俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
あちこちから戦闘音が聞こえる。怒鳴り声、悲鳴、鬼達の気持ち悪い鳴き声。人の命が潰える音だけが聞こえないのが救いになっていた。
セイバーに後を任されて数分。里中に耳を澄ませ、逐一鬼のいる位置を藤丸さんに教えてはまた聞く作業に入る。それを繰り返すだけなんだけど、予想よりしんどい。聞こえてくる音の選別、その音の位置、更にはたくさんいる鬼殺隊士の音も聞き分けなければならない。無茶が過ぎる。無茶が過ぎるけど……他ならぬセイバーに任されたんだ、やるしかない。
「善逸、大丈夫? 休む?」
俺の顔色を見たのか藤丸さんがそう言ってくれるけれど、黙ったまま首を横に振った。みんな命賭けて頑張ってるのに、危なくない仕事をしてる俺だけ休むわけにはいかない。いくらしんどくても、これは必要な事なんでしょ? ならするよ。
「なら良いけどさ……隊士達は今どんな状況?」
「負傷者はいるけど、戦線離脱した人はいないよ。今のところ優勢」
「炭治郎達は? あっ大人の方の」
「一応ここから離してくれたみたい。音が少し遠い」
「了解」
戦闘中に念話するのもアレだから助かるぅなんて呟きながら、周りを見渡す藤丸さん。アレって何だろうか? とても抽象的な言葉だ。独り言のようなものだから気にする必要も無いんだろうけども。
「あ、そうだ。霞柱は今どこに?」
ん? 誰?
「女の人じゃない方の柱の人、今何してるかわかる?」
「流石に見えるわけじゃないからそこまではわかんないけど……えーっと」
女の人の方の柱は里長がいる屋敷に護衛としていると聞いているから、その他で強い人の音を探せば良いんだよな?
鬼と隊士の音しかないこの中、ここに在住していた鬼殺隊士は殆どの人が強い音を出していたけど、それ以上に抜き出た存在は確かにいた。周りと比べれば小さい身体なのか音自体はあまり大きくないけど、それでも聞こえてくるその心臓の音は一際力強く鼓動していた。
多分この人が霞柱かな? と推測しつつ、藤丸さんに位置を伝える。
「竹林、の方? かな? 多分。正確な居場所までわかんないけど」
「いや音だけでそこまでわかってるんだから充分凄いって」
「え、そう? うぇへへ、そっかな?」
あまりこの耳について褒められたことないから思わず照れてしまって笑ってしまう。みんなが戦ってる最中だから笑っちゃ駄目だけど、どうしても抑える事ができない。口の端から零れる笑い声は炭治郎や伊之助に散々変だと言われたものだ。
そうしたら藤丸さんが変な咳払いをしたのに驚いて思わずそちらを見る。何故か彼は満面の笑みで俺の言葉を肯定してくれた。
「そうだよ(かわぇ)」
そうらしい。
「あ、あと近くにも違う何かの音がする」
柱と思われる人の近くから何かを研ぐような音がする。この音は知っている、蝶屋敷でアオイちゃんが台所で包丁を研いでいた音と似ている。ただアオイちゃんのと違うのは、洗練された綺麗な音だという事。していることは同じなのに全く違うそれはずっと絶え間無く聞こえてくる。なのにそれをしている人の音が聞こえない。強化魔術をかけて、もっと耳を澄ませなければ聞こえなかった。
なんだろうこれ、一体化してる感じ? でもいる事にはかわりないしと藤丸さんには聞こえたままのことを伝えた。
「何かを研ぐ……ぁ」
「? 藤丸さん?」
「おーけー、わかった。誰かはわかったよ、他に音は聞こえない?」
何かに納得したのかしきりに頷きながらそう問うてきた彼にもう一度耳を傾けてみてから、俺はこくりと頷いた。いる、確かにもう一人。
「多分禰豆子ちゃんより下の子だと思う、子供が一人いる」
「近くに鬼は?」
「分身ならいる」
「なるほど」
ただ苦戦している様な音はしてないと、鬼の分身だろう音は消えたり聞こえたりを繰り返してるから霞柱とやらがきっと一刀両断しているんだと思うけど、量が量な為に攻めあぐねてるみたいと、そう自分の考えを藤丸さんに伝えれば、彼はふむと何か悩む仕草をして俯いた。
「多分守りに入ってるんだろうね……そうだなもう一人ぐらいいても……」
そこまで言ってふと此方を向いた。その顔はいつもの様な優しい顔ではなく真剣な表情で、少しだけピリッとした空気が走った気がした。思わず涙目になる。嫌な予感しかしないんだけど?
