魔王の妖精聖母は迷宮の奥底へ   作:迷走中

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評判、感想、誤字指摘、本当にありがとうございます。

想像以上に感想がきて驚いています。
ありがとうございます。



日常

ベルきゅんが冒険者になって直ぐのこと。

ベルきゅんをスパルタなエイナさんの座学にぶち込んで、その間に俺はナァーザさんの下へ移動。

ベルきゅんは人が善すぎるので、その辺をちょっと鍛えないと駄目だと思う。

全裸土下座で即落ちしたからね。

 

「分かった。新人冒険者に都会の厳しさを教える」

「お願いします。ベルさんは、女性に甘い部分がありますから、思い切りやってください」

「楽しみ、幾らになるかな?」

 

ふふふっ、と笑うナァーザさんに別れを告げて店を出る。次に向かったのは、エクレアの所だ。

アニメのヴェルフのファミリアから貸してもらっている工房と同じように質素な工房だ。

作業場は鍛冶師らしいが、休憩する小部屋には少女らしい小物が置いてあり。

被服も行っているらしく、裁縫道具と胴体の木製のマネキンなどもある。

職人として、将来が楽しみだ。

 

「アルディス、いらっしゃい。今日はどうしたの?」

「アレは出来た?」

「アレ? えぇ、頼まれたから作ったけれど。こんなの武器にもならないわよ」

「問題ない、練習用だから」

「練習用?」

 

俺はエクレアに後は内緒と、言ってその場を後にする。

それから街で色々と調べてから、冒険者ギルドにベルきゅんを迎えに行くと、グッタリしているベルきゅんを発見。

 

「お疲れ様、ベルさん」

「あはは、冒険者って覚えることが沢山あるんですね」

「まあ、そうですね。知らないと大変なことになりますから」

 

モンスターの特徴、ドロップアイテムの効果と価値、階層の地形。他の冒険者パーティーと揉め事が起きた時の対処法。

 

「少しずつ覚えていけば大丈夫です」

 

さ、帰りましょう。そう言って俺達は家に帰る。

ファミリアのホームに戻ると、直ぐに俺は「あ、いけない。明日のポーションと夕飯の食材が無い」と言って、ベルきゅんに手伝いを頼んだ。

 

「えっと、ミアハ・ファミリアのお店でポーションを十本買ってくれば良いんだね」

「ええ、地図はこれです。あとでお金は払いますから、金額を確認してから、引き換えの紙にベルさんとヘスティア・ファミリアの名前を書いてくださいね。ファミリアとしての買い物ですから」

 

相場で購入出来れば合格。相場より安く買えれば花丸でご褒美。相場より高く買ってきたら、内容によって重いお仕置き。

 

「分かった。行ってくるよ」

「はい、わたしも直ぐに食材を買ってきますから」

 

二人でホームを出て、俺は食材を買ってからホームに戻ると、先に戻ってきたベルきゅんは、ちょっと鼻の下を伸ばしていた。

 

「ただいま戻りました。ベルさんの方はどうでしたか?」

「あ、買ってきたよ。予備も含めて二十本」

「…………え?」

 

この時点で、ベルきゅんお仕置き確定した。

 

「……引き換えの紙を」

「え、あ、はい……」

 

俺が無表情になり、雰囲気がガラリと変わったことに気づいたベルきゅんは、今更ヤバイと気づいたのか汗を流しはじめた。

 

「………………ベルさん」

「は、はい」

「相場って、ご存じですか?」

 

 

 

 

この日、ボロボロ教会の入り口近くで、新人眷族を簀巻きにし、ムチで折檻しようとするロリハイエルフとそれを必死に止めようとするロリ巨乳女神が目撃された。

 

翌日。

 

「相場の三倍の値段で二十本はふっかけ過ぎでは?」

「ベルが弱すぎる。実はもう十本はいけた」

「……女に弱すぎですね。たまにナァーザさんの所に買いに行かせます。鍛えてあげて下さい。多少ならボッても良いですよ。まあ、流石に次は平気でしょうが」

 

