俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十節 鬼、おに、オニ。3/4

 

 

 

 ドォン! と雷鳴が轟き、焼け焦げた匂いが鼻につく。覚えのあり過ぎるその匂いに炭治郎はそうかと呟いては、目の前の鬼から来る攻撃を凌いだ。

 

「蘭八郎! 今の変逸か!?」

 

 少し離れた場所で攻撃を仕掛けていた伊之助が声を荒げながら確認を取ると、炭治郎は頷いた。

 

「そうだけど、心配はいらない!」

「なんでだ!」

「マスターから何も連絡がないからな! だからこっちはこっちで集中しよう!!」

 

 マスターである立香と離れるとき、報告すべきことがあれば念話で言ってくると言っていた。現に今戦っている相手である上弦の肆が宿の中に潜んでいることを教えてくれたし、立香の状況判断能力については炭治郎も信頼している。戦闘で的確な指示を出す様な男だ、それこそ何かあれば絶対に連絡ぐらいはしてくるだろう。

 だから大丈夫だと伊之助に言っては水の呼吸を繰り出した。斬ッと相手の血鬼術を斬り伏せて距離を取る様に後退した。途中で伊之助が合流し、背中合わせになって刀を構え直す。

 

「いたか?」

「いたけど、アレん中だぜ? ていうか見えるんじゃねぇのかよ」

「うーん、一種のスキルみたいになっててな? 俺の鼻や伊之助の肌とは違うみたいで、使うのに魔力がいる。なるべくマスターには負担をかけさせたくない」

「ケッ。そうやって出し惜しみしてっと、足すくわれんぞ!」

 

 一対の刃が風を纏っては血鬼術である木々を斬り落とした。

 

「それも、そうだな!」

 

 炭治郎も同じように斬り伏せては伊之助の言葉に同意して苦笑する。

 竜の顔をしたそれらは斬り落とされた事に怒ったのか咆哮を上げながら個別に血鬼術を放ってくるが、今更食らうわけがないと炭治郎達はその場を離れてこれらを操っている本体へと肉薄していく。

 

「忌々しい、忌々しいぞ! 極悪人共!! 大人しく殺されよ!! 生きる価値もない! 屑めが!」

 

 少年の様な姿を取っている上弦の肆がそう叫び、背中に備え付けられた鼓を叩く。“憎”と書かれたそれを叩く仕草は血鬼術を発動させるためのキーであり、その首に刃が届くというところで木竜に食い付かれ離される。

 微妙に刃が振れない。伊之助はすぐさま脱出したが炭治郎はそうでもなく、くっそと悪態を吐きながらも己の妹の名前を呼んだ。

 

「禰豆子ッ!!」

 

 ———血鬼術

 

「ムーーッ!!」

 

 ———爆血(ばっけつ)!!!

 

 轟ッと木竜達が焼かれていく。たった数滴の血を媒介に発動された禰豆子の血鬼術は数秒足らずで相手の血鬼術が炎に飲み込まれた。相手の怒りの声が聞こえてくる。

 燃えた木龍から脱出した炭治郎は離れた場所にいた禰豆子に近寄り、ありがとうと礼を言いつつ刀を正面に構える。あぁもうどうしてこうなった。

 生前含めて二回めの戦い。相手の血鬼術の内容を知っているという最大のアドバンテージを持っていながら、この体たらく。追い詰めたのはいい、分裂するのはいい、複合するのはいい。でもなんか、生前より強くなってないか?

 上弦の肆の鬼である半天狗が作り出した憎しみの分身、憎珀天(ぞうはくてん)。木の竜を操る六番目の分身。生前にも炭治郎は戦った事があるが、そのときよりも強く感じるのは何故だろう。

 燃えて崩れ落ちていく木竜達を見て憎珀天はまるで呪詛を吐く様に血鬼術! と叫んだ。

 

「鬼だけを! 焼く血鬼術! あぁ憎たらしい! どうして悪人共を庇い、善を成す存在である俺の邪魔をする! 人間は悪だ! 鬼は善だ! ならば俺の側に付くのが道理! 何故だ! 鬼の娘よ!」

「ヴゥウウウッ」

「何も答えず威嚇するか……ならば、貴様も悪だ」

 

 死ね。

 

石竜子(トカゲ)よ!!」

 

 鼓が鳴る。同時に生み出される木の竜達は主人を守ろうと咆哮を上げる。五体の竜達はその何もない口を開けてはそれぞれの血鬼術を放とうとしてくる。

 

 ———宝具限定開帳!

