魔王の妖精聖母は迷宮の奥底へ   作:迷走中

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アルディスのスキルの魅了とダンまちに登場する女神達の魅了は中身が違います。
アルディスのスキルの魅了は、エロゲ的な魅了です。



リリ登場

「本当に規格外」

 

現在、俺とベルきゅんは七階層に降りてきて、狩りをしている。アビリティ的に俺もベルきゅんは問題ない。

俺の場合は半年の貯金があって助かった。

 

ヘスティア・ナイフの力も加わり、ベルきゅんはかなりのペースで、新米殺しのキラーアントの首を撥ね飛ばしている。

「アルディス、後ろに!」

「問題ないですよ」

 

溝に隠れて、俺に飛び付くように奇襲してきたキラーアントの頭部を、俺はセイント・ランスの矛先で突き刺す。

 

頑丈な甲殻をアッサリではないが、セイント・ランスはしっかりとキラーアントに突き刺さる。

 

うーん、やはり神聖属性はモンスター特効か、モンスターの防御力を下げる効果があるのかもしれない。

 

俺がベルきゅんが来るまで、臨時のパーティーを組まない日に、ソロで活動出来た理由の一つが、この武器魔法のおかげだ。

 

後は、身体に染み付いた戦闘技能。

文字通り、激戦を戦い抜いた体でもある。

 

負ければ凌辱されるコロシアムとか、数にものを言わせるゴブリン、オークの群れとか。

 

ゲームの主人公は良く心が壊れなかったな。

まあ、そういうゲームだから、アルディスの心は壊れなかったのだろう。

 

下手に記憶を思い出すと身体が発情するので、気持ちを切り替えて近くのキラーアントを突き殺す。

 

あ、それとベルきゅんは、最近ナイフだけではなくちょっとだけ蹴りを使い始めた。

 

理由は俺が槍と組み合わせて、回し蹴りなどの足技でモンスターを流れるように倒すのを見てからだ。

 

ベルきゅんが子供みたいに「凄い、凄いカッコ良いよ」と言っていて、ちょっと照れくさい。

 

俺がスタイリッシュな動きをしたら、ベルきゅんも真似したのだが、身体の柔らかさが足りずに失敗したので、今はベルきゅんには柔軟体操させている。

 

「ベルさん、せっかくですから、今日はギリギリまで狩りましょう」

「うん、そうしよう!」

 

こうして、俺とベルきゅんは、ギリギリまで七階層でひたすらキラーアントを倒し続けた。

 

 

「それじゃあ、ベルさん。一人で大変かもしれませんが、魔石とエイナさんへの報告と挨拶お願いします。わたしは先に戻って夕飯を作ります」

 

これで、エイナさんとベルきゅんがバベルでデートへ行く筈だ。

 

俺は夕飯の支度をして、送られてきた手紙を再確認する。

 

レフィーヤを庇った一件とその後に送った手紙についてだ。

現在、ロキ・ファミリアに残っているのはガレスさんや二軍だけ。

 

既にアイズさん達は個々の借金返済のためにダンジョンに向かった。

例によって原作知識で警告をしている。

 

頭の無い遺体。宝玉。破壊されるわたしが見たことの無い町。赤い髪の女。

 

とりあえず、宝玉は気持ち悪さを感じたので破壊。赤い髪の女には気をつけて下さい。と書いたので、後はフィンとリヴェリアさん次第だ。

 

それと、食人花に破壊された盾と鎧、乱入するために大量に持ち込んで消費したハイポーション全部と、アマゾネス姉妹に貸すつもりで俺が持ってきた武器(やっぱり壊れた)の代金も支払ってくれた。

 

治療費、武具とポーション代金はロキ・ファミリアとして。

食人花の情報は、リヴェリアさんの個人的なポケットマネーでかなりの高額な金銭で支払ってもらえた。

 

リヴェリアさんのポケットマネーで俺に情報料を支払った理由は、ファミリアで大金を動かすと冒険者ギルドに痛くない腹を探られる可能性があるからだ。

特に冒険者ギルドのギルド長は金の亡者だ。

俺も出来るだけ、関わりたくない。

 

まあ、情報料はチートみたいな物なので、別に対価は要らないのだが、リヴェリアさんに「こちらが貰ってばかりでは駄目だ」と言われて受け取った。

 

まあ、貰った高額の情報料金は黒いゴライアス戦までに、全部物品に換えて、アイテムにしてアイテムボックスに入れておくか。

 

ファミリアの帳簿に記載せず、俺の個人的なお小遣いノートに記載しておいて、ファミリアのお金ではないので、ペナルティ(罰金)回避をするか。

うん、悩むな。お小遣いノートにリヴェリアの名前を書いておけば、ギルドから強引に奪われることもないかな?