後日、買ってきたポーションは相場の二倍の値段だった。

 

「…………数の計算も出来ないのですか? ベルさんは」

「ち、違います! ナァーザさんが困っていて、泣いてもいて!」

 

俺はベルをムチで割と本気でひっぱたいた。

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

それは、初めてベルきゅんがダンジョンに入る日のこと。

 

「おはようございます、アルディス様。その方が?」

「おはようございます、アウラさん。この人が新しい眷族のベルさんです」

 

冒険者ギルドで、アウラさん達と会い、挨拶を交わす。

 

「は、はじめまして! べ、ベル・クラネルと申します!」

「ええ、よろしくね。ディオニュソス・ファミリアの副団長のアウラ・モーリエルです。アウラとお呼び下さい」

「は、はい、アウラさん」

 

ベルきゅんは緊張しながらもしっかりと丁寧に、アウラさん達と挨拶をしていくが、エルフの美人なお姉さん達を前に、初心な男の子丸出しである。

頬を紅く染めていて、アウラさんは内心は分からないが表向きは普通だ。

けれど、潔癖なエルフお姉さんは冷たい眼差し。

年下が好きなエルフさんは、あらあらと舌なめずりをした。

 

ヤバい、ベルきゅんが童貞好きに食われないように、俺も気をつけておかないと。

 

「アルディス様、よろしければ途中まで、一緒に行きませんか?」

「良いのですか?」

「ええ、二階層の入り口までですが。彼にアドバイスくらいは」

「ありがとうございます。わたしだけだと、教えられるか不安でしたから」

「いえ、お気になさらずに」

「あ、あの、ありがとうございます。アウラさん!」

 

礼儀正しく頭を下げるベルきゅんに、アウラさん達からも好感を持っているようだ。

荒くれ者が多い冒険者にしては、ベルきゅんは外見も性格が素直で、女性冒険者的には親しみ易いだろう。

アマゾネスや荒々しい男が好みの女性冒険者は別だろうけど。

 

それから、二階の入り口までベルきゅんだけで戦わせてみた。

一回目は酷かった。けれど、アウラさん達のアドバイスとベルきゅんの素直な性格もあって、二階の入り口までの間の短い時間で、ベルきゅんが一人で戦う姿は、なかなか様になっていた。

 

「ありがとうございました!」

「頑張って下さいね」

 

ベルきゅんにアウラさんはそう言った後、素早くアウラさんはベルきゅんの耳元に唇を寄せて、

 

「は、はい! 大丈夫です! ありえません! はい、大丈夫! 誤解です!!」

 

何か脅すようなことを言って離れた。

アウラさんは、一度こちらを見て、釘を刺しましたよ。と微笑んだ。

 

「ベルさん、大丈夫でしたか?」

「あ、うん、大丈夫だよ」

 

ちょっとビクビクしているベルきゅんに、俺はいたずら心が湧いたので。

 

「じゃあ、次に行きましょうか。まだまだ、覚えてもらうことがあります」

「分かったよ、アルディス。次は何を教えてくれるの?」

 

ベルきゅんの問いに、俺は笑顔で答えた。

 

「次はダンジョン内でのトイレのやり方です!」

 

俺が少し大きめの声で答えると、アウラさん達が物凄い勢いで戻って来た。

 

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

「すまない。待たせた」

「いや、大丈夫だよ。どうだった。彼女の様子は」

 

ロキ・ファミリアホーム。その会議室に集まったのは、ロキ・ファミリアの幹部である三人。

 

ロキ・ファミリアの団長である、小人族のフィン・ディムナ。

ロキ・ファミリアの副団長のハイエルフのリヴェリア・リヨス・アールヴ。

古参のドワーフの老兵、ガレス・ランドロック。

 

