脚が鉛のように重い
心が 痛い
それでも、歩き続けないと
〜夜 とある屋敷の裏庭〜
武蔵が産屋敷家へ赴いた次の日、一般隊士の柱稽古はいつも通り終え、また一月ほど前から柱同士で始めていた実戦形式の稽古もいつも通り行われていた。
「霞の呼吸…」
「風の呼吸…」
「蛇の呼吸…」
「炎の呼吸…」
「二天の呼吸…」
「二天・岩の呼吸…」
柱稽古が終わった夜、柱たちに加えて宮本伊織が手合わせをしていた。
霞柱・時透無一郎、風柱・不死川実弥、蛇柱・伊黒小芭内、炎柱・煉獄杏寿郎の四人は連携稽古の一環で、宮本武蔵と宮本伊織の二人に攻撃を仕掛けていく。
無一郎が気配を消して死角に回り込み、実弥と杏寿郎が正面から仕掛けていく。小芭内は逃げ道を塞ぐように三人の隙間を縫って攻撃を仕掛けていく。
武蔵はそんな四人を相手取り、鍛え上げられてきた身のこなしと剣技、長年培われた経験則から四人を相手にしながら何とか互角に戦えていた。
実弥の暴風の如き、杏寿郎の燃え盛る炎の如き剣技を真正面から受け止め、受け流していく。時には足技などを仕掛けていき、左腕が動かず右目が見えないといった身体的不利を感じさせないほどだった。
しかし武蔵の体術・剣技も完璧ではなく、四人の連携によって体勢を崩される事もあった。
一方で伊織は常に武蔵の死角を埋めるように立ち回り、武蔵が対処しきれない攻撃を防いでいく。
無一郎と小芭内のどちらかが武蔵に攻撃を仕掛けようとすると間に割って入る事で連携させないよう立ち回り、時には自ら実弥と杏寿郎へ攻撃を仕掛けていく事で自分に意識を向けさせていた。その僅かな隙によって武蔵が深く踏み込み、四人へ攻撃を仕掛けていく。
武蔵もまた、伊織では対処しきれないものがあれば代わりに防ぎ、お返しとばかりに剣戟を叩き込んでいく。
双方一歩も譲らず、木刀とは思えない音が鳴り響いていく。
バギャッ!
そのような激しい打ち合いに木刀が耐えられるはずもなく、まるで爆弾が破裂したかのような音を鳴らして武蔵、伊織、実弥、杏寿郎のものが砕け散る。それを合図にようやく六人は動きを止めた。
「ん、休憩にしましょう」
武蔵の言葉に全員が同意を示し、自然と1箇所に集まる。
お互いに腹ごしらえや水分補給をしながら先程の手合わせで感じた事を伝えていく。
「やっぱり伊黒は1人でやろうとしすぎなのよ。もっと他の3人と連携する努力した方がいいわよ。途中、伊織1人に足止めされてたでしょ」
「わかっている。次はもっと上手く立ち回って見せよう」
「不死川様、私の風の呼吸とその派生について、どう感じましたか?」
「前よりはマシだが、あともう一歩欲しいなァ。もっぺん稽古つけてやろうかァ?」
「武蔵殿はやはりソレの扱いに四苦八苦している様子だが、やはり難しいか」
「そーねぇ、杏寿郎や天元みたいにもっと力を伝えれるといいんだけど、片腕な分やっぱりどーしてもねぇ」
「時透ォ、連携すんならもうちっと気配を出してくれねェか。気配を断つのは相変わらずだが、ぶった斬ってしまいそうになる」
「不死川さんこそ、もう少し仲間の位置を見た方がいいかもしれません」
「あァ⁉︎」
「伊織さん、力はすごいけどやっぱりどこか動きが単調な気がします」
「確かに、霞柱様のように緩急をもっと付けれるようになればいいんですが。そう…ですね、次は霞柱様の動きをもっと観察してみようと思います」
「煉獄、昂るのは良いがこちらに近づくな暑苦しい」
「む、何故だ!」
と、互いの指摘に反発したり、時には素直に受け入れ次の稽古の方針を決めていく。言葉遣いが丁寧だったり荒かったりなどの違いはあるが、誰1人として相手の言葉を軽んじる者はいなかった。
これもこの場の全員が決戦が近いのを理解しているため、この時だけは階級や年齢、経験の差などからくる壁も全て無くなっていた。
「あ…それと、師範。私からも1つ、いいですか」
「ん?ええ、言いなさいな伊織」
「では…。率直に聞きますが、昨日何かあったんですか?」
