俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「カァ!! 新タナ鬼ガ出現! 数ハ一体! 避難!
「鬼ノ強サハ上弦ノ参以上ト仮定! 一般隊士デモ勝テナイ! 柱デモ勝テナイ!! カァ!!」
「アノ子ナラ勝テルワヨ!! 何セ日ノ呼吸ノ子孫ナンダカラ!!」
「オ前担当ノ柱、倒レテル! 毒デ倒レテル! 俺ノ弟子ハ倒レテナイ! 出直セ! カァ!!」
「突クワヨ!?!?」
「先輩達喧嘩シテル、陽蜂ドウスレバ良イ?」
「笑えば良いと思うよ」
「ワラ……?」
おっとこのネタは流石に鴉に通じるわけないか。コテリと首を傾げる俺専用の鎹鴉である陽蜂にほっとけば良いと思うと返せば、ソウカ! と鳴いては飛び立った。
それにしても同じ鴉なのに個性強すぎるよなぁなんて思いながら、善逸の方へと向く。彼の名前を呼ぶとゆるりと振り返った。
「炭治郎には伝わった?」
「うん、今こっちに来るって」
その良すぎる耳を駆使して、彼の鎹雀であるチュン太郎が炭治郎と話している内容を拾っていた善逸はコクリと頷いた。どうやらちゃんと伝わったようだけど、チュンチュンしか言わない雀相手に話できる炭治郎って一体。
とにかく重要な相手には伝わったんだ。今度はこっちの炭治郎達にも事情を説明しなくては。
〝炭治郎、鎹鴉の言葉聞こえた? 聞こえたなら返事して欲しい〟
〝マスター。あぁバッチリ聞こえた。新しい鬼って誰だ?〟
念話がすぐに返ってきた事に安堵しながら鎹鴉の言葉が聞こえていたと言う炭治郎に新しくきた鬼はサーヴァントとだと返す。
〝真名酒呑童子。大江山の食客だった平安の鬼。親は鬼じゃないけどね。ともかく、その酒呑童子がこの里に来てる〟
〝……厄介だな〟
〝うん。しかも禰豆子ちゃんを狙ってるかもしれないってのが善逸さんの見解〟
〝はっ!? 禰豆子を!?〟
何故!? と驚く炭治郎に俺もわからないと返しておく。
〝でも、善逸さんからの情報だから間違いはないと思う〟
〝善逸が……わかった。狙っているのは幼い俺の禰豆子だな?〟
善逸さんの名前を出しただけで簡単に信用する炭治郎に苦笑いを零しながら、俺はうんと答える。そこは善逸さんは何も言わなかったけれど間違いはないはず。ではないとサーヴァントに護衛させろとは言わないはずだ。
〝俺と伊之助が酒呑童子の相手をしよう。さっきから匂いが届いてくるから、場所はわかる。俺たちが相手することで勘違いさせたら儲け物だろうから〟
〝ミスリードを誘うんだね。でも良いの?〟
〝あぁ。けどその代わり、幼い俺を頼んだ〟
〝わかった〟
顔は見えないけれど、炭治郎は嘘はつかない。覚悟をしっかり持った声であったからこそ任せた。正直、カルデアにいる酒呑童子とここにいる酒呑童子はきっと強さが違うから炭治郎達が勝てるかはわからないが、かと言ってサーヴァントではない鬼殺隊士達に任せるわけにはいかない。すぐさま殺されて終わりだ。
こっちに向かってくる幼い炭治郎達の目印になっている善逸が彼らに手を振っているのを横目に、俺たちより離れた場所にいた下弦の肆の鬼に近づく。善逸さんが去った時より大分落ち着いたが、善逸が酒呑童子の名前を出した途端にまた震え出したのが気がかりだ。鬼の頭領と同じぐらいにトラウマでもあるんだろうか。
「あー、下弦の肆さん? 今、話せる?」
「はっ? ちょ、ちょっと藤丸さん!?!?」
何話かけてんの!? そして何で近づいてんの!? と屋根の上を這ってきた善逸に元の位置に引き摺り戻される。あー、尻が地味に痛いですー。