三人が集まった理由は、前回の遠征で現れた新種のモンスターと、

 

「彼女、アルディスから話は聞けたかい? リヴェリア」

「ああ、ベートの一件は、正直不安だったが、彼女はこれからもロキ・ファミリアとは仲良くしたい。と言っていたよ」

「そうか、不確かではあるが。情報があると無いとでは違うからね」

 

出鱈目ではなく、既に一度予知夢と言えることを的中させている。

次も必ず当たるか分からないが、危険な夢なら警戒するべきだろう。

 

「しかし、夢か。スキルだとしたら、間違いなくレアスキルだな」

 

未来が分かる。

これだけでも、ヘスティア・ファミリアからロキ・ファミリアに強引に改宗させたいところだが、

 

「そうだな。アルディスの過去を考えれば、そのようなスキルが発現していてもおかしくはない」

 

リヴェリアは二人にアルディスの過去は教えてはいない。

だが、二人はある程度察している。それが自分達の考えている以上だということも理解している。

 

そんな幼い少女が、やっとたどり着いた居場所から、強引に連れ去る考えは二人には無かった。

強引なことは、ファミリアとしてもデメリットしかない。

ベートが幼いハイエルフのアルディスを殴ったことで、ファミリアの評価が少なからず下がったのも理由だ。

特にエルフのベートへの評判は、凄まじいことになっている。

 

「次の遠征の時も出来れば当たる夢を教えてくれると嬉しいね」

「フィンが不確かなモノに期待するとはな」

「スキルの可能性があるからね」

 

使えるなら、教えてくれるなら、活用させてもらうよ。とフィンは言った。

 

リヴェリアは、幼いアルディスを甘く見ているようなフィンに警告をしようかと思ったが、アルディスならフィン個人に痛い目を遭わせても、ロキ・ファミリアに被害は出さないだろう、と考えて黙ることにした。

 

「む、これがフラグか?」

「何の話だ? リヴェリア」

「いや、なんでもないガレス」

 

そして、三人は次の遠征について話し合った。

 

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

今俺はエルフの一般的な女の子向けの長袖とロングスカートの服を着ながら街を歩いているのだが。

 

「うーん、やっぱり慣れない」

 

男だったこと、ゲームでこの身体が着ていたエルフの服が露出が多い服だったこともあり。

この普段着に慣れない日々を過ごしている。

 

「ある程度は必要な物は買いましたね」

 

この日、俺は一人で行動していた。

ベルきゅんが、【憧憬一途】を発現したので、ソロの方がベルきゅんの経験値稼ぎには丁度良い。

と言うわけで、ベルきゅんには役割分担と伝えて、今日は街に買い物に来ている。

ナァーザさんのお陰で資金がかなり削られたし、ベルきゅんも責任を感じて、かなりダンジョンで頑張っている。

それに俺も休まないと集中力が削られ、ダンジョン内で不覚をとる可能性がある。

特に俺は長時間ダンジョンに入る。

それを考えると休める時に休まないと駄目だ。

 

ちなみに俺とベルきゅんのスタミナを比べると、何故か俺の方が遥かに高い。

 

恩恵のお陰でベルきゅんもスタミナは上がっているはずだけど。

俊敏のアビリティ鍛えるために、俺とベルきゅんがどれだけ全力疾走し続けられるか? を街の防壁の上をぐるりと周回してみると、俺が圧倒的に上だった。

 

最初は俊敏の差かと思ったが、最近確認で試したときは、俊敏のアビリティの数値の差はそこまであるわけではない。

 

ステイタスはベルきゅんに抜かれ始めている。

 

スタミナの差は恐らくだが、ゲームでの経験が原因だろう。

ゴブリンの巣、オークの集落、盗賊のアジト、触手の洞窟、辺境の蛮族村、貴族の砦、王宮の地下。

 

