魔王の妖精聖母は迷宮の奥底へ   作:迷走中

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ベルが加入して、リリと出会ったくらいの日常のお話。



ヘスティア様との休日(日常)

日がのぼり、俺は何時ものように身支度を整え、毎日一緒のベッドで眠っている恩神に近づく。

うん、可愛らしい寝顔だ。

そして、そろそろ寝言を言うかな?

と思っていると、ヘスティア様は寝返りをうって、寝言を呟いた。

 

「う~ん、アルく~ん、……ベルく~ん、グヘヘ」

 

普段バイトがある時は俺とベルが起きる時間帯に、ヘスティア様も頑張って起きるが、バイトがない日は惰眠を貪る駄女神だ。

 

「ヘスティア様、朝ですよ」

「うぅ、あとじゅっぷ……ん~」

「もぅ、仕方がないですね」

 

また、そんなところが可愛いのだけど。

と言うわけで、今日はベル君はダンジョンへ。

俺はダンジョン探索はお休みだから、ヘスティア様のお世話をするつもりだ。

まあ、ダンジョンへ行くための消耗品を買いにいくつもりではあるけど。

 

「あ、ヘスティア様。朝食は何が良いですか?」

 

再び眠りについたヘスティア様に俺が問いかけると「おさかな~」と、寝言のような返事がきた。

俺はメレンから、入ってきた白身魚の切り身をアイテムボックスから取り出し、ムニエルを作るために下処理をする。

 

塩を振って馴染ませている間に、昨日作ったオニオンスープを温める。

白身魚の切り身に小麦粉を纏わせて、オリーブオイルとバターを引いたフライパンでじっくりと焼き上げ。

デメテル・ファミリア産の野菜でサラダを作り、ロキ・ファミリアのアリシアさんから教わったサラダドレッシングを作る。

買い置きの保存性の高い大きめの丸パンをスライスして、食パンみたいに食べやすくして、俺は白身魚のムニエルを皿に移して、朝食をテーブルに運ぶ。

 

「ヘスティア様、朝ごはんが出来ました。冷めないうちに起きてください」

「ぁあ~……、良い匂いがぁ゛あ゛あ゛~っ」

「メレン産の高い白身魚のムニエルですよ。食べませんか?」

「た、食べる~」

「なら、起きてください。早くしないとわたしが食べてしまいますよ」

 

俺がそう言うと、ヘスティア様は目を軽く擦りながら、身体を起こして、「起きる!」と叫んで、無理やり立ち上がり洗面台へと向かった。

 

「やっぱりアルくんの作るごはんは最高だね!」

「ありがとうございますヘスティア様。あ、口にソースが」

 

モグモグと白身魚を切り分けて、頬張るヘスティア様。

口元にソースが付いてしまっていたので、すかさずハンカチでヘスティア様の口元についたソースを拭う。

 

「ありがとう、アルくん」

「いえいえ」

 

ヤバい、ヘスティア様可愛い。

妹がいたらこんな感じだろうか?

 

「ヘスティア様、スープをどうぞ。あ~ん」

「ありがとうアルくん。あ~ん」

「美味しいですか?」

「美味しいよ、アルくん。ボクは幸せだよぉ」

 

それから、ヘファイストス様のところから追い出される話が始まった。

バイトの疲れが溜まると、愚痴を言うのでヘスティア様の為に聞いてあげる。

この時のヘスティア様はアドバイスがほしい訳ではなく、慰めてほしがっている。

だから、俺はヘスティア様を優しく慰める。

 

普通の人間なら、自分に非がある事柄を不用意に慰めると人に甘えて精神的に堕落する可能性があるけど 、ヘスティア様は神だ。

精神が完成している。

グータラ女神様だけど、精神的に大丈夫だ。

……多分。

 

「今日は消耗品を買いに出掛けますけど、ヘスティア様はどうしますか?」

「んー、ゴロゴロしていたいけれど、アルくんに任せきりなのも悪いから買い物に付き合うぜ!」

「ありがとうございます、ヘスティア様」

 

朝食後、俺は着替えてヘスティア様と買い物に出掛けた。

買うのは主に食糧品だ。

生物はアイテムボックスに多少は入れて保存出来るが、ダンジョンに行くことを考えるとあまり多くは買えない。

外で大っぴらにアイテムボックスを使うわけにはいかないので、ヘスティア様が荷物を持ってくれるのは助かる。

 

