大事なモノを守るために   作:紀野感無

20 / 23
「シノエ様……」
「大丈夫。シノエ君なら無事に帰ってきます。宇髄さんも、武蔵さんの継子の方もいらっしゃいますから……」

しのぶ様はそう言いながらも、テキパキといつでも治療できるよう準備を進め、きよちゃんたちにも指示を出されていく。

「アオイ。こちらへ」
「は、はいっ!」

しのぶ様に連れてこられたのは、いつものしのぶ様たちが治療にあたる部屋。

「西洋医学の道具の準備をお願い。私も分かる範囲で手伝いますが、シノエ君に直に教わっているアオイの方が知識は上でしょう。万が一の事態にはアオイに治療をお任せします」

「えっ⁉︎わ、私がですか⁉︎」

まだ1人で治療を任されたことすらないことを伝えるが、しのぶ様曰く、シノエ様の手紙に「もしもの時はアオイにも任せて欲しい。知識は充分に備わっている」と書かれていたらしい。

「大丈夫。私もついていますから」

そう仰るしのぶ様の顔は、優しい笑顔でありながらもやはり、どこか辛そうにされていた。





拾玖(19)・毒を以て毒を制するby毒露シノエ

 

宇髄さんや宮本伊織さんが復帰できるまでの時間稼ぎ。僅かな切り傷すら許さず、宇髄さんたちが死なないように……。

 

 

……できるのか?僕に。

 

 

「こねぇのかぁぁ?」

 

 

やばい。こいつは本当にやばい。

気を抜いたら吐いてしまいそうだ。

 

 

こんなの初めてだ。

 

これが上弦の鬼…。

 

 

「(なんて…弱音言ってる場合じゃ無い)スゥーー毒の呼吸・蜘蛛ノ形【大土蜘蛛】」

 

再び接近し2度、3度と、何度も斬りつける。

鬼は気怠そうに弾いてくるが数回は毒を入れることには成功した。

 

少しくらいは効いてくれるといいけど…。

 

「(よく分からねぇ毒だなぁぁ。だがさっきのクナイほど強くねぇなぁぁぁ。無視してもよさそうだぁぁ」

 

そんな祈りも虚しく、ほんの僅か動きが鈍ったと思うとすぐ動き出していた。

 

「(嘘だろ?もう動けるのか?下弦すら暫く動けなくなった神経毒だぞ?……いや、毒を使う鬼、そもそも毒の耐性が高い方が普通か。ま……なんにしろ、宇髄さんやあの子達が復活するまで耐えるだけ…)」

 

神経毒が通じないなら、別の毒を叩き込むまで。

 

鞘の中で刀を回し、調合を変える。

 

「ああもう、めんどくせぇぇなぁぁ。お前もさっさと、死ねぇぇ!」

 

血肉で出来ている鎌を振りかぶって、一息の間に目の前まで詰めてきた。

一瞬驚いたけれど……しのぶさんや武蔵さんほどの疾さじゃ無い。

 

「毒の呼吸・蟻ノ形【刺針蟻(サシハリアリ)】」

 

傷を貰わないよう死ぬ気で集中しながら、鬼の至る所に刺し傷を作る。

つかコイツの太刀筋なんなんだ。特異も特異過ぎて全然見切れない。

 

と思ってると、また接近してきた。

今度は右肘を斬り落とすことに成功する。

 

「(やっぱりそうだ。コイツ、僕のことを格下だと思ってる。間違っちゃ無いけど、今だけはそのまま油断しててくれ)」

 

一瞬動きが鈍ったのを見逃さず頸を狙うけど、またもや一息の間に距離を取られてしまう。

鬼は顔を上げたと思うと、血が出そうなほどガリガリと顔を掻きながら怒りを顔に張り付かせていた。

 

「なんだぁぁこれぇぇぇ。いってぇぇなぁぁぁぁ!ああもう、イラつくなぁぁぁ!」

 

「こんだけ叩き込んだのに感じるのが『痛い』だけ?なんなのお前の体」

 

海の外で『弾丸に打たれたくらい痛い』とかいう蟻の毒を参考に、鬼用に調合したものなんだけど。

 

ま、元より殺すための毒じゃないし。動きを鈍らせればそれで--

 

 

 

「……あぁ?」

 

 

 

「ッ⁉︎」

 

目の前の痩せ細った鬼が、明後日の方向を見てそう呟いた。

それだけなのに、背筋が凍りついたと思うほど殺気が溢れ出ていた。

 

「血鬼術・飛び血鎌」

「毒の呼吸・蜈蚣(ムカデ)ノ型【鳶頭蜈蚣(トビズムカデ)】」

 

