俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十節 鬼、おに、オニ。1/4

 

 

 

 

「鬼狩りが二人、小さな刀鍛冶が一人。良いですねぇ、とても良い。特に刀鍛冶。私の芸術の素材にとっても良い、ひょっとこのお面がとても素敵ですねぇ」

 

 じろじろと観察するように此方を見る上弦の伍。壺から煙の様に現れたあの鬼は縦に並んでいる眼球をギョロリと動かしては笑顔になる。あっ笑い方は普通のと同じなんだな、お前。

 

「あの方の御命令でこの里を襲撃したは良いものの、いるのは鬼狩りばかり。鬼狩りは私も飽きました故、楽しみにしていたのですがァ、残念残念、至極残念。全く、全然、里に人間がいない」

 

 ヒョッヒョッヒョと俺が言うのもなんだが、気持ちの悪い笑い声をあげた上弦の伍は眷属達を俺たちに仕向けながらも自分は攻撃する気はないのか、うねうねと壺の上で揺れている。本ッ当に気持ち悪いな!

 

「三日三晩考えた私の芸術作品を作り上げる良い機会だと思っていたのですが、本当に残念です。えぇ、えぇ、ですが! ここにいる! こんなところに隠れてらっしゃった」

 

 嬉々とした表情で魚達を作り出す。ぽこぽこ、ゆらゆら。いつの間にか現れた新たな壺からも大量の魚が出現した。

 

 ———血鬼術・一万滑空粘魚(いちまんかっくうねんぎょ)

 

 小さな魚達がその名の通り大群としてやってくる。何か霧のようなものを放出しながらやってくるが、俺の勘が近づけさせるなと言っている。どう言う血鬼術を使うのかあまり覚えていない。なのでどういった脅威があるのかもわからない。こういうことなら座で鬼滅の刃を復習しときゃ良かった。いやできるかわからんけど!!

 

 ———捌ノ型・改 旋風迅雷・波!

 

 魔力を刀に這わせ、捌ノ型を前方に放つ。旋風が雷を纏った刃となって眷属達を斬り刻む。大丈夫、霞柱や小鉄君には当たっていない。そんなヘマはしないけれど、広範囲の攻撃であるから万が一はある。あっ威力は抑えてるよ、後ろに小屋があるしやり過ぎるとここら辺一帯の竹が無くなるからな。

 魚達が四散する。小さな肉塊となって地面に落ちてはほろりと崩れていった。日輪刀で斬ってないから、再生するかなと思いきやそうではないらしい。所詮は眷属ってところなのだろうか?

 

「ん? んんん? 今のはー、ただの剣術じゃありませんねぇ。一体どういう仕組みなんです? 私、猛烈に気にな———おや?」

 

 面白そうに俺の捌ノ型を見ていた上弦の伍は突然俺の方を向いたかと思えば、何かを思い出したかのようにまさかまさかと呟いている。

 

「おやおやおやァ? そこの鬼狩り、鮮やかな目立つ色をした鬼狩り」

 

 上弦の伍の小さな手で指差された先にいたのは俺。霞柱でもなく、小鉄君でもなく、俺の方に向いた鬼はヒョヒョと笑みを浮かべる。

 というか派手で悪かったな、派手で。あの派手柱よりマシだと思いたいんだけども。

 

「えぇ、えぇ貴方です。貴方、鳴柱を名乗るさーゔぁんととやらで御座いませんか? 上弦の壱である黒死牟様から逃げ延び、上弦の参である猗窩座様を殺してくれゴホン、殺したあの方に仇なす不届き者」

 

 鬼舞辻の名前はNGだけど、他の上弦の名前は良いのか。よくわからん判定だなと思いつつ頷く。確かに黒死牟から逃げて猗窩座を討ったサーヴァントなら俺しかない。猗窩座を討ったというだけでは俺だけじゃないからな、違ったんだろうけど。

 何故そんなことを聞いてきたのか? と理由を考えてからすぐさま思い当たる。そういえば鬼舞辻のサーヴァント達もそんなこと言われてたとか言ってたような。

 驚いたように此方を見る霞柱と小鉄君を無視して上弦の伍の言葉を待つ。俺の頷きにやはり! と小さな手を合わせて叩いた。

 

「あぁ、申し遅れました。私、上弦の伍の席に置かさせて頂いています、玉壺と申す者。この度は刀鍛冶の里の襲撃を命じられ参上致しましたが、それ以前に承った御命令がありまして」

 

 貴方様を殺すことで御座います。

 

 ———一万滑空粘魚

 

 またそれかよ! 芸がねぇな!!

