彼はその羊に誘われるがまま不思議な世界を廻る。
そして出会う過去の初恋。
果たして、この羊は何を伝えようとしているのか?
ここは夢か、現実か?
彼は今、人生を決断する。
日曜が楽しみだw
日本軍人浪漫とは少し作風が違うけど、気に入ってくれたらお気に入り登録よろしくぅ。
『視点:???』
紫っぽい毛の可愛らしい羊が目の前にいる。
ここはどこだろうか?
俺は、確かアパートの自室でのんびり空を眺めていたはずなんだが。
どこか、ここに見覚えがある。
そうか。
ここは俺が中学生までを過ごしていた故郷だ。
でも、なんでここが?
目の前の羊は首を器用に振りながら着いてこいと言っているように見える。
俺は好奇心で着いていくことにした。
懐かしい景色だ。
いつも飴をくれる婆さんがやってる駄菓子屋。
強面だけど意外に昆虫に詳しい警備員さん。
その警備員さんの後ろに立つビル。
遠くに見える青い屋根の家。
錆び付き始めてる遊具がいっぱいある公園。
昔に赤い奇妙な姿の宇宙人を匿ってるとかいう噂の流れたお婆さんの家。
そして、昔好きだった女の子の家。
羊は、その子の家の前で止まった。
羊が真ん丸の目をぱちくりさせて1回転すると、どういうわけか白い靄が一瞬かかって消えてしまった。
ここは夢の中なんだろうか。
そもそも動物園に行ったとき、あんな姿の羊なんていなかった。
ここも、気持ちの良い晴天なのに誰の声もしない。
不気味だ。
でも、自然と何かが溢れてくる。
もしかしたら懐かしくて涙が出そうなのかもしれない。
気付くと、俺は泣いていた。
泣き止むに時間がかかった。
俺が再び目を開けたとき、さっきの羊がその子の家の玄関にいた。
どういうわけか扉は開いていて、羊はその中でまたしても着いてこいと言っているように見える。
この子と俺は大の仲良しだったが、都会の高校に進学してから音信不通になってしまっていた。
そういう年頃だったこともあるだろうけど、単に恥ずかしかっただけだったのかもしれない。
俺はずっと剣道部で、高校に進学してからは頑張って全国行けるぐらいの実力は手に入れた。
でも、俺はずっと敗けっぱなしだった。
どうやっても主砲すら討ち取れなかったし、果てはエースに簡単に自分の面を叩かれる様。
寮に入るためあの子と別れた時、俺は自信満々だった。
だから、敗けっぱなしなのが、悔しくて、恥ずかしかったんだ。
玄関を上がると、羊は奥へと続く廊下に行かず隣のキッチンに入った。
そうだ、ここのキッチンはリビングに繋がってたんだ。
俺は羊に誘われるまま、キッチンに入った。
すると、急に何処からともなく現れた靄が視界を覆い、ジタバタしてる間にいつの間にか靄は消えていた。
どういうことなんだ?
俺は隣にいた羊を見るが、羊はこちらに気付いても可愛くウィンクするだけだった。
なんだこいつ。
そこでふと気付く。
前まで無音で誰も居なかったはずなのに、外から子供の騒ぐ声が聞こえてきている。
俺はキッチンを飛び出し玄関を出ようとしたが、それを止めるかのように2人の小学生が入ってきた。
「これやっぱりオオクワガタだよ!!」
「どう見たってヒラタクワガタだよ。」
女の子に対して冷静にツッコミを返しているのは、俺だった。
見てわかる。
ここはもしかしたら過去を見せてくれる場所なのかもしれない。
この子たちは、いや、昔の俺とこの子はキッチンに入っていった。
その子は手に緑色の小さな虫かごを持っていた。
あぁ、そうだ。
小学三年生のとき、この子はどうやってかヒラタクワガタを見つけてきたんだ。
何回言ってもオオクワガタって貫き通すから、俺がこの子に甘かったのもあってオオクワガタだねって諦めた記憶がある。
羊はいつの間にか俺の脇にプカプカ浮いていた。
少し驚いたが、所詮は夢の中なんだから有り得るだろう。
羊が目の端でまた1回転すると、再び靄が視界を覆い、消えたときには再び何の音もしなくなっていた。
羊は廊下を歩いていって二階に向かった。
羊が向かったのは、あの子の部屋だった。
羊が首を横に動かすと部屋の扉が自然に開き、中の光景が見えるようになった。
勉強机と本棚がある。
本棚には俺が貸したままあの子がニコニコして渡さなかった冒険ものの小説がシリーズごとに置いてある。
俺の知らない場所で、あの子は全巻揃えたようだ。
あの子は俺の真似をして、よくウルトラマンの人形を見せてきた。
今ではあまり見れないだろうそれらが、本棚の上の段にしまわれている。
はぁ、こんなに仲が良かったのか。
羊はふわぁと宙を浮いてあの子の勉強机に座った。
羊が顔の向きで示した場所には、あの子がいつも持っていたノートがあった。
俺は羊の誘うがままノートを取った。
目の前が靄で覆われた。
それが消えると、今度はあの公園にいた。
あの子は中学生の姿になっていた。
いや、もしかしたら高校生なのかもしれない。
あの子は水色のワンピースを着て、公園のブランコに座っていた。
時間はもう遅いようで、空は真っ赤になっている。
何も考えずに乗っているようだった。
羊は俺の足元をクルクル回っている。
なんなんだこいつ。
あの子が立ち上がろうとしたとき、羊はその子の前に飛び出した。
さっきは俺も羊も見えなかったはずだが、このとき、羊の姿は見えるようになっているようだった。
「えぇ?何この羊!!かーわいー!!」
あの子は羊を眺めている。
あの子が手を伸ばした瞬間、また俺の視界が靄に包まれた。
そう言えば、あの子の名前はなんて言っただろうか?