 

「伊之助ェエエエ!!」

 

 叫ぶ。

 ひたすらに信じて叫ぶ。名前だけを読んでいて内容も告げていないけれど、伊之助は確かに肯き炭治郎の要求に応えようと竜に決して劣らない咆哮を上げながら一直線に鬼へと向かっていく。

 考えるのは後だ。あの少年の様な鬼が出たということはそれだけ上弦の肆を追い詰めたのには変わりない。それに前回と違うこともある。風向きは自分たちに向いていた!

 

「愚直! 愚か! 石竜子の餌食となるが良い!!」

 

 五体のうち一体が伊之助に向かう。口を開けて、今か今かと獲物を待ちわびる。

 確かに単純な動きだろう、ただ真っ直ぐに進むだけの猪など躱すのには人には難しけれど鬼には容易い。だがひらりひらりと赤い布を垂れさせ操るのはできまい。

 

 ———水の呼吸 玖の型

 

「させるかッ!!」

 

 ———水流飛沫・乱!

 

 水飛沫をあげて縦横無尽に駆け巡る。雷、風、音が嵐となって炭治郎に襲い掛かるが、それら全てを川に流れる水のようにスルスルと避け、炭治郎の足元から水が湧き上がっては泡沫となって消えてゆく。それぞれの竜達の頭を足場にして伊之助の前を塞いだ竜は。

 

 ———ヒノカミ神楽!

 

「気にせず行け! 伊之助!!」

 

 ———灼骨炎陽(しゃっこつえんよう)!!

 

 炎の竜巻に飲み込まれて首を落とされる。突如として出現した昇炎竜は次々と襲い掛かる竜達を斬り刻んでは、火の粉を散らした。

 

「グァハハハハハ!! 伊之助様のお通りよォオ!!!」

 

 ———獣の呼吸 玖の牙

 

「伸・うねり裂きィ!!」

 

 伊之助の関節が盛大に外れる。伸びた両腕の先にある刀の形をした牙が憎珀天へと迫る。目指すは心臓、その中に鬼はいる。

 

「そう簡単に殺せると思うなァ!」

 

 真っ直ぐと伸びた腕。しかし関節を外しているからこそ両腕をしっかりと支えることはできず、憎珀天が持っているバチで軌道を簡単に逸らされた。しかしそれでいい、注意を伊之助へと向けさせる事ができた。それだけでいい。

 

 

 ———ヒノカミ神楽

 

 

 ゆらりと炎が視界の端で舞った。

 

 

 ———斜陽転身(しゃようてんしん)

 

 

「何ッ」

 

 落ちた首、回る視界、そして立っている自身の胸から生える腕、その中にいる本体に憎珀天はありったけの憎悪を以って叫んだ。

 

「離せッ!! 離せ離せ!! 卑怯な奴らめ! その小さき者を三人でもって虐めるか! 見よ! 力もない! 縮こまるしかない小さき老齢を貴様ら極悪人どもは!!」

 

 斬。

 本体を失った分身は真っ二つに裂け、その今さえも二つに割れた。再生できない。本体は無事である故に何度でも生き返る事ができる身体が言うことを聞かない。守らなければ、そう思うのに手足は動く事ができなかった。

 ぽたり、と目の前に血が垂れてくる。轟々と燃える刀は正しく憎珀天の血鬼術を焼いた炎と同じで、そのせいで再生できないと理解した憎珀天は卑怯、卑怯だと責めて、頭を四分の一にされた。

 

「卑怯なのはどっちだ」

 

 低く、唸る様な声が聞こえた。

 

「別に卑怯だと責めるのは良い、事実だから。俺だって座に昇華されてからは卑怯な事は沢山した。数え切れないほどした……したが、お前みたいに自分の事を棚に上げて責めたりはしない!!!」

 

 禰豆子!! と炭治郎は叫ぶ。きつく握られた小さな上弦の肆が血に濡れながらも燃え盛った。しゃがれた声の悲鳴が辺りに響く。

 

