大事なモノを守るために   作:紀野感無

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『カァー!カァー!シノエ!シノエ!』
「ん?」

宮本武蔵さんが水柱の冨岡さんを蹴り出した後、突然頭を鎹鴉に突かれた。
何事かと思っていると、どうやら重傷な隊士が出たらしく、僕に来て欲しいとのことだった。

何故しのぶさんじゃなく僕を指名なのかわからなかったが、死にかけているというなら行かないという選択肢はあり得なかった。

みんなに一言だけ断りを入れて先にこの場を離れる。

「……?ねえ、こっち蝶屋敷じゃないよね。どこに向かってるの?」
『イイカラ!トニカク早ク!』
「はぁ?」

ますます訳がわからない。
重傷な隊士なのに蝶屋敷に運ばなかったのか?

『カァー!ココダ!ココダ!』
「どうも」

鴉に連れてこられたのは街外れの古びた一軒家。だけどおかしい。重傷だから動かせなかったのかと思ったけど、周囲には血の一滴すら見当たらない。というか、家の中に動かせたのなら普段の隠の方々なら蝶屋敷まで運べたはず。

「……自分勝手な隊士だったら説教してやる」

履物を見る限り女性隊士だろう。隠の人、女性だからって甘くなって…


待て

女性隊士なら何故僕が呼ばれた。尚の事しのぶさんだろ。

「ねえ、まさかとは思うけど内容って女性の『月のもの』じゃないよね?」
『カァーカァー』
「……」

もういいや、考えても埒があかない。そもそもしのぶさん以外に女性として興味ない。

などと言い訳を必死に並べ、戸を開ける。

「失礼します----」


弐拾参(23)・蝶は再び舞い戻る

庭に蹴り出された水柱・冨岡義勇と蹴り出した張本人である二天柱・宮本武蔵は、片や困惑の表情で、片や激怒の感情を押し殺しながら向かい合っていた。

 

本来ならば武蔵の行為は隊律違反とも取られかねなかったが、他の柱たちは(数人を除いて)止める気配がなかった。

 

「もう一回だけ言うわよ。日輪刀を抜きなさい。鬼舞辻と戦う前に死にたくないでしょ」

 

「断る」

 

「あっそう」

 

武蔵は一瞬で極限まで脱力し、膝を抜くことで体を落下させる。その勢いのまま踵で--地面が凹むほどの力で--踏み抜き、見ていた柱達が知覚できないほどの速さで義勇の目の前まで移動してみせる。

 

「ッ!ぐっ⁉︎」

 

武蔵は鞘に入ったままの日輪刀で義勇の頸に向かって振る。間一髪防いだ義勇だったが、直後、腹に鈍い痛みを感じ一瞬だけ宙に浮く。

 

「なに呆けてんのよ。殺される訳がないって安心感でも持ってるわけ?自分勝手な柱が1人いるくらいなら、ハナからいない方がこっちとしても楽なのよ」

 

「っ…言った、はずだ。俺はお前たちとは…」

 

「あーはいはい。

『俺はお前たちとは違って特別だ』?

それとも『俺はお前たちとは違って時間を無駄にしたくない』?

何でもいいけど早く立ちなさいよ。あの程度で立てなくなるほどヤワじゃないでしょう」

 

「断る。俺は……」

 

「じゃあ再起不能になっても文句言うんじゃないわよ」

 

再び武蔵は鞘に入った日輪刀を振るう。頑なに距離を取ろうとする義勇へ接近し、本気で骨を折るつもりで攻撃を仕掛け続ける。

 

「ッ…!水の呼吸・壱ノ形…!」

「ふん、スゥーー水の呼吸・壱ノ形」

 

「「水面斬り!」」

 

咄嗟に出た義勇の水の呼吸と、形だけの真似ではあるが武蔵の水の呼吸がぶつかり合う。水の呼吸に適した体を持つ義勇と、完全には適さない武蔵の差か、はたまた練度の差からか武蔵の手から刀が弾かれる。

 

「くっ…」

 

だが義勇も無傷では済まず、僅かながら手が痺れていた。

 

「岩の呼吸・弐ノ形【天面砕き】」

「⁉︎」

 

だが武蔵はもう一本の刀を持ち--いつの間にか弾かれた刀と、鎖で柄同士が繋がっており--義勇へ振り下ろす。

間一髪避けられはしたが、武蔵は構わず攻撃を仕掛け続ける。

 

義勇は抜刀してしまったからか、武蔵を極力傷つけまいとしている。だがそれが余計に武蔵を怒らせ、攻撃はさらに激しくなる。

 

