大事なモノを守るために   作:紀野感無

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〜蝶屋敷〜

「……」

今日も毒を飲む。
これだけで復讐を果たせる訳じゃないのは分かってる。

でもやれる事は全てやっておくべきだと、そう思った。

彼が瀕死で帰ってきた時にそう決意した。


例え未来が潰えようとも。


「けほ…それでも、慣れませんねこれは…」


彼に見つかる前に手早く今日の分を飲み干す。
胃の臓が苦しくなるが、耐える。

鬼に不幸にされた者の心の痛みは、こんなものじゃないと身を以て知っているから。


コンコン


「はい」

「しのぶさん、朝餉ができたそうです。それと隠の方が…」

自室の扉を叩いたのは彼だった。
口の中を手早く水で濯ぎ、戸を開け共に食卓へ向かう。

「……?」
「どうしました?」
「いや…しのぶさん、なにか調合でもしてました?」
「いいえ、特に何も。何故そう思われたんですか?」
「気のせいかもしれませんが、藤の花の匂いがしたような気がして」
「そうですか?もしかしたら生けておいた藤の花のせいかもしれませんね」
「…かもしれませんね。すいません詮索してしまって」
「いえいえ」

きっと彼がこれを知ったら酷く怒るということは安易に想像つく。


それでもやらなければ。
他の誰でもない、頸を斬る事のできない私がしなければならない。


姉さんの、武蔵さんの、彼の。

全ての鬼に不幸にされた人々のためにも。



姉さんと約束したのだから。





弐拾弐(22) 『痣』

上弦の(ろく)が討伐されて早2ヶ月。

 

音柱の宇髄天元、宮本武蔵の継子の宮本伊織、毒柱の毒露シノエ、我妻善逸は既に鬼狩りの任務へ復帰しており、竈門炭治郎と嘴平伊之助は機能回復訓練に励んでいた。

 

 

 

「刀鍛冶の里に?」

「はい!」

「ほーん、いいじゃない。しっかり学んできなさいな」

「頑張ります!」

 

しのぶ達から退院していいと言われた炭治郎は、どうやら刀鍛冶の里に行く様子で、そのことを元気に報告して来た。

二天柱になってからあまり顔を出せてなかったし私も久しぶりに……って言いたいけど、流石にそんな余裕は無いのでここは見送るだけになりそうね。

 

「それでは!行って来ます!」

「行ってらっしゃい」

 

元気に蝶屋敷から隠の人と共に出発した炭治郎。

帰ってくるのは…早くて1週間とかになりそうね。

 

さてはて…暇になってしまったし、どうしましょうかね。

 

「武蔵さん、今お時間はありますか?」

「大丈夫よ。どうしたの?」

「少しお手伝いして頂きたい事がありまして」

「わかった。ちょっと待ってて。すぐに行く」

「ありがとうございます。では、私の自室でお待ちしていますね」

 

恐らくは、私がお願いしていた案件だろう。

早めに行くとしましょう。

 

 

何よりしのぶを怒らせたら怖いからね!

 

 

 

「来たわよーしのぶー」

「ありがとうございます。どうぞお掛けください」

 

しのぶに促されるまま椅子に腰掛ける。羽織を脱ぐよう言われ、指示されるまま脱ぐ。

 

そして始まったのは触診。主に使い物にならなくなった左腕(正確には左肩周り)をしのぶは丁寧に診始めた。

 

「あれからしばらく経ちましたが、やはり?」

 

「そうねえ、うんともすんとも動かないかな。肩周りならまだ感触あるんだけど、肘から先になるともうなーんにも」

 

「そうですか…。では次に右眼を」

 

眼帯を外し、右瞼をゆっくりと開く。だが光は全く入ってこず暗闇が広がっていた。

 

「こちらもやはり?」

「全く何も。いいつけは守ってるんだけど、やっぱりしのぶ達の言う通りなんでしょうね」

「そうですか…。それと、以前お願いされた件についてですが、問題は無さそうです」

「あらそう。ありがとさん」

「それと、もう一つよろしいですか?」

「うん」

 

しのぶは何か思うところがあるのか、丁寧に右目周りを拭き、深呼吸してこちらに向き直った。

 

 

「柱をやめるというのは本当ですか」

 

 

その瞬間、沈黙がこの場を支配した。

どうにも居心地悪く誤魔化そうかなとも思ったけど、しのぶの顔を見るに許してくれなさそう。

 

「はー…誰に聞いたのよ」

 

「否定しないんですか」

 

「本当のことだし」

 

「何故……」

 