敗北監禁凌辱で、不眠不休は当たり前だった。

目を閉じてその時のことを思い出そうとすると、自分は画面で見ていた筈なのに、まるで自分が凌辱されたかのように、体にその時の感触が戻ってくる。

痛みも臭いも快楽も。

 

「っ、危ない、発情するところだった」

 

深呼吸して、身体を落ち着かせ、気持ちを落ち着かせる。今日は久し振りの休みだ。

お金も少しは余裕がある。

 

……前世では、服を買うことは殆どなかったが、ゲームでは違った。

MMORPGなどは、頑張って服を買っていた。

女の子はお洒落するべきだと思う。

 

うん、折角だから、ちょっとくらいはお洒落するか。

 

そう思って、俺は服が売られている。

北のメインストリートへ向かった。

気に入る服を探して、ウロウロしていると、良い店を見つけた。

 

「うーん、やはりサイズが無いですか」

「そうねぇ、普通はお嬢ちゃんがこのお店にくること自体が珍しいからね。たまに背伸びしたアマゾネスの子供が来るけれど、直ぐに追い出すし」

「わたしは追い出さないのですか?」

「お嬢ちゃんは気合いが入っているからね。それに、こういう服、着慣れているでしょう?」

「あ、分かりますか?」

「流行りではなく、自分が着たくて、似合うのをチョイスしたのは分かったわ。それで、慣れていると、ね」

 

服を見回り、ビビッと来る服が見つからず、北メインストリートの裏側を歩いていると、紫を基調とした看板と入り口から見えた、セクシーな衣装を見て、俺は懐かしい気分になったので、店に入るとこの店はアマゾネスの衣類を専門に扱っている店だった。

 

最初は俺を見て、眉を顰めたアマゾネスの店員だったが。

幾つか気に入った服があったので、サイズがあるかと堂々と聞くと、「もしかして、ビキニアーマーを着たハイエルフかい?」と聞かれて頷くと。店員もとい店長に「面白いじゃないか」と、俺の身体のサイズを測られた。

 

「ええ、正直、こっちの方が楽ですね」

「ふふふっ、いいね。気に入ったよ。今度、一緒に歓楽街に行かないか?」

「リヴェリアさんが怖いので遠慮します」

「おおっ、流石にそれはアタシも怖いわ。っと、いらっしゃいませ! ちょっと失礼しますよ」

「ええ、お客さんの方へ行って下さいね。今日は注文だけですから」

 

そう言って、改めてざっと店内を見て帰ろうかと思っていたのだが。

 

「あれはアイズさん? 他の三人も間違いない」

 

レズエルフと言われるレフィーヤ。洗濯板のティオナ。暴走乙女ティオネ。

いつの間に。あ、そう言えば、服を買いに行くイベントがあったな。

よし、折角だから、挨拶をしよう。

 

「あ「だっ―――駄目ですっ!!」」

 

声をかけようとしたら、レフィーヤが大声を上げた。

急になんだ? と思っていると。

 

「こんな、こんなみだらな服をアイズさんに着せるなんて、私が許しません!? アイズさんはもっと、もっともっと清く美しく慎み深い格好をしなくては! そうっ、エルフの私達のような!!」

 

ばんっと自分の胸を手で叩き、真っ赤な顔でまくし立てる小娘(レフィーヤ)。

 

ほほぅ、みだらな服か。この処女(小娘)。言ってくれるじゃないか。

今の言い方には俺もちょっと鶏冠に来たので、介入することにした。

 

「随分な言い方ですね。レフィーヤ・ウィリディス」

「え?」

 

後ろをから声をかけられ、振り返ったレフィーヤは身長が原因で、一瞬俺に気づかなかったが、直ぐにこの目立つ虹色の髪に気づき、固まった。

他の三人も俺の容姿に驚いたのか一瞬固まっていた。

 

「あ、あの、貴女、いえ、貴女様はもしや」

「初めまして、わたしはアルディス・リーマ・アルフヘイム。リヴェリアさんにお世話になっていますから、お声をかけたのですが……」

 

ここで声のトーン少し下げて、じっとレフィーヤの眼を見つめる。

威圧タイム、と言っても数秒だが。

 

「レフィーヤさん、とお呼びしても?」

「は、はい」

 

相手はハイエルフ、しかもベートがぶっ飛ばした相手。

遠慮もあるのだろう。好機だ! 勢いに任せて行くぜ!