「……岩柱の旦那、どう見る?」

「む?どう、とは…」

「そのままの意味だ。他の現柱の皆も、これを見て何を感じる?」

 

突如、見守っていたレンは柱にそう問いかける。

 

「私は……」

 

真っ先に口を開いたのは、おそらく最も付き合いが長い蟲柱・胡蝶しのぶ。何か思うところがあるのか普段の微笑みではなく、何処か哀しげな表情をしていた。

 

「武蔵さんが、あんな()()()()刀を振るのを、初めて見ました」

「だよね⁉︎そうだよね⁉︎武蔵ちゃん、すっごく辛そうだよね⁉︎」

 

しのぶの言葉におもわず恋柱・甘露寺蜜璃も同意する。

レンよりも先に2人が勘づいたのは、同じ女性だからか。

 

炎柱・煉獄杏寿郎は何かを理解したように大きく頷きながら声を発する。

 

「恐らくだが、武蔵殿は()()()()()()()()()()のではなかろうか」

「どういうことだァ…煉獄」

「以前、武蔵殿が弱音を吐いたことがある。その時、自分の弱さが憎いと、お館様の期待に応えることが出来なくなったと、そう言っていた」

「確かに……彼女から感じる激しい怒り、冨岡の言葉に対してと思ったが、何処か違うような気がした。そういうことか……」

 

煉獄の言葉で悲鳴嶼と風柱・不死川実弥も違和感が腑に落ちていた。

 

「かー、なるほどなぁ。道理で。昔となーんにも変わっちゃいねえって事か馬鹿娘が」

 

それからも暫く、武蔵と義勇の剣戟は続く。

 

「……相変わらずだな、ホント。『お前は他人のために刀を振れ。それでいて他人に厳しく、それ以上に自分に厳しく在れ』。……全部俺が教えたことだったな」

 

ごく僅かに義勇が押し始めた頃合いを見て、レンは歩みを進める。

 

「柱の皆様方、もう良いだろう。止めるぞ」

 

レンの問いかけに誰も否定の言葉を発さない。

 

「んー……フッ!」

「「⁉︎」」

 

レンは2人の間に強引に割り込み、2人の日輪刀を蹴り飛ばしてみせる。これには柱達も思わず感嘆の息を漏らしていた。

 

「そこまでだヒナ」

「邪魔しないでよ親父殿、そこ、どいて」

「水柱殿、ヒナが悪かったな。帰っていいぞ」

「……」

「親父殿、何勝手に……ぐっ⁉︎」

 

レンの振る舞いに怒ろうとした武蔵だったが、突如体がくの字に曲がり少しばかり浮く。

 

「か…はっ……」

「そこまでだ、つってんだろ。お前さんの気持ちは分かるが落ち着け」

「なに…が、分かる…って」

「いいから、頭冷やせ馬鹿娘。老いぼれた俺の膝蹴りすらまともに反応できなかっただろうが。そもそも、あのまま斬り合ったらヒナが負けてたのは一番分かってるだろ」

「〜〜……ッ!」

 

レンの言葉に、武蔵は顔を険しくしながらも、無理やりながら立ち上がり、日輪刀を腰に差す。

 

「げほっ…そうね、悪かったわ。冨岡、約束は約束。好きにしなさいな」

 

「……では、失礼する」

 

冨岡はそれだけ言い残し、産屋敷家を出て行った。

それと入れ替わるように宮本伊織が戻ってくる。

 

「師範、先代、あれ…水柱様は」

「残念ながらヒナの負けだ。だから帰らせた。で、あまね様はなんと?」

「あ、は、はい。師範の好きなようにやらせてあげて、と。そう仰ってました」

「…だってよ、ヒナ」

「分かってる。……でも、もうこれ以上自分勝手はしないわ。みんなも、ごめん」

 

 

 

 

 

「柱稽古?」

「そうだ…。鬼の出現頻度が激減した今、夜の巡回以外の時間を一般隊士の訓練に充てる。時透の言う『痣』発現の条件を満たす手助けにもなるだろう…」

 

事態がようやく落ち着き、一室に富岡を除く全員が集まり、そこで岩柱・悲鳴嶼行冥が先のことを伝える。

その提案に柱全員とレン、伊織も賛成する。が、『痣』の事となると武蔵と伊織はあまり納得できていなかった。

 

「岩柱殿、念のため確認したいんだが良いか?」

 

「勿論です。レン殿も当事者なのですから」

 

「その『痣』についてだが、発現させる道を取るかどうか、それは各人の自由ってぇ認識でいいんだよな?」

 