 

物品にするとアイテムボックスが圧迫される。

金のままだと、後の黒いゴライアス戦のペナルティが怖いな。

 

まあ、まだ時間はあるから、後回しでも良いかな?

 

「さて、夕飯を作らないと」

 

俺はヘスティア様とベルきゅんの為に、ホームに急いだ。

 

 

 

翌日。

 

「ベルさん、デート頑張ってくださいね!」

「で、デートじゃないよ! アルディス!」

「エイナさんが勇気を出して誘ったのに、そんなこと言ったら可哀想ですよ」

 

俺が小首を傾げると、ベルきゅんは「そ、それは」と、言葉に詰まった。

ごめんね、ベルきゅん、実はエイナさんと事前に打ち合わせしてました。

とは、言えないので、黙っておく。

 

「と、ともかく、行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

 

ベルきゅんを見送り、俺もロキ・ファミリアに行くために着替える。

一般的なエルフの少女が着る服へと。

 

「さて、行きますかね」

 

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

ロキ・ファミリアにきた俺は事前に話が通っていたので、すんなり客室へと通され、ソファに座りながら待っていると。

対応してくれたのは、やはりガレスさんだった。

 

「良くきたな、小さいの。リヴェリアよりは頭が柔らかそうだ」

 

テーブルを挟んで、俺の向かい側に座るガレスさんの冗談に俺は「リヴェリアさんに怒られますよ」と、言ってから、改めて先日のお礼を告げる。

 

「先日は助けていただき、ありがとうございます。ガレス様」

「様は要らん。寧ろ頭を下げるのはこちらだ。レフィーヤを庇って怪我をしたからな。食人花だったか、奴の特性を考えれば、レフィーヤは死んでいたかもしれん」

 

そうですね。と俺もそれは同意する。

まあ、原作では、死んでないけど。

軽い挨拶が終わり、ガレスさんが俺の手にしている大きめの箱に注目のする。

 

「それで、その木箱は何だ?」

「ガレスさんへのちょっとしたお礼です。どうぞ。口に合うと良いのですが」

 

手にしていた大きめの木箱を、テーブルの上に置き。

木箱をガレスさんの方へ押すと。

 

「ほぉ、小さいの。いや、アルディスと言ったな。お主分かっておるの」

「昔、ドワーフの方にお世話になりましたから」

 

ガレスが丁寧に木箱を開けると、中から出てきたのは、蒸留酒。ドワーフが作るアルコール度数の高く、香りも良いとされる上物だ。

 

初めは、ガレスさんへのお礼は神酒(ソーマ)にしようかと思ったのだが、アレは失敗作な上に値段の幅も広い。

 

なら安定した美味しさで、しっかりとした職人が心を込めて手間暇かけている酒の方が、御礼としては相応しいかな? と思って選んだ酒だ。

 

「後で楽しませてもらおう。では、本題に入ろうかの」

「えぇ、お願いします」

 

今回、俺とガレスさんが話し合ったことは。

今後俺がロキ・ファミリアに有益な夢(ロキ・ファミリアはスキルだと思っている)を見たら、それを教える。

ロキ・ファミリアは、夢の内容に見合う対価を支払う。

 

まあ、今回の話し合いは密約だな。

今日、俺がここに来た表向きの理由は、ガレスさんへのお礼だ。

 

夢の情報料の支払いはロキ・ファミリアではなく。リヴェリアさんのポケットマネーということにして、取引の金銭などが表には出ないようにする。

 

冒険者ギルドの介入は、俺も本当に困る。

 

仮に冒険者ギルドに夢のスキルの内容を教えろと、権力を盾に何らかの形で神の前で吐かされれば、スキルではないのに、未来の情報を得たことがバレる。

 

未来の情報。夢がスキルではないのがバレれば、ロキなどは俺が都市の破壊者側の人間と思うかもしれない。

正直、洒落にならない事態だ。

フィルヴィスを助ける算段もない状態で、それは避けなければならない。

 

「これからも、仲良くしてください」

「ああ、互いのファミリアの不利益にならない程度にな」

 

俺はガレスと握手をして、俺はロキ・ファミリアを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「エルフの、しかもハイエルフにしては変わっている。いや、変わりすぎている。ドワーフ好みの手土産に加えて、ほぼ初対面の相手と自然に握手をするとはな」

