早朝にリューさんに土下座をすると、リューさんは慌てて周りを確認し、物凄い勢いで彼女が暮らす【豊穣の女主人】の従業員が暮らす離れに連れていかれた。
「あのようなことをしないでください。心臓に悪すぎる」
「すみません。リューさん。けれど、貴女しか頼れる強い方は居なかったのです」
少し頭を下げながら、俺がそう言うと、リューさんは一瞬表情が揺れたが、普段のクールな表情で言った。
「私はただ店の従業員ですよ」
「ごめんなさい。リューさん。わたしは貴女が昔、【疾風】と呼ばれていたことを知っています」
「な、何故、それを」
驚くリューさんに、俺は調べた結果です、とだけ伝える。
「……仮に私は疾風だとして、貴女様は私に何をさせたいのですか?」
警戒するように、俺を見据えるリューさん。
自業自得だけど、好感度が下がってるね!
……泣いて良いかな?
「わたしに稽古をつけてほしいんです」
「稽古を?」
「はい、気絶させたり、骨にヒビを入れない程度の力でお願いしたいのです」
俺の言葉に、リューさんが困った顔をする。
「わ、私はいつも、その……やり過ぎてしまう、ので」
「はい、それも知っていますが、リューさんしか頼れないのです」
リューさんの遠回しな手加減が苦手アピールに、俺は微笑む。
「わたしはどうやら、力と耐久。次に魔力が凄く上がり易いみたいで」
たぶん、アイズ並み? 身体のことを考えれば、不思議ではないけど。
耐久は食人花。ベート。あとはソロの時、頭の悪い殴り合いをモンスターとしているのが原因だろう。
試しにウォーシャドウと拳で語り合っていたら、通りかかった冒険者が引いてた。
やはり、血塗れで殴り合いは外聞が悪かったらしい。
ポーション使う暇がななかっただけなんだけど。
「特に耐久の上がりが早いのです。ですが、モンスター相手に耐久を上げようとすると」
「危険が伴いますね」
「はい、そこで冒険者にお願いしようと思いました。ですが、わたしより遥かに強く、わたしの耐久を上げる効果が期待出来る攻撃を繰り出せる冒険者は、限られてます」
「…………」
リューさんが、難しい顔をしている。
「どうか、お願いです。わたしと定期的に模擬戦をしてほしいのです」
しばらくリューさんは、考えていたが。
観念したように、分かりました、と。頷いてくれた。
「ありがとうございます。それと依頼はもう一つあります」
「はい、教えてください」
俺は軽く咳払いをして、気持ちを切り替えると、リューさんも察して、真面目な空気が部屋に流れる。
「次のロキ・ファミリアが遠征に出発する日の、夜が明ける前、わたしと最大で17階層まで降りて、とある人物を探してください」
「とある人物?」
「はい、その方が、ベルさんの命運を握っています」
意味が分からないという顔をするリューさんに、俺は今後のベルさんの為だと伝える。
「それと、この依頼を受けてくれるなら、一つだけお願いがあります」
「それは?」
「わたしを信じなくても良いです。けれど、ベルさんだけは、何があっても信じて見守ってあげてください」
「……どういう意味ですか?」
「今回の依頼は、リューさんがベルさんを信じて見守ることが、重要です」
もしも、貴女が動けば、多くの人が不幸になる。と告げるとリューさんはどういうことだ? と俺を見つめる。
リューさんは少し考えて、俺に問いかけてきた。
「貴女の目的は?」
「ヘスティア様を守ること、オラリオの平和。ベルさんを出来るだけ側で見守ることです」
十数秒、俺とリューさんは見つめ合い、リューさんは小さく溜め息をついて、
「分かりました。その依頼を受けましょう。ですが、ミア母さんを説得しなければ」
「それについては、考えがあります」
ミア母さんの説得は、すっげーっ、怖いけどな!! でも、説得する材料はある。
「どのような考えかは分かりませんが、ミア母さんを説得出来るなら、問題はありません」
「ありがとうございます。それと、報酬ですが」
「いえ、報酬は」
俺はリューさんを、タダ働きさせる気はない。
後で、ベルきゅんがどう頑張ってもやらかすからな!!
「金銭だけでも、受け取って下さい。それと」
「それと?」
「ベルさんがランクアップしたときは、ここでお祝いをしますから、期待してください」
俺の言葉に、リューさんはくしゃりと笑い。
「随分と気の長い話だ」
と、笑ったが、リューさん。
ベルきゅんのランクアップは目前だよ。
ベルきゅんが、負けなければ……。