「やめろ! やめろ!!」

「相手を卑怯と責めるならば! 自分の罪を認めてからにしろ!!! 上弦の肆!!」

「やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろォ!!! 俺は悪くない! 俺はおれはオレはおれはおれは!! 儂は悪くないィイイィ!!!! 悪いのはぁあああァアアア!!」

 

 

 ———ザシュッ。

 

 

 頸が斬られた。小さ過ぎる頭がぽとりと地面に落ちて潰れた。ぁ、ァ、くびを、きられた。

 ほろほろと半天狗と憎珀天が崩れていく。禰豆子の掌で本体が消えていき、その様を憎珀天はずっと見つめていた。

 

「(守らなければ、まもらなければっ、極悪人共から、小さき弱き者を)まもらな、け、れ———」

 

 塵に変わる。空に消える。伸ばした手さえも、崩れ落ちていった。

 それらを見届けた炭治郎は刀を鞘に戻して、踵を翻す。もう用はないとばかりに冷たい視線を隠しもせずに半天狗と憎珀天がいた場所を一瞥してから、伊之助と禰豆子に行こうと声をかけた。同じ様に彼らもその場所を見てから炭治郎を追いかける。

 

「容赦ねぇな。久しぶりにゾクッとしたぜ」

 

 そんなに嫌いか? あいつ。

 そう問えば、炭治郎は伊之助の言葉にきょとんとしてから首を捻る。うーん?

 

「…………嫌い、なのだろうか?」

 

 よくわからないと言う様に告げた言葉に、伊之助と禰豆子は顔を見合わせて肩を竦めた。

 

「重症、だな」

「むーん」

「えぇっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上弦の鬼の音が消えた……」

「えっ? 本当?」

 

 思わずといった風に呟いた俺の言葉に藤丸さんが反応する。それにコクリと頷き返してもう一度耳を澄ました。

 

「……うん、やっぱり聞こえない。眷属? だっけ、それも消えかかってるのが見えるし」

「あっ本当だ。じゃぁ善逸さんはやったんだ」

「大きい方の炭治郎もだよ……あれ? そういえば、普通の炭治郎と伊之助は?」

 

 大きい方のサーヴァントである炭治郎と伊之助が上弦の肆という方と戦っているのは音でわかっていた。でも普通の炭治郎と伊之助、言ってしまえば俺の同期達である方の行方が知れない。藤丸さんならわかるだろうかと問いかけたら、あの二人ねと頷いた。知ってるらしい。

 

「最初の善逸と同じく眷属たちの相手をしてるはずだよ」

 

 そう言われて音を探る。確かに俺がいた方向とは全く別方向から音がしている。その方向を遠目ながらに見ると伊之助が刀を振り回し、炭治郎がそれを押さえていた。殆ど小さくてはっきりと見えないのにそれらが彼らだと確信した俺に苦笑する。相変わらずだなぁと笑いながら、彼らの心地良い音を聞いていた。

 

 途端に。

 

「ヒュ———ッ」

 

 息を吸うのに失敗した。ハッハッと走り回った後の犬の様に呼吸をしながら、耳に手を当てる。

 

「はっ、はっは!」

「———!」

 

 聞きたくない。

 

「はひ、はひゅっ、ヒッ」

「——つ!」

 

 聴きたくない。

 

「(な、にこの音)」

「——逸!」

 

 聞いていたくない。

 

〝善逸ッ!!!〟

「〝っは!? な、何!? セイバー!?〟」

 

 突然脳内にセイバーの声が聞こえた。脳内に直接響くそれはぐわんぐわんと頭を揺らすけれどセイバーの必死な声に耐える。というか過呼吸になりかけてたから、助かった。ずっと呼びかけてくれてただろう藤丸さんにありがとうと礼を言って、セイバーの言葉に耳を傾ける。

 

〝直様炭治郎と禰豆子ちゃんを保護しろ!! 藤丸さんもそこにいるんだろ!? これから俺が言うことをそのまま伝えろ!!!〟

 

 えっ、どういうこと……?

 困惑しながらもセイバーの言う通りに口を開いた。

 

〝酒呑童子が来た!!〟

 

「しゅてんどうじ? が来た」

「何だって!?」

 

〝狙いは禰豆子ちゃんだ!!〟

 

「狙いは禰豆子ちゃん!?」

 

 どういうこと!?!?

 

 

 

 

 




「(儂、一言も話さずに燃やされて頸を斬られてしまった……)」

すまんかったって!
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