高校に行って楽しい毎日を送ってるうち、忘れてしまった。
靄が晴れたとき、そこは俺の働いてた会社のオフィスだった。
俺の隣には先程の姿のままのあの子が立っている。
「あ、あの、ここは、何処ですか?」
「え?」
見えるのか?
「あ、あぁ、実は俺も此処には急に送られてきたんだがな。此処は俺の会社とそっくりなんだ。」
「・・・そうですか。」
「・・・あ、あのさ!!」
「はい?」
彼女は急に大声を出した俺を怪訝そうに見つめた。
「君、俺の知り合いだよね?」
「え?あなたは?」
「俺は
「わ、私の知ってるダイゴ君はもっと若いです!!嘘つかないで下さい。此処はいったい何処ですか?本当のことを話して下さい。」
「・・・そんな・・・。」
そっか。
そりゃそうだ。
彼女の知ってる俺はおそらく高校生になっているだろう若き俺。
今目の前にいるのは自分の幼なじみを名乗る30代のおっさんだ。
「俺は今の君の事を知らない。俺は高校に上がるとき君から離れた。」
「・・・。」
「俺が、未来から君に会いに来たって言ったら、信じるか?」
「・・・。」
「まぁ、無理も無いよな!!い、今の俺は君にとって不審者みたいなもんだろうし!!」
俺は彼女が何か言う前にそそくさと誰も居ないオフィスを探検し始めた。
まぁ、何も無いんだけどさ。
見た感じ俺がアパートに帰る前に居たオフィスと全く変わらない。
俺が帰った後に何かやらかしたのか
彼女は廊下に出て長椅子に腰掛けた。
「な、なぁ。俺、もう年でさ。」
「・・・。」
「実はよ、君の名前、忘れちまったんだ。」
「・・・私の名前ですか?」
「教えてくれないかな。俺の、過去の親友の名前。」
ちょっとカッコつけた言い方になってしまったが、あの子は気分を変えたようだった。
「うん・・・私の名前は・・・ッ!!」
「何?・・・うおッ!!」
彼女の視線の先に目を向けると、それはオフィスの窓の外から見えた。
巨大な赤黒い怪獣。
見たことがある気もする。
怪獣は遠くからでも分かる大きな破壊音と振動を伴ってこっちに向かってきた。
今こうして見てる間にも俺の見慣れたこの景色が破壊されまくっている。
「あ!!羊さん!!」
「何・・・ッ!!」
羊はいつの間にか俺の隣に居たようで、こっちへ来いみたいなジェスチャーをしてくる。
「なぁ君、羊はどこかへ連れて行きたいみたいだ。」
「え?」
「速く行こう。俺達もアレに殺されかねん。」
「は、はい。」
冷静に冷静に。
ここで俺が冷静じゃなかったらこの子を守れないんだ。
足の震えを止めろ、前の羊にだけ着いていけ。
羊は屋上に来たらしい。
てっきり脱出させてくれるのかと。
いや、そもそも此処はこの羊が創り出したであろう世界なんだからこの怪獣も羊が呼び出したんだろう。
羊は俺の前にフワフワと浮かぶ。
羊がその場で1回転したからまた場所を移動するのかと思ったら、なんと俺の周りに虹色の光の流れが出来た。
やっぱりなんだこいつ。
彼女もこの光景にびっくりしたみたいだ。
「なぁ。これどういうことだと思う?」
「さ、さぁ?というか!!もう化け物すぐ側です!!早く避難しないと!!」
「・・・あぁ。そうだな。」
自分の幼なじみの名前を語っている年上のおっさんなのにここまで心配してくれんのか。
いや、この怪獣のおかげでそう言う不思議なことも実際に起こってるんだと勝手に納得したのかもしれない。
まぁ。
俺はもう君の名前すら分からなくなった。
幼なじみ失格なんだよ。
光は、俺の右手に集まった。
「これは・・・。」
光は黒っぽいとんかちみたいな形を創り出している。
見たこともない文明の文字が刻まれているようだ。
とんかちなら物を叩くんであろう場所はプラスチックとかアクリル版みたいな何か透明な物で覆われていて、近付けて見てみると何か鏡みたいなのが中にあるのが分かる。
結構高度な文明の遺産か?
