お館様に聞いてみた
・武蔵(ヒナ)ってどんな子?
とても飲み込みが早い子だよ。何でも教えたらすぐにできるようになってね。剣の振り方や呼吸方法を、育手が一度見せたらすぐ覚えていたしね。
本人は才能がないと思い込んでるがとんでもない。あの子は本当にすごい剣士だよ。
煉獄家で一騒動起きた後、親父殿と序でに炭治郎も引き連れて二天屋敷に戻った。その最中に鎹鴉に文を持たせお館様に向けて飛ばしておいた。
炭治郎は初めてみる二天屋敷に目玉が飛び出そうなほど驚いていた。
わかる。その気持ちわかる。めっちゃでかいものね。蝶屋敷が2つか3つくらいは入りそうだもの。
門下生から労いの言葉やらおかえりの言葉やら沢山言われながら、台所近くの部屋に入る。そこにはズラリとお酒やらお菓子やら果実水やら並んでいた。
「えーと…確か…炭治郎、その棚の左端にあるやつと、その隣にある…確か紅茶とか言ったっけ。それ取ってもらえる?あとはその下の段の右端にある桃色の箱」
「はい!これですか?」
「うん、ありがと」
あら、何も言わなくても風呂敷に包んでくれるなんていい子だね。
「カァー!二天柱!オ館様ガ!御許可ナサレタ!無理ヲシナイヨウニ隠ヲ手配サレテイル!」
「おっ、やったね。久々にお館様と一緒に呑める」
本来ならお館様は(体調的な意味で)お酒を飲むなんてもっての他なんだけど、このお酒は酒精もかなり低いもの(というか風味にちょっと感じる程度)で、お酒を飲んでる気分が味わえる程度のもの。本来なら酒とも呼べない代物だが、お館様にはこれくらいがちょうどいい。
日本酒とか酒精の強いお酒も持って行きたいけど、それだと悪化させかねないし、お子さん達が間違って飲んでしまった日には目も当てられないし。
「炭治郎の護衛は…伊織!いるんでしょ!」
「はいはい、大声出さなくても聞こえてますって」
三つくらい隣の部屋から伊織が渋々やってくる。
「伊織、私は今からお館様のところに行くから。だから私の代わりにこの子を蝶屋敷まで護衛したげて」
「わかりました。…それはそうと、師範」
「ん?」
「貴女これからどうするんですか?」
「どうするとは?」
「これから先のことですよ。その体でどうするんですか。柱も、宮本武蔵の名も」
ああ、そういうこと。他の門下生にも聞かれたし、どうせだから答えてしまおう。
「もちろん続けるわよ。どっちもね。片腕潰れた程度で剣の道をやめるわけにいかないわよ。柱も、宮本武蔵も、あと10年は続けてやるわ」
伊織は呆れた顔をしてため息をついた。
おい、仮にも私は師範だぞ。少しくらい敬意を持て
「ああ、やっぱりな、というため息です。やっぱり師範は刀バカですよ」
「刀バカ⁉︎」
酷い言われように泣きそうです。お前後で覚えてろよ特訓で血反吐を吐いてもやめないからね!……いつも通りか。
「あ…思い出した。桜餅持って行こっと。蓄えまだある?」
「はい、恋柱様が来た時用のものがまだ数十箱。近日中に遊びにくると知らされていたので」
「よし、そんじゃ一箱包みに入れといて」
「はい。最後に師範」
「ん?」
「…本当に、本当に良かったです。あなたが生きておられて。鴉で知らされた時、師範だからどうせ大丈夫と思い、加勢に行こうともしませんでした。
あの時の私は、人生で一番の恥です。本当に申し訳ありませんでした。これからも、貴女の元で精進します」
と、伊織から意外すぎる言葉が出てきて、ちょっと驚いてしまった。
私自身は特に気にしてないんだけど。多分伊織が来ても結果は大して変わらなかっただろうし。
「んー、ま、はい。アンタの気持ちは受け取ったわ。でもあんま気にしなくていいわよ。『失敗した』と自分の中で認識できているのだから、それは十分有意義なことです。
伊織、この失敗は何れ必ず役に立つでしょう。私から言えるのは以上。それじゃ、炭治郎は任せたわよ」
「わかりました」
「はーいそこの隠の人。もう大丈夫よ。出てきて」
庭で隠れてた隠の人を呼ぶとたいそう驚いて出てきた。
え?なんで分かったって言われても気配隠れてないとしか言えないのですが。
だからそんな人外を見るような目はやめなさい。
「それじゃ、お願いします」