伊織の言葉に武蔵は一瞬動きが止まるが、武蔵はいつも通りの顔で伊織に問い返す。
「……と言うと?」
「明らかに2日前と比べて動きが鈍いと感じました。それと何と言いますか、迷いが感じられたというか。打ち合い稽古の最中に考え事をするなんて、師範らしくないと言いますか」
伊織の言葉に武蔵は思わず言葉に詰まる。どう返答すべきかと思案している中、実弥も口を開く。
「確かに。言われてみれば。何があったんで?俺達でよければ聞きますよ」
「うむ!不死川の言う通りだ!武蔵殿、何か悩みがあるなら打ち明けてほしい!」
「……」
武蔵の動きの鈍さを指摘した伊織に実弥、杏寿郎の言葉。それらから思い当たる節は一つしかなく、昨日耀哉に頼まれたことを思い返す。
しかしそれを今伝えるべきではないと判断する。
武蔵は思わず頭をくしゃくしゃと掻き、精一杯の--無理した歪な--笑みを浮かべる。
「大丈夫、何とも無いわよ。ありがとうね3人とも。……さ、休憩はこの辺にしときましょう。もうすぐ先代…親父殿もくるはずだから、人数増えたらまたサシでの稽古に移りましょう」
(確か昨日、悲鳴嶼さんのトコに行くつってたなァ)
先代宮本武蔵だったレンさんと岩柱の悲鳴嶼さんが合流し、レンさんと煉獄が手合わせを始めたのを見ながら、さりげなく悲鳴嶼さんに近づく。
「む…どうした不死川」
「悲鳴嶼さんよォ、昨日、武蔵さんと会ったんだよな?」
「南無…そうだが」
「そん時よぉ、武蔵さん、何かあったのか?」
「何か…とは」
「悲鳴嶼さん達が来る前、俺らで手合わせしてたんだが、伊織のヤツが武蔵さんの様子がおかしいって気づいたんだよ。言われてみれば確かに武蔵さんの動きがどこか鈍い気はしたんだよなァ」
「……」
そう問いかけるが、悲鳴嶼さんは涙を流しながら何かを考えて喋ろうとしなかった。しばらく念仏を唱えたと思うと手を下ろし、口を開いた。
「すまないが、私には分からない」
「わかった。すまねェな」
「南無…力になれずすまない」
「いいって。それより悲鳴嶼さん、今日こそ本気でやってもらうぞ」
悲鳴嶼さんの言葉が嘘なことはすぐにわかった。だが、悲鳴嶼さんが話せないと感じたのなら無理に聞くようなことでもないんだろう。
きっと武蔵さんなら、本当に必要なことなら話してくれるはずだ。
あの人は昔からそういう人だ。
「…………言えるわけ、ないじゃない」
わかっている。
自分の動きが悪くなっているのは自分が1番よくわかっている。
--私を囮にして無惨の首を--
耀哉様が自分と悲鳴嶼に伝えた、自身が囮になるという覚悟の言葉を反芻するたびに呼吸が辛くなる。
こんなにも私は弱かったのかと、自己嫌悪してしまう。
耀哉様達の言葉を伝えたら大混乱になるのは想像に難くない。
特に今の柱達は産屋敷に、特に耀哉様には大小の差はあれど恩を感じ、実の父のように慕っている子達ばかりなのだから。
だから伝えれるわけが……
「頼むわよ、悲鳴嶼。お願いだから……」
残り10日。
余りにも、余りにも短い猶予だった。
〜次の日〜
「岩柱の旦那〜。ちょっくら野暮用があるもんで、出掛けてもいいかい?」
「む…勿論ですレン殿。どちらへ行かれるので?」
「ちと…な。俺が伊織の頃に世話なった人のトコだ」
「南無…承知しました。今日は私がしっかりと皆を見ておきましょう」
「感謝する」
「…………」
7代目宮本武蔵だったレンが向かった先は、これまで殉職した隊士達の墓。
その中の一つの前に膝をつき、付き添いの隠に頼み墓前に一つ酒を供えてもらう。
「では席を外します」
「おうありがとな。終わったら声かけるからよ」
「わかりました」
隠がいなくなったのを確認し、レンは静かに目を伏せる。
しばらく黙祷を捧げ、ゆっくりと目を開けた。
「…………何やってんだよ。センセイ」
レンはどこか悲しげに、寂しげに呟いた。
墓石に刻まれていた名前は『桑島慈悟郎』