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

ロキ・ファミリアを出た俺が次に向かったのは、ヘファイストス・ファミリアだ。

これもヘスティア様にお願いして、事前に話を通していたので、神ヘファイストスの執務室に直ぐに案内してもらった。

 

「御会いできて光栄です。神ヘファイストス」

「貴女が噂のハイエルフね。それで、今日は何のようかしら?」

「この度ヘスティア様が神ヘファイストスにかなり我が儘を言ったようだったので、それについての話です」

 

ヘファイストス様が目を細める。

変な勘違いされていそう。

ヘファイストス様は、俺に続きを促す。

 

「ヘスティア・ナイフの代金。二億ヴァリスですが、書面にて、二億ヴァリスは神ヘスティア個人が支払うものであり、支払いにはヘスティア・ファミリアが関わる必要はない。と、記載してほしいのです」

 

俺の言葉にヘファイストス様の目がつり上がった。

あ、うん。これは怒ってる。

 

「理由を聞かせてもらえるかしら?」

 

やはり、神友なんだな。答え次第では許さない。とヘファイストス様が俺を睨み付けてくる。

いや、ヘファイストス様はファミリアに支払わせるつもりはないだろう。

けれど、主神を見捨てるような発言には憤りを感じているのかもしれない。

 

それに、ヘスティア様は俺の武具の製作依頼はなかった。

ヘスティア様とそこは話し合ったが、ヘファイストス様はそれについて、俺に思うところがあるのか気になるのかもしれない。

 

「ヘスティア様、ヘファイストス様、ヘスティア・ファミリア、ヘファイストス・ファミリアの四者の利益のためです」

「どういう意味かしら?」

「ヘスティア様はぐーたら女神様です。休みの日はお腹と口を開けてよだれ垂らして、時には昼近くまで寝ます」

 

俺の言葉に、ヘファイストス様が別の意味で目を吊り上げた。

後で説教ね。と言う声が聞こえた。

 

「ですが、神格者です。そして、小さなヘスティア・ファミリアが結果を出せれば、入団希望者は出てきます。その時に、高額な借金があると分かれば入団希望者は確実に居なくなります」

「……そうね。確かにその通りだわ」

「もちろん、ヘファイストス様がヘスティア様の借金はヘスティア・ファミリアとは支払いが別と世間に伝えても、尻込みする方は出るでしょうが、その程度で入団を止めるのであれば、こちらも仕方がないと諦めもつきます。ですので、ふるい落としの意味もかねて、借金の支払いを明確にすることは必要なことです。それに」

 

俺はヘファイストス様の目を見ながら、自分の考えを伝える。

 

「このまま、ヘスティア・ファミリアが小さいままでは、わたしがヘファイストス・ファミリアのエクレアさんに頼める仕事の規模は小さいまま。ヘスティア・ファミリアの規模は大きくなれば、繋がりのあるヘファイストス・ファミリアに仕事を頼むことも多くなります。もちろん、ヘスティア様個人に借金はあるので、それを不安に思い入団希望者はそれなりに減るでしょうが、借金の支払いの内容が明確な方が、まだ入団希望者は現れる筈です」

 

俺の言葉を聞いて、ヘファイストス様はしばらく黙り込み。「なるほどね」と呟く。

 

「つまり、貴女はヘスティアの借金の支払いには手を出さないと?」

「ファミリアとしては出しません。個人的には別です。正直なことを言いますと、わたしがその気になれば、ヘスティア様の借金は恐らく三年くらい? で返せると思いますよ」

 

もちろん、横槍が入らなければ、と断る。

俺の言葉を聞いて、どういうことだ? と視線を送ってくるヘファイストス様に、俺は見せつけるように自分の右手の人指し指と中指をネットリと舐め、音をたてて吸う。

 

そのまま、5秒ほど指を舐めながら、ヘファイストス様を誘うように見詰める。

 

俺の突然の淫靡な行動にヘファイストス様の頬が思わず紅くなったところで、俺は笑みを浮かべながら言った。

 

「わたしは、元高級娼婦でしたから」

 

娼婦としての営業スマイルをヘファイストス様に向けると、ヘファイストス様は頬を完全に赤らめてしばらく動かなかった。

 

「まあ、今はそういうことはやりません。ヘスティア様が本気で泣くので」

「え、えぇ、私も貴女が身体を売ったお金では、ヘスティア・ナイフの支払いはしてほしくないわね。あくまでもあのナイフは、私とヘスティアの取引だから」

「ありがとうございます」

 