「伊織は確実に今の私より強いから。それに上弦の陸の討伐はお館様曰く『転機』だそうよ。なら、最高戦力である『柱』は万全にしておくべきってのが私と親父殿の見解よ」

 

「鬼殺隊もやめるのですか?」

 

「いいや、それはやめないわよ。知ってるでしょ?宮本武蔵の元に弟子入りした人間は男女、童から老人に至るまで、引退もしくは死ぬまで鬼殺隊で在ることを義務付けられるの。例え片眼片腕になっても、女であっても変わんないわ」

 

「そう…ですか。……本当に…」

 

「くどいわよ。これは他の誰に言われた訳でもない。宮本武蔵(わたし)が決めた事。後悔が無いかと言われたら嘘になるけれど、だからと言って最善手をドブに捨てるような真似はしたく無いのよ」

 

再び沈黙がこの場を支配した。

しのぶは何か思うところがあるだろうけど、全てを飲み込んだのか普段の笑顔に戻る。

 

「わかりました。深く詮索してしまい申し訳ありません。それで今後についてですが、どのように?」

 

「伊織が襲名の通過儀礼を終わった後は…そうね、暫くは休みを貰いたいわね。それで甘味処とか、おうどんとか。美味しいものたくさん食べたいわね。勿論、しのぶも一緒にね」

 

「……はい。その時は是非」

 

 

 

 

 

竈門炭治郎が刀鍛冶の里へ出立して7日経った頃、全ての柱に知らせが届く。

 

その内容とは、刀鍛冶の里に上弦の肆、伍が出現した事。

その場にいた竈門炭治郎、不死川玄弥、恋柱の甘露寺蜜璃、霞柱の時透無一郎により撃破された事。

 

鬼である竈門禰豆子が太陽の光を克服した事が確認された事。

 

この日を境に、鬼の出現する頻度が激減していった--

 

また鬼の始祖である鬼舞辻無惨との最終決戦が近づいていることを予見している内容だった。

 

 

 

 

 

 

この短期間で上弦の鬼を3体も倒した事で、緊急柱合会議が開かれ、産屋敷家に多くの人間が集まっていた。

 

「はぁ、羨ましいことだぜ。どうしてこうも俺は上弦に遭遇しないのかねぇ」

 

そう愚痴をこぼすのは風柱の不死川実弥。

 

「こればかりは遭わない者はとんとな。その後の体調はどうだ甘露寺、時透」

「あっ!だ、大丈夫です!元気いっぱいです!」

「僕も、問題ありません」

 

伊黒に心配され蜜璃はいつも通り頬を赤らめながら、時透も同じくいつも通り淡々と返答していた。

 

「はー、にしてもあの変態壺野郎に分裂野郎がねぇ」

「かっかっか!俺らの情報も大いに役立ったって聞いたぜ!」

 

「はい!それはもう!」

「でも上弦の伍の水鉢は、分かってても脱出するのが困難でした」

 

そして、本来そこに居るはずのない--いられる筈のない者が1人。

 

「親父殿、一ついい?」

「あん?なんだヒナ」

「真横で大声出さないで本当に。耳が痛いのよ」

「これくらい普通だろ。てかなんでそんな硬いんだよ。いつも通りになれよヒナ」

「だぁー!もう!この場でヒナって呼ぶな!」

「あ、そうか。杏寿朗殿がいるからだな?相変わらず初々しいなお前」

「本気で黙って親父殿。素っ首刎ねるわよ」

 

それは7代目宮本武蔵を務めたレンだった。本人曰く、お館様から招集をかけられたとの事。

 

「師範、先代。お願いですからもう少し大人しくしてくださいませんか」

「伊織さんの言う通りですよ御二方。親子として仲が良いのは素晴らしい事ですが、少しお控えください」

 

それを咎めたのは、武蔵の継子である宮本伊織と蟲柱の胡蝶しのぶ。

2人は怒らせないほうがいいと悟っているのか一瞬でおとなしくなった。

 

「はい…」

「すまんすまん」

 

「それと、お二人は今回、傷の治りが異常に早い。何があったんですか?」

「確かに…今まで幾度となく重症な隊士は見てきましたが、お二人は別格な速さでした。海の外でも、そのような事象は見たことも聞いたことも…」

「その件も含めて、お館様からお話しがあるだろう」

 

しのぶと毒柱こと毒露シノエは、甘露寺と時透の傷の治りの速さが異常だと指摘する。水柱の冨岡義勇の言葉に全員が一応は納得し、その話は終わりとなった。

 

「で、あと揃ってないのは…」

「音柱の宇髄ですね。南無…」

「相変わらず南無南無言ってんなぁ岩柱殿」

 