鬼の持っていた鎌から、文字通りの飛ぶ斬撃が幾つも飛来してくる。僕だけでなく宇髄さんにまで。

 

刺したり弾いたり、斬り落としたり。とにかく宇髄さんを守りながら攻撃を僅かでも受けないよう、広範囲を薙ぎ払い続け、全てを叩き落とす。

 

「(--ッ、どこだ…!)」

 

視界が開けた時、鬼は消えていた。

 

「う…え、だ!」

「!」

 

宇髄さんの声で上を見上げると、屋根上に鬼はいた。だけどもう僕たちを見ていない。何を見て…いや、今はどうでも良いことだ。余所見しているうちに首を…。

 

「毒の呼吸・蛇ノ型【赤楝蛇(ヤマカガシ)】!」

 

型の中で最速の技を出すが、刀は空を切ってしまう。

 

「ぐほっ……」

「伊之助ェ⁉︎」

 

「⁉︎」

 

続いて聞こえてきたのは叫び声。

伊之助と聞こえた方向を見ると、いつぞやに蝶屋敷で治療したことある猪頭の隊士が、心臓のあたりを刺されていた。

 

「ッ!不味い…」

 

あんな所に毒が回れば…いや、そもそも心臓を刺されてる。治療とかそれ以前に即死だ。

 

 

動け。動け動け。目の前で命が散る瞬間なんて腐るほど見てきただろ。

 

命を無駄にするな

 

鬼を殺しに行け

 

 

「そこの箱背負った隊士!今すぐ離れ……」

「炭治郎!逃げ…」

 

脚に力を込めた瞬間だった。

 

上から大量の帯が交差して振り下ろされた。

 

避けようと下を見ると、先ほどの血の斬撃が待ち構えていた。

 

「(は……これ、死ぬ……いや、諦めるな。相殺しろ。技を出せ!)」

 

柱までなったんだろ。しのぶさんを守るために。

ここで死んだらどうなる。

 

 

ただでさえしのぶさんは無理をしてるのに、更に悲しませるのか。

そんなもの、他の誰が許しても僕が許さない。

 

 

「毒の呼吸・蜂ノ型【大雀蜂(オオスズメバチ)】!」

 

隊士二人の前に割り込み、目の前や横から迫り来る帯や斬撃を片っ端から斬り落とし続ける。

 

 

「アアアアアッ!」

 

 

生きてきた中で出した事のない声を、喉が引きちぎらんばかりに叫び、死ぬ気で相殺し続ける。

 

だが、急に視界がカクンと落ちた。踏み込み過ぎて屋根が崩れたのか?

 

「(あ……まずい……)」

 

次に感じたのは、右太腿に何かが刺さった感覚。続けて激痛が身体中を巡っていくかのような感覚。

 

いつの間に。

何してんだ僕は。あんだけ大見得をきって。何もせず死ぬのか。

 

「シノエさん!」

「⁉︎」

 

誰かから呼ばれた声を最後に

 

 

視界全てが爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

なんだ。僕は何を……確か、しのぶさんと入れ替わりで任務に出て……。

体全身が痛い。

 

「シノエさん!伊織さん!」

「ぐほっ…がほっ……たん、じろ……さん。はやく、逃げ……」

 

聞いたことある声が響く。

確か…帰る途中で、お館様から鎹鴉が飛んできて。それから……

 

「ッ⁉︎げほっ……がはっ……」

「シノエさん!よかった、目を…」

 

そうだ、思い出した。宇髄さんの援護のために遊郭に来てたんだ。それから……

 

「ゲボッ……ッ、なにが……どう、なって……」

 

咳と同時に、喉の奥からナニカが込み上げてきて、吐き出すと大量の血が出てくる。

ああ、そうだ。あの鬼の鎌には毒が……。

 

「(ッ……なんだ、これ)」

 

辺りは火の一面になっていて、無事な建物が何一つ見えない。

何人生き残っているんだ…。それに、宇髄さんは…

 

「ふた、り、とも。状況、おしえ……」

「はっ、はっ。わた、しは、なんとかなりました。ですが、毒、せいで」

「俺は無事です!ですから、俺には俺のできることをしに…」

 

 

「なんだぁぁ。オマエらまだ生きてんのかぁぁ」

 

 

「「「⁉︎」」」

 

無理やり立ちあがろうとしたら、頭上から鬼の声が響いてきた。

 

まずい、どうすればいい。

毒のせいで碌に体を動かせないのに。

 

いや、関係ない。しのぶさんとも約束しただろうが。

一人でも多く、生かせ。助けろ。

 