ヘファイストス様は俺のお願いを聞いてくれた。

ヘスティア様は周りに、ヘファイストス様に個人的な借金はあるが、支払いはヘスティア・ファミリアは関係ない。という話を少しずつ広めてくれている。

 

完全には無理だろうが、多少はヘスティア・ファミリアの未来の評価はマシになるだろう。

 

 

 

 

 

「ヘスティア」

「ん、なんだい? ヘファイストス」

「アルディスって子供は、本当にエルフの○0歳児なの?」

「本当だよ、小さいけどしっかりした、とても良い子なんだ!! ボクもベルくんもアルくんのお陰で助かってるんだよ!」

「…………そうね、アンタが主神じゃ、しっかりもするわね」

 

邪気のない、悪く言えば能天気なヘスティアの笑顔にヘファイストスは溜め息をついた。

 

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

「え、しばらく別行動?」

「ええ、ベルさんは成長期です。この機を逃すわけにはいきません。ですので、わたしは六階層。ベルさんは七階層で狩りをした方が良いです」

 

ホームに帰り、夕食が終わった後のミーティング。

俺はリリのことを考えて別行動を提案した。

 

「もちろん、一人では危ないので、ベルさんには自分の目でサポーターを見つけてもらうことになりますが」

「うーん」

「それに、アビリティの面で、七階層は少し辛いのです」

「それなら、僕が六階層に」

「ベルさんの成長期を逃す訳にはいきません!」

「わ、分かりました!」

 

俺がちょっと睨みながら、却下するとベルきゅんは即座に頷いた。

女の子に弱いなベルきゅん。

 

 

さて、俺はまず防具を買ってからだな。

 

 

 

「はぁ、レベル2の後半の冒険者が身につけるフルプレートを無理して買ったと思ったら、その日のうちに街中で破壊されるほどの重傷を負ったのに、直ぐにダンジョンですか? アルディスさん」

 

エクレアの工房に顔を出し、武具の発注するとエクレアは呆れた表情をした。

 

 

「あはは、怒ってる?」

「ビキニアーマー同盟の同士が死にかけたんですよ? 心配くらいしますよ。それで、今回お求めの物は?」

「ウォーシャドウとデートするから、丈夫な防具を」

「さらっと新米殺し狙いとか。何度か臨時でパーティーを組んでるから、アルディスさんの実力は知ってますけど、気をつけて下さいね」

「分かってます。わたしも考えがありますから」

「考え?」

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 

「今日は付き合ってくれて、ありがとうございます。フィルヴィスさん」

「いえ……」

 

俺は困った表情のフィルヴィスさんと共に現在六階層にいる。

どうやってフィルヴィスさんとペアでパーティーを組んだかと言うと。

 

実はダメ元でディオニュソスに、デメテル様の所のワインを持って、「フィルヴィスさんに教えを乞いたく!」と、お願いしたのだ。

道のど真ん中で。

 

いや、ディオニュソス・ファミリアのホームの場所は知っている。

けれど、葡萄酒(神酒)が怖くて行きたくないので、わざわざ街を歩いているところを捕まえてお願いした。

 

結果的に、ディオニュソスの許可を貰って、二人で六階層に来たわけだ。

 

表向きにはディオニュソスは「人と関わるべき」とか言っていたけど。

 

あの野郎的にはフィルヴィスさんに俺との幸せな思い出を作らせて、幸福にさせてから、フィルヴィスに俺を殺させて、狂乱させるのが目的だろう。

 

「私は必要なのでしょうか?」

「はい、本当に勉強になりますよ? 先ほど運悪く五体ウォーシャドウが出てきた時は、フィルヴィスさんが居なかったら逃げるしかありませんでしたし」

 

ロングソードを振るい、時にはセイント・ランスで、モンスターを撃破していると、フィルヴィスさんがそんなことを言い出した。

 

「時間をかければ、アルディスさ、……殿なら勝てたと思います。逃げながらの戦いにも慣れている気がしました」

「畏まらなくても良いのに。けれど、追加でモンスターが現れたら危ないですし」

「まあ、それはそうですが」

「あ、背中をお願いしますね。フィルヴィスさん」

 

こうして、フィルヴィスさんとの時間は過ぎていき。

 

「はい、換金が終わりました。フィルヴィスさんの分です」

「いえ、私は……」

「あー、急にわたし、フィルヴィスさんと手を繋いで歩きたくなってきたなー。チラッ」

 

ギルド内で、唯でさえ目立っているのに、俺が騒ぎ出すと周りからの視線も増える。

 

