俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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捌ノ型

 

 

8.入隊

 

 

 

 

「嫌いやいやいやいやぁあああ!! 絶対死ぬ! 絶対に死ぬって!! 年に数人しか受からないんでしょ!! 最終選別って!!! 死ぬ未来しか思い浮かばないんですけど! 壱ノ型以外できないのに何でじぃちゃん送り出しちゃったのぉおおお!!!!」

「二年経っても壱ノ型以外できないからでは?」

「正論をぶつけないで!!!!」

 

 えぇ……。

 獪岳を送り出してから二年。善逸は十六歳になり藤襲山で最終選別を受ける様にじぃちゃんに言い渡されていた。正直遅い方かと思われる。まぁずっと行きたくない行きたくないとぐずっていたので遅くなるのは仕方ないのだが。

 しかしながら気持ちはわかるけど喚くのをやめてほしい。周りの目がちょっと痛い。藤襲山の前、最終選別の試験場に集まる子供達。大人の体格を持っているのは俺だけなのでそれだけでも目立つのに、嫌だ嫌だと喚く善逸もいるのだ。目立たないわけがなかった。

 

「見られてますよ、ほら立って」

「うぇ、ひっぐ。いいよ見られてても、だってこれから死ぬんだし誰かの記憶に残る方が良いじゃんかぁ」

 

 いや死ぬんならそうだろうけどさ、お前は生き残るんだから止めとけって話で。

 

「貴方は生き残りますよ、残ってくれなきゃ困ります」

「?」

「私は貴方を介して召喚されてるんですよ? 貴方が死んだら私も消えますし」

「エッ!?」

 

 ……あれ?

 

「言ってませんでした?」

「聞いてないけど!?!?!?」

 

 わっ! と衝撃を受けたのか、仰け反った善逸はジッとこちらを見ていた。お面の隙間から見える彼の顔はとても面白く、思わず笑ってしまう。いや俺の顔なんだけどね。

 

「セイバー、サーヴァントがどうのとか! 食事は娯楽とか何とかしか言ってないよ!! 俺が死んだら消えるとか聞いてないからぁああ!!! 消えないでぇええ!!!!」

「あーはいはい、消えませんから泣き止んでください」

「ほんと……?」

「ほんとほんと」

 

 善逸が納得するまで何回も頷くと、彼は泣き止み俺から離れて行った。あーぁ鼻水と涙がめちゃくちゃ付いてるし、エーテル体なので洗わなくて済むけれど気持ち悪いのは気持ち悪い。

 離れて行く瞬間にうそつき、と小声で言われたけれど無視する。きっと相手も聞こえるように言った訳ではないだろうから。しかし俺がこういう時は平気で嘘つく奴だとバレてるのか……意外だ、あんまり善逸の前じゃ嘘なんてついてないのに。

 一歩だけ離れた善逸の手を取り、その左手に刻まれた刻印を撫でる。寿命を削り数倍の力を出せると言われる“痣”ではなく、サーヴァントのマスターだと示す刻印、“令呪”。これこそが俺と善逸を繋ぐ楔だ。改めて見たその令呪は雷と蒲公英を思わせる。

 ……タンポポ、っておま。生前散々比喩されたその髪型を令呪の模様になってるとか、もっとなかったの? って言いたくなる。まぁ令呪の模様とか選べないんだけどね。

 どこで区切るかわからない三画残っている己に対する絶対命令権を撫でた。そういや令呪のことも教えてないな……。

 

「良いですか善逸。サーヴァントとマスターは一心同体も同然。何せサーヴァントが消えれば相手に対して自衛手段がほぼ無くなり、逆にマスターがやられればサーヴァントは消えます。つまりサーヴァントはマスターの盾であり矛でなくてはいけません。勿論意思を持つ人間ですからそれぞれの考えはありますが、私はこうだと思っています」

「……?」

 

 どういうこと? と善逸は首を傾げた。わかっていないらしい。まぁ確かにハッキリとは言ってないからわからなくもないが。

 

「つまり、貴方にずっと付いているという事ですね」

 

 だから安心しろ、そう思いながら蒲公英頭を撫でてやる。

 サーヴァントにとってマスターは生命線だ。だからしっかりと守るし、お世話だって吝かではない。善逸がいなければ俺はここにいられないのだから。

 

「本当に助けが必要な時には呼んでくださいね、マスター」

 

 俺も耳が良いからお前の喚き声の発生源なんてすぐわかる。サーヴァントになってからは脚の速さが生前と段違いだから、すぐ駆けつけてやれる。ほら何も心配はいらない。だっていざとなれば俺がいるからな。

 ……ただ全て応える気なんてないけれど。

 

「藤襲山の麓で待機してますから、ほら行ってこい!!」

「いった!?!?」

 

 思いっきり手加減して背中を叩いてやると、思いの外痛がりながらもしぶしぶ歩き出した。そろそろあの双子が現れる頃だろうから、ちゃんと行ってきて欲しい。大丈夫、俺だって抜けられたんだ。お前だって大丈夫だよ。鬼が無理なら気を失え、そしたらスパッと切れてるから。