「ちょっと聞きたいことがあって」
「ちょっと聞きたいことがあったとしても安易に近づかない!! あの子が何かしてきても藤丸さんにはどうすることもできないんだぜ!?」
「まぁサーヴァントでも鬼殺隊士でもないからね、爪でも振るわれたら一巻の終わりだ」
「それがわかっててどうして近づいたのさ!」
「うーん……なんとなく?」
「なんとなく!?!?」
何言ってんの!? と耳元で叫ばれた。あー、耳が地味に痛いですー。
「じゃここから話すね、それなら良いでしょ?」
近づくのが危ないと言うのならば、ある程度離れたここから話しかければ無問題でしょう。鬼やサーヴァント相手にはあってないような距離だけれど。
きゅっと眉を顰めながらもゆっくりと頷いた善逸にありがとうと礼を述べながら、下弦の肆へと振り返る。彼女は未だに何かに怯えるように震えていた。
「下弦の肆さん、お名前は?」
「……」
うーむ。
「もう君は下弦の肆じゃないのはわかってるんじゃない? 君は自由なんだ、俺は肩書きで呼びたくないんだけど」
そう言えばちらりと此方を向いた彼女が小さく何かを話した。聞こえなかった、思わず善逸の方を向くと彼女の名前らしき言葉を発する。
「むかご、だって」
「零余子ね。うんうん良い名前。じゃぁ零余子さん、少し聞いて良いだろうか?」
「……何?」
先程とは違い聞こえるほどの声で返事してくれた彼女に自然に笑顔になりながらも、酒呑童子についてなんだけどと問いを投げかける。
「彼女のこと知ってるの?」
疑問にしてはいるけど知らないはずがない。でないと善逸と善逸さんの念話に反応したことが説明つかない。案の定酒呑童子の名前を聞いた途端に震え出した彼女に、やっぱり知ってるんだなと呟く。
酒呑童子は鬼舞辻無惨のサーヴァント、部下であった零余子さんが知っていてもおかしくはない。でもこの怖がり方はおかしい。酒呑童子はある相手を除いて同族に対してはわりと寛容だったはずだ。カルデアでも茨木とはいつも一緒にいるし、巴御前のことは気にかけていた。それこそ禰豆子ちゃんとも良く話してた。
時にはヒヤリとする発言をしたり、まぁ俺も彼女にはあまり良い思い出もないことが多いけど、だからってこんなにも怯えることは。
「……知ってる。私達を変えたから」
「変えた?」
何を?
「下弦の伍が殺され、あの方に呼ばれた。何を気に入られたのかわからないけど、下限の壱だけがあの方の血を与えられて解放されて……私達だけが残った」
その時のことを思い出しているのかギリッと歯を食いしばる零余子さんの目には相変わらず恐怖の色が浮かんでいた。
「琵琶の音が鳴ったと思えば地下牢に入れられてた。何がなんだかわからないうちにあの鬼が現れてっ!」
『あらまぁ、こんなにぎょうさん。んふふ、弄りがいがあるわぁ』
「そんな事を言った途端に下弦の陸がやられて」
『よぉ見ときや? 次はあんたはんらの番やさかい。うち自ら小豆を煮るみたいにぐつぐつ熱うさせて、餡子からこし餡にするためみたいにねっとりゆっくりかき混ぜてあげんやから。んふふ、情熱的やろ?』
「内臓がかき回されてるの見せられてっ! 鬼だって痛覚はある! 人間より遥かに鈍いけど、内側からかき混ぜられるのに慣れてるわけがないのに!」
零余子さんが語る内容を安易に想像できてしまったのは同じような経験をしたことがあるからだろうか。あの時の甘ったるい声と中身が変わるような感触、ぐちゃぐちゃと耳元で鳴っているような感覚に止めさせるのも、ましてや文句すら言えず。結局のところ、その行動のおかげで回復できたとはいえ、あれは本当にない。
