大事なモノを守るために   作:紀野感無

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「……」

「お館様、どうかご容認くださいませ」

「だが……」

「天元達による上弦の討伐。それを『転機』だと言ったのは他でもないお館様ではありませんか。だからこその提案です。それに…()()()言ったこと、もうお忘れなのですか?」

「…………。わかった。君の覚悟を尊重する。ただ一つだけ言わせてくれ。…ごめんね」





「耀哉様、少しだけお側を離れてもよろしいでしょうか」
「ああ、構わないよ。あまね、君にならきっと話してくれる。だから…」
「勿論です。では…」




弐拾壱(21)・転機

「それじゃ、行ってくるわ」

「おう、胡蝶殿にもよろしく伝えといてくれ」

「はいはい。親父殿も、門下生ちゃんとしばき回しておいてよ。最近たるんでるから」

「わぁーってる」

 

しのぶから、屋敷も落ち着いたのでお見舞いに来て大丈夫と連絡を貰ったので、いくつかの手土産を持って蝶屋敷へ向かう。

上弦の陸との死闘から早7日。善逸、天元以外はまだ目を覚ましていないらしい。

 

『カァー。二天柱!お館様カラ言伝ダ!』

 

「ん?耀哉様から?」

 

『今日、私達モ見舞イニ行クトノコトダ!』

 

「あ、そうなの。じゃあそうね。早めに行ってしのぶ達に伝えておいてあげましょう」

 

『ソノホウガ、イイダロウナ!』

 

なんかさぁ、年々生意気になってないアンタ。最初の方はちゃんと敬語とか使ってたでしょうが。

 

「ま、いいわ。それじゃ、訓練兼ねて突っ走るから、置いてかれないでよ?」

『マカセロ!』

 

 

 

 

 

何事もなく蝶屋敷に着き、きよ、なほ、すみの三姉妹に招き入れてもらう。

まず手始めに向かったのは天元のいる病室。

 

奥さんに看病してもらっており、何ともまあ夫婦団欒で羨ましい限りですこと。

 

「おう武蔵。来たのか」

 

「そりゃね。今回はお疲れ様」

 

「ホントにな。マジで死ぬかと何回思ったことか」

 

天元から聞く限り、上弦の陸は本当に手強かったらしい。血鬼術の動きを読みづらいのもあるけど何より掠っただけで猛毒が廻る事が厄介だったと。

 

「天元はまだ鬼殺隊を続けんの?」

 

「当たり前だろ。伊織やシノエ、竈門達のおかげで五体満足で生きて帰れたんだ。何より、ここで辞めたらお館様に顔負けできねえよ」

 

「……そう。ついでに聞くけど、伊織はどうだった?」

 

「強かったな。ありゃあそう遠く無いうちに俺は超えるぞ。武蔵、お前もうかうかしてると直ぐに追い抜かれるんじゃねえか」

 

「んなこと私が1番分かってるっての。てか聞いてんのは、伊織の悪癖はどうなってた、って事よ」

 

「あー、最初はやっぱり手を抜いてたがな、途中からはその気は無かったと思うぞ。あと悪いとは思ったんだが、俺とお前との会話を教えた」

 

「というと?」

 

「天才だってのと、それ故に無意識に手を抜いてるって事」

 

「……ま、それくらい良いわよ。自分で気づいてくれるのが一番良かったけど、及第点にしときましょうかね。目を覚ましたらどう変わったのかしばき倒してみないと」

 

「おっかねえなぁ宮本武蔵一族は」

 

呆れながらも笑う天元に、改めてお疲れ様と伝え二天屋敷で取れた果実を幾つか置く。あとは夫婦仲良くやっててもらいましょう。

 

「あ、そうだ。お館様がお見舞いに来るってさ。もし先にしのぶが来たら伝えておいて」

 

「おう」

 

天元と別れ、次に案内されたのは伊織の病室。その横には毒柱・毒露シノエと伊之助もいた。

 

「3人とも、しのぶはなんて言ってた?」

 

「そ、その、山場は超えたので安静にしていれば大丈夫と仰ってました。ただ、いつ目覚めるかは分からないと…」

 

「なるほどね。それじゃあ伊織やシノエが起きたら伝えて欲しい事があるんだけど、良いかな?」

 

「は、はいっ!」

 