「わ、分かりました。いただきます」

「はい、それでは、また明日も、よろしくお願いしますね!」

 

え? という顔のフィルヴィスさんと俺はこのあと、途中まで帰った。

残念ながら、手を繋いでは帰れなかった。

けれど、その途中で。

 

「あれ?」

「どうしました?」

 

ヘスティア・ナイフを無くして、リューさんが変身したリリからヘスティア・ナイフを回収、ベルきゅんは感激のあまりリューさんの手を握って騒いでいる。

 

「いえ、ファミリアの仲間が見えただけです」

 

行きましょう。とフィルヴィスさんを促すと「ファミリアの仲間と合流した方が」と言ってきたので。

 

「今はフィルヴィスさんと居たいです」

 

と、ゲームの娼婦の仕事をしていた時のことを思い出して、流し目でフィルヴィスさんと仲良くしようとする。

ちょっと頬が紅くはなったが、それだけだった。

 

うん、フィルヴィスさんはやはりガード固い。

ちょっとずつ、切り崩さないと。

 

この後、俺はフィルヴィスさんと明日も臨時のパーティーを組むことを約束して(泣き落としでさせた)、ホームに帰った。

 

 

 

 

翌朝。

 

「貴女がリリルカ・アーデさんですか?」

「あ、あのリリのことは、呼び捨てでお願いします。アルディス様」

 

フィルヴィスさんと合流する前に、俺はリリと初めて顔を合わせた。

 

なんか、微妙にリリがビクついている気が。

緊張しているエルフの子供とかに様子が似ている気がする。何でだ?

まあ、いいや。とりあえず、言いたいことを伝えよう。

 

「ベルさんは、お人好しで世間知らずだから、色々教えて上げて下さいね」

「ちょっ、アルディス、何を言ってるの!?」

「未だにナァーザさんに、割高でポーションを買わされているクセに」

「ちょっ、それは」

 

焦るベルきゅんを放置して、俺はリリを手招きして、耳元で囁く。

 

「それと、気をつけてね。リリさん、ベルさんはああ見えて」

 

――天然女殺しだから。

 

え? と言う顔をするリリと、ちょっと怒ってるベルきゅんと別れて、俺はフィルヴィスさんと六階層へ向かった。

 

そして、俺は戦いながら、フィルヴィスさんにアドバイスを貰う。

時折、六階層で採れるダンジョン産の採取物を採集して、お昼には。

 

「はい、フィルヴィスさん。あーん」

「いや、アルディス殿。一人で食べられる」

「ダンジョン内では、何があるか分かりません。手を塞ぐと危ないですから、わたしがフィルヴィスさんに食べさせて差し上げますね」

「い、いえ、それなら一人ずつ食べれば」

「わたしの作ったサンドイッチ、食べてくれないのですか?」

 

悲しげに俯くと、なんか葛藤しながら、「い、いただきます」と、言ってくれたので、優しくフィルヴィスさんの口にサンドイッチを入れる。

 

「――っ、こ、これは」

「どうですか?」

「お、美味しいです」

 

ふっ、前世で俺は料理にはそこそこ自信があった。

祖母が幼い頃から、料理の基礎を俺に教えてくれたのだ。

今のフィルヴィスさんの顔を見ると祖母には本当に感謝だ。

 

「次はタコさんウインナーです」

「た、たこ?」

「オクトパスの形に切ったウインナーです」

 

俺の言葉に「あぁ」とフィルヴィスさんは頷いた。

 

「アルディス殿は、料理が上手ですね。誰に教わったのですか?」

 

フィルヴィスさんの質問に、俺と【ゲームのわたし】が答えてしまった。

 

「祖母と先輩娼婦達ですね」

 

俺は反射的に手で口を押さえるが、持っていたサンドイッチを離してしまい。半分ほど残ったサンドイッチは地面に落ちてしまう。

 

いや、確かに娼婦イベントで、料理を教えて貰うイベントはあるけど、何故今の俺はそれを言った?!

 

「すまない。アルディス殿っ」

 

ほら、フィルヴィスさんも自身も特大な地雷原なのに、私、地雷踏んだ! みたいな顔をしているし!!

