俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十九節 壺商人の天狗様。2/4

 

 

 

 

 夜。

 普通ならば寝静まった頃であろう夜半。満月が天辺より少し下辺りにいる頃、俺は宿の上にいた。

 両耳に強化魔術をかけ、手を添えながら目を閉じて集中する。聞こえてくる様々な音を選別しながら、目当ての音を探した。人の道を外れたが故に歯車が噛み合ってない様な嫌な音。ギギ、ギギ。微かに鳴ったその音に静かに目を開けた。

 

「いた」

 

 言うねと言うと隣にいた彼はこくりと頷いたのでもう一度目蓋を下ろす。

 

「一時、三つ。二時、一つ。三時、一つ。四、二。五、一。六、三。七、零。八、一。九、一。十、二。十一、一。十二、一。これは本当に微かに聞こえるだけだから、分身だな。でも一般人の程の力しかない刀鍛冶を殺るぐらいはできるし、炭治郎が言うには」

「増える、と」

「そう。だけどこれ全部潰せば多少マシになるとも思う」

 

 じゃぁ次、と言えば静かにしてくれたのに礼を心の中で言いながら耳を澄ます。

 

「……うん、本体だと予想できるやつは案の定点々としてるな。さっき言った中をうろうろしてるから気をつけて」

「了解」

「後もう一つ……あぁ、まずい近くにいる。この宿の中に潜んでるわ」

「え゛」

「でもすぐに仕掛ける気はないみたい。凄く怯えた音してるな……見つかるまで何もしないと思うけど、一応炭治郎には伝えておいて」

 

 でもまだ仕掛けないでと言っといてと言うと頷いてくれたので、もう一度里中に聞こえる範囲を広げた。先程の二つとは違う三つの音。強すぎて吐きそうなぐらいの不協和音とは違った、まだ弱い音。そして不協和音と言えど確かに音色はしっかりしていたのに、これらはどうにも噛み合わない音をさせていた。噛み合わない歯車同士じゃない、歯車の中に異物が入って異なる音を奏でる様なそんな音。少しだけこの音に思い当たるものがあって眉を顰めた。

 まずいな、と呟く。

 

「上弦の陸の時のようにイレギュラーがあると思ったけど、これは予想外。まさか殺されてないとは」

 

 いや上弦の陸の時に遭遇したあの鬼も確かに下弦の伍が殺された直後に頭領の手によってあの世に去っていっていたはずだ。なのに生前出会ったことがない下弦の陸に俺は出会った。だからこれもあり得ないことではない。

 ……ない、が。

 

「善逸さん?」

 

 俺の言葉を理解できてないのか怪訝そうに俺の名前を呼んでくる立香に、作戦変更するかもとだけ告げる。驚くだろうなぁと思いつつ目を開けて彼の方を見ると、やはりと言うか目を見開いたまま此方を向いている立香と目が合ってしまった。あまりにもその表情が想像したものそのままだったから思わず苦笑いしてしまう。

 

「と言っても、俺が独断で離脱するだけだけど、良い?」

 

 すぐ戻ってくるからさ、と安心させる様に笑えば気が抜けたのか同じように笑顔を浮かべた立香。その笑顔がどことなく引き攣ってる気がするのはきっと気のせいではないだろう。

 

「上弦以外に下弦の鬼が三人いるんだ」

「あっそれで……て、え?」

 

 下弦……? と呆然と呟く立香に頷いて肯定してみせる。サッと顔を青くした彼にまぁそんな反応するよなと納得した。立香は上弦の陸しか知らない、だがその上弦の陸は上弦の一番下なのにも関わらず、一騎当千のサーヴァントと鬼殺隊の柱相手にあそこまで大立ち回りしたのだ。最低でもその一個下となる下弦が三人もこの里にいる。それも上弦二人に加えて、だ。そりゃ顔も青くなる。

 だが立香は知らないのかわからないが、上弦と下弦には大きな隔たりがある。それこそ陸と壱という位が一つ違うだけでも倍以上実力が違うと言って良い。なにせ上弦は約百年間面子が変わっていないのだから、それと比べるのは下弦が可哀想というもの。

 ……まぁかと言って、下弦だって十二鬼月に変わりないので油断はせずに対処していきたいところだ。

 