 俺はもうとっくの昔に慣れてしまったけれど、あいつにとっては鬼は初めてだもんな。俺が召喚された時にいた鬼は暗くて見えてなくて、何何何!?!? って喚いてたし。基本的にビビりだから、あの文字通りの鬼の形相を見れば気絶するに違いない。それに少し真面目でもあるから勝手に降りてくることもないし。

 

「ま、頑張れよ。善逸」

 

 随分、己の名前を呼ぶにも慣れたものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして七日後。

 

「死ぬ、いや死ぬって。なんなのあれ、なんなの? 鬼?? 鬼キモくない??? 誰彼構わず襲ってきてさ、休む暇が昼間しかないとか拷問。いや昼間の方時間長いからまだ……そういや夕方でもある程度活動できるんだよなあいつら、それ知った時目をひん剥いちゃったわ。怖すぎだろ、死ぬわ。いや死んだね、もう死ぬ」

 

 魔力節約の為に霊体化していた俺はぶつぶつとか細い声で呟く己のマスターの声を聞いた。あぁ生き残ったんだなぁと安堵するのと同時に、俺がここにいるんだから当たり前かと考え直した。どうやら彼は怖さが天元突破していつもの元気さは消えたらしい。ずっと小声で喋ってる。俺もあんなんだったのかね、と記憶を探るけれど昔過ぎて忘れた。嫌な記憶は忘れたい性質のようだ。

 今回の選別突破者は善逸含めて五人。カナヲちゃんは相変わらず余裕そうで、玄弥は少し辛そうな音を出している。炭治郎は驚いた様子で周りを見ていた。多分突破者がこれだけしかいないのに驚いているのだろう。本当はもう一人いるんだけども、先に帰ってしまっている。山に帰って猪突猛進でもしてるんだろうか。

 五人というのはまだマシな方だろう。駄目な時は零なんてのもあり得なくもない。それほど過酷な試験であり、文字通りの最終選別だ。一人二人しか食べてない鬼を倒せずして、他の鬼をどうやって倒そうかという考えなのだろう。その考え方は間違ってないし、理解はできる。納得はできないけれど。

 まぁ多分全員合格とかしてたら、色々と刀とか隊服とかが勿体無いことになるかも知れないから……うん理解はできる。

 童子達が現れて、説明を始めていた。生前は恐怖であんまり聞いてなかった内容をもう一回聞いておく。後で善逸に質問とかされたら答えれるように。

 

 ———ボキッ。

 

「〝ヒッ!?〟」

 

 おかっぱの童子達に突っかかっていった玄弥の腕が折れた音を聞き悲鳴をあげる俺と善逸。俺はそれなりだったが、善逸のはわりと小さい声だったので気づいていないのかそのまま話が進んでいく。いくら止める為とはいえ腕を折るのはやり過ぎだって思うんだけど、炭治郎さんや。

 怖すぎ、とふるりと震えた。多分生真面目な炭治郎のことだ。挑発をまともに受けて返してしまったのだろう。彼の性格を知っているからそうだと思えるけれど、彼のことを知らない善逸は折れた腕を凝視しながら震えていた。わかる、怖いよな。忘れてたけど俺も怖かったはずだ。人の腕って簡単に折れるんだなって……腕が痛くなったし。

 

「やっと帰れるよぉ、セイバー帰ろう……セイバー?」

 

 隊服の為に採寸をして服を受け取り、刀の為の玉鋼を選んだ後に解散となった。

 余裕そうに帰っていくカナヲちゃんが横を通り過ぎて、次に玄弥が機嫌悪そうに続く。炭治郎は疲れを見せながらも階段を降りていき、残った善逸は周りを見渡して俺を呼んだ。一人で帰るという選択肢がない善逸に苦笑しながら、後ろを向いていた彼の前で霊体化を解いた。

 

「お呼びですか、マスター」

「ヒョエッ!?!? って、セイバー!! 驚かさないでよ!! 現れる時は合図してって言ったじゃん!!!」

「いや、そんな事初めて言われたんだが……」

 

 ちょっと驚かそうとしただけなのに怒られた。いや気持ちはわかる。気配も音もしなかったのに急に何かが現れたら驚くに決まっている。俺だって心臓飛び出るぐらいには驚くかもしれない。

 次からはお願いね!! と涙目に訴える善逸にとりあえず頷いた。守れるかはわからないが、覚えている限りは守っておこう。

 

「ちょっと信用できないけど、まぁいいや! それより帰ろう! 俺もうくたくただよ、この山に入ってから何回叫んだと思う? 覚えてないけどさ、鬼に会う度に叫んでた気がするし逃げてた。うぅ……喉痛いし、何なら脚もちょっと痛い……」

「飴でも舐めます? 道中で貰ったんですが」

「……誰に?」

「見知らぬおば様に」

「アンタ、何かとなんか貰ってるよな……」

 