 

「ご、ごめんなさい、わたしも無神経で」

「違います。貴女様は何も悪くない」

「皆さん、良い人達でしたから大丈夫ですよ!」

 

俺が元気、元気! と笑顔でそう言うと、フィルヴィスさんは「なら、良いのですが」と、納得はしてくれた。

 

とりあえず、フィルヴィスさんにもしっかりサンドイッチを食べさせて、俺もサンドイッチを食べて。

ダンジョンの探索を再開した。

 

で、その日の夜。

ヘスティア様が酔っぱらって帰ってきて、俺はヘスティア様を連れてきたミアハ様に飲み代を支払う。

 

ミアハ様は要らない。と言ったが、受け取らないなら、夜遅いですがナァーザさんに渡しますね。と伝えると、ナァーザさんに怒られるのは嫌なのか、ミアハ様は素直に受け取ってくれた。

 

実はポーション配り歩いているミアハ様を本気で叱り飛ばして、「このままだと、ホームや、場合によってはナァーザさんが娼館に売り飛ばされるかもしれないんですよ! 危機感持って下さい!!」と、言ってから、ミアハ様は大分お金や物を大事にし始めた。

 

それとナァーザさんも娼館は考えてなかったらしく、ミアハ様が馬鹿なことをしたら、前よりしっかり叱るようになった。

 

「はぁ、ベルさん。先に夕食を食べましょう。ヘスティア様には、明日の朝は二日酔いでしょうから、お粥を作っておきます」

「あ、うん、分かった」

「それと、明日はベルさんがヘスティア様を見ていて上げてください。最近、ヘスティア様と話をしていないようですし」

「え? そんなことは……?」

「ありますよ。そうですね。今日は無理でも今度デート誘ってあげてください」

「で、デートって! 神様相手だよっ」

「神とか関係ありません。ヘスティア様は女の子ですよ」

 

俺がそう言うと、少し考えていたようだが、ベルきゅんも納得したようだ。

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

さて、あれから数日。

流石にフィルヴィスさんも、毎日俺に付き合う訳にはいかない。

 

エクレアと六階層でペアを組んだり、アウラさん達に連れられて、十階層の見学をさせてもらえた。

セイント・ランスの威力はやはり高く、攻撃面や装備面では問題なかった。

 

それと技量も問題ない。

 

何より【オーク】と戦う姿はアウラさん達に「何年もオークと戦ってきた貫禄を感じました」と言われた。

 

うん、まあ、オークは経験値、性経験値、ドロップアイテムが美味しかったから、かなりの数を倒したからな。

 

ただ、やはり全体的にアビリティが足りないと感じた。

耐久だけは他のアビリティに比べて地味に上がっていくので、心配ないけど。

頑張って他のアビリティも上げなくては。

くぅっ、ベルきゅんが羨ましい。

そんなことを思う。今日この頃。

 

 

 

 

 

「ただいま、戻りま「ええええええええええっ!?」し「へぶにゅ!?」た……?」

 

ホームに帰るとベルきゅんの驚く声とヘスティア様の変な声が聞こえた。

あ、もしかして、ファイアボルトか?

 

「大丈夫ですか、ヘスティア様。それと何があったんですか、ベルさん」

「え、あ、アルディス」

 

俺がヘスティア様を起こして、話を聞くとやはり魔法が使えるようになったようだ。

で、怒るヘスティア様と謝るベルきゅんを宥めて、ベルきゅんのステイタスを見せてもらい。

 

よし! まだ、耐久は抜かされていない。

まあ、直ぐに抜かされるだろうけどね!!

 

「ファイアボルト。速攻魔法ですか。レア魔法ですね」

「確か、速攻魔法は詠唱を必要としない魔法だよね? アルディスの【セイント・ランス】みたいに」

「はい、ですからベルさん。不用意に魔法の名前を言わないようにしてくださいね。わたしも【セイント・ランス】の能力の考察中にうっかり【セイント・ランス】と呟いて、そこの壁に穴を開けましたから」

「えっ、その穴はそれが原因だったのかい?!」

 

驚くヘスティア様を無視して、俺はベルきゅんに言う。

 

「今日は遅いですし、魔法は明日にしましょう。ベルさん」

「あ、うん」

「ヘスティア様は先に寝てください」

 

で、俺がささっとシャワーを浴びて、ヘスティア様の寝ているベッドの隣に入って、ちょっとすると。

人の動く気配がして、小さくパタンとドアの閉じる音がした。

 

「念のため後を追いますかね」

 

手早く防具を着て、俺は全速力でベルきゅんの後を追った。

 

 

 

 

結果的に、原作の通りにベルきゅんはアイズさんに膝枕をしてもらった。

で、俺はリヴェリアさんと、地上に一緒に帰る途中で。

 

「団員が迷惑をおかけして」

「いや、気にするな。それよりも」

「はい」

「普通、逆ではないかな? 年齢的にも」

 