零余子さんの言い分に同情できてしまって、そっかぁと開けつつある夜を眺める。
「知ってた、知っていた。段々と自分が自分じゃなくなるのなんて。まるで、無惨様に人から鬼にされた時のように…………あぁ、本当に、あの鬼狩りの言う通りか」
どこか諦めたような表情を浮かべる零余子さん。自身の中の何かを酒呑童子の手によって変えられた事実をやっと受け入れたように感じられた。
どうにも府に落ちない。何故禰豆子ちゃんを狙うのか。いや狙う理由についてはわかる、何回も述べたように禰豆子ちゃんが日光を克服しているからだ。思わず断言してしまったけれど、今の段階ではまだ克服してないことになっている。だからこそ、わからない。
もしかしたら特殊な逃れ者だからという理由で狙ってきているのかもしれない。サーヴァントという強力な手札を手に入れたから、大胆な行動を起こした。生前だってこの里に襲撃はあったけど、戦力の追加投入などなかった。今回は上弦の鬼が二体に加えて、下弦の鬼が三体、そしてサーヴァントが一騎。俺たちがいなきゃきっと里は滅んでいた。一人残らず惨殺されて、鬼殺隊の戦力はがくんと下がっていただろう。柱でさえ上弦には敵わないのだから、サーヴァントなんて以ての外。
「(明らかな過剰戦力。何がなんでも殺すという気概を感じられるな……)」
生前みたいな小出し戦法で来て欲しかったなぁ。いや今のところ優勢だから良いんだけどさ。
脚を動かして、なるべく先を急ぐ。酒呑童子ただ一騎とはいえ相手は聖杯でもって呼ばれたサーヴァント、何か強化されて本来の強さより強くなっているかもしれない。ただでさえここは日本だ。知名度補正も入ってるかもしれないし、決して侮ることのできない相手。俺も日本のサーヴァントだけど、知名度皆無だからなぁー! 幻霊寄りの英霊みたいなもんだから不安定だし、今は安定してるけどさ! やっぱこう有名な奴相手だと、俺なんてって思ってしまうのはきっと俺の性質故か。
「なぁんか、強敵ばっかと戦ってる気がするの気のせいかなぁ」
最初に上弦の壱と対峙してしまったのが引き金だろうか。仕方ないじゃん! 獪岳助けたかったんだから!
「キャハハッ!!」
「———ッ!?」
咄嗟に地面を蹴ってその場から後退する。刹那にドゴォン! という地響きが響き渡り、俺が今までいた地面が割れ円形状に抉れた。
竹林を抜けて里の端を走り抜けようとした途端にこれだ、絶対に待ち伏せされていた。けど聞こえてきた声は酒呑童子のものじゃなかったな。音もどこか違う。
砂埃で下手人が見えない中、腰にある刀に手を添えて臨戦態勢を取る。気配の感じからしてサーヴァントなのは間違いないから放って先を急ぐわけにもいかないのが、少し歯痒い。立香がどうにかしてくれるのを信じるしかないな。
「ククッ、クハハ。貴様だろう! 酒呑が言っていた奴は。クハッ! その気配、神性持ちか? 食い出がありそうだな!」
ゆらゆら、ゆらり。砂埃が舞う中綺麗な橙色の炎が揺れ、そしてその炎が一際大きくゆらりと揺れれば、砂埃を一文字に斬り裂いては姿を現した。
酒呑童子と同じような立派な二本角に、八重歯、身の丈ほどもある無骨な剣は一体なんの骨を使っているんだろう。あぁ、あぁこの鬼も見たことあるぞ。
まさに大江山の頭領。
「クハハハっ! 一思いに食ってやろうぞ!」
茨木童子。
「……ッ」
なぜ、ここに此奴がいるんだ。
終わりそうだなぁ、本誌。