 

———霞の呼吸 陸ノ型

 

 もう一度捌ノ型で追撃しようとすれば、霞柱が一歩前に出たのを見て止める。代わりに小鉄君がいるところまで下がり、梅雨払いに勤しんだ。

 

 ———月の霞消(かしょう)

 

 掴み所のない攻撃がその名の通り一万匹いるであろう魚達を切り刻んでいく。アジの群れに見えるそれらは仄暗い霞に包まれ、姿を消ていった。

 うん、やはりというか善逸の言う通り雷の呼吸とは合わないなってはっきりとわかる。合わせることができない、俺が今攻撃をしたならばあの霞は直ぐに散ってしまうだろう。そんなことをすれば霞柱の怒りを買うことは明白だな。

 

「僕を忘れないで欲しいな」

 

 いやそれブーメラン、とまでは言わないけどおまいう状態ではある。まぁ大正の人間には意味が通じないので実際には言葉にしません。

 しかし霞柱の言葉で彼を認識したらしい玉壺は気持ち悪い笑い声をあげながら、目の部分にある口をにんまりと細めた。

 

「ヒョ、ヒョヒョッ! 霞の呼吸とはこれまた珍しい。見たのはいつぶりでしたかな……ん? んん? おや? 悪鬼滅殺、悪鬼滅殺! これまた恐ろしい文字を! ははー! 柱の方でしたか。小さすぎて気づきませんでした」

 

 ———ブチ。

 

「へぇ? 奇遇だね、僕も君が上弦だとは思わなかったよ。えーっと、なんだっけ? 変な魚。一瞬で消えたよ? 弱すぎ。本当に上弦の伍?」

 

 ———ブチチ。

 

「ヒョッヒョッヒョッヒョ」

「ふふっ、ふふふふふふっ」

 

 ひ、ひゃーー! 怖ー!

 お互いにニコニコと笑い合ってはいるけど剣呑な雰囲気だ。根本的に相容れないのだろうか、一触触発の雰囲気だ。怖すぎるので小鉄君を小屋の中へと誘導してから、行く末を見守る。あの状態だと自分が攻撃すると言って聞かなさそうなので、攻めは霞柱に任せて俺は守りに徹すれば良いはずだ。うん、多分。

 そうして笑い合って数秒、霞柱が刀を翻して玉壺へと突撃する。そのスピードは流石柱なことあって速いが、柱なんて相手を何回もしたことあるであろう玉壺は慌てることなく斬撃をスルリと躱し、いつの間にか居た新しい壺の方に現れる。壺の間を瞬間移動できる能力に眷属を召喚できる血鬼術、割と厄介だな。だからこそ上弦なんだろうけど。

 

 ———千本針 魚殺!

 

 出目金の様な魚が一匹、二匹、合計四匹が壺から飛び出す。ぷくぅっと頬を膨らませたかと思いきや、そこから大量の針を吐き出した。咄嗟に広範囲に魔力放出をして小屋を守りきる。針とはいえ血鬼術だからか素材は鉄ではないらしい、感電することなく勢いを落としては地面に転がる。塵に還っていくのを横目に見ながら、霞柱はどうなったのかと姿を探した。

 

「(針なんだからハリセンボンかと思いきや違ったな……霞柱は、無事か。流石)」

「攻撃が雑すぎ。雨かと思っちゃった」

「……(というかなんか人違くない??)」

 

