 症状がどこからどう見ても病人なんだが。

 

「ぁ゛ぁあああっ、全部脱ぎてぇ」

「やめろ」

 

 通報されんぞ、やめろ。

 はぁと息を吐いて座り込む。水が入った湯呑みを置いて、二人の方を向く。ビビッと指差せば此方に向く二対の瞳。

 

「研ぎ澄ませるから駄目なんですよ、鈍らせないと」

「どうやって……?」

「そうだぜ!! どうやってやんだよ!!」

「ちょっと伊之助声でかい……」

 

 いつもは喚いて止める善逸が静かな声で伊之助のこと止めてる。相当参ってるんだなと理解して、そうだなぁと伊之助の言葉に唸る。鈍らせないととは言ったが、俺だってやり方は今ひとつ分からない。強化魔術をかけていて解くのならまだしも、素の状態でなんてわかるはずもなかった。

 うー、うん? と悩んでからそうだと思いつく。

 

「伊之助との稽古中は気にならなかったんですよね?」

「え、あ、まぁ?」

「そうだったか?」

 

 覚えてないのか首を傾げてる伊之助を放っておいて、ならと続けた。

 

「ずっと稽古しておけば良いのでは?」

「死ぬわッ!!!!!!!!!」

 

 くわっと叫んできた善逸は自身の大声に驚いたのか素早く耳を押さえて蹲った。自分の声すら煩いらしい。多分言うなれば、イヤホンをして音楽を流したら音量が最大だったみたいな感じだと思う。あれは痛い。

 というかまぁ冗談は置いておいてだ。

 

「気にするからじゃないですか? 稽古中は必死になってたから気にならなかった、けど終わって違和感に気がついてしまったからそうなってる。つまりは、慣れですよ慣れ」

「結局慣れかよぉおお、わかってたけどさぁああ」

「うがぁあ! ぞわぞわする! 脱いで良いか!?」

「駄目です」

 

 それぞれ呻いては堪えるようにしている彼らの腕を引っ掴んで引き上げた。いきなりの行動と大きすぎる感触に驚いた善逸と伊之助にニコリと笑いかけては部屋を出た。

 

「気分転換に散歩行きましょうか!!!」

「いや声でか! というか発想が炭治郎かよ!! っ、ぅぅっ」

「離せ! 気持ち悪ぃ!!」

 

 嫌です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通算三回目になるであろう甘味屋の来店。店員さんにはもう顔を覚えられたのか、こんにちはーと軽やかに挨拶をされてメニュー表を渡される。それをペラペラとめくり、ある項目に新商品! と見出しが書かれた場所を見つける。見てみると、新商品はシュークリーム。縦文字で書かれたそれに付随する様に描かれた絵と説明はあのシュークリームだと指し示していた。

 シュークリームと言えば、前世ではコンビニやスーパーで手軽に手に入る一般的なお菓子だったがこの時代ではこうしたお店にしか出ないものだった。中身がクリームである為に日持ちはあまりしないものだから、その場で作る以外の販売方法はなかったわけだ。

 別にシュークリームが売ってることに問題点があるわけじゃない。俺の前世まで続いていた某有名高級菓子店ではビスケットやチョコレートや、それこそシュークリームを明治から発売していた。生前じゃ手土産を買う時に良くお世話になりました。

 だから時代錯誤とかいうのではない。ちらりとメニューの表紙を見る。皐月甘味。どう見ても和菓子専門みたいな名前だ……なのにシュークリーム。いつの間にここはカフェになったのだろうか。いや喫茶店か。

 

「お姉さん」

「えっはい!(お姉さん……!)」

 

 ん? なんだか嬉しそうな音がする、なんでだろ? ……まぁいいか。

 

「この新商品って」

「あっ、シュークリームの事ですか? お客様が前来た時にはなかったもんですね。実は前々から販売しようとは考えていたんですけど、この里柄じゃないですか? 外つ国のお菓子は合わないんじゃないかって先延ばしにしてたんですけど……」

 

 でも俺達が来たから始めたと。普通の鬼殺隊士達は任務に当たっているから寄ることはないし、休憩時間も寝ていたいタイプの人が多いので来る人も少ないとかなんとか。だからあまり慣れていない西洋菓子を販売するのは迷っていたと。

 ふーんと相槌を打つ。そりゃ売れなくて材料が無駄になるよりは売らない方が堅実だろう。だけど踏み切った、と。

 

「実はこれ、期間限定で。好評でなかったらやめようかと……」

「これ三人分、お願いします」

「えっ?」

「え?」

「あ、いや! わかりました!」

 

 そうして店の中へと入って行く店員さん。メニュー表回収し忘れてるけど、まぁ良いかと側に置いた。野外に備えられた椅子に座り、勝手に決めんなよとこっちを見る抗議の目に苦笑いを零す。

 

「絶対美味いから大丈夫だって」

「そういう問題じゃないんだよ! 俺、今! あっさりとしたものが食べたいんです!! というか水でも吐くって言ってんのにシュークリーム頼む!? 普通!!!」

「うめぇんだったら良い!!」

「伊之助はこう言ってるぞ?」

「だから、そぉおおいぅうううことじゃぁないんだなぁあああ!!!」

 

