女騎士『この国終わった』

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女騎士、世界に絶望する

『あかん』

 

私、レイチェル・レイルロード・レイン・レイクラインは目の前の惨状に頭を抱えていた。

 

『何を言ってるんだこいつらは!?頭に蛆でも湧く程に腐りきっているのか?』

 

そう思わずにはいられなかった。この国、ソク・モーテミウド皇国は近年危機に瀕していた。近年に復活を果たした魔王の存在により、活発化した魔物たちの掃討に多大な犠牲者を出してきたのだ。

 

この世界には様々な種族が生きている。人間、獣人、妖精などが生きている世界だ。そしてお決まりの存在として、もちろん魔物も存在する。魔力の源である魔素と呼ばれる力を大量に取り込んだ結果、その力によって肉体だけでなく精神も怪物になり果てた物のことだ。この現象を魔素汚染という。魔物になり果てた存在は、歪んだ精神により、破壊と殺戮、欲望のままに動く獣となる。

 

肉体変化により、その力は獣を凌ぎ、時には魔素に影響で魔法さえも使いだす。それはもはや生物災害と言われるほどに。一方で、魔素汚染による魔物化はめったに起きない自然現象のため、その数は年間を通してもそれほどの数には及ばない。また事前に魔素が増加した地域を浄化などその場を清めるなどの対応すれば問題はなかった。これはかつて、対応が遅れた結果、国ごと滅んだ過去の歴史から学んだことだが…。

 

話を戻そう。魔王の存在によって、今までばらばらであった魔物たちが統率された。そのことによって、彼らは個ではなく群としての活動を開始。それにより強大な力と化した魔物たちによって、世界は大きな被害を受けていたのだ。その中の1つが私たちの国、ソク・モーテミウド皇国であった。

 

メーダ皇帝の下、貴族や騎士らによって統治されている。そして私の家もその一つだ。まあそれなりの地位だと思ってくれればいい。度重なる魔物たちの侵攻によって疲弊していく帝国。強大過ぎる魔物によって、数ある兵士や魔術師も負傷し、時には戦場に立てなくなるほどのトラウマを刻まれていく。いづれ来る滅びに怯えなければならない中で、一つの方法を取ることになる。

 

『勇者召喚』である。

 

私たちとは異なる世界から勇者を召喚し、世界を救ってもらおういう魂胆だった。歴史によれば、度々勇者召喚の儀式は行われ、世界を救ってもらっていたらしい。正直、眉唾物であったが、確かに書かれているのだから実際に会ったのだろう。藁にも縋る思いで儀式は行われ、歴史通りに勇者()()は召喚された。

 

そう、()()()()である。

 

その数はおよそ10数人。数でいうならば私の騎士団にもいかない数だった。戸惑う彼らに、皇国の姫であるシナデ・クーロ様が事情を説明。なんやかんかあって彼らの協力を得ることができた。もちろん、彼らに対して皇国は多大な支援を行った。私も騎士団を率いて彼らの鍛錬などに勤しんだ。そうして彼らと共に魔王討伐へと参加したのである。そして彼らが見事魔王を討ち倒し、魔物たちは鎮静化。こうして魔王等の脅威から世界は救われたのである。名残惜しいものではあったが、後は彼らを元の世界に還しすことで終わり………だった。

 

「では彼らを処分しましょう」

 

皇国から命令を受け、勇者たちよりも先に帰ってみればこれである。魔王討伐に浮かれる民衆に微笑みながら帰還し、皇国会議に出席してみれば、貴族や王族たちは口を揃ってこの結論だ。

 

『彼らはあまりに強大過ぎる、直ぐに殺すべきだ』貴族の一人が言った。

 

『いや、殺すのは早い。彼らの血を研究し、その後に殺すべきだ』魔術院の長が言った。

 

『いいえ、彼らの力を取り上げた後にするべきでしょう。そうすれば、彼らの力は皇国の物となります』

 

シナデ姫様が笑みを隠さずに話す。

 

「な、何を言っているんですか!!」

 

堪らず私は声を張り上げた。色々と彼らに触れあって、彼らの人となりを知っている私からすれば到底信じられないことだ。彼らの目的は元の世界の帰還。そもそも、彼らを無理やり召喚したのはこちらの事情でしかない。そのためにも私たちは彼らの支援してきたはずだ。そして彼らを無事に還すことが、巻き込んでしまった私たちの義務のはずでは!?