恩恵のお陰で、重さは問題ないけど、やはりかさ張ると一人では運べない。

一度、原作のリリ程ではないけど、デカイリュックを背負って歩いていたら、たまたま休憩で昼食を食べに店へ移動していたヘスティア様とジャガ丸くんを売っているお店のおばちゃんに驚かれ、小さいのに無理するなと怒られた。

 

それ以来、平気なのに一度に運べる荷物の量が制限されてしまった。

 

まあ、◯0歳の女の子が大型冷蔵庫サイズのリュック(中身あり)を背負って街で歩いていたら、普通に心配するわな。

 

「さて、準備出来ました。買い物に行きましょうヘスティア様。今日は多めに買い物しますから、覚悟してくださいね」

「おっけー、任せてくれよ。アルくん!」

 

久し振りに俺はヘスティア様と買い物に出掛けた。

 

 

▼△▼△▼△

 

ヘスティア様のせっかくの休みなので、必要な買い物だけをするのではなく、ちょっとブラブラすることにした。

 

まずは、軽く服を見に行くことにした。

今後、ヘスティア様が神会へ行っても恥ずかしくない格好をさせてあげたい。

後は普段着も少し買っておこうかな。

 

というわけで、神様専門店(お高いお店)とヒューマン専門店へ。

ちなみに、神様専門店は利用する神様達には好評だが、眷属達には不評だ。

理由は単純でそう言った店では、神々が散財することが多いからだ。

 

ヘスティア様は性格が良いが、中にはヘルメスのように眷属に苦労をわざと吹っ掛けてくる神もいる。

だから、たまに。

 

「ほら、帰るぞ! 腐れ神!!」

「えー、良いじゃん! ちょっとスーツ作るだけだぜ~」

「趣味の悪い、百万ヴァリス以上のスーツなんざ、これ以上いるかっ!!」

「ほら、帰りますわよ! ……抵抗するなら足折りますから!」

 

今も眷属に隠れて、ファミリアの金で趣味でスーツを作ろうとした男性神が、眷属達にロープでぐるぐる巻きにされて担がれていく。

 

「あー、アルくん。このお店は少し高いんじゃないかな?」

「大丈夫ですよ、そこまで高い物は買いません。わたし達のファミリア規模であまり高い物を買うと神々から、無理すんなと笑われてしまいますから」

 

ファミリアの規模やランクに見合わない物を購入すると、良くも悪くも目を付けられる。

団員二人の弱小ファミリアのことを考えると、この店の下から二番目くらいの値段の物が良いだろう。

 

というわけで、ヘスティア様にドレスを注文した。

選んだのは白地に青いラインの全体的に布地が多い物にした。

処女神で家庭の神様でもあるから、ちょっと夫人っぽいデザインなのだが、見た目が幼いから、ドレスを着た姿は貴族の幼妻みたいな感じになって、背徳感が……。

とりあえず、製作を頼んでお金を払った。

 

「ありがとうアルくん、ボクは今感動しているよ」

「ドレス一つで大袈裟な」

「いいや、大袈裟じゃないよ! ボクは決めたぞ! アルくんが二つ名を決める時は必ず、無難な名前をもらってくるから!」

 

うん、二つ名に関しては出来ればそうしてほしい。

只でさえ、ネタが盛り沢山な身体だ。

どんな二つ名になるのか、今からちょっと怖い。

 

この後は、店でアクセサリーも見せてもらい、ヘスティア様にネックレスを一つ購入して店を出た。

 

「次は普段着を買いに行きましょう、ヘスティア様」

「ボクのより、アルくんの服を増やした方がよいんじゃないかな? エルフ君達も君の普段着を見て、なん着か献上してきたし」

「普段着ですか、個人的にはヘスティア様が優先ですが、うーん……献上された服ばかり着ていると次の献上品を催促しているように思われるかもしれませんし、そうですね。買いますか」

 

二人で露店を眺めながら、ヒューマン専門店(デザインという意味で、ヒューマン以外はお断りという訳ではない)へ。

 

その途中、知り合いに出会った。

ヘスティア様の親友で、長い付き合いになる予定の鍛冶の神様だ。

 