「運のいい奴らだなぁぁ。まぁ、運がいい以外取り柄が無えんだろうなぁぁぁ。可哀想になぁぁぁぁ。オマエら以外はみんなもうダメだろうしなぁぁぁぁ」

 

僕たち、以外は?どういう…

 

「猪は心臓を一突きぃぃ。黄色い頭は瓦礫に押しつぶされて苦しんでるからな死ぬまで放置するぜぇぇ。虫みたいでみっともねえなぁぁ。

柱も弱かったなぁぁ。威勢がいいだけで、毒にやられて心臓も止まって死んじまったぁぁあ。お陀仏だぁぁ」

 

「ッ!毒の呼吸…」

「二天の呼吸…ッ!」

 

「うるせぇよぉぉ。大人しく死んでろぉぉぉ」

 

伊織さんと共に、血反吐を吐きながら斬りかかる。が、一蹴され吹き飛ばされてしまう。瓦礫にぶつかった衝撃で、上にあったものが崩れ、押しつぶされてしまった。

 

「みっともねえなぁぁ、みっともねえなぁぁぁ!オマエら本当にみっともねえなぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

まずい、死ぬ。

特に太腿の血管をやられてるせいで出血が酷い。

 

「ガハッゲホッ……」

 

ダメ出しに、この猛毒だ。解毒剤なんてとっくのとうに尽きてる。そもそもこんな大量に消費する予定ですらなかったんだ。

仮にここから動けたとしても……

 

「(……いや、待て。確か……昔読んだ文献で……)」

 

強い毒を中和するのに……確か……

 

「一か……(バチ)か……」

 

ははっ、しのぶさん、怒るかな。無理しすぎだって。

アオイたちも、もしかしたら泣いちゃうかも。

 

 

でもそんなことを言ってられない。

 

 

「スゥーーーー」

 

僅かに動く右腕で、パチンと、鞘の中で毒の調合を変える。

 

 

気張れ。毒露シノエ。死んでもしのぶさんの元に、蝶屋敷へ帰るんだろ。

 

 

「毒の呼吸…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼になれよぉぉぉ!そうだそれがいい!キハハハハ!なぁ、なるって言えよぉぉぉ。でなけりゃお前の妹殺すぞ?俺は他人の妹なんからどうだっていいからなぁぁぁ!」

 

「たん…じ……ろ、さん。はや…にげ……」

 

「ねえお兄ちゃん、この女は私がもらってもいい?」

「好きにしなぁぁ」

 

妓夫太郎に(もてあそ)ばれながら、炭治郎は逃げ回る。

比較的無事だった右手は遊び半分で指をへし折られ、死なない程度に嬲られていた。

 

「……」

 

「キッヒヒヒヒヒ……悔しいんだなぁぁ。自分の弱さが。人は嘆く時、天を仰ぐんだぜぇぇ。涙が溢れねえようになぁぁぁ」

 

「俺は……俺は……!()()()()()()()……!」

 

その瞬間、炭治郎は思い切り頭突きを打ちかます。

妓夫太郎は思わぬ反撃に姿勢を崩すが、余裕の笑みは崩さなかった。

 

「(ヤケクソで頭突きかよ効かねえぜこんな……)」

 

だが、妓夫太郎はよろけてしまい立ち上がることができなかった。

 

「(な…か、体が…うまく…)」

「お兄ちゃん何やってるの!早く立ってよ!」

「(おかしい、なんだこれは…!おかしい…!たかが人間の頭突きだぞ…!)

 

妓夫太郎は見下ろすと、太ももにクナイが刺さっていることに気づく。

炭治郎が雛鶴が使った毒の付いたクナイを利用したと理解し、怒りに顔を歪ませていた。

 

 

「ウオォォォォァァァァ!」

 

 

炭治郎はその隙を見逃さず、妓夫太郎の頸へ刀を振り下ろした。

 

「(斬れろ!斬れろ斬れろ!みんなが繋いでくれたんだ!死んでも斬り落とせ!)」

 

「嘘でしょお兄ちゃん!そんなやつに頸斬られないでよ!」

 

堕姫は妓夫太郎を助けるために帯を展開し、炭治郎を殺しに--

 

「ッ⁉︎」

 

しかし、それらは斬り刻まれた。

瓦礫の下から抜け出した善逸によって。

 

「雷の呼吸…壱ノ形…」

「アンタの技の速度なんてもう見切ってんのよ!散々見てきたからね!」

「【霹靂一閃】…神速ッ!」

 

善逸は脚を犠牲にし堕姫が反応出来ないほど速く技を出し、堕姫の頸へ刀を食い込ませる。

 