 

「レイチェル」

 

シナデ姫様が私の方を向く。その顔はかつてレイクライン家の当主となり、騎士団長として剣を承った時に見せた、美しい微笑みそのままだった。だというのに、今の私には悍ましさを感じてしまう。

 

「これも全て皇国のため…いえ、この世界のためです。魔王を倒したということは、今は彼らがこの世界にとって恐ろしい存在。私たちは、私たちの国を、世界を護るためにそうしなければならないのです」

 

「そんなはずはありません!彼らはただ、私たちのために戦ってくれた英雄ではありませんか!世界に還すという目的で協力して、世界まで救っていただいたのに、それはあまりも酷すぎます!」

 

私の言葉に、姫様は溜息を零す。

 

「レイチェル、いえ、レイチェル・レイルロード・レイン・レイクライン。貴女には弟がいましたね?」

 

「い、いきなり何をおっしゃっているのですか?」

 

「いえ、別に。ただのお話ですよ。話を聞くに貴女を慕っているとか」

 

姫様の言葉に、私は心臓を掴まれたような苦しさを感じた。

 

「ですが可哀想ですわね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!?」

 

姫様は笑う。

 

「そうなれば貴女だけではなく、貴女の弟どころか家も領民も全て処刑せねばなりませんね。ああ、なんて可哀想に…」

 

その言葉に、私は理解してしまった。そして周りを見渡せば、誰も彼もが私をせせら笑っている。つまり、そう言うことなのだ。

 

「レイチェル。レイチェル・レイルロード・レイン・レイクライン。この国を守る守護騎士よ」

 

姫様はあの時の顔で、私に笑いかける。

 

「解っていただけますね?」

 

「……は、い」

 

私は唇を噛みしめ、握った手から血が滴るのを感じた。

 

 

 

 

 

 

「この国も終わりか」

 

私は家へと戻り、窓から見える月を眺めていた。私の心に宿るのは空虚。もう何もかもがバカらしくなってしまったのだ。あまり強くもないのに、調理場から拝借したワインを開け、煽るように飲む。味わう訳でもなく、酔いたいわけでもない。ただ飲むだけ。

 

「クフフ…」

 

自然と口から笑い声が零れる。

 

「クハハハ……アハハハハハハ……!!」

 

随分と酔いが回ったのだろうか、気付けば人前でしたこともない笑い声を発していた。

 

「皆みーんな終わる。この国は勇者たちによって滅ぼされる。キャハハハハ、ざまぁないわね!」

 

皇国の貴族も、それどころか姫様も気付いていない。勇者たちの力は魔王に匹敵すると言う意味を。その力を自分たちの物にしようとする愚かさを。何もかもが腐っていた。そしてそんな国を想い、ひたすらに奉仕してきた自分はもっと愚か者だ。挙句の果てに、自分の家族や領民の保身のために、裏切りに加担したのだ。もう何もかもがバカらしくなった。

 

「レイチェル・レイルロード・レイン・レイクライン!お前は随一の愚か者だな!腐った国を守り、そして世界を救った勇者を裏切った果てに何もかもを失うのだからな!」

 

私はワインを掴むと、床に投げつけた。砕ける音と、赤に染まるカーペット。ああ、メイド長に怒られてしまうな。

 

「だがそれも問題ないか」

 

どうせこの国は消えるのだ。だったら別に気にすることでもないか。

 

「さあ勇者たちよ!早く帰ってきて、きれいさっぱり滅ぼしてくれ!こんな国など滅んでしまった方が世界のためだ!アハハハハハハ!」

 

一しきり笑い終えると、倦怠感に襲われドカリと椅子に腰を下す。茹った頭が冷え、私は溜息を零す。

 

「せめて家族や領民たちは避難させよう」

 

自分勝手ではあるが、私とは違い彼らは関係ない。だが、裏切られるだろう勇者たちからすればこの国自体が裏切ったとしか思われないだろう。ならば彼らだけでも…。

 

「いや無駄か…」

 