相変わらずこの三姉妹は私を前にするとちょっと緊張してるなぁ…。別に取って食いやしないってのに。

いやね、可愛らしい少女は確かに大好物ですけど。この子達は幼すぎると言いますか。庇護欲の方が勝つと言いますか。

 

「伊織には、目を覚ましてしのぶから許可が降り次第帰ってくること。シノエには感謝を伝えておいて。それと…しのぶやアオイ、カナヲにも感謝を伝えてくれると嬉しいかな」

 

「わかりました!」

 

「それと…きよちゃんたちもありがとうね。しのぶも、アオイも、シノエも、きよちゃんたちも、君たちの誰か1人でも欠けてたら、きっとこの程度じゃ済まなかったでしょう」

 

それだけを伝え、蝶屋敷を後にする。

途中で耀哉様とあまね様がいたが、忙しくされてるだろうから特に深く話すことはせず、帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

〜1ヶ月後〜

 

「……」

 

目を開けると、よく見知った天井があった。

記憶があやふやで、よく分からないまま体を動かそうとすると激痛が走り、その反動で何かをがしゃんと落としてしまった。

 

「僕は……何を……」

 

「シノエ様⁉︎」

 

声が聞こえた方へ、顔だけをなんとか向けると目に涙を浮かべている1人の少女が。

 

「シノエ様!よかった、目を覚まされた!」

 

その少女は僕のそばに駆け寄ると身体中をペタペタと触ってくる。

あのちょっ、くすぐったい……

 

 

じゃなくて。

 

 

「アオイ…しのぶさん、いる?」

 

「はいっ、はいっ!おられます!」

 

「わかった、呼んでもらって、いいかな」

 

「お任せください!」

 

アオイは涙を拭ってすぐさま部屋の外へ(ついでに近くにいた三つ編みの少女なほへ声をかけて)パタパタと走って行った。それと入れ替わりでおそらく看病をするよう言われたなほが入ってきた。

 

「シノエ様ー!よかったですぅぅ…!」

「ごめんね、心配、かけて」

 

手を借りながら上体を起こし、体のあちこちに巻かれた包帯を取り替えてもらう。

記憶があやふやだけど、体の治療痕を見るに相当な重症だったらしい。

 

「なほちゃん、このお腹の傷は…」

「しのぶ様によると、内臓は奇跡的に無事だったみたいです。ですけど…」

「ああその辺はなんとなくわかるんだけど。これ縫合してくれたの、しのぶさんじゃないね。アオイが治療に入ったの?」

「えっと、その、その通りです」

「そう……」

 

なほちゃんからなんで分かったのかと聞かれたが、縫合痕を見ると大体わかるのは医者の性だろう。

しのぶさんも丁寧な処置をするが、それに負けず劣らず綺麗に縫われていた。

 

「一年も経たずにここまで……。本当すごいなアオイは…」

「私から見ても、アオイは十分知識と技術を身につけたと思いますよ、シノエ君」

 

戸が開き、しのぶさんが入ってくる。

いつもの笑顔ではなく、心の底から心配していたような、そんな顔をして僕を見た途端に深呼吸していた。僕の前に座り、その横にアオイも座った。

アオイにも経験を積ませる為に、とのことらしい。

 

「本当に……目を覚ましてよかったです」

「心配おかけしました。目を覚ましたばかりで申し訳ないんですが、状況を教えてもらってもいいですか」

 

記憶があやふやな事を伝えると、しのぶさんは真剣な目つきで説明をしてくれた。途中から音柱の宇髄さんが合流し、事細かく説明してくれた。

そのおかげで記憶がどんどん鮮明になってくる。

 

「他のみんなは無事なんですね」

「ああ、お前のおかげだシノエ」

「共同開発した解毒薬も大変役に立ったようです。が…特に重症だった竈門炭治郎くんと嘴平伊之助くんはまだ目を覚ましていませんので油断は禁物ですが」

 

特に鬼の頸を竈門炭治郎が斬った後の話は、にわかには信じられない事だった。

 

「毒を……そうですか。竈門兄妹に救われたんですね」

「そういえばもう一つ、聞きたいことがあったのですが大丈夫ですか?」

「はい」

 

しのぶさんは真面目な顔で僕を見つめてきた。

相変わらず綺麗だ本当に。

 

「太腿付近に刀による斬り傷がありました。また宇髄さんからはシノエ君が『毒同士が喰い合っている』と言っていたと証言を頂きました。一体何をしたんですか?」

 

「……。答えなきゃ、ダメですかね」

 

「勿論です」

 

「怒らないで…くださいね?」

 

「内容によりますね」

 

ですよね。嘘ついて余計怒られるくらいなら初めから怒られよう。

 

 

すごい怖いけど。

 

 

「上弦の陸が使ってた猛毒の巡りを少しでも遅らせるために、僕の使う中で一番強い毒を自分に盛りました」

 

「そうですか」

 

あれ、思ってたより怒って…ない?