「はい。お任せください」
隠の人(もちろん女の人)に背負ってもらい、お館様のいる産屋敷まで向かった。場所は知ってるから本当は1人でもいけるけど、お館様のご厚意を無駄にするのも申し訳なかったので遠慮なく頼る事にする。車椅子なるものも運んでもらってるから、相当大変だと思うので本当に申し訳ない。
「着きました。二天柱様」
「おーご苦労様です」
お館様の家に到着し、車椅子に座らせてもらう。
ああ、柱合会議以外で久々に来た気がする。
隠の人には甘味を渡しお礼を言っていると、1人の女性がこちらに来る気配を感じた。
「ようこそ、新免武蔵守・藤原玄信様。お待ちしておりました」
入り口から出てきたのはあまね様で、お館様の御内儀(妻)だ。そして私の母親でもある。血は繋がってないけど。
「そんな堅苦しくしないでください。どうか、幼少の頃のように接してくださると嬉しいです」
「…それでしたらこちらもです。ヒナ、どうか昔のようにしてくだい」
「はーい」
あまねさんに車椅子を押してもらいながら耀哉さんのところへ向かい、その道すがら世間話に花を咲かせていく。
本当は車椅子くらいは自力で動かせるけど、あまねさんがやってくれると言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。
「お館様…耀哉様の体調はどうです?」
「今日は元気なほうかと。ヒナが意識不明だと聞いた際は、あの人にしては珍しく、表情に出るほどに酷く心配していましたよ?」
「う…それは申し訳ない。私としてもまさかこんな事になるとは」
「それでも『生きてるだけ儲けもの』……なんですよね?」
「はい。穏やかな日常と甘味があれば最高です」
「ふふ…やはり刀に目がないとは言えど、貴女も女の子なんですね」
「どういうことです⁉︎」
私はあまねさんに何と思われていたのだろうか。
「あなた、ヒナが来てくれました」
「ああ…よく来たねヒナ。君が死ぬかもしれないと伝令をもらった時は、本当に心配したよ」
「ええ、御心配をおかけしました」
御子息と御息女に支えられながら耀哉さんが立ち上がる。
うん…柱合会議の時よりもちょっと体調良くなってるのかな?
「今日は一体、どうしたんだい?突然会いたいと言うなんて、珍しいじゃないか」
「ええ、たまには一緒に一杯、どうですか?あまねさんや息子さんたちも一緒に」
包みを見せ提案すると、快く受けてくれた。
瞬く間にお館様にあまね様、そして五つ子であるご子息ご息女の皆様が集まる。あまねさんと子供達は私が持ってきた多種多様な飲み物に興味津々だった。
「…これは、お酒ですか?」
「酒に違い無いですが、どちらかと言うと風味を楽しむ果実水みたいなものです。とても飲みやすいですよ。本当は酒精の強いお酒とか持ってきたかったですが、耀哉さんの体を余計に悪くしてしまっては元も子もないので。お子様の皆様にはこっちを。二天屋敷で取れた果実を使った果実水です」
耀哉さんとあまねさんにお酒を注ぎ、御子息さん達には果実を使った飲み物を注ぐ。
「…うん、美味しいね」
「本当です。凄く飲みやすい」
「甘くて美味しい」
「うん」
「美味しい」
「これ好きです」
「ありがとうございます二天柱様」
「それは良かったです。それとですね、輝利哉様。公の場で無いのですからそんな硬くならず。どうかお館様達のように『ヒナ』とお呼びください」
そう微笑むと、どこか顔が赤くなっていた(唯一の)息子さんはより笑顔になっていた。
みんなに好評でよかった。これで口に合わなかったら目も当てられない。
「そしてこれは桜餅です。恋柱の蜜璃の大好物であり、今は私の大好物の甘味でもあります。多少甘さを抑えて作ってもらったので、お飲み物によく合うかと」
みんなで飲みながら桜餅をゆっくりと味わいながら食べてゆく。
嗚呼…心が安らぐ。
「そういえば、継子の伊織はどんな調子だい?まだ、宮本武蔵の名は譲らないのかい?」
「あったりまえですよ。伊織が天才とはいえ、私にまだ勝てないうちは譲りません」
「ふふ、譲ってしまったらもう気軽に会いに来れませんものね」