「いける?」
「」
ほ、ほらぁあああ!! 嫌だよ! 俺が行くの!! 戦ってんの柱!! 俺は一般隊士! 手伝うとか無理だって!!
俺じゃないよね? そうだよね? と最後の希望を目で訴えながら、お、俺? と自分を指差すと藤丸さんはコクリと頷いた。はい死んだー!
「イヤァアアアア!! 無理だって! 無理無理!! 俺が行ってもチュン太郎の涙程しかねぇよ!? 寧ろそれ以下!! 助太刀に入ってもあっさり殺されるか霞柱に邪魔って言われる未来しか見えねぇよ!!! そもそも霞柱って何!? 霞の呼吸!? 知らねぇよそんなの!! 絶対雷と合わないでしょ!! 犬猿の仲かよってぐらい合わないでしょ!! だから俺以外でお願いしますぅううう!! 後生ですからぁああ!!!」
「いけるよね?」
「疑問形なのに何故確信を持って問い掛けてくるの藤丸さん!?!?!?」
無駄に意志が強い!
呼吸な相性とか知ってる!? って問いかけても、あぁ風は水に強いんでしょ知ってるとか頓珍漢な事しか返答してこない藤丸さんに大丈夫いけるとか言われても無理だよ! 俺!! なんで風は水に強いの! むしろ弱そうなんだけど!?
というか何故霞柱が鬼殺隊士ではないだろう人たちを守ってんの? この里にはもう里長以外は逃げて隠れてるはずなのに、二人だけ逃げ損ねたんだろうか。作戦実行前の夕方、里長の言葉で里には人っ子一人残らずも抜けの殻になっていたはずだ。彼らだけでは鬼には到底太刀打ちできないから。まぁ俺だって? 弱いから太刀打ちできませんけどね!
「それなら俺が行きましょうか?」
この声は……!
「セイバッ、ァアアアアア!?!?」
帰って来たんだ! と勢い良く振り返ったは良いけど、セイバーが持っているものを見て目をひん剥いてしまった。反射的に藤丸さんを連れて距離を取る。屋根の端まで移動した俺は藤丸さんを背にして、なんでなんでとセイバーに理由を求めた。
「鬼なんか持ってんの!?!?」
俺の悲痛な叫びに不思議そうに首を傾げていたセイバーはやがて納得した様に頷いて、そりゃ持ってきたからなと言う。鬼は物じゃないんですけど!?
ちらりと見えた見た目では年頃の女の子って感じだったけど、額から生えた二本の角と充血した瞳と青白い肌はどう見ても鬼だと主張していて、聞こえてくる音だって禰豆子ちゃんみたいに小さな音ではなくちゃんとした鬼の音だった。上弦の陸には及ばないけど、俺が今まで出会った他の鬼よりは確実に強いとわかる音に身体が震える。恐怖で脚が動かなくなりそうだ。
てか、さっき見た瞳には“下肆”って書いてあったんだけど、それまさか下弦の……?
「こ、殺して。もういい、死にたくないっ、けど、生きられない。あの方にも捨てられてっ、ぅっうう」
なんかめっちゃ怖がってるー!?!?
鬼だってわかる音を覆い被さるように負の感情の音が響いていた。ポロポロと涙を流す姿は痛ましくて、これが人を食べた鬼じゃなかったら即座に手拭いを取り出して拭いていたね! 女の子が泣いてんだから見過ごせないけど、この人は前科(人食い)があるので近寄る方が怖い!!
だけどまぁ鬼とは言えど女の子を泣かした罪は重いので、その贖罪として下弦の鬼を連れてきた理由を話して欲しい。ジッと藤丸さんと一緒になってセイバーを見つめる。俺たちの行動を見たセイバーはふぅと息を吐いて、そうだなと話し始めた。
「善逸、この鬼に違う音が混じってるのは聞こえる?」
「?」
違う音?
セイバーにそう言われ、よぉく耳を傾けてみる。鬼特有の軋んだ音に加えて、確かに何か他の音がする。大きな感情の音を無視していれば聞こえるその音は鬼の音とは違っていて、でもそのせいでどこか音全体が濁って聞こえてくるような。
「聞こえたけど……」
訳がわからず首を傾げると、セイバーが苦笑した。
「まぁそういうことです」
「どういうこと!?!?」
意味がわからないんだけど!? と叫ぶけれど、対象的に藤丸さんは何かを思い出したのかあーと意味のない言葉を零していた。何かわかったのだろうか。俺の後ろからひょっこりとセイバーを見ている彼の顔には恐怖の色は見えず、代わりにもの凄く真剣な表情を浮かべていた。
「サンプルとして連れてきたのはわかるけど、どうするの? 解剖でもする? ……言っておくけど俺はそういうの好きじゃないよ」
か、かかか解剖!? 鬼を解剖するってことだよね!? 何でそういう発想になんの!? 俺、藤丸さんのことが一気に怖くなったんだけど!? そんでもってなんでそんな事言われてセイバーは何も言わないの!? あと解剖って聞いた瞬間、鬼がめっちゃ震えだしたけど気にならないのかなー!?