「勿論…。あまね様もそう仰っていましたから。仮に発現させない道を選択しても、責める権利など誰にもありません」

 

「……だとよ、ヒナ。よかったな」

「分かってるわよ。親父殿、気を遣わせたわね。……みんな、この話から察してると思うけど、私は痣の発現を()()()()。だって、私はこの先、鬼のいない世界になっても生きていたい。でも無惨の討伐は宮本武蔵家の総力を上げて協力するわ」

 

武蔵の決断に、彼女の性格を知るものは特に何も言う事なく受け入れる。伊織もどこかホッとした様子でそれをみていた。

 

「んで、柱稽古つったって具体的に何するの?」

「それはこれから決めるとしよう…。では案のあるものは----」

 

 

 

数日後、全隊士に柱稽古を開始すると通達が送られる。

 

 

毒柱による全集中の呼吸・常中会得稽古

 

音柱による基礎体力向上稽古

 

霞柱による高速移動稽古

 

恋柱による徹底的な柔軟

 

蛇柱による太刀筋矯正稽古

 

風柱及び二天柱による無限打込み稽古

 

岩柱及び先代宮本武蔵による筋肉強化稽古

 

 

以上の7つを一般隊士は(強制的に)受ける事となった。

 

 

 

 

 

〜柱稽古が始まる前日〜

 

「しのぶ様、一体これは…?」

「分かりません。私も、アオイ達みんなを連れていってあげて、としか」

 

現在、胡蝶しのぶは着物を身に付け、アオイ達を引き連れて街を訪れていた。名目上は大量に必要になるであろう薬の調合素材の調達だったが、そもそも鴉経由で毒露シノエに「みんなも連れて行ってあげて」と言われたからだった。

確かに明日から猛烈に忙しくなることを考えれば息抜きしておく必要もあるかと納得したしのぶはカナヲ、アオイ、きよ、なほ、すみを連れて出発した。

 

現に久しぶりに皆で出掛けてるからか三姉妹はとても楽しそうにしていた。

 

「おう来たな!ほら座りな嬢ちゃんがた!むさっちゃん!来たぞ!」

「むさっちゃん呼びやめい!」

 

しのぶ達が訪れるよう言われたのは以前に武蔵と共に食事を摂った場所。そこの主人はしのぶ達を見て快く招き入れ、10人は座れそうな大きな部屋に案内される。そこには先に来ていた武蔵もいた。

 

「それで武蔵さん、今回は何を企んでるんですか?」

「いや、私も知らないのよ。シノエからは『ここでしのぶさんと合流してくれ』としか言われてないし。大将にも話を通してるっぽいし、私にも何が何やら」

 

その間にも頼んでいない料理が次々と運ばれており、しのぶ、武蔵、アオイは困惑し、三姉妹(とカナヲ)は美味しそうな匂いに目を輝かせていた。

 

「大将、本当に何があったの?今日手持ちあんまりないから7人分も払えないわよ」

「要らねえ要らねえ。()()()()()()()()()!そんじゃごゆっくり」

 

主人の言葉に困惑しながらも、出してもらったからには、としのぶとアオイを除いた皆が食べていく。

 

「しのぶ様、武蔵様、これは本当に、一体……」

「私にもさっぱり…」

「本当、何が何やら…。ま、ご馳走してくれるって言うなら遠慮はいらないでしょう。しのぶ、アオイ。食べちゃいましょう」

「「は、はぁ…」」

 

余談だが、三姉妹とカナヲ、アオイは食べている間、より一層目を輝かせていたそうな。

 

 

 

「「「ご馳走様でした」」」

「(…ペコ)」

「「「美味しかったですぅ…」」」

 

次々運ばれる料理をようやく平らげ、7人は蝶屋敷へ戻っていた。

だが食事処の主人にお土産と持たされた氷菓子を食べながら、武蔵達は本気で困惑していた。

 

「本当に意味がわかんないんだけど。しのぶ、アオイ。本当に何も知らないの?」

「ええ。むしろ武蔵さんこそ何も知らないんですか?いつもの感じかなと思っていたのですが」

「いや本当に知らないんだって」

 

しばらく話し続け、一行はようやく蝶屋敷に着く。が、何やら屋敷が騒がしいことに気づく。

 

「あ、やべっ!もう帰ってきた!」「急げ急げ!知らせに行け!」「私足止めしてくる!」

 

どうやら入口付近で複数人の隠があたふたしているようで、しのぶ達はより一層訳がわからなくなっていた。困惑の最中、女性の隠がしのぶ達に近寄ってくる。

 