「そうなんですよね。私、こう見えて耀哉様と同じくらいあまね様のこと大好きですし。血は繋がってないとはいえ、御二方は私にとって親同然ですから」
「あら、ありがとう。ヒナも偶には昔みたいに甘えてくださってもいいんですよ?」
「……。柱達の前じゃ無いときなら」
「ふふ、待っていますね」
心なしか、あまね様が楽しそうに見える。あまね様だけでなく耀哉様もお子様達も、みんなが笑って穏やかに過ごしていた。
「そうだ、ヒナ」
「はい?」
「これからはどうするんだい?ヒナは鬼殺隊へ多大な貢献をしてくれた。君の手で幾万もの命を救えた。ここで辞めても誰も文句は言わないと思うよ」
「いやいや。何を仰いますか。宮本武蔵の名や二天柱としての肩書きはまだしも、鬼殺隊は死ぬまで辞めませんとも。なにより今回の件で余計にやめられなくなりましたし」
「そう…か。ヒナ、君は私達の誇りだ。上弦とこれだけ出会って、こんな重傷を負ってしまったのに、それでも尚鬼殺隊へ貢献してくれる。本当に……ありがとう」
「やめてください。恥ずかしながら今回は我を忘れていたのです。冷静に対処さえすれば逃げ切ることなど造作もないはずでした。上弦の弐、参の二人はとにかく仲が悪かった様子なので」
「それがわかるだけでも十分だ。今の柱でこれだけ上弦の鬼に遭遇してるのは君とレンさんくらいだろうね。これも宮本武蔵の一族の宿命なのかな?」
「どうでしょうね。少なくとも鬼舞辻無惨にとって宮本武蔵一族は目の上のたんこぶでしょうけど、親父殿曰く上弦3匹も送ってくるとは思わなかったらしいですが」
「しかしレンさんは両腕と片眼を失うも、生きて生還した」
「お館様のおかげですよ。親父殿からの文を受け取り、直ぐに当時の柱達を援軍に送ってくださいましたから。それでも真正面からぶつかり続ければ死んでいたかもしれませんが、幸い日の出が直ぐそこまで迫っていたからこそ生還できたのです」
当時のことを思い出しながら語っていたら、お館様は急に神妙な面持ちになり、私をじっと見つめられた。
「ヒナ、これだけ上弦の鬼を見てきた君から教えてくれないか?今の柱達は、上弦の鬼を相手して倒せるのかどうか」
と、お館様らしからぬ弱気なことを言うので、敢えて大らかに笑いながら答える。
「はっはっは。なにをそんな気弱に考えていらっしゃるのですか。
大丈夫ですよ。今のメンツなら、誰一人欠けることなく倒せるかと。1対1では無理かもしれませんが、皆が力を合わせれば必ずや勝てるでしょう。まあ、私…というよりは『宮本武蔵』の目的は上弦の壱を斬ることです。なので他の上弦の鬼は皆に任せますよ」
「上弦の弐もかい?」
「ええ、私以上に因縁深いのはしのぶでしょうし。それにシノエもいますから、きっと成し遂げてくれますよ」
「そう…だね。彼女達ならきっと、大丈夫だろう」
「そういえばシノエと改めて会ったんでしたっけ?彼、どうでした?」
「とてもいい子だよ。どこにでもいる、恋する人そのものだった。それに西洋の医学について学んでいるみたいで、海の外にも何回か言ったことあるらしくてね。面白い話が多かったよ」
「みたいですね。私がもらった毒も海の外のものだって言ってましたし。博識ですよね」
「それにヒナの治療にも一番貢献したのはしのぶとシノエだと聞いているからね。また近いうちに褒めようと思ってるよ。ただ……この呪いのことは、流石に彼でもどうしようもなかったね。仕方ない事なんだけど、それで酷く落ち込ませてしまったのは申し訳ないと思ってるんだ」
「相変わらずお優しいですね」
本当に変わらない。最終選別に参加した子を含め隊士全員の名前と経緯を覚え、毎日墓参りを欠かさないこの人だからこそ、鬼殺隊は鬼殺隊足りえるのだと、そう実感する。
「ヒナ、こちらの飲み物は?」
「紅茶と言います。瑠璃にもらったものなんですけど、どーにも私の口には合わなくて。あまねさん達のお口に合えば、と。飲んでみますか?」
「はい。是非」
「私にもくれるかい?蜜璃の好きなものを是非とも味わってみたい」
「それでは僭越ながら……はい、どうぞ」
蜜璃に教わったように「れもんてぃー」とやらを作り、あまね様と耀哉様に差し出す。