 無表情ながらも上弦の伍を煽る霞柱に首を傾げてしまう。君ってそんなキャラだったっけ? もっとこう全てがどうでもいいみたいな顔と雰囲気醸し出してたのに。よくわからんな。

 

「ヒョッヒョ、小五月蝿い口ですねぇ。ですが、そんな事を吐けるのも今の内ですよ」

 

 何やら余裕綽綽な様子でそんな事を宣う玉壺。虚勢かハッタリか。事態は先ほどから何方にも好転していない。頓着状態であるのにも関わらず、まるで自分が勝ったかのような態度に違和感を覚える。いや、百年以上生きた鬼故の傲慢とかだったらいいんだけども。

 そう、そこまで考えて。

 

「ぁっがっ」

 

 突然動きを止めた霞柱に驚く。彼の方を向き、聞こえてくるのは何かが軋むような音。動かそうとしても動かせない、そんな音が彼の身体から聞こえた。

 何が? 何が起きた??

 

「やっと効いたか」

 

 そんな玉壺の呟きにハッとする。思い返すのは最初に放たれた血鬼術。何か小さな霧のようなものを発しながら突撃してきた一万匹の魚。まさか、まさか。

 

「毒か!?」

 

 俺の言葉に玉壺はにんまりと笑った。

 

「正解です。正確には神経毒。ヒョッヒョ、とある魚の毒を模したものですが、これがこれがよく効くのですよ。材料達に暴れられて困る時などには重宝しています」

 

 いやそんなゲスい事誰も聞いてねぇし! とある魚っていうか神経毒の時点でフグの毒ですね! わかります!! 霞柱が死ぬ!!

 けれど毒の治療をする術を俺が持っているわけもなく、ただただ焦って霞柱に近づこうとすれば相手から制止された。来るなと掌を此方に向けては、重い咳を吐いている。フゥゥという独特な呼吸法が聞こえることから全集中の呼吸で進行を遅らせてるんだろうけど、そんなの応急処置でしかない。動いてしまえば毒が回るのが早くなるだけだというのに、彼は立ち上がった。

 

「フゥ、これぐらいっはっ、なんともなヒュッ、ないから」

「いやなんともあるからー!?」

 

 それでなんともないって言われても信じられるか!

 

「神経毒だって言ってるよ!? 筋肉の麻痺やら何やら神経が通ってるところは麻痺するかもしれない!! そのまま呼吸止まるかも知んないんだぞ!?」

「そうです、そうです。そのまま死ねば宜しい」

「テメェは黙ってろ!!」

「ヒョヒョッ」

 

 会話に入ってきた玉壺に怒り散らしながら霞柱に近づく。筋肉が麻痺しているのか身体が小刻みに震えていた。それでもどうにか刀を構え戦おうとする姿に、息を呑んでしまう。

 小さな身体だから毒が回るのも早いはずだ。あの魚達を全て斬ったとはいえ近づき過ぎてしまった彼は大量に毒を吸っている。普通のフグの毒でも少しだけ摂取するだけで死に至る可能性があるというのに血鬼術の毒を吸ったんだ、苦しくないわけがない。

 呼吸を続ける霞柱を目にして俺はスッと目蓋を閉じ、そして開く。もう霞柱に合わせるのはやめよう。彼を尊重するのも、彼に戦わせるのも。この戦いで彼が成長するかもしれないけど、それ以前に死んでしまえば意味はない。死なない保証なんてどこにもないんだから、これ以上俺が手出しせずにいられるわけがなかった。

 霞柱の前に立ち腰にある刀に手を添える。キッと玉壺を睨みつければ、ヒョヒョと笑われた。

 

「今度は貴方が相手ですか。ヒョヒョ! 良いでしょう。その頸、私の傑作の壺に入れてあの方への献上品と致しましょう」

 

 俺の頸を献上したときの事を思い浮かべてるのか、にまにまと笑う玉壺にハッ! と鼻で笑ってやった。

 

「誰が殺られるか、バーカ」

 

 

 

 

 

 

 




夏休みの宿題を最終日に急いで終わらせる奴に書き溜めができるわけがなかった、お久しぶりでございます。
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