 

「このスケッチを見て下さい」

 

俺は腰のポーチから出したように、アイテムボックスから一枚のスケッチを取り出し、レフィーヤに手渡す。

書かれているのは、緑を基調とした日本のエロフが着ていそうな、半袖、ヘソだし、パンツが見えるミニスカ、編み上げサンダルのエルフである。

 

渡したスケッチを横からアイズさん達も確認する。

 

「な、何ですか!? このハレンチな服は?!」

「わたしの故郷の女性エルフの一般的な衣服です」

「え゛?!」

 

固まるレフィーヤ。頬を染めながら驚くアイズさん。

格好いい、とスケッチを見るティオナさん。へー、良いデザインね。と笑うティオネさん。

 

「レフィーヤさん」

「は、はいっ」

 

俺にじっと見据えられて、汗をかきはじめるレフィーヤ。

故郷の一般的な衣服をハレンチと言ったのだ。緊張もするだろう。

 

「貴女はアマゾネスやわたしの故郷のような形式の服を着て、生活したことがあるのですか?」

「え、あ、えっと……」

 

俺が怒っているのが分かったのだろう。アワアワし始めるレフィーヤに、俺は言った。

 

「衣類と言う文化には種族の歴史が詰まっています。アマゾネスの祖となる人々は、亜熱帯の森で暮らしていました。気温だけではなく、湿度が高く。布の面積が多い衣類を纏うには衣服の素材などで問題があったようです」

 

ここまでは良いですか? とレフィーヤを見ると「は、はい」と力なく頷く。

スキルの効果もあるのだろう。どこまで、効果があるか分からないけど。

 

「それが長い年月をかけ、形になった衣服を、着てもいないのに、みだらなどと切って捨てる。多くの種族が暮らしているオラリオで暮らし、千の妖精と呼ばれるほどの貴女が、そんな視野の狭いことを言うなんてっ!」

 

わたしは悲しいです。と目をうるうるさせレフィーヤを上目遣いで見詰める。

 

「うぅ゛っ!」

「……レフィーヤさん」

「は、はい」

「わたしは先ほどこのお店で服を注文しました」

「ええ!?」

 

驚くレフィーヤ達に、俺は畳み掛ける。

 

「ですので、レフィーヤさんも、このお店の服を試着して、レッツ異文化交流しましょう!!」

「えっ、あ、あの?!」

 

慌てるレフィーヤに、俺は悲しげな表情で語りかける。

 

「わたしの故郷の衣服は淫らなんですか?」

「い、いえっ! そ、そんなことはありません!」

 

即答したレフィーヤに、俺は即座に選んでいた衣装を勧める。

 

「あ、これなんて比較的大人しいデザインですよ」

「えぇっ!」

「どうですか?」

「あ、あのっ」

「どうですか!?」

 

反論は許さん。黙って着ろ。と言わんばかりにニコニコしながら、試着を勧めた。

で、結局。

 

「し、試着だけですからね!」

「はい、着て生活するのは、ある程度慣れが必要ですから」

 

レフィーヤに、何とか試着させることに成功した。

で、次はアイズさんだ。レフィーヤが着替えている間に。

 

 

「改めまして、お三方。アルディス・リーマ・アルフヘイムと申します」

「アイズ・ヴァレンシュタイン、です」

「ティオネ・ヒリュテよ。やるわね」

「ティオナ・ヒリュテだよ。よろしく! でも、凄いね! 髪が虹色だよ!アイズ !」

「うん、綺麗」

「ありがとうございます。ところでアイズさん」

「なに?」

 