魔法に興奮して夜にこっそりダンジョンに向かう新人団員、その団員をこっそり見守る先輩団員。

年齢が逆だな完全に。

 

リヴェリアさんの言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。

 

「あ、そうだ。夢は役に立ちましたか?」

「ん? ああ、役に立った。先に知っているのと知らないのでは、心構えが出来るぶん、かなり助かった」

「それは良かったです」

 

本当に助かったと、溜め息をつく。

 

「宝玉に食人花。調教師(テイマー)。黒い肉の蜘蛛のような穢らわしい新種のモンスター。分からないことだらけだ」

「…………え?」

 

リヴェリアさんの言葉の最後の言葉に、俺は思わず立ち止まる。

リヴェリアさんも、立ち止まり俺を見る。

 

「今なんて言いました?」

「ん? 宝玉に食人花。調教師(テイマー)。黒い肉の蜘蛛のような新種のモンスター「それっ!!」」

 

俺が声を上げるとリヴェリアさんは困惑した表情になる。

 

「リヴェリアさん、その黒い肉の蜘蛛のようなモンスターについて、詳しく!!」

 

俺はリヴェリアさんにすがり付くように、リヴェリアさん達が遭遇した、その新種のモンスターについて、詳しく聞いた。

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 

【しがみつく肉】それが、リヴェリアさん達が遭遇した黒い肉の蜘蛛のようなモンスターの名前だ。

 

【妖精王女 ~白濁の泉に沈む】に序盤から、何処にでも出てくる雑魚敵だ。

 

強さはゴブリン以下ではあるが、このモンスターはなかなか面倒くさい。

 

なぜなら、相手に飛び付いて動きを封じてくるからだ。

 

神聖装備を身につけていれば飛び付いて来なくなるが、神聖装備が無い序盤に出会うと、運が悪ければ処女を奪われる。

 

リヴェリアさんの話だと、今までモンスターに性的被害を受けていなかっただけに、原作通りに戦場になった十八階層のリヴィラの街にいた女性冒険者はかなり混乱したらしい。

しかも、三十匹以上現れたそうだ。

それと気になるのは、小さいが魔石があったこと。

 

ゲームには魔石なんてものはない。

似ているアイテムはあるが、鉱山で手にはいる鉱物だ。

 

どっから出てきた? 何故産まれた? 【しがみつく肉】は魔王が直接産み出したモンスターの筈だ。

 

魔王がこちらに来ている? だとしたら、世界規模で異変が、起こる筈だ。

流石に世界が滅ぶ可能性があるなら、神々は動くはず。

 

「…………分からない」

 

気がつけば朝だった。

まあ、考えてもしょうがない。気持ちを切り替えよう。

今やるべきことをしよう。

 

 

 

で、朝食を食べて、気がついたらベルきゅんとヘスティア様が言い争い、ベルきゅんはそのまま使い終わったグリモアを持って出ていった。

 

「あぁ、ベルくん! 君は純粋過ぎる!!」

「大丈夫ですよ。ヘスティア様」

「何が大丈夫なんだい!? このままだと、また借金が!!」

「増えませんよ。あの本は豊穣の女主人で借りたみたいですし」

「何故、大丈夫だと言えるんだい、そんなこと!」

「女将さんなら、本を忘れた人がベルさんに弁償しろと言っても黙らせるかと」

 

忘れたお前が悪い。とね。

だから、大丈夫です。とヘスティア様を宥めてから。

俺はナァーザさんの下へ向かった。

 

「ナァーザさん。頼んでいたものは?」

「届いたよ。臭い消しと合成毒」

「ありがとうございます」

「…………アルディス、そんなに沢山臭い消しと合成毒必要なの?」

 

今まで使いもしなかったアイテムを注文したことで、ナァーザさんは、何かを感じ取ったようだ。

 

「ええ、今のうちに倒しておきたい冒険者(モンスター)がいるんです」

 

俺がナァーザさんにお代を支払うと、

 

「こんなには要らない」

「貰って下さい。ミアハ様の為にもなりますし」

「……分かった」

 

悩んだようだが、ナァーザさんは色をつけた代金を受け取ってくれた。

そして、店を出るとき。

 

「アルディス」

「なんでしょうか?」

 

俺が振り返ると、ナァーザさんは心配そうな表情でこう言った。

 

「また来てね。常連客が居なくなると潰れてしまう」

「ええ、また直ぐに来ますよ」

 

俺は笑顔で店を出た。

 