雷の呼吸の使い手であり、元鳴柱にして育手でもあり、レンや武蔵、我妻善逸にとって師匠でもある人物だった。
特にレンの技の多くは雷の呼吸から派生させたものであり、またレンが伊織を名乗っていた頃、特に鍛えてくれた恩人の1人だった。
「手紙、読んだよ。
レンは怒るでもなく何かを思ってため息だけを吐き、まるで愚痴を吐くかのように語り続ける。
「センセイ、大層御立派な責任の取り方をしたつもりなのか知らんが、いくらなんでも
そんな事を言っても過ぎたことは何も変わらない--と、頭ではわかっていても、レンは愚痴を吐くのを止めることができなかった。
「センセイの訃報の知らせが届いた時さ、俺ァともかく、センセイが特に可愛がってたっていう我妻善逸がどうなってたか分かるかい?」
レンは訃報が届いた日を思い返しながら、一度呼吸を整え墓石を改めて見る。
--儂は弟子の獪岳が鬼となり人を喰い殺した責任を取る為、一人で腹を切る。元7代目・宮本武蔵殿、元水柱・鱗滝と共に、我妻善逸を始めとする弟子達の事を頼みたい--
「もう見てらんなかったんだぜ?泣きじゃくって、頭を岩にぶつけ続けて血をダラダラ流しててよ、他の奴が見つけて止めなかったらどうなってたか……」
続きを言おうとしたレンの口は不意に閉じ、深くため息を吐いたと思うと再び開く。
「って、んなこと言ってももう分かんねえよな。
……本当に、なんで一言くらい相談してくれなかったんだよ。センセイだけじゃねえ、ヒナは何か隠して独りでどうにかしようとしてるし、柱たちも各々が独りで覚悟を持って何かをしようとしてるし、他の隊士達も……今の鬼殺隊の奴らは揃いも揃って、他人に相談するって当たり前のことをしやがらねえ。
それに、アンタ言ってたよな?『誰がなんと言おうとワシが育てた可愛い弟子達の為なら、何でもする』って。たっく……」
レンは訃報と共に届けられた桑島の文を思い返しながら、更に続けて言葉を吐き出していく。
「なーにが『善逸のことをよろしく頼む』だ。んなもん、自分で面倒見やがれってんだ。俺ァ、自分の弟子で手一杯だっての。……ま、しゃーねえから、頼まれてやるよ」
レンは最後にもう一度黙祷を捧げ、ゆっくりと立ち上がり背を向ける。
「……またな、センセイ。全部終わったら善逸や他の教え子も引き連れてくるからよ。精々自分の選択を悔やむ準備をしといてくれ」
〜同時刻 蝶屋敷〜
「(ダメ、ダメよしのぶ。感情を制御できないのは未熟な証…)」
決戦が近いとお館様はそう判断した。
つまり、私の仇である上弦の弐と戦う日が近い、ということ。
姉さんは目を覚ましたけれど、それでも心のうちに燻る復讐心が消える事は無かった。
あの鬼のせいで姉さんも武蔵さんも、私の大事な人たちに一生消えない傷をつけられた。
両親の仏壇の前で必死に笑顔を取り繕う。それでも、どうしても怒りが滲み出てしまう。
こんな顔、シノエ君に見せられない。
「ふぅーー、落ち着いて、落ち着きなさいしのぶ…」
必死に自分に言い聞かせていると、背後の障子が開けられた。
「あの……師範」
「あらカナヲ。どうしたの?」
そこにいたのはカナヲで、話を聞いているとどうやら不死川さんと武蔵さんとの柱稽古が終わったとのことらしい。
「それで、次は岩柱様と先代宮本武蔵様の元へ向かうので、その報告に…」
「分かったわ。…そうだ、カナヲ、ちょっと」
「?」
シノエ君には話せないがカナヲには話しておくべきだと、あの計画を始めた当初から考えていた。
決戦がいつ始まるかわからない。今のうちにカナヲに伝えるべきでしょう。
だって、シノエ君が知ったらきっと反対する。
それだけじゃない。滅多に激情を見せることのないシノエ君は、きっと私のために必死になり、生きようと諭してくれるだろう。
……でも、シノエ君と共に戦うだけでは、上弦の弐を確実に殺せる保証は無い。
それは私が1番よく分かっている。
少しでも確実に殺せる確率を上げる為にも、私が何をするのかカナヲには話しておかないと。
