俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

96 / 135
第二十節 鬼、おに、オニ。4/4

 

 

 

「馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なァ!!」

 

 負け犬が何かを吠えている。首だけになった上弦の伍は口汚く此方を罵っているけど、フゥと息を吐いて肩を竦める。どう考えてもお前が油断していたのが悪いのに、いや俺も油断していたけどな、でもそれでも負けた事実は変わらない。身体は朽ちていき、空に還っていく。どうあっても覆せない負け確定の事象を受けていながら、負けてないと玉壺は唾を飛ばしながら俺を睨みつける。

 

「私が負けるなどあり得ない!! 誰だと思っている! 上弦の伍、玉壺様だぞ!?」

「上弦の参に比べれば雑魚だよな」

「五月蝿い! 五月蝿い!! 口の減らない餓鬼め!! サーヴァントなど!! 意味のわからな奴に負ける事などあり得ない!! あり得ない!!!」

「いや実際に負けたし、お前死にかけてるだろ」

「私が真の姿を見せていれば!! 麗しき美しき姿をしていれば!! 貴様など!! 貴様など即刻殺してやっ———」

 

 ザシュッ。

 何が起きたのかわからなかった。誰も何もしていないのに命が潰える音がして、それを為したのが小さい身体を持った一体の鬼。上弦の伍の顔が呆気なく真っ二つになり、呆然と見上げる玉壺の顔を踏み潰した鬼は、アハハと笑った。

 

「負けたのにいつまでもピーチクパーチク、小鳥のさえずりより五月蝿いわぁ。んふふ、あの小僧も呆れてんとちゃう?」

 

 青い瓢箪が付いた両刃の大剣を小さな手で振り、付いた血を払う。紫色の着物の袖を揺らしながら、にんまりと八重歯を見せつけた。

 身体が固まる。どうにか刀に手を添えているが形だけだ。今まで会った鬼とまるで違う雰囲気に呑まれそうになるのをぐっとこらえて、その鬼を見た。

 知っている、俺は知っている。前世で見た見た目とそっくりすぎる彼女にヒュッと息継ぎを失敗した。

 

「負けは負け、鬼やったら潔く消えんとなぁ。まぁうちらの鬼と小僧らの鬼は違うんやけどねぇ」

 

 酒呑童子。

 それが彼女の名前。平安時代、大江山の食客であった彼女。伝承では鬼の首魁にて大江山の頭領であったが、このFate軸では違う。大江山の首魁だったのは茨木童子であり、酒呑童子はその食客であった。しかし強さは伝承と変わらない。

 誰よりも鬼らしく残酷で無慈悲でのらりくらりとした彼女が鬼舞辻のサーヴァントとして現界し、こうして俺たちの前に姿を現した。それがどういう意味かわからないが、でも確かに脅威なのには間違いない。

 決して彼女は善意で人を助けたりなどしないのだから。

 

「んふふ。嫌やわぁ、そぉんなに眉間に皺寄せて。うちはか弱い鬼やさかい、勘忍しておくれやす」

 

 か弱い鬼……? どの口が言うんだ。

 

「冗談言うなよ。か弱く思わせんならその威圧的な態度、どうにかしろ」

 

 態度ってより威圧そのもの。面白がるように威圧してきている目の前の鬼に吐き気がする。この鬼を前にすると俺が今まで会ってきた鬼はなんだったんだって思ってしまう。鬼舞辻が増やした鬼の方がよっぽど人間らしくて好感が持てるわ。この鬼ならきっと死ぬとなっても最後まで笑いながら死ぬんだろうな。めちゃくちゃ目に浮かぶ。

 

「アハハ! 怖い顔。別にわざとやないんよぉ? ちょぉっと揶揄いがいのある子やなぁと思うてな? うっかり。んふふ、堪忍な?」

 

 口の端が引き攣る。絶対謝ってる奴の態度じゃないし、謝る気ゼロじゃん。いやこの鬼相手に謝罪を求めろって言う方が無謀だけど、それにしたってもう少しこうなんかあるだろうに。

 

「別にとって食おうとは今んところは思うとらんよ? あんたはんにあの小僧はえらい御執心やからなぁ、目の前に連れ出すってのも面白そうやけど、今回は目的が違うんよ」

 

 いきなり何を言い出すのだろうか、この鬼は。話の脈略が全く見えないのだけど、ここに来る経緯を話してくれそうなのは分かったので耳を傾ける。

 

「何や言うてたかいなぁ、んー、鬼なんは聞いとるんよ? ただ、小僧の呪いを解いたんやてぐらいしか聞いてないんよ」

 

