転生公爵令嬢の憂鬱 作:フルーチェ
作者の不注意で恥ずかしい限りですが今話から主人公の名前を「ターナ」に変更し過去話も修正しています。
混乱させるような真似をしてしまい読んで頂いている皆さんには申し訳ありません。
誤字報告修正また複数頂いています、ご指摘頂いている皆さんありがとうございます。
魔法学院のクラス分けは入学試験の成績順にS、A、B、Cの四つに振り分けられる。
次席だった私はSクラスとなり、入学式前には同じクラスとなる生徒達と集められていた。
あの賢者の孫シンに王子殿下、そしてマリアとシシリーの二人組。
Sクラスは総員十名と他の三クラスと異なり少数になっていて残るは五人。
男子は二名、すらりと背が高く柔らかいというよりも緩い目つきをした男子と、いつぞや見た殿下の護衛である中世的な顔立ちに眼鏡をかけたトール・フォン・フレーゲル。
残る三名が女子、眼鏡を掛け肩程まで黒髪を伸ばしている子に、ただでさえ露出している胸元を更に緩め豊満な体つきを強調したような女子。
残る一人の女子は小さい、中等部に入ったばかりの子供と見紛いそうなぐらい幼く見える女の子だった。
この場に居るのは皆が成績上位者であるはずだが、ちらほらアクの強そうな人物が居るようだ。
……あまり人の事を言える立場ではないけれど。
代表に指名されたシンはすらすらと、自分が世間知らずだから仲間外れにしないで欲しいなどと冗談さえ交えて新入生挨拶をこなしていた。
難色を示していたのは何だったのか、とても言葉通りには聞こえないその挨拶には一部の教員、参列貴族が眉を顰めていたが大半の者には好感的に受け入れられているようだ。
すぐ後のディセウム国王陛下、直々の祝辞でも随分と彼に目を掛けているらしい事を言及していた。
曰く、皆の固定観念を吹き飛ばしてくれることだろうから彼から色々と学ぶと良いのだそうで。
確かに賢者マーリンや導師メリダに幼い頃から育てられたという彼に興味が無いわけでは無いのだが、先日の出来事を思い出すと一抹の不安もよぎる。
常識を学びに学院へやってきたというが今の挨拶、これまでの言動、ただ人里離れて暮らしていたというだけにしてはどうにもちぐはぐな印象を受ける。
どんな教育を受けていたのか知らないが強力な魔法が扱える人であることだけは間違いないようなので、警戒もしておいた方がいいだろう。
悪い人物では無さそうだが悪意が無いからといって他者に被害をもたらさないとは限らない、むしろ常識がないというならそれ故の過ちを犯す危険性も考えられる。
英雄の孫であるからといって彼もまた素晴らしい人物であるとは保証できない、しかしこの国の『賢者』に対する崇拝めいた雰囲気がそれを人々に忘れさせはしないか――それだけが心配だ。
「まずは入学おめでとう、Sクラス担任のアルフレッド・マーカスだ、よろしくな」
入学式終了後、案内されたクラスの教室で担任となる教員、アルフレッドとクラスメイト達とで自己紹介をする運びとなった。
実技の授業も担当するというアルフレッドは元宮廷魔法師団の所属で五年前に学院教師となったらしい。
尊敬する人物は賢者マーリン殿で、このクラスの担任となれ嬉しく思っているという。
賢者の孫以外の生徒達も居る前でよくそんな贔屓を疑われてしまいそうな事を言えるのものだと思ってしまうが、他の生徒達に気分を悪くした気配は感じられない。
この国ではこういった反応が普通ということらしい。
入試の成績順に自己紹介させることにしたようで、生徒の一番手にシンが指名された。
「はい。えーと初めましての人もそうでない人もいますが、改めましてシン・ウォルフォードです」
新入生の中で最も注目を集める存在であるシンの自己紹介には皆が興味深そうに耳を傾けていた。
最近まで森の奥で暮らしていたこと、賢者マーリン氏に教わり一通りの魔法が扱えること、導師メリダ氏からも付与魔法を教わり魔道具の作成もできるということ。
最後にアルフレッドに倣うようにして尊敬する人物としてマーリン、メリダ二人の名を挙げて紹介を終えるシン。
賢者と導師からつきっきりで教育を受けたという事実に、予想通りクラスメイトは似たような羨望の眼差しを向けていた。