「ありがとう。……甘くて、美味しい。でもちょっと味が濃いですね」
「確かに…ヒナが苦手というのも頷ける」
「あまり詳しく無いのですが、なにやら元々甘いお茶なのに更にお砂糖や蜂蜜なんかを入れるみたいで。蜜璃に貰ったものを飲んだ時、思わず吐き出しちゃいました」
いやぁ、本当にあの時は悪いことしたなぁ。一気飲みした私も私だけど。けど教えてくれない蜜璃も蜜璃だと思うのよ。
「確かに昔から味の濃過ぎるものは苦手だったね。苦手と言えば、鼠はもう平気かい?」
「ゔっ…その、触る程度なら…まだ、なんとか…。ただ、あの記憶がどーしても…」
「ああ、確か髪の中に…」
「それ以上は言わないでください。天元の飼ってるネズミも未だに苦手なんです」
私の慌てようが余程面白かったのか、みんなから笑いが溢れていた。いやいいですけど!私の羞恥心と引き換えに皆様が笑えるならいいですけどね!
「はは、でも他の小動物は大丈夫なんだろう?」
「それはもう。犬猫とかもう至福です」
それからも暫く談笑は続いた。
「…ああ、もう無くなってしまったか。まだ楽しみたかったんだけど…」
耀哉様は瓶の中身や甘味が無くなったことに気付いたのか、珍しく寂しそうな声を出していた。それを払拭するためにも、明るい声を出す。
「またすぐにお伺いしますよ。次は別の、ちゃんとお酒と呼べるものを持ってきます。なんせ、次に晩酌をさせて頂ける時にはもっと体調をよくされてるでしょうから?」
「ああ、勿論。完治させておくとしよう」
「言いましたね?私、約束事にはうるさいですよ?」
「ふふ、私が約束を違えたことがあるかい?」
「ありませんね」
「だろう?心配はいらないさ。ここは優秀な子達が守ってくれているし、もし鬼舞辻無惨が来たとしても君が守ってくれるんだろう?」
「私だけじゃないですよ。他の柱もみんな駆けつけます。耀哉さん、貴方はそれほど今の柱に慕われているのですから。それに…私はもう二度と仲間を、家族を殺させる気は無いので。私の救える命には限りがありますが、それでもこの手が、足がある限り守ってみせますよ」
「ふふ、期待してるよ。それにしてもヒナ、なんで柱合会議をサボりがちなんだい?」
唐突に、話の流れを思い切りぶった斬ってそんなことを聞かれるものだから、思わずずっこけてしまう。
「ぐっ…そこでそれを聞きます?」
「ヒナが遊び歩くのが好きで、あのような厳格な雰囲気が苦手なのはわかっているんだけどね。ちゃんと聞いておきたかったんだ」
「…今の柱の子達が優秀なので私がいなくても大丈夫だろう、と」
「本当は?」
うぐっ……これは誤魔化せないやつ。
何度か深呼吸しながら、観念して口を開く。
「杏寿朗と顔を合わせた時に感情を誤魔化すのがちょっと辛くてですね。あとは……あの、ほんっとうに個人的私怨なのですが、蛇柱がどうしても……。いつかブチ切れてしまいそうになるのです」
「ふふ、わかった。伊黒にも言っておこう。けどヒナも周りにしっかりとやってる態度を示そうね。遊んでるばかりという訳では無いのはわかるけど、他の者からみたら不真面目に見えるからね」
「わかりました。…それじゃあ私はこの辺で。楽しかったです耀哉さん」
「こちらこそ。また来ておくれ。家族一同で歓迎するよ。次は伊織やレンさんも誘ってね」
「親父殿はともかく、伊織は考えておきますね」
大正コソコソ噂話
二天屋敷のとある部屋はお酒の宝庫だよ。国の内外問わず様々なお酒があるよ。
あとは甘味を含むお菓子がたくさん(主に蜜璃が来た時のために)あるよ。
リメイクするなら
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今ある話を直に修正していく
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新しく一から作り直す
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やる必要ない
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