「……解剖しても何も出てこないでしょ。そもそもできない、俺には医学の知識も魔術に関しての知識も素人同然ぐらいしかないからな。それに鬼を解剖するってなると、生きたままになる。俺はサディストじゃないし、やらないよ」
「どうだか」
「藤丸さんの中の俺の人物像が気になるんだが???」
「下弦の鬼を連れてきた時点でマッドサイエンティスト味が……」
「嘘でしょ」
「嘘だよ」
嘘かよ!!!
「まぁどうせなら藤丸さんにも聞いてもらおうと思って。信じられないだろうけど、俺の口から言うよりは信憑性あるでしょ」
「なんで味方の善逸さんより敵の鬼の方が信憑性あるって思ったのかはさておき、なんの話?」
藤丸さんがそう問いかけたのと同時にセイバーは下弦の鬼の方を向いて、さっきの話をもう一度と言った。どうやらさっきも同じ事を話させられたようで、彼女は怯えながらもはっきりと復唱する様に話し出した。
「わ、私は下弦の肆で、ここには上弦の方達を手伝う様言いつけられて来ました。ほ、他には下弦の参と弐がいて、それで肝心の上弦からは無視されてしまって、その……」
「俺が来たと」
セイバーの言葉にこくりと彼女が頷いた。
「あ、あの殺すならさっさと、他の下弦を殺してたのは知ってます。もういやなの、いや、だから」
「それは無理だってさっきも言ったぞ」
「……どうせ生かして帰す気はないんでしょ」
「元と言えど鬼殺隊士であれば、その質問に答えるのは簡単だ。ない」
セイバーがそう答えた瞬間に彼の拘束を解いた下弦の鬼はセイバーに襲い掛かった。爪が伸び、鋭い刃となってセイバーに降りかかるが、彼はなんてことないように抜いた刀で弾き、そのまま両腕を斬り落とした。
「ぁっ、ぁぁあああアアアアアア゛!!」
絶叫が響く。血をぼたぼたと屋根瓦の上に垂れ流しながら、下弦の鬼は座り込んでしまった。苦しんでいる音がずっと響き、下弦の鬼は両腕を治す事なく蹲り続ける。
「痛いだろ? 鬼になって鈍くなった筈の痛覚が蘇ってる。それでも人によってはそうでもないだろうけど、君は違うみたいだ」
ふーふーと息を吐き痛みを押し殺す下弦の鬼の前に蹲み込んでは、刀をピトリと首に引っ付けた。鬼の身体が震えだす。
「殺してって言ってたのにいざ死ぬとなると怖いんだ」
「ち、ちがっ」
「違わないだろ。誰だって死ぬのは怖い、それは鬼だってそうだ。死にたいと思ってても死にたくないと根底ではずっと思ってる」
死にたくないなら質問に答えて、という言葉に何度も頷いた彼女の表情と音は恐怖一色だった。やっぱりあんな事を言ってても死にたくはなかったらしい。でも鬼殺隊士としては人を殺してる鬼を生かしていては駄目なはずだけど……セイバーはサーヴァントだからもう鬼殺隊士じゃないから、どうするんだろうか。
すぅと息を吸ったセイバーはにこりと笑いながら、下弦の鬼へと質問をした。
「鬼の首魁は誰だ?」
「……ぇ」
えっ。
何その質問。此方側としてはわかりきってる答えだ。鬼舞辻無惨、それが正解だけど……鬼にとってはその質問は禁忌に値する。だって全ての鬼にかけられた呪いによって鬼舞辻無惨のことに関する事を話せば殺されるのだから。
それをセイバーが知らないはずがないのに、彼はそれはそれは楽しそうにニコニコと笑うだけだった。同じ顔をしていてもその穏やかな笑みを浮かべて地獄の様な質問をした彼に身震いしてしまう。
「さぁ、早く答えて」
いや、鬼畜か!?!?!?!?
二次で色々と利用されるむかごちゃん。ごめんね、君が可愛すぎるのがいけないんだよ。