「あら、ヘスティア。それとアルディス」

「やあ、ヘファイストス」

「こんにちは、ヘファイストス様」

 

ちょこちょこヘファイストス様と顔を会わせていた。

そのお陰で、俺はヘスティア様の眷属ということもあり、何度かヘスティア様と三人で食事をしたことがある。

 

「ヘスティア、ちゃんと仕事してるの、まさかサボり?」

「違うぞ、ヘファイストス! 今日はジャガ丸くんの店員の仕事は休みなだけだ!」

「冗談よ、怒らないで」

「まったくもう」

 

二人が冗談を言い合う姿は、なんかしっくりきた。

やはり、仲が良いんだな。

前世では、こういう友達は居なかったな。と思い出してしまった。

やべぇ、鬱だ。

 

「ところで、新しく入った子は?」

「あ、今日はダンジョンです。わたしとヘスティア様は休みが被ったので」

「なるほど、ナイフのことを聞きたかったけど、またにするわ」

 

それじゃね。と、手を振って去っていくヘファイストス様。

ヘスティア様もまたね。と手を振った。

俺は頭を軽く下げて見送り、ヘスティア様と買い物に戻る。

 

ヘスティア様と俺の普段着を購入した後は、ヘスティア様に似合いそうなリボンを見つけて、プレゼントしたり、露店を甘いものを購入して食べ歩き。

男女ならデートのような感じだった。

 

 

「アルくん」

「何でしょうか? ヘスティア様」

「今、君は幸せかい?」

「? ええ、もちろんです。ヘスティア様、ベルさん、エクレアさん、エイナさんやミアハ様にナァーザさんとも出会えましたし、冒険者家業も順調です」

「なら、良いんだ。けど、何かあったら必ず言ってくれ」

 

――ボク、君の主神だからね。

 

そう言って、俺に微笑むヘスティア様は聖母のように微笑んだ。

 

「ええ、何かあったら相談しますね」

「それじゃ、家に帰ろう。ベル君の為に夕御飯を作らないとね」

「そうですね。今日はヘスティア様が作りますか?」

「うん、任せてくれたまえ。二人にとびきり美味しい物を作ってあげるからね!」

「それじゃあ、食材を買いに行きましょう」

「うん、って、アルくん、そっちにお店は無いぞ?」

「え? ありますよ、デメテル・ファミリアとニョルズ・ファミリアの商品が売られている」

「あそこは高級店じゃないか!? 駄目だぞ! 家にはそんなお金はない!!」

 

驚愕から信じられないという表情で、俺の両肩を掴んでくるヘスティア様。

いや、確かにベルきゅんだけなら、高級店になるか。

けれど、あのお店は平均的な店だ。

物によっては、お得な店だ。

 

「いえ、稼いでいますから、大丈夫ですよ」

「でも出来るだけ節約するべ「今日はキャベツ二つ玉で二百ヴァリス、ドドバス(サイズL)の半身が六百五十ヴァリスです」思ったより安いね、早く買いに行こう!」

 

この後、無事に買い物を終えて、夕御飯はベルきゅんとヘスティアと俺の三人で仲良く食べた。

メインはドドバスのロールキャベツ。

ヘスティア様がお店でちょっと無理を言って、お店からドドバスのあらを安く売ってもらったお陰で、良い出汁が取れた。

 

まあ、臭みを取るのがちょっと大変だったけど、ベルきゅんが美味しそうにドドバスのロールキャベツを食べていたので、苦労が報われた。

頑張って灰汁を取り続けたヘスティア様も満足そうにしていた。

 

その日の夜。

 

「お休みなさいヘスティア様」

「お休み、アルくん」

 

ヘスティア様と同じベッドで眠り、直ぐにヘスティア様の抱き枕になる。

すっかり、これに慣れてしまった。

 

「アルくん、ありがとう」

「わたしこそ、ありがとうございます。ヘスティア様」

 

ヘスティア様が強く俺を抱き締めてくる。

結果的に俺の顔面がおっぱいに埋もれる。

 

「………………」

 

前世でも、俺はヘスティア様には性的な魅力を感じてなかったけど、元男としてこのおっぱいに何も感じないのは、駄目な気がする。

 

そんな事を考えながら、俺はいつものように眠りについた。

 

 


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