暫く経ち、漸く音柱こと宇髄天元も合流する。それを見計らったかのように柱達の前の障子が開く。

 

 

「大変お待たせ致しました。本日の柱合会議、産屋敷耀哉の代理を、産屋敷あまねが務めさせて頂きます。そして、当主の耀哉が病状の悪化により、皆様の前へ出ることが不可能となった旨、心よりお詫び申し上げます」

 

 

そこにいたのは産屋敷あまねと2人の娘。

だがそれを誰も責めはせず、全員その場に手をつき丁寧なお辞儀を返す。

 

「承知。お館様が1日でも長く、その命の灯火燃やしてくださることを、祈り申し上げる。あまね様も御心を強く持たれるよう…」

 

「……。柱の皆様には、心より御礼申し上げます。本日、緊急で集まって頂いたのは…」

 

「少しお待ちくださいあまね様」

 

「はい、なんでしょうか先代宮本武蔵様」

 

話に割って入ったのは先代宮本武蔵のレン。

 

「俺のことはどうかレンとお呼びください。して、俺は本来この場には居られぬ身。当代宮本武蔵と継子の伊織はともかく、俺までも招集した理由をお聞かせ願いたい」

 

「分かりました。では先にそちらをご説明させて頂きますが…皆様は宜しいですか?」

 

あまねが柱達を一瞥し、誰からも反対がなかった為、本来後回しにと考えていた事を話しだす。

 

「これより先の遠くない未来、鬼の始祖である鬼舞辻無惨との戦いが控えている事はお伝えしていると思います。それは禰豆子さんが陽の光を克服した事が起因していると考えています」

 

「ふむ」

 

「鬼舞辻無惨の強さは未知数です。恐らくは上弦の鬼とは比較にならない強さでしょう。無論、皆様が負けるなどとは微塵も考えておりませんが……」

 

「嗚呼、成程。つまり俺にも戦いの場へ出て欲しいと、そう言う訳ですね?」

 

「仰る通りでございます。こちらの勝手な都合でレン様を駆り立てることになること、心より…」

「何を仰いますか」

 

頭を下げようとするあまねにレンはストップをかける。

あまねが不思議に思っていると、レンは両腕がないにも関わらず綺麗に頭を床につけそうなほどに下げた。

 

「俺は先代のお館様、耀哉様、そしてあまね様には心を救われた身。この老ぼれの命一つでお役に立てるなら喜んで戦場に立ちましょう」

 

「……………。ありがとうございます」

 

それから改めて説明がされたのは、陽の光を克服した竈門禰豆子を狙われるだろうということ。

また上弦の肆、伍と戦った時透無一郎、甘露寺蜜璃に独特な紋様の『痣』が顕れたと言うことだった。

 

「痣……」

 

それを聞いて何か思うところがあったのか、レン、武蔵、伊織は何かを考えていた。

 

「戦国の時代、鬼舞辻無惨をあと一歩というところまで追い詰めた『始まりの呼吸の剣士達』。彼らには皆、鬼の紋様と似た痣が発言していたそうです。伝え聞くなどして、ご存知の方もいるかと」

 

「俺は初耳です。何故伏せられていたのですか」

「俺も不死川と同じです!父からも聞いた事がありません!」

 

「痣が発現しないため、思い詰めてしまう方が大勢いらっしゃいました。それ故に。また痣については伝承が曖昧な部分が多く、継承が途切れたと思われるからです」

 

そしてはっきりと記されていた事として、痣の現れた者が1人現れるとそれに呼応するように周りの者達にも痣が現れる、ということを告げられる。

 

この世代で初めて痣を発現させたのは竈門炭治郎だったが、彼にもよくわかっていない事だったらしく、一旦保留にしていた事。

だが柱の2人に痣が発現したことから、その方法を伝授してもらう為に今回集まってもらった、ということだった。

 

時透が説明した条件とは「心拍数が200以上」「体温が39度以上」である事の2つ。

それを聞いたしのぶとシノエは怪訝な表情を浮かべた。

 

「それは本当なんですか?命に関わりますよ」

「……海の外でも、そんな状態で動き回れるなんて、ましてや身体能力が向上するなんて事象、見たことも聞いた事もありません…」

「はい、だからそこで(ふるい)にかけられるんだと思います。それを乗り越えられるかどうか…」

「南無…ということは、我らは『痣』を発現させるのが急務…ということになるな」

 

「その前に、一つお伝えしておかなければならない事が」

 

柱達が痣を発現させるにはどうするかを話し合おうとした時、あまねが話に割って入る。

 

「まず、既に『痣』を発現させた甘露寺様、時透様には選ぶ事ができません。

 