 

「何故そうしようと?」

 

「海の外で読んだ文献で、2種類の強い毒が体内に入ると、死を迎えるまでの時間が延びることがある、と。それに生物由来の毒とはいえ、元は鬼を殺すために開発した毒です。もしかしたら、鬼の毒を先に殺してくれるかも、と」

 

「……なるほど。事情はわかりました。最後にどの毒を使ったのか教えてください。念のため、それを元に解毒薬を調合しておきます」

 

河豚(フグ)と藤の花を中心に複数の毒を。意識朦朧としてたので調合自体は雑ですが、それでも鬼の毒と良い感じに喰い合うというか…相殺してくれたと言いますか。相乗効果でより強力な毒にならなかったのは運が良かったと思います」

 

それを伝えると宇髄さんやアオイは引き攣った顔をしていたが、しのぶさんはやっぱり爽やかな笑顔のままで立ち上がった。アオイに点滴などの器具を持ってくるよう指示を出して、宇髄さんにも病室に戻るよう言い2人が退出したのを見計らったのか改めて僕を見てきた。

 

「シノエ君」

 

「はい」

 

「改めて、生きて帰ってくれて、嬉しいです」

 

その時のしのぶさんの笑顔は----

 

何かを決意していた

 

 

 

 

 

〜シノエが目覚めてから半月後〜

 

「……」

 

目が覚めると、見知らぬ天井を見上げていた。起きあがろうとすると激痛が走って変な声が出てしまった。

 

「あーっ!目を覚ましたんですね!」

 

「…?ぁ…」

 

「大丈夫です!ここは蝶屋敷ですよ!」

 

「蝶…屋敷……」

 

駆け寄ってきた小さな女の子からそう説明され、あやふやながらも自分のことを思い出してきた。

 

「ご自分の名前はわかりますか?」

 

「宮本……伊織…」

 

本名ではなく継子としての名前を告げると涙を流しながらも笑顔になり、部屋を出ていった。

 

「失礼します。伊織さん、お体の具合はいかがですか?」

「蟲柱様……はい、ちゃんと五感及び四肢の感覚はあります」

「では、ここに運ばれる前のことはどこまで覚えていますか?」

「確か……」

 

遊郭で宇髄様と共に上弦の陸と戦ったこと、毒を受けてしまったが誰かに解毒薬を飲ませてもらったことで戦線復帰したことなどを伝えていく。蟲柱様は途中険しい顔になっていた気がしたが、終始笑顔で問診を続けられた。

 

「上弦の陸が使った毒は、耐性のある宇髄さんですら瀕死に追い込まれた代物です。禰豆子さんの力で解毒されているとはいえ、後遺症がないとも限りません」

 

そして最後にまだ安静にしている事と念押しされ、あまりの圧にコクコクと頷くと、宜しいと言いながら部屋を出ていった。

 

「…………。生きて、帰れたんですね」

 

しかし、猛毒でどう足掻いても死ぬしかないと、そう思っていたが禰豆子さんに解毒され命を救われたとは。

 

「初めて、あんな激情に身を任せて動いた」

 

 

そうしたら、見ていた景色が一気に変わった。

自分以外の時間の流れが遅くなるような、そんな感覚が。

 

 

「んぁ…」

「?」

 

不意に横から声がした。

頭をなんとか動かすと伊之助さんがいた(流石に猪頭は脱がされていたが)

 

「ハラヘッタ!」

「うるさいです」

「あぁん⁉︎」

 

開口一番、大声で叫ばれるものだから耳が痛い。

伊之助さんの声に反応したのか、三姉妹だったりアオイさんだったり、またもや色々な人が訪れてきた。

 

「伊織さん、武蔵さんから言伝を預かってます」

「師範から?」

「えーと…しのぶ様から退院の許可が出たらすぐに屋敷に帰ってくるように、とのことです」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 