「だから俺がスパッと斬ってくる。炭治郎は奇襲できないし、伊之助は煩いからな」

「そんなあっさり!? 下弦って結構強いんじゃないの!?」

「強いよ」

 

 俺は戦ったことないけどね、下弦とはいえ鬼舞辻に気に入られるぐらいだ。強いとは思う。だから能力もわからない彼らをまともに相手していては此方が殺られる可能性がある。なので、俺が奇襲を仕掛けることによってその確率を減らすわけだ。

 今回、上弦の鬼が奇襲してくるにあたって役割分担を決めた。流石に行き当たりばったりでは上弦の即席コンビには勝てないだろう。そもそも上弦の伍の能力で里中の人間が襲われるんだから、個々では殲滅に時間がかかる。目には目を歯には歯を数には数を……つまり此方も数で押し切る。

 最初に眷属を召喚する媒介である壺を一気に破壊し誘き出す、そこから激怒して一対一の戦闘に持ち込めればいいが十中八九そんなことはあり得ないので、もう一度召喚してくるだろう。そこで此方側で唯一殲滅能力のある風魔小太郎に宝具を放ってもらい、撃ち漏らした敵を現鬼殺隊が相手取る。その間に本体を叩く。まぁ在り来たりな戦法だがこれ以上有効な手が俺の無い頭では思いつかなかった。立香も賛同してくれたし、まだ良い方なんだろう。

 そして上弦の肆だが、彼は戦闘能力が高いので伊之助と炭治郎が相手をする。恋柱は里長の護衛、霞柱に至ってはどちらを相手するのかはこの際わからないのでそこは臨機応変に。

 雑、かと思われるだろうがこういう手合いはあまり得意ではない。柱として一応任務で指揮を取ったりはしてたが、結局のところ一人でする方が性に合っていた。合同任務じゃ上に立つ資格ねぇななんて落ち込んだものだ。

 

「だから、俺抜きで作戦進行してほしいけど」

 

 ちらりと立香を見ると彼は勢い良く頭を横に振っていた。時折見える瞳からは無理ですと雄弁に語っている様が窺えた。思わずにがわらいを零す。

 俺の担当はここで全体を把握すること。つまりこの耳でみんなの位置を把握し、敵の位置を教えること。まぁオペレーターみたいなものだ。通信機の代わりは立香が務めてくれる。

 

「すぐ戻ってくるつもりだけど、不安なら善逸を呼ぶな。彼奴なら俺以上の聴覚を持ってるから性能的には問題ないはず」

「善逸が善逸さん以上の?」

 

 今ふと思ったけどその呼び方ややこしくない? ややこしくない? ……そう。

 

〝マスター? 聞こえてます? 聞こえてるなら至急俺のところまで来てください〟

 

 それだけ告げて切る。えっ? という戸惑った様な声も聞こえたが無視して切ってやった。こうすればどういう事だ! と突っ込んでくるはずだ。理由も言わずに来いとだけ告げたのだから気にならないはずがない。

 あと何秒で来るかなぁと思いつつ周りを見渡すと、早くも呼吸を駆使して屋根の上に登ってきていた善逸を見つけてしまい目を見開く。

 

「セイバー! 今の何!?」

 

 思ったより早かったわ。

 

「俺! 先輩隊士ばっかとのころで見つけた同期に喜んでたらものすっごく睨まれて! 怖かって! そこにセイバーの念話とか届いて離れるきっかけになりました! ありがとうございます!!」

「なんて言って離れました?」

「ちょっと呼ばれた、帰ってこないかもしれない」

「上出来」

 

 あと多分その同期、不死川玄弥さんですね。風柱の弟でありながら、風柱に弟じゃないとかわかりにくい愛情表現されてる見た目程厳つくない性格してる同期。俺は生前少し話した程度でいつの間にか旅立って行ってしまってたけど……そっか、やっぱお前もいるんだな。

 

「善逸、ちょっと俺の代わりにここ頼まれてくれますか?」

「え?」

「俺の代わりをして欲しいんですけど」

「え、無理です」

 

 真顔でそんなことを言う善逸の頬を引っ張る。我儘言う口はこの口か? お?