 

 

 

「ガァァァァァッ!」

「(毒で弱体化しているはずなのに!まだ力が足りないのか!)」

「ウガァァァァァ!」

 

毒のクナイを抜き取った妓夫太郎は、自身を中心に血の斬撃を生成した。

炭治郎が押し込めかけてた刀を無理やり押し戻していく。

 

「(くそっ!くそっ!もう少しだったのに!あともうすこしで…!諦めるな!諦めるな諦めるな!頸を狙い続けろ!)」

 

そんな炭治郎を血の斬撃が、更に妓夫太郎が襲いかかる。

 

「(ッ、避けれ…)」

 

 

「風ノ呼吸・壱ノ形【塵旋風・削ぎ】!」

 

 

炭治郎の眼前まで迫った血の斬撃を、伊織は風の呼吸で薙ぎ払った。

 

「伊織さん!」

「クソが!まだ死んでなかったかァ!」

 

「ハァーーッ、ハァーーーッ。がふっ……。スゥーーーー。二天ノ呼吸・肆ノ形【阿修羅ノ舞】!」

 

再び飛び交う血の斬撃を前に、伊織は幾万回とみた師範の技を使い全て弾いていく。

 

「二天ノ呼吸・壱ノ形【剛雷二閃】!」

 

終わった瞬間に頸を狙うが、2回とも僅かに傷を与えるだけで終わってしまう。

 

「ゲボッ…ハァーーッ、クソ、が!いい、かげん、死に、腐れ!」

「お前がなァァ!」

 

妓夫太郎は直接仕留めるために伊織は接近する。

炭治郎は守るために動いたが、妓夫太郎の方が早く伊織の元へ--

 

 

「ハァッ!」

 

 

だが、伊織に当たる前に凶刃を受け止められる。

それは伊織でもなく、炭治郎でもなかった。

 

 

「シノエさん!無事で……」

「僕の、ことは!気にするな!動けるなら、頸を狙いにいけ!」

「ッ、はいっ!」

 

受け止めたのは、毒柱・毒露シノエ。

毒のせいで痙攣しながらも、柱としての矜持で無理やり前線へ舞い戻って来た。

 

「なんで死んでねぇんだぁぁ!お前にはァァ!あの柱と同じくらい毒をぶち込んだはずだろうがァァ!」

 

「賭けに、勝っただけだ!ハハッ!」

 

シノエは理性のタガが外れたように、高らかに、血を吐きながら笑う。

 

そう、本来ならシノエが受けた毒は致命傷だった。

だがシノエは自身が用いる毒の中で最も強力なモノを調合し、()()()()()()()()()()

 

「毒を以て毒を制すとはよく言ったものだ!ハハハッ!ただでさえ強靭な鬼を殺せる猛毒!本当なら即死してもおかしくなかったさ!だけど!僕の猛毒とお前の猛毒がいい具合に喰いあってくれてるよ!」

 

だけど2つの猛毒がシノエの体内にあるのも事実。シノエには実際のところ、時間はあまり残されてなかった。

 

「毒の呼吸…」

「二天・岩の呼吸…」

 

伊織とシノエは、同時に斬りかかり続ける。

炭治郎もなんとか2人に追いつきながら頸を狙い続ける。

 

「ぐぅっ⁉︎」

「ガハッ……」

 

「死ねェェェェ!クソどもガァァ!」

 

しかし、柱と柱級の隊士とはいえ、焼け石に水。

妓夫太郎の剣戟を2人で防いでいくので精一杯だった。

 

「まずはぁぁぁ、お前だぁァァ!」

 

シノエが蹴飛ばされ、膝が落ちてしまった伊織を殺さんと接近し--

 

「伊織さん!」

「気に、せず!狙…」

 

 

ーー-ガギィン!と甲高い音が鳴り、妓夫太郎の血鎌は空中を舞った。

 

 

「なっ……」

 

「…!宇髄さん!」

「うず…い、さん…」

「宇髄…さ…」

 

 

「【譜面】が完成したァ!お前らァ!勝ちに行くぞォォ!」

 

 

 

 

夜明けは、すぐそこ。




大正こそこそ噂話

シノエは鬼殺隊に入る前に海の外に行ったことがあるよ。
そのためペラペラと言うわけじゃないけど英語を多少は喋れるし読めるよ。



今回の妓夫太郎の毒に対抗する為に自身に打ち込んだ毒は【河豚】を元にしてるよ。



いつ死んでもおかしくないよ

リメイクするなら

  • 今ある話を直に修正していく
  • 新しく一から作り直す
  • やる必要ない
  • いいから続きを書け
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。