 鬼、小僧の呪い、解いた。このワードだけでハッとする。この小僧というのは鬼舞辻のことなのだろう、酒呑童子と言えば坂田金時の事を小僧と呼んではいるが別に彼だけの特別な呼び方でも何でもない。ただ彼女がそう呼びたいから呼んでいるだけ、もしくは多分だが鬼舞辻の事を本当に小童だと思っているかのどちらかだ。

 

「(いやそんなことは今はどうでも良い、問題は)」

 

 彼女の言葉が指しているのが禰豆子ちゃんか否かだ。

 なんで、どうして。頭の中で疑問がぐるぐると回る。鬼舞辻無惨が禰豆子ちゃんを気にかけるようになるのは炭治郎達が刀鍛冶の里から帰ってきたあとだ。日本中にあった鬼関連の話がまるで煙に巻いたようになかったことになり、全く出なくなった時期。原作を知っているのと体験した身からすると、日本中の鬼を一斉に無限城に呼び寄せ強化させ、鬼殺隊を壊滅させようと目論んだ事による嵐の前の静けさだった。鬼殺隊さえいなくなれば邪魔者はいなくなるし、禰豆子ちゃんは確実に手に入るからなんだろうけど、結局のところ悪手でしかないこれに便乗して俺達は勝ったようなもんだ。

 いやそんなことはどうでも良い、混乱し過ぎて話が飛んでしまった。結論から言うと鬼舞辻無惨が禰豆子ちゃんを手に入れようとするのは、彼女がこの刀鍛冶での戦いで日光を克服するからである。だから禰豆子ちゃんさえ取り込めば鬼舞辻無惨は日を克服する、かも知れない。そんな希望にかけて、最終戦争を仕掛けた。

 

「(だから、だから、鬼舞辻はまだ禰豆子ちゃんが日光を克服したなんて知らないはずだ)」

 

 ましてやまだ、日の出前だ(・・・・・)

 

「あらまぁ……」

 

 んふふと酒呑童子が笑う。

 

「なんやあんたはん……知ってるんやね……?」

 

 ———ッ!

 

「……だったらなんだ」

 

 精一杯の虚勢。今まで戦ってきた相手よりもタチの悪い鬼に対して冷や汗を掻きながらも、警戒心を解くことは決してない。常に半歩程脚を引き、刀に手をかけてはいつでもお前の頸を刎ねることができるぞとアピールしているのに、流石は大江山の食客と言ったところだろうか。全く動じることなく妖艶に笑って見せる。

 まぁ脅しが効くような相手ではないのは確実なんだけどね、こうしてないとちょっとね。

 

「何処にいるか教えておくれやす。小僧に言われとるんよ、連れてこぉいってなぁ」

「教えると思うか……?」

 

 そんなの拒否するに決まってるだろ。禰豆子ちゃんにしろ、もしもう一人の鬼にしろ渡すわけにはいかない。教えることもない。

 キッと睨みながらそう返すと彼女はいけずやわぁとカラカラ笑う。どこまでも楽しそうに笑っている。

 

「えぇよえぇよ、自分で探し回ることにするわぁ。あんたはんと遊ぶんは楽しそうやけどなぁ、うちかてサーヴァント……主人の願いは出来るだけ叶えてやらんといかへんのよ」

 

 面倒やわぁなんて言って上空に躍り出る彼女を追いかけようとして、ふと霞柱が目に入った。毒で動けなくなっているのに加えて、水の牢の中に入ってた故の酸欠により全集中の呼吸がちょっと乱れてる。彼を放っとくわけにもいかず、駆け寄り背中を摩りながら善逸に念話を繋げる。

 

〝善逸ッ!!!〟

〝っは!? な、何!? セイバー!?〟

 

 繋がった途端に大声を心の中であげたからか驚く彼の声はどこか少しおかしかったが、まず伝える事を伝えなきゃと心配を傍に置いておいて用事を伝える。

 

〝直様炭治郎と禰豆子ちゃんを保護しろ!! 藤丸さんもそこにいるんだろ!? これから俺が言うことをそのまま伝えろ!!!〟

 

 困惑した声が聞こえる。でも何も説明を求める声が聞こえないと言うことは了承の意なのだろう、直様続きを話す。

 

〝酒呑童子が来た!! 狙いは禰豆子ちゃんだ!! 下弦の肆の可能性もあるけど、禰豆子ちゃんの可能性が高い! サーヴァントに護衛をさせるか、酒呑童子を近づけないようにさせてくれ!!〟

〝いやいやいや!? そのしゅてんどうじって人に禰豆子ちゃんが狙われるの!? どういうこと! セイバー!!〟

 

 どうも何もそのままの意味だ!