 頭を押さえながらそう突っ込む善逸に大変だなぁと他人事のように思う。耳が聞こえすぎて頭が痛いのに、突っ込まざるを得ない彼の人間性に不器用だと笑ってしまった。そんなに気持ち悪いなら黙ってれば良いのに。

 そんな彼にほらとメニュー表を渡す。不思議な表情で此方を見る彼に何か欲しいものでも頼んだら? と言えば素直に受け取ってメニュー表をめくっている。少し青ざめた表情からキラキラとした表情に変わるものだから、見るだけの気力はあるのだなと感心した。

 

「うーん、美味しそうだけど食べれるかってったら食べられないかなぁ」

「けど朝から何も食べてませんよね? 緑茶とかでも頼んでみては?」

「でもなぁ……」

「天ぷらはあるか?」

「ないよ、甘味屋なんだから」

「普通に宿でご飯食べてからでも良かったか?」

「やだよ、伊之助の好物でも出てきたら絶対吐く自信あるね」

「まぁ油物は気持ち悪いときにはキツイですよね」

 

 善逸の主張に笑いを零しながらも無理はすんなと頭を撫でる。さらさらと指通りの良い髪が指の隙間を流れては逸れて行った。目を細めてそれを享受する彼は息を吐いては俺にもたれかかってきた。幼いその仕草にくすくすと笑いながら、どうしました? と理由を尋ねる。

 

「いや、セイバーの音聞いてたら多少マシになるんだよな……」

「聞き慣れた音だからでは?」

「あー、なるほど」

 

 やっぱり慣れなきゃ駄目かぁなんて呟く彼にそうだなと返す。結局のところ慣れが一番。この耳だって生まれた時からあるからこそ慣れてしまって、聞こえてるはずなのに覚えてないということも多少起こりうる。つまりは無意識にではなく自分から音の取捨選択をしたならば、この苦しみから解放されるのではないだろうか。

 

「二人とも、どうにか夜までには慣れといてください」

「はぁ? なんでだよ!」

「そうだよ、なんで?」

 

 首を傾げる二人に万が一のこともあるからと告げる。その言葉に納得したのか、渋々頑張ると言った彼らの頭を撫でてやる。伊之助は猪頭越しだがそれでも照れるらしく、ほわほわさせるのやめろ! と腕を振り払ってきた。素直じゃない奴め。

 夜までにと言ったのは勿論鬼の襲撃が今日かも知れないからだ。日付や時間帯が違っていても我々が知っている通りに事が進む事が多い。小さな歴史を変える事ができても大まかな流れは変えることはできない、ということだ。つまり何が言いたいかと言うと、炭治郎があの人形を壊してから約三日経っているということだ。あの刀を鋼鐵塚さんが研ぐと言って持ち出してから三日後ぐらいに襲撃があったと炭治郎は言っていたので、早ければ今日来るかも知れない。

 というわけで、今日の夜には戦いになるかも知れないのでいつまでも鋭過ぎる五感に振り回されてはいけないだろう。だから本日中には慣れてくれなきゃ困る。

 

「お待たせいたしました。シュークリームでございます」

 

 皿に乗ってるシュークリームってわりとシュール。いや中身にクリーム入れるんじゃなくて挟んでるタイプなのでお洒落なのはお洒落である。でもシュール。

 ありがとうございます、と告げてからそれぞれにシュークリームを渡す。伊之助はすぐさま齧り付き、善逸は少し逡巡してから伊之助と同じように齧り付いた。それを見届けてから店の中に入ろうとしている店員さんに慌てて三人分の緑茶を頼む。勿論ホットである。シュークリームに合わないかも知れないがその方が美味しいし、ほっとする。ホットだけに……面白くともなんともないし使い古されたギャグだな。

 息を吐いてから俺もシュークリームを頂く。出来立てホヤホヤだからか、外側はさくりと内側はしっとりとした生地が美味い。カスタードクリームも手作り感ある感じで、まぁ専門ではないけど菓子職人故にがんばりましたみたいな感じの味……ってたら失礼だから普通に美味いです、はい。でもちょっとカスタードが多いかな。挟むタイプだから溢れる。

 

「うめぇ!!」

「ん? んん? 意外とあっさり?」

 

 あっさりだね。砂糖の塊である金平糖より甘くない。大人の洋菓子みたいな甘くもなく、さりとて舌に粘りつかないカスタードクリームだから、今の善逸には食べやすいものだろう。あえて言うならば生地が少し重たいぐらいで。でもそれもカスタードで相殺されてるからバランスは良いのではないだろうか。

 カスタードを口の端から零して慌ててる善逸と、気にせず全てを食べきった伊之助の口元をポーチから取り出したハンカチで拭ってやる。そういや後藤さんにまだ会ってないから善逸のハンカチ返して貰ってないな。

 礼を言ってくる善逸にどういたしましてと返して、やってきた緑茶を受け取り渡す。伊之助にも渡して熱がる二人に笑いながら、ズズッと緑茶を啜った。

 

「ぁっ」

 

 

 

 

 

 




猫舌……!

私も猫舌なのでそうじゃない人の舌が凄く不思議ですお久しぶりです。
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