自分で言ったじゃないか、勇者の力は強大だと。それから逃げるなど不可能だ。全くもって何もかもが詰んでいる。だったら…

 

「どうせ死ぬのだ。ならば最後は騎士団長としてではなく、私として死ぬか」

 

私は家族や領民に心の中で謝罪する。

 

『すまない。先に審判の女神の下へ行き、お前たちの罪を全て背負えるように話をしてくる』

 

そして私は馬を駆り、勇者の下へと向かう。やはり姫様等の刺客に襲われたが、左腕と右目を失うだけで済んだ。そして勇者の下へとたどり着き全てを伝えた。もはや真っ暗な中で、私が聞こえたのは私の名前を呼ぶ声。だがすまない、私は先に冥府へと行かねばならない。

 

「せめて、民には手を出さないでやってくれ。彼らは君たちの帰還を喜んでいたんだ。不躾だが、本当にすまない」

 

揺さぶられるが、もう何も聞こえない。

 

「すまない」

 

こうして私はその生涯を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全蘇生魔法(リザレクション)!!』

 

「は?」

 

状態異常完全消去(キュア)!!』

 

「へ?」

 

なぜか私は目を覚ました。そして何故か失ったはずの右目と左腕があった。混乱する私に、勇者が涙を流しながら叫ぶ。

 

「いや、私としては死ぬつもりで来たわけで。君らを裏切ってしまった手前、役目を果たせたら心置きなく冥府へと行こうとしていたんだが…」

 

そう言ったら、勇者だけでなく彼の幼馴染だった医術師や魔術師らまで叫びだす。待ってくれ。なぜ死ぬことに怒るのだ?そこは裏切ったことに怒るのではないか?そう聞いたら、彼ら曰く、すでに知っていたとのこと。なんでも彼らの一人が精神感応スキルを持っていたらしく、姫様等の心の内を覗いていたという。

このままいけば自分たちや世界が危険になるけどどうしようか?と話し合っていたところに、傷だらけで血まみれの私がやってきたという。

 

「なんだそれは…」

 

なんとも私がバカではないか。もはや世界一の愚か者だ。こうして一度死んでしまった手前、何ともバカバカしい。全く持って度し難いぞ私は。

 

『でも、レイチェルさんは僕たちを思って行動しくれました』

 

勇者の言葉に、私は何とも思えない気持ちになる。愚か者でも、こうして誰かに感謝されるのは良い気持ちだ。そんな想いを抱いていると、彼らはバツが悪そうに言った。

 

『実は…僕らの世界ではこういうのは日常茶飯事なんです』

 

「……は?」

 

曰く彼らの世界『ちきゆう』というところでは、度々、異世界に召喚されるなどのことが起きているとのこと。それこそ学び舎においては異世界召喚対応の手段として、ファンタジー科なる訓練が行われているとか。なんだその魔境は?ちきゆうという世界はそれほどまでに恐ろしい場所なのか?

私の国は、そんな恐ろしい場所から勇者を召喚し、かつ殺そうとまでしたのか?

 

『それに元の世界に帰る方法にしても、実は…』

 

チラリと見ればこちらに近づいてくる女性とその配下。夜だと言うのに、まるで朝のような光を纏っている。

もはや

 

『僕たちの国の神様です』

 

『こんにちは異世界の者よ。ワラワは天照大御神。ワラワの民を引き取りに来たぞ』

 

もはや何を言っているのか解らない。目の前に異世界の神が現れるなど、もはや私の理解を越えているばかりだ。

 

「すまない。私はもう駄目らしい」

 

だから私は意識を失った。こうして『ちきゆう』なる魔境から勇者たちを召喚した結果、私たちの世界は異世界誘拐や脅迫罪などの罪に問われ、大混乱とのこと。

私の世界の女神様がひたすら頭を下げて謝る姿を見せられ、私は真っ白の灰になりたかった。

 

そして月日が経ち………

 

 

「えー、あー。わ、私はレイチェル・レイルロード・レイン・レイクライン。この度、第78異世界『ソク・ナーム』から派遣された親善騎士団長です。以後よろしくお願いする」

 

私は魔境『ちきゆう』なる世界の一国『にほん』で生きることになった。実質人質である。

 

あかん、私の国終わってる。


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