『痣』を発現させた者は、1人の例外もなく----」

 

 

 

 

 

 

 

〜柱合会議後〜

 

会議が終わり、あまねとご令嬢2人が退出し、この場には柱達とレン、宮本伊織が残された。

 

今後どう動くかを柱達で話し合うと決めたが、誰も動こうとはしなかった。

 

「嗚呼…あまね様の言葉が本当ならば、私はどうなってしまうのだろうか…南無……」

「師範、先代。()()()は、知っていましたか」

「全く知らない」

「同じくだな。初代様の書物にもそんなこと書かれてなかった」

 

それは先ほど告げられた、『痣』を発現させた者についての情報。

 

 

--『痣』を発現させた者は1人の例外なく齢25を迎える前に死ぬ--

 

 

鬼殺隊に入り、尚且つ柱になるまで鍛え上げた者達にとっては今更な事であり、些細な事ではあった。だがそれを良しとしない者も少なからずいたのも事実。特に複雑な表情をしていたのは武蔵と伊織だろう。

 

「あまね様も退出されたので、失礼する」

「おい待て、失礼すんじゃねえ。今後の立ち回りも決めねえとならねえだろうが」

 

だが我関せずと立ち上がったのは冨岡義勇。その立ち振る舞いに不死川は怒りを露わにしていた。

 

「俺以外で話し合うといい。俺には関係ない」

「関係ないとはどういう事だ。貴様には柱としての自覚が足りぬ。それとも何か。早々に貴様だけ鍛錬を始めるつもりか?会議にも参加せず」

「……」

「てめぇ!待ちやがれ!」

「おい冨岡、地味な事すんじゃねぇ。座れ」

「冨岡さん、理由を説明--」

 

伊黒、不死川、宇髄だけでなく胡蝶しのぶまでもが冨岡を糾弾しようとした。

だが自分たち以上の怒気…否、殺気を感じ、全員が押し黙った。

 

「はぁ……ヒナ。気持ちはわかるが落ち着け」

「師範、落ち着いてください」

 

「黙って親父殿、伊織。……冨岡、表に出なさい」

 

「俺には関係ない。俺はお前達とは違--」

 

 

 

「出ろ、つってんのよ。今すぐ」

 

 

 

武蔵はゆっくりと立ち上がる。

 

ただそれだけの動作を武蔵だったが、次の瞬間にこの場の全員が、袈裟斬りされてしまうと、そう錯覚した。

全員が日輪刀を手に取り、迎撃の体勢を取ってしまうほどの殺気を武蔵は露わにしていた。

 

「不死川、冨岡から、離れろ」

「なに…をッ⁉︎」

「⁉︎」

 

武蔵は全員が反応するよりも速く冨岡の横に移動する。

冨岡の首根っこを掴んだと思うと強烈な膝蹴りを決め、庭へ吹き飛ばす。それに続いて武蔵も庭へ出ていく。

 

「っ、急に何をする。俺はお前達とは--」

「口を閉じろ。これ以上、私を不愉快にさせるんじゃないわよ。分かったら黙って日輪刀抜きなさい」

「何故?」

「何も知らない、分かろうともしない、理解してもらおうともしない、そんな自分の事しか考えてない自惚れた若造をしばき回すのに理由がいる?ああ、もしアンタが勝ったら大人しく帰っていいわよ。悲鳴嶼、それで良いわね?」

 

「南無…致し方なき…。だが、やり過ぎだと思ったならば止めに入る…」

 

 

 

「伊織、ヒナは俺がなんとかする。お前はあまね様に言伝行ってこい」

「は、はい。なんと、お伝えすれば」

「お庭お借りします、汚してしまうかもしれませんって」

 




大正こそこそ噂話

伊織による宮本武蔵襲名の儀式だけど、まだ達成できてないよ。
普通にレンさんに勝てないみたい。

それと、伊織自身が少し手を抜いているような傾向もあり…?



武蔵ちゃんがこれでガチギレしたのは人生で3回目だよ。





とても懐かしい匂いがした

木の柔らかな優しい匂いと、それに紛れるようにたくさんの薬の匂い。
微かに混ざっている血の匂い。

私の大好きな場所だと、すぐに分かった。

「……」
『カァー⁉︎オマエ!メガ…』
「うん、ごめんなさい。ちょっと、寝坊…しちゃってたみたい。みんなに、伝えてきて、もらえるかしら?それと、シノエ君も、呼んでくれる?」
『モチロンダ!マカセロ!』
「あ、でも…

しのぶとヒナちゃんには、内緒にしてもらえる?驚かせたいから」


枯れかけた花が、息を吹き返す。

リメイクするなら

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