 

〝酒呑童子の主人は鬼舞辻無惨だ。そして酒呑童子は明確にその名前を言わなかったけど、マスターに命令されて来た様だから〟

〝鬼の頭領が禰豆子ちゃんを狙ってる……?〟

〝そういうことだ。禰豆子ちゃんは他に類を見ないたった数年で逃れ者になった鬼。鬼舞辻が狙うのは充分にあり得る……目的はわかんないけど、奪わせるわけにはいかない。そうでしょう?〟

 

 善逸からの言葉はない。

 

〝藤丸さんには伝えたんだよね?〟

〝う、うん。今鴉呼び出して里中に伝えようとしてる。炭治郎のとこには俺のチュン太郎が行ってるよ……伝わるかはわかんないけど〟

 

 炭治郎相手なら伝わるので心配はないな。俺も言葉は多少わかるけど、チュン太郎が焦ってたり早口になってたらわからない。まぁ俺の場合、長年の付き合いの勘と心音とチュン太郎のジェスチャーで成り立ってるところもあるからな……炭治郎には敵わない。あ、でも宝具なチュン太郎は俺の一部でもあるので今じゃ言葉の壁はあまりないな。そこはサーヴァントになってからの利点、だろうか?

 

〝里中に知らせる方は決して禰豆子ちゃんの名前は出すな。名前がキッカケで知られても困るし、禰豆子ちゃんは箱の中にでも入って貰って〟

〝わ、わかった〟

〝俺もあとで応援に行く。それまでどうにか禰豆子ちゃんを護って〟

 

 お願いします、マスター。

 そう念話で伝えると、顔は見えないけれど聞こえてくる声から笑顔で善逸が答えたように感じた。

 

〝任せて! 禰豆子ちゃんは俺が守るよ!〟

 

 頼もしい限りだ。フッと笑って念話を切ってから座ってるのもやっとな霞柱を横に寝転がらせる。思ったより毒の回りが早い、しっかりと呼吸をするよう呼びかけていると、小屋の中から小鉄君が出てきた。

 

「大丈夫なんですか……? その人」

 

 あんな嫌ってた雰囲気出してたのに心の底から心配する様な音と声を出した彼にへにゃりと笑っては、そうだなぁと呟く。大丈夫ではねぇよ?

 

「このままにしとくと危ない。俺には毒の知識なんてないからな、専門職の奴に任せないと。チュン太郎!」

「チュン!」

「うわぁあ!?」

 

 俺の宝具であるチュン太郎を具現化させると小鉄君が驚いた様に仰け反った。いやそんな大袈裟ななんて思ったけど、突然何もない空中から雀が飛び出すのは驚くよな。サーヴァントのことロクに知らないだろうし。

 

「一体どこから!?」

「俺の懐から」

「そんな感じじゃなかった気がするんですけど」

「まぁそんなことは置いておいてだ。チュン太郎、一つ頼まれてくれるか? 里の近くにいる隠を連れてきてこの人を保護してほしい。もう大丈夫だってお前が判断したら勝手に消えてくれて良いから」

「チュチューン」

 

 はぁ、何? お前、がめつくなったな。

 

「……はぁ、報酬は考えとくよ。とにかく宜しく」

「チュン!」

 

 任せろと胸を手羽先で叩いたチュン太郎は勢い良く飛んで行った。宝具になっているだけ普通の雀よりも速い飛行だ。あの調子ならすぐに終わりそうだ。

 息を吐き、羽織を脱いで丸くする。霞柱の頭が地面につかない様にしてから背中を撫でてやった。そうすることで少しだけ楽になった様な音をさせるから、小鉄君に教えて変わらせ立ち上がる。彼の視線が此方に向く。

 

「何処行くんですか?」

「ちょっと鬼のところ。チュン太郎が里の近くにいる隠を連れてきてくれると思う、だからそれまで霞柱をお願い」

「わかりました。明確な時間を言ってくれないと僕らだって避難できかねるんですけども……あの雀がしっかりと伝えられるのかもさておき、貴方の言う通りにしますよ」

「は、ははっ」

 

 最後まで棘のある言い方で!! 色々と杜撰でごめんなさいね!!!

 

 

 

 

 

 




鬼(上弦)、おに(逃れ者)、オニ(酒呑童子)。

次は、みどりの日ですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。