透明な物はどうやら2つが左右で組合わさった形をしているらしく、桜の花びらみたいな感じだ。
2本の黒い湾曲したラインがそれぞれ入っていて、何か宗教的な感じがする。
これどっかの国宝だったり未知の文明の遺産だったりすんの?
窃盗はやだよ。
お、光が消えていく。
羊は俺から見て怪獣を遮るように浮いた。
もうこれもその形を露にしている。
羊は何か可愛らしい表情でウーンと考えるような仕草をした。
すると、羊の頭のとこから何やら光の粒子が溢れてきて、俺の頭に入り込んでいく。
「それ・・・ッ!!」
彼女は驚愕しているようだ。
俺はどうやらこれの情報を渡されているらしい。
どうかと思うが、俺はウルトラマンになりたいらしい。
笑えるぜ。
30代のおっさんがウルトラマンになりますとか、ネット掲示板で爆笑されちまうぜ。
別にいいか。
どうせ夢だ。
そう、夢。
俺は、夢の中だけでもこの子にカッコいいとこ見せてやるよ。
俺はそれを持った右腕を前に突き出し、さらに体の前に持ってきて左腕とクロスさせた。
「何を・・・?」
両腕を大きく回し、左腕を腰に、右腕を高く空へと伸ばす。
それは、黒く、白い光を纏っていた。
「・・・ティガァァァッ!!」
俺は自分の体がまるで光のように軽くなるのを感じた。
『視点:???』
紫色っぽい稲妻を纏った白い光に包まれたこの人は、高く舞い上がり私とあの化け物の間辺りでフワフワ浮かんでる。
やがて、その光が大きくなり、徐々に巨体を創り出していく。
まさか・・・。
あの姿は・・・ッ!!
『視点:円香大悟』
俺は、ウルトラマンになったのか?
横の俺より少し大きいぐらいのビルに映る自分の姿は、紫色と銀色の入った黒い巨人だった。
あぁ。
この巨人の名前が頭に浮かんでくる。
さぁ行こうか。
後ろのあの子を守るために。
あの紫の羊を張り倒すために。
「ティガ。」
俺は目の前の怪獣、ゴルザに対してレスリングのようなファインディングポーズをとった。
『視点:???』
フゥーと小さく息を漏らしたようなあの黒いウルトラマンは、化け物に対して戦闘姿勢をとった。
カッコいい。
どこか、私をいじめから助けてくれたときのダイゴ君に後ろ姿が似てる。
あの人は自分が未来から来たダイゴ君だと言った。
もしかしたら、本当なのかも知れない。
ウルトラマンが雄叫びを上げて化け物に近付く。
一瞬でビル数個分の距離抜けちゃったよ。
速すぎ!!