「……あの、師範」
「? どうしたのカナヲ」
自分から話そうとしていたのに先にカナヲが口を開いた。今までそんなことは無かったから少し驚いたが、笑みを浮かべて続きを促すとカナヲは恥ずかしそうにしながら口を開いた。
「その……あの……、私、もっと師範と…稽古を、したい…です」
それを聞いてものすごく嬉しく感じた。
自分の感情を表に出せなかったカナヲがこんなにも自分の気持ちに正直になれているのをみて、カナヲの過去を知っている身として本当に嬉しかった。
「ありがとうカナヲ。嬉しいわ」
「…!」
「でもごめんなさい、その願いは叶えられないの」
「え…どうして、ですか」
「……いい機会ですので、カナヲには伝えておきます。姉さんや武蔵さんに消えない傷をつけた鬼、
カナヲが意味がわからず困惑している中、淡々と、これまで自分がしてきた事を告げていく。
上弦の陸討伐後、藤の花から抽出した高純度の毒を飲み続けている事。
自身の体全てに、爪の先まで毒を蓄積させている事。
そして--
「え……」
「姉さんや武蔵さんから得た助言では、上弦の弐は女性を喰うことに異常な執着を見せているようです。女性であり、尚且つ柱である私ならば、間違いなく喰らうでしょう」
「そん…な…。そんなこと、しなくても、シノエとも協力して、一緒に戦えば、きっと…」
「そのような甘い考えは今すぐ捨てなさい」
動揺しているカナヲにハッキリと冷たく断言した。カナヲの顔はどんどん蒼白になっていく。
シノエ君の名前が出て一瞬心がチクリと痛んだが、それでも冷静に務める。
「上弦の鬼は、下弦とは比較にならない程の強さです。上弦の陸でさえ、宇髄さんとシノエ君、そして二人に匹敵する実力を持つ宮本伊織さんの三人がかりで、ようやく渡り合えたほどの強さを持っていました。
上弦の弐はそれを凌駕する強さです。
武蔵さんも、上弦の弐は柱が3人以上いても尚、苦戦を強いられると断言しています。
だからこそ、少しでも確実に殺せる確率を上げるために私という猛毒を喰わせ弱体化させる必要があります」
カナヲの動悸が早くなっていき、呼吸も荒くなっていく。手は自然と強く握られ、震えていた。
「……どうして、シノエに、話さないんですか。だって、師範は、シノエが、大切だって……」
「……ええ。私はシノエ君がとても大切です。シノエ君もきっと同じ……。シノエ君は私を、姉さんを、蝶屋敷のみんなを大切に想ってくれています。
だからこそシノエ君ではなく、カナヲ、貴女に託さなければならないのです。私が喰われた後、頸を斬る役目を」
……本当はこんな役目、負わせるべきじゃないと分かってる。でも、鬼《仇》を確実に殺すためなら、この命--
「それはどういう意味ですか、しのぶさん」
不意に聞こえてきた声に思わず顔を上げてしまう。カナヲも同時に振り返ると、そこにいたのは…
「もう一度、説明してもらえませんか。カナヲにしたものと、同じ説明を」
酷く怒っているような、悲しんでいるような、そんな顔をしていた、私の大好きな人--毒露シノエ君だった。
大正こそこそ噂話
レンは先代(6代目)が若くして殉職してしまってて、鳴柱時代の桑島さんにはよくお世話になってたみたいだよ。
宮本武蔵の名を継いだ後もしばらく交流があったみたい
というか、鱗滝と同じく弟子自慢の手紙をしょっちゅう送られてたみたいだよ
リメイクするなら
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今ある話を直に修正していく
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新しく一から作り直す
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やる必要ない
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