俺はここで少しだけ真面目な表情で、アイズさんに話しかける。

 

「やはり、アイズさんの普段の戦闘時のあの装備は、羞恥心を減らすための装備なのですか?」

「え?」

 

俺が尊敬します。と言うと、アマゾネス姉妹も何を言ってるの? て顔をしたが、話を進める。

試着室からうーん、うーんと小娘(レフィーヤ)の声が聞こえる。

もうちょっと時間はある。

 

「わたしは故あって、オラリオの外で恩恵なしでモンスターや人と戦い続けました」

 

俺の言葉に驚く三人。嘘ではないと俺は堂々と話を続ける。

 

「か弱い身体を補うために武具に頼ることになりましたが、その時にわたしが手にいれた第一級武装にも劣らない防具のいくつかが、アマゾネスの衣装のようでした」

「……え?」

 

困惑するアイズさんに、追撃する。

 

「アイズさん、今後強い装備がセクシーだった時のために、衣装の試着をしてみませんか? ちなみに、わたしが海のモンスターと戦っていた装備がこれです。セイレーンローブです」

 

腰のポーチもといアイテムボックスから、取り出した紙には、ゲームで装備していたセイレーンローブを描いてエクレアに見せたものだ。

青いビキニの上に、薄衣のようなローブは、水に透けてそのフェチの者には堪らないだろう。

 

「水に濡れると張り付き、スケスケでしたが、強力な装備でした。アイズさん、モンスターを倒すためにこういった装備を今の貴女は着れますか?」

 

俺の言葉を聞いて、顔を赤らめるアイズさん。

 

「なら、練習しましょう。それにお友だちのティオナさん達とたまにはお揃いの服も悪くはないと思いますよ!」

「そうだよ、アイズ。一緒に着ようよ!!」

 

ちなみに、ティオネさんは、面白そうな表情で静観している。

 

「アイズ、これとかどうかな!?」

「あ、う、うん……」

 

ティオナさんの協力もあり、レフィーヤとアイズさんがアマゾネスの衣装を試着した。

 

「なっ、なななな、何でアイズさんもし、試着をっ?!」

「アイズさんには、この衣装は似合いませんか? レフィーヤさん」

「いいえ、凄く素敵です!!」

「あ、レフィーヤ、鼻血!」

「え、きゃあっ!!」

 

レフィーヤが着た衣装は、胸の部分はティオナの服のようなタイプだ。

でも、下は前から見ると膝まで長いスカートだが、後ろから見るとパンツ(下着ではない、アンスコみたいの)がなにもしなくても、見えそうなミニスカだ。

 

アイズさんはティオナが選んだ、ティオナとよく似た衣装だ。

色は髪の色と合わせて、黄色を基調としている。

 

「レフィーヤさん、アイズさん、もじもじしてると余計に恥ずかしくなりますよ。胸を張ってください!」

「う、ううっ」

「は、恥ずかしい」

「レフィーヤさん、どうですか? 動きやすいでしょう?」

「え、ええ、まあ。でも、この布地の少なさなら当然で」

「装飾品と動きの邪魔をしないですよね? つまりマジックアイテムを多めに付けられると言うことです」

「「―――っ!?」」

 

俺の言葉にレフィーヤとアイズさんが、雷に打たれたような顔をする。

うん、多少は、なるほど。みたいな反応を期待したけどさ。

そこまで、驚くとは。

 

「防御力の低さを装飾品で補うのも悪くないかと」

「……なるほど」

「か、考えられたデザインだったんですね」

 

アイズさんとレフィーヤが納得しているけど。適当にそれっぽいことを言ってるだけです。

ティオナさんが二人に余計なことを言おうとするのを、ティオネさんが止めている。ありがとう! 付き合ってくれて。

 