「蟲柱様、二天柱様!蝶屋敷の皆様!お帰りなさいませ!申し訳ないんですが、今はちょっとだけお待ちください!」

「何があったんですか?急患でしたらすぐに対応しますので、事情を教えてください」

「いえ!そう言うわけでは!ちょっと、ちょっとだけお待ちください!」

「いいから、何があったのか教えてください」

 

しのぶはニコッと微笑むが、流石に好き勝手されすぎて堪忍袋の尾が限界なのか、なんとも言えない圧が滲み出ていた。

 

「どうしたんですか?答えられないんですか?蝶屋敷の主人である私に?」

 

ズイズイっと、笑顔で詰められていた隠は泣きそうになっており、助けを求めていたのか屋敷の方を見る。だが他の隠はというと綺麗に隠れてしまった。端的に言うと見捨てられた。

 

「(裏切り者!)」

「それで、いい加減答えてくれませんか?」

「い、いや、その……」

 

「もう大丈夫ですよ隠さん」

 

助け舟を出したのは今し方出てきた毒露シノエだった。

隠は涙目で離れていき、シノエは皆を出迎える。

 

「お帰りなさいしのぶさん、アオイ、カナヲ、きよちゃんたちも」

「ただいま戻りました。それでシノエ君。これは一体どう言うことなんですか?」

「これは、とは」

「とぼけないでください。皆で出掛けてと言ったり、武蔵さんと合流させたり、今回の隠の皆さんの態度も。何をしてるんですか?」

「……ですよね。えーと…」

 

シノエは苦笑しながら頬をかき、見せたほうが早いと中に入る。それを不思議に思いながら7人は着いていく。

 

「……?」

「ん?この草履は…」

「あれ?これ」「どこかで見たことあるような…」「えーと…」

 

 

「え…?待って。待って待って」

 

「…………え?」

 

 

何処にでもあるような、隊士が普段から履いているようなもの。強いて言うなら紐が紫色で、しのぶのものよりも少し大きいだろうか。そしてほのかに花のいい香りが漂っていた。

アオイやカナヲ達はどこかで見たことある気がしており、その記憶を探っていた。

 

片やしのぶと武蔵は何かに気付いたのか、口を手で覆っていた。

 

「こっちに」

 

そんな反応を他所に、シノエはどんどん進んでいく。

進む先は嘗て、()()()()()()使()()()()()()()。向かう先に気づいた三姉妹やアオイ達も、段々と何かを察し始めた。

 

シノエは皆の足取りが重いのが分かり、部屋の前でじっと待っていた。

 

全員が集まったのを確認し、軽くコンコンと戸を叩き「連れてきましたよ」と告げる。

 

「いいわよ〜、入って〜」

 

聞こえてきたのは小さな声。おそらく敢えて小さく答えたのだろうが、7人の耳にもしっかりと届いていた。

なぜなら察していたしのぶや武蔵だけでなく、他の全員も思わず固まっていたからだ。

 

シノエがゆっくりと戸を開ける。

 

 

 

「みんな〜!元気みたいでよかったわ!しのぶ、柱になったんですってね!お姉ちゃん嬉しいわ!ヒナちゃん聞いたわよ、杏寿朗君と婚姻を結んだって!」

 

 

「「「「「「「………………」」」」」」」

 

 

 

部屋の中にいた人物を見て、全員がピシャッと固まる。次に起こったのは全員の目から涙が溢れ出ていた。

なぜなら、その人物は蝶屋敷の人たちと宮本武蔵にとって、とても大事で----

 

「え?わっ、ちょっ…」

 

まず始めにしのぶが、続けて武蔵が、更に続けてカナヲ、アオイ、きよ、なほ、すみとその人物に抱きついていき、重さに耐えきれなくなって床に倒れた。

 

「ばか!ばかばか!()()()のバカ!何ずっと寝てるのよ!」

「そうよ!本当にそうよ()()()!いくらなんでも寝過ぎよ!」

 

「あはは…みんな、ただいま」

 

皆が抱きついたのは、しのぶの姉である胡蝶カナエその人だった。

 

4年前に上弦の弐と戦って以来、昏睡状態で目を覚ましていなかったはずの彼女は、全員の記憶と全く変わらない優しい笑みを浮かべていて、暫くの間、全員泣き止むことはなかった。




大正こそこそ噂話

一連の出来事はカナエ発案だと聞いたしのぶは結構本気でカナエを怒ったみたいだよ

リメイクするなら

  • 今ある話を直に修正していく
  • 新しく一から作り直す
  • やる必要ない
  • いいから続きを書け
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