次に向かったのは、エクレアの工房だ。

 

「出来合いを作り直しただけだから、革鎧は直ぐに出来たけど。斥候でもするつもりなんですか?」

「まあ、そんな感じです」

「それに頼まれた、顔を全部隠すサラマンダーウールを使ったマスクとフードつきマントだけど、ダンジョンでも凄く怪しいですよ」

「マスクは見られれば怪しいですが、フード付きのマントは珍しくはありませんから」

 

俺の言葉に溜め息をつくエクレア。

そして、少し躊躇しながらも、箱を俺に差し出してくる。

 

「それと、頼まれていた投げナイフです。素材と今の私の技術だとこれが限界です。でも、レベル 3相当のモンスターにも、ダメージは分かりませんが刺さる筈です。それと毒を塗るとのことでしたので、毒が付着しやすいように、溝などをちゃんと付けてますよ」

「ふふっ、ありがとう、助かります。エクレアさん」

 

俺が微笑むとエクレアさんは、不安げに俺を見た。

 

「……何をするのか、知らないけど。気をつけてくださいね」

「ええ、大丈夫ですよ」

 

また来ます。

そう告げて、俺はエクレアの工房を後にした。

 

 

▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

ゲームでは、ステルスのミニゲームがあった。

盗賊のアジトに侵入。脱出。

思い出せるのは、背後からナイフで相手の首をかっ切る感触。

 

「てっ、てめぇっ、何者だ!」

 

血を流す右肩を押さえながら、最初に背後から襲った中年の冒険者を改めて見る。

中年のオッサンの獣耳。どこに需要があるのか考えて、即座に止める。

 

目の前にいる三人はベルきゅんを罠にかけたリリを待ち伏せして、アイテムを強奪したならず者だ。

まあ、団員のパーティーメンバーからアイテムを強奪したのだから、殺してもかまわないだろう。

 

どのみちコイツ等は、ミノタウロスに殺される。……はずだ。

 

とはいえ、俺は十階層にソロで行くのは無理だ。

運も味方すれば、出来るかもしれないが。

 

利益のことを考えれば、そこまでする必要はない。

だから六階層で待ち伏せして、チャンスがあれば殺すつもりだったけど。

 

待ち伏せは運良く成功。最初の毒付きの投げナイフは、狙った中年獣耳男は野生の勘ともいえる動きで回避行動。

ナイフをうなじ部分ではなく、右肩にずれてしまったが当たったので問題ない。

 

驚き固まる取り巻きの二人にも投げナイフを連続でお見舞い、それぞれ二本ずつ毒の投げナイフを投げて、見事に突き刺さる。

 

本当に運が良いことに、周りには誰もいない。誰か居たのなら、奇襲はすっぱり諦めるつもりだった。

 

あぁ、とても良い気分だ。歌でも歌いたい。

あ、駄目だ。歌はモンスターを引き寄せる。

って、ゲーム作品が違うか。

 

「た、助けっ」

 

毒が廻り、助けを求める取り巻きの冒険者に、俺は左手に装備していたロングソードで首を切り、トドメを刺す。

その隙にリーダー各の中年ケモミミ男が仲間を捨てて逃げようとしたので、右手でナイフを投げる。

 

「ゲハッ」

 

俺が思っていた以上に、コイツ等は毒には弱いみたいだ。

もう一人の取り巻きは今死んだ。

 

「な、何なんだよっ、お前は!」

 

血を吐きながら、地面を這う男に俺は再度周囲を確認し、誰も居ないことを確認。

アイテムボックスから投げ槍を取り出して、中年獣人の男に投げつけ、トドメを刺した。

 

カヌゥだったか? コイツはリリから奪った火の魔剣を持っていた筈だ。

 

奇襲直後は男も混乱して、使ってこないかもしれないが、立ち直れば形振り構わず魔剣を使ってくるかもしれない。

だから、念のためにサラマンダーウールを使った防具を装備をしたけれど。

 

「本当に運が良かった。六階層の正規のルートで待ち伏せして、奇襲するときに他の冒険者が来なくて」

 

俺は空にしたアイテムボックスに三人の男達の死体を入れて、その場を後にした。

 

 

「ノーム金庫の中にある宝石は、戦争遊戯の後で返してあげましょう。リリスケ」

 

俺は上機嫌で、ホームに帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、合流したリリスケは、俺にこっそり耳元で囁いた。

 

「あの人は本当に天然女殺しです」

 

ほんのり頬が紅かったけど、何したのベルきゅん?

 

 

 


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