「少しでもレフィーヤさんの偏見を失くせたのなら、アイズさんの役にたったなら幸いです」

 

それでは、と俺はその場から去ろうとして、最後にレフィーヤに教えておくことにした。

 

「あ、そうだ。レフィーヤさん、忘れてました」

「は、はい」

「リヴェリア様にお伝え下さい。――巨大な花に魔法を不用意に使ってはいけません」

「え?」

「夢です。そうお伝え下さい」

 

それだけ、伝えると俺はその場を去った。

さて、怪物祭(モンスターフィリア)は、やはりベルきゅん達ではなくて、オラトリアの方に介入しよう。

あ、バベルにアマゾネス姉妹とアイズさんに貸す即席の武器買いにいこう。

後は大型の盾も。

介入した時は、新人用に買ったお試し武器とでも言えば良いだろう。

 

あの食人花のモンスターにセイント・ランスが効くかも知りたいしね。

 

出来るなら、途中まででも、ロキ・ファミリアの遠征に付いていければ良いけど。

無理だろうな。

ま、少しでもロキ・ファミリアの利益になる者だと思わせられれば、メリットもある。

 

「どこまで、やれるかな?」

 

経験値上昇スキルが事実上使えない。

ヘスティア様が泣くからやらない。というか、多分精神的に平気だと思うけど、やりたくはない。

これでも、元は男だ。

 

でも、仕方がないとは言え、辛いな。

 

それとベートも気になる。

原作のあのロキ・ファミリアの敗北があったから、ベートはロキ・ファミリアの団員達と仲良くなれた。

 

けれど俺がベートの心に土足で踏み込んで、俺を殴ったことでベートとロキ・ファミリアの団員との溝は深まった。特にエルフとの。

 

うーん、リヴェリアさん経由で、しっかりと頭を下げよう。

出来れば、個室で。

個室でないとベートの性格上、団員達の前だと必要以上に悪態つくだろう。

 

たぶん、ベートは「はっ、うぜぇ」くらい言いそうだけどね。

 

 

 

 

で、後日。

 

「はっ、謝るくらいなら、はじめから言うなよ、うぜぇっ」

「ベート!」

「うるせぇ、ババア!」

 

ロキ・ファミリアの個室で、俺とリヴェリアさん、ベートの三人で会ったのだが。

流れはほぼ、予想通りだった。

 

「それでも」

「あぁん?」

「頭に血が上っていたとしても、貴方の心に土足で踏み込んだことは、貴方がわたしを許さなくても、頭を下げなくてはいけないことです」

 

俺はベートの眼をしっかりと見て、

 

「本当にごめんなさい。貴方の過去を踏みにじって」

 

そう言って数秒ベートと見つめ合い、ベートがつまらなさそうに顔を窓の方に背けたので、俺が部屋から出ようとしたとき。

 

「ちっ、おい!」

「はい? ――っ、これは……?」

「要らなきゃ捨てろ」

 

ベートに投げ渡された手のひらサイズの緑色の小さな包み。

ベートを見ると忌々しそうに、窓の外を見ながら口を開いた。

 

「俺はっ、自分より弱ぇやつをいたぶる雑魚になりさがるのは、ごめんだ!」

 

俺と立ち会ったリヴェリアさんは驚き。

ベートの横顔を見た俺は……。

 

――ドアを開けて、廊下を走りながら大声で叫んだ!

 

「み、皆さーん! ロキ様ー! ベートさん、やっぱりツンデレでしたぁーっ!!」

 

神ロキと他の団員達が集まっている場所にダッシュして、貰った緑色の包みを見せると、ロキ様筆頭にその場にいた全員にベートはからかわれ、元凶の俺と何故かラウルがベートから膝蹴りを食らうはめになった。

 

ラウルは完璧にとばっちり、ごめんね!

あ、後、耐久がかなり上がったから、もう少しからかうべきだったかもしれないな。

 

 


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