 

「ひひゃい」

「お・ね・が・い・し・ま・す・ね・?」

「ひゃ、ひゃい」

 

 笑顔でそうお願いすると少し顔を青くした善逸が頷いてくれた。いやー助かりますーなんて礼を言いながら、頬を引っ張っていた手を離すと彼は頬を両手で摩りながら距離を取った。ちょっと警戒している彼に笑ってしまう。

 

「……セイバーってしのぶさんみたいなところあるよね」

 

 まぁ参考にしてるわな。

 

「詳しい事は藤丸さんに聞いてください。というか彼の指示に従うと一番手っ取り早いかと」

「あれ? 俺に丸投げ?」

「丸投げ。まぁ貴方なら大丈夫でしょ」

「信頼が重い」

「信用です」

「嘘だぁ」

 

 がっくりと項垂れた彼の頭を撫でながら、そういう事なんでと背を軽く叩く。しっかりしてくれ人類最後のマスター、否カルデアのマスターさん。一人の人間に指示を出すぐらい君とっては朝飯前だろうに。

 

「俺が駆け出してから約十秒間経ちましたら作戦実行で。多分もうそろそろ仕掛けてくると思うし」

「数は?」

「変わってないです。移動もさしてしてないですね」

「おけ」

 

 片手で丸マークを作って笑顔で答える立香によろしくお願いしますとだけ返して、いつの間にかそばに戻って来ていた善逸の頭を撫でた。前線でない為にあまり危険はないけれど、それ以上に善逸にとって酷なことを頼んだつもりだ。忌み嫌ってきたその聴覚を常に張り巡らさなきゃならないんだから。聞こえてくるんじゃない、聞こえる様にしなくちゃいけない。

 まぁ思ったより精神力を削られる作業だが、善逸なら大丈夫だという確信がある。何せ耳に関してはもう俺を超えてんだからな。

 

「強化魔術の方法は覚えてますね?」

「え、う、うん」

「よろしい。ないとは思うけど聞こえない時は使う様に」

「わかった」

 

 こくりと頷いた彼に頼もしさを感じながら笑顔でもう一度頭を撫でた。じゃ頼んだぜ、と軽く叩いてからその場を離れる。小さく困惑する様な声が耳に届いたが、善逸がなんとかしてくれるだろうと脚を動かした。

 目を閉じる。視覚からの情報が一切得られなくなり、代わりに聴覚を鋭くさせた。この場所から一番近い下弦らしき鬼の音目掛けて、一気に踏み込んだ。

 

「五、四、三」

 

 カウントダウンを呟く。うんうん此方に気づいた様子はなく、ただジッと潜んでいた下弦の頸を一と呟きながら刎ねてやった。は?と驚く様な声を出した下弦と振り返った俺は目が合ってしまったけど、まぁ今から何もすることできないよね? そう意味を込めて笑えば、鬼狩りめが! と口汚く罵ってくるが、上弦の鬼とは違い首を斬れば確実に死ぬ彼はもう死ぬ事が確定しているというのに何処か安堵した様な表情を浮かべ消えていった。最初の一言と全く違う感情に違和感を感じた。

 

「(下弦の陸まではいかないけど同じ様な音させてたし、下弦かな? なんて思ってたけど)」

 

 まさか同じ様な音をさせてたという事は、こいつもあの泥を入れられたのだろうか。拒否反応を起こしてしまえば理性を失い、本当の獣になってしまう様なあれを。

 元々下弦達は鬼舞辻の気紛れによって理不尽に殺された。けどさっきの様子だと、殺されてないとしても理不尽な扱いなのには変わりなさそうだ。忠実な鬼が死にたくなるって相当だと思うけど、何したんだろパワハラ上司。

 けど、本当にあの泥が入ってるなら頸を斬られても死なない可能性があるんだが……理性を保っていたし、下弦の陸と違って入れられたのが少量だったのかもしれない。

 

「うーん、わからん」

 

 わからないが、解る為にも一人ぐらい捕獲しておきたいな。

 そう思った瞬間に一斉に響き渡る陶器を壊す音に、始まったかと独りごちて次の場所へと向かった。

 

 さて、下弦達が異変に気付いて移動する前にやらないとな。

 

 

 

 

 

 




下弦を捕獲とかこりゃまた無茶なことを。
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