 

 

 

〜更に半月後〜

 

「ただいま戻りました」

 

伊織はようやく許可が降り、二天屋敷へ戻っていた。

屋敷に入るなり数十人の門下生や家政婦など、住み込みしている人が大量に押し寄せてきた。

 

「みなさん、師範に呼ばれていますのでまた後ほどにしてもらえないでしょうか」

「おう!それと伊織、今日どうせ暇だろ?久しぶりに勝負しようぜ。鈍った体叩き起こすのにもいいだろ!」

「ええ是非とも」

 

門下生たちをなんとか振り切り、たどり着いたのは現代宮本武蔵の個室で、伊織は躊躇いなく戸を開けた。そこにいたのは現代宮本武蔵と先代のレン。

 

「戻りました師範」

「おー。おかえり。上弦の陸の討伐お疲れさん。ほれ、座りな」

 

武蔵に促されるまま、正面を見据えるよう正座する。レンはというと壁に寄りかかったままだったが。

 

「さて、呼び戻した理由だけど…」

『カァー!二天柱!文ガ届イタゾ!』

「……。はいはい。くださいな」

 

が、そんなことはお構いなしに鎹鴉が突如乱入してくる。話の初っ端をへし折られた為か、ため息を吐きながらも手紙を受け取り広げる。なお、武蔵に睨まれて鴉が逃げるようにこの場から居なくなったが。

 

「……ふーん」

「どなたからで?」

「しのぶから。炭治郎、目を覚ましたってさ」

「そう…ですか」

 

それを聞いて2人して--特に伊織は共に死地を掻い潜ったからか武蔵よりも強く--安堵していた。

 

「ま…全員生きててよかったわ。それじゃ改めて伊織。改めて屋敷に戻らせた理由だけれど、これからの柱合会議は私の代役として出てもらうことにしたわ」

 

「……は?それはどういう…」

 

「伊織が『宮本武蔵』の名を襲名した暁には柱になれ、ってこと。今回の上弦の陸討伐に貢献した事で、伊織は襲名するための条件を満たしたわ。手始めに…」

 

「そういうことではなく!師範、貴女は『柱』も『宮本武蔵』も辞めないって…」

 

「伊織、黙って聞け。まだ当主が話してんだろ」

 

取り乱す伊織へレンは鋭い眼光を飛ばし、無理やり黙らせる。

 

「先に言っておくけど、これはもう確定事項よ。手始めに、まず屋敷の人間全員、と勝負しなさい。期限は10日。それが終わり次第親父殿と。それが終わったら…またその時に伝えるから今は考えなくていいわ」

 

「……」

 

「とにかく、これからは鬼殺隊としての任務をこなしながら、貴女は宮本武蔵を襲名する為に動いてもらう。私からは以上。何か質問ある?」

 

「……何故、そのように決めたんですか」

 

伊織は戸惑いからそう絞り出すことしかできなかった。

一方で武蔵とレンは特に感情が揺れることはなく、淡々と言葉を発する。

 

「単純なことよ。五体満足の伊織と私だと伊織の方が強いから、それだけ。何より私はお館様から頼まれてることがあるから、柱の業務までやりきれないのよ。お館様と相談したらそのように取り計らってくれたわ」

 

「それにだ、お館様曰く今回の上弦の鬼討伐は『転機』だそうだ。ならばその『転機』を失わない為にも鬼殺隊の最高戦力である『柱』は万全にしておくべきだと俺達が進言したんだ。その意味がわからないお前さんじゃないだろう?」

 

「それは…そうかも、しれませんが……。では、もし私が襲名したら、師範はどうするのですか?」

 

「親父殿と変わんないわよ。基本は屋敷に居て、時折任務があれば出て…。ま…そういう訳だから、出来るだけ早めにやりなさいよ。私はちょっと行く場所あるから、後の詳しいことは親父殿から聞いてちょうだいな」

 

「まっ、師範!」

 

伊織の呼び止めも無視し、武蔵は何処かへ出かけて行った。

 

 

 

 




大正こそこそ噂話

実はこの決定は他の誰でもない武蔵ちゃんが一番苦しんでたりするよ。
でも決してそれを顔には出さないよう頑張ってるよ

リメイクするなら

  • 今ある話を直に修正していく
  • 新しく一から作り直す
  • やる必要ない
  • いいから続きを書け
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