ウルトラマンは近付きざまに地面を蹴り、上に飛び上がる。
クルリと1回転しながら右足を伸ばし、化け物の頭に振り下ろした。
「グオォォォォォオオオッ」
とてつもない悲鳴を上げて、頭の辺りが少し凹んだようにも見える。
正直うるさい。
そもそもこんな巨体なんだから声も大きいか。
ウルトラマンは化け物の前に着地すると、そのままアッパーして化け物の後ろに降り立つ。
化け物はすぐに反応して後ろを向くと、何やら頭の部分から紫色の光弾を出した。
もう怪獣じゃん。
ウルトラマンは後ろすら見ず、飛び上がって回避する。
そういや、ダイゴ君は武術やってたんだっけ。
忘れちゃってた。
ウルトラマンは横に移動し、次々と出される光弾を避けていく。
「グオォォォオッ!!」
化け物は雄叫びを上げて威嚇している。
ウルトラマンは右こぶしを握った。
すると、何やら白く淡い光が球体になって拳に纏った。
「デュアァァァァァッ!!」
その叫びと同じく、右こぶしを化け物にぶつける。
「グオォォォォォオオオッ!!!!」
化け物は後ろのビル群をいくつも凪ぎ払いながら吹き飛んでいった。
ウルトラマンはジャンプして軽く距離を詰めると、化け物の尻尾を掴んだ。
「ハァァァァァアアアッ!!!!」
一気に力を入れて、その巨体を振り回す。
化け物も悲鳴を上げているように聞こえる。
「デァァァアアアッ!!!!」
ウルトラマンは私とは反対の方向に化け物を投げ飛ばした。
「フッ!!」
ウルトラマンは腰に両腕を着けると、前に持っていきクロスさせ、肩と平行に左右に伸ばしていく。
手の動きに従って白く黒い矛盾した光の筋が出来ていく。
「ハァァァッ!!」
右腕を肘から折りながら伸ばし、左手を右肘に付ける。
昔ダイゴ君と見ていたウルトラマンの必殺技にそっくりだった。
手をそのように組んだ瞬間、右腕の肘先から紫色の光の濁流が真っ直ぐに空高く舞った化け物に向かって飛んでいく。
その流れが当たると、化け物は真っ赤に光始めた。
やがて、空に化け物が散った。
ウルトラマンは両腕を下げ、こっちに顔を向く。
「ジュアッ!!」
私は警戒したが、ただグッドしただけだった。
私は半ば呆れながら笑顔でグッドを返す。
ウルトラマンは光に包まれると、小さくなりながら私の前に降りてきた。
「どうだった?」
光が晴れると、さっきと変わらない姿のあの人がいた。
「うん・・・。凄かったよ。」
「そういってもらえると助かるな。」
そこで、その人は破壊されてしまった向こうの景色を眺めるように屋上の鉄柵に寄りかかった。
私も釣られて寄りかかる。
「俺、君の名前を思い出せたと思う。」
「え?」
「
「う、うん。」
「もしさ、君がこの事を覚えてるんだったら、会いに行っていいか?」
「いいよ。未来のダイゴ君。」
「ありがとうな。初恋の人。」
「・・・うぇ?」
『視点:円香大悟』
どうやらここまでのようだ。
視界が霧で覆われていく。
「絶対に会いに行くわ。」
「待ってるよ。玲奈。」
俺の視界は白に覆われた。
視界が戻ると、そこは俺のアパートだった。
目の前には羊がいる。
「なぁ。俺、また信じてみるよ。」
俺はいつの間にか信じる事を自覚無しに諦めていた。
それを思い出させるために、この羊は俺を誘ったんだろう。
「ありがとうよ・・・夢幻魔獣。」
羊は満足そうに頷くと、クルリと1回転してまた消えてしまった。
ピンポーン
「誰だ?こんな時間に。」
俺が扉を開けると、目の前には成長した玲奈がいた。
なんでだろうか、見て分かる。
「会いに来たよ。大悟。約束、忘れて無いよね?」
俺は思わず笑ってしまう。
「久し振り、いや、さっきぶりだな、玲奈。」
玲奈も一緒に笑った。
「なぁんだ、ついさっきの事だったの。」
「そりゃ忘れないるわけないさ。」
「ふふっ、ありがとう。」
「どういたしまして、玲奈。」
笑った玲奈は、可愛かった。
数年後。
夫婦になって娘も生まれた俺達の部屋には、まだスパークレンスが飾られている。
俺達の、二度目の出会いのきっかけだから。
「行ってきます。玲奈。」
「行ってらっしゃい、大悟。」
今日も、明日も、この家庭を守っていきたい。
俺はあの夢の世界で玲奈の机にあったノートを未だに鞄に抱えている。
でも、これは玲奈から見ても、俺が見てもただのノートじゃなかったんだ。
これの1ページ目には、仲むつまじい様子の幼い俺と玲奈が肩を組み合って互いにピースする写真が貼ってある。
このアルバムには、まだ俺と玲奈との思い出が刻まれるだろう。
そう、信じてるから。
なお、この世界には平成ウルトラ3部作の登場人物が存在しています。
大悟君の親友には
藤宮君はツンデレ気質で我夢の親友兼ライバル。
この世界の世界観としては、ウルトラ八兄弟のように怪獣なんかはテレビの中の存在で、昭和シリーズのウルトラマンしか放送されていない設定です。
しかし、赤い奇妙な姿の宇宙人とは?
どう考えてもスタンデル星人ですね分かります。
なんでインキュラスなのかっていったら、俺もこれと同じ様な経験をしたことがあるから。
インキュラス絶対世界飛び越えられるやろ。