 で、要るの? 要らないの? そう問えば全力で首を縦に振って、取り出した飴を受け取った。そのまま口に含むと俺の手を取り歩き出す。藤が狂い咲く不気味でそれでいて綺麗な階段を共に降りて行く。

 

「まずは選別突破おめでとうございます、善逸。何か祝い物でも贈りましょう」

「いや俺殆ど寝てただけなんだけどね。逃げてた筈なのにいつのまにか鬼が倒れてたりして……これじゃ最初の任務で死ぬかもしれないし。いや死ぬな、絶対に死ぬ」

「死んだら困るよ」

「じゃぁセイバーも手伝ってくれよ! 任務! 俺一人じゃ無理だって! 選別突破したのも何かの偶然だしさぁ!! なぁ頼むよ! 頼む!」

「それはちょっと……」

「なんでぇぇえ!?!?!?」

 

 わいわいぎゃいぎゃい。

 選別終わりで疲れて要るだろう善逸と騒ぎながら帰路に着く。向かう先はきっと心配しているだろう大好きなじぃちゃんの元へ。厳しいけれど優しい彼の事だ、きっと美味しいご飯を作ってくれてるに違いない。俺は食べないけれど。

 

「さぁ一刻も早く帰りましょう。桑島殿が待っています」

「疲れてるんだからちょっと遅れても良くない!? ねぇ! ねぇ、セイ! アッ! 足速ッ!!」

 

 そうしてじぃちゃんの家に着いた瞬間、善逸は彼に抱かれてその背に手を回した善逸は大泣きしたのだけれど…………まぁ余談かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして更に十五日後。

 善逸の日輪刀が届けられ、それを抜いた彼の刀身は雷が走ったような色合いが現れた。光の加減によっては全てが黄色く見えるそれに見惚れていた彼らに苦笑いを零し、今度霊体化解く時には刀だけ霊体化させておこうと決める。だって刀身だけでなく、鞘も柄も鍔の形だって同じだからな。一つ一つ全て違う物を作り出すので全く同じ物はないって聞いている。ほぼ同じなら多分あるのだろうけど。

 

「チュン!チュチュン!!」

 

 刀を受け取った善逸の頭に一羽の雀が舞い降りる。善逸の鎹鴉もとい、鎹雀である。鴉ほど賢くはない筈の雀は必死にある方向を指している。多分任務なのだろうけど、善逸は首を傾げるばかりでわかっていないらしい。俺は長年、チュン太郎……あぁいや正式にはチュン太郎じゃないのかもしれないのか。俺は長年雀の鳴き声や仕草、後は立ててる音とかで言ってる事が何となくわかるようになったけれど、出会ったばかりの善逸はわからないだろう。

 じぃちゃんが鎹鴉が鴉じゃない事に驚いては、さっさと任務に行かんか! と善逸に無理矢理隊服を着せていた。そうして刀を持たされ、外に放り出された。嫌々とぐずるのは何時ものこと、顔面から着地した善逸は鼻血を垂らしながら涙を流しながら立ち上がり、じぃちゃんに銭やらご飯やらを持たされて送り出される。きっとここに帰ってくるのは大分先かも知れないし、もうないのかも知れない。それをわかっている善逸はじぃちゃんに抱きつき、えぐえぐと泣きながらその小さな身体に頭を擦り付けていた。

 

「お前ならやれる、大丈夫だ。善逸はわしが鍛えたんじゃからな」

「じ、じぃちゃん……っ、おれっ俺弱いけどさ、じぃちゃんに会えて良かった……! それとっ今更だけどさ、借金肩代わりしてくれてありがと……! でも鍛錬厳しすぎぃ!」

「本当に今更じゃな……!!!」

「そっそれに大好きだよ、じぃちゃん」

「善逸……」

「じぃちゃんとずっと一緒に暮らしてたい……っ、だからだからさ! 行きたくないよぉおおお!!!! 死ぬ!! 絶対に死ぬぅうう!!!! じぃちゃんの稽古も死ぬぐらいキツイけどさぁあああ!!!!」

「ッ!!! さっさと行かんか!!!! この馬っ鹿者ぉッ!!!!!!!」

「ギャン!?!?!?」

 

 あっ、殴られた。絶対痛い、あれは痛い。更に追い討ちで背中を義足で蹴ってる。うわ、痛いぞあれは。棒だし、棒だし! 蹴られてないのに思わず背中を撫でてしまった。うぅ蹴られてないのに痛みがある……気がする。

 

「うぇえええっ、行きたくないよぉ! 死にたくないよぉ!!」

「チュン!! チュチュチュン!!」

「わぁあ! 行くから!! 行くから突かないで!! 地味に痛いんだよっ!!!」

 

 まぁこうして我妻善逸の鬼殺は始まったのだ。

 

 

 

 

 

 




前話でもそうだったけど普通に三千文字超えて、今回は五千……どして?

善逸!!誕生日おめでとう!!!!!誕生日が入隊日(小説投稿日)だなんてこんな奇跡!!めでたいね!!
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