「次はターナ・フォン・マーシァ――閣下、お願いします」
「はい」
その呼ばれ方に一部のクラスメイト達がぎょっとする様子を見せていた。
学院が権力を振るえない場所であるとはいえ、担任であるアルフレッド氏でもその扱いに戸惑う素振りを見せていたようだから無理も無いだろう。
貴族の子女が多く通う学院ではあるが、学生の内から貴族の位を受けている人間は滅多に、というよりまず居ない。
「皆さま初めまして、ターナ・フォン・マーシァ。若輩者ではありますが公爵の位を拝しております。とはいえご存知の通り、学院は権威の及ばぬ場でありますので気兼ねなく接して下さって結構です」
とは言っても家の名を侮られるわけにはいかないので無礼なまでに気安ければ相応の対処をさせてもらうつもりだが。
公爵という肩書きに加え眼帯の印象もあって少し引き気味な人も居るようだったが商会を運営するに当たって身に着けた営業スマイルを浮かべてみせるとそんな気配も大分和らいでいた。
付与魔法も含め魔法がそこそこに扱えること、そして同調圧力に屈するようで少し躊躇われたが好き好んで和を乱す必要も無いので尊敬する人物として祖父と父母を挙げておく。
控え目に自己申告したつもりだったが、付与魔法が扱える人間自体が希少な為か皆からは感心したような目を向けられているようだった。
「ふむ……次はアウグスト殿下、お願いします」
「はい。皆、既に知っているとは思うが、改めてアウグスト・フォン・アールスハイド、この国の第一王子だ。だが知っての通りこの学院は王家すら身分の貴賤を問わない、皆もシンの様に遠慮なく接してくれ。シン程では無いがある程度は魔法を使えると自負している。まあシンに比べたら本当にある程度だがな。尊敬する人物は父上とやはり賢者マーリン殿だな。これから宜しく頼む」
入学式の挨拶でも感じたが、随分と王族の方々はシンの事を気にかけているようだ。
気安い間柄をアピールするかのように一々彼のことを引き合いに出している。
彼の護衛である青年、トールも「殿下とそれ程仲が良いのか」と驚いた様子だ。
その後マリア、シシリーと既に見知った人物の紹介が続き残るは五名。
アリス・コーナーという溌剌とした平民出身の小柄な少女、マリアとシシリーもそうだったが、当然のように尊敬する人物として導師メリダの名を挙げていた。
賢者の英雄譚が広く出版されているせいか周辺国でほとんどの男子はマーリン氏、女子はメリダ氏を憧れとしているらしいので当然の流れだが、ここまで特定の人物がもてはやされているとうすら寒くもなってくるというのは言わぬが花だろうか。
「自分はトール・フォン・フレーゲル、フレーゲル男爵家の嫡男です。私はアウグスト殿下の護衛と学友になる様に幼少のころ選出され、以来ずっと殿下と共に歩んで参りました。この度はアウグスト殿下の高等魔法学院進学の為と、自分は魔法職の護衛となる予定ですのでこの高等魔法学院で研鑽したいと思いやって参りました。尊敬しているお方は自分もやはり賢者マーリン様です。宜しくお願いします」
護衛というには同年代の男子と比べ少し小柄で違和感のある男子トールだが、彼の言葉を聞くと先日のアウグスト殿下の言っていたことを思い出してしまう。
平民と貴族との身分差解消を進める王家の教育あってのことなのだろうか、どうにも殿下は権力に媚びる存在に嫌悪感があるようだ。
そんな感性が護衛となることを命じられたトールの存在を素直に同年代の知り合い、あるいは友人として認めることを拒ませていたのかもしれないが、殿下がシンとばかり積極的に交友を深める様を見ていると彼の事が可哀想にもなってくる。
残る三名、尊敬する人物に女子では珍しくマーリンの名を挙げ魔法が大好きだと語る眼鏡の少女リン・ヒューズ。
風紀を乱しそうな感じに制服を着崩した女子は実家がホテル経営をしているというユーリ・カールトン。
所属生徒の割合において男子が圧倒的に多い騎士学院が嫌で魔法学院に来たという軽薄さが覗く男子のトニー・フレイド。
皆平民でSクラスの貴族、平民の身分割合はシンという判断に迷う人物を除けばほぼ半々、実力主義という触れ込みは本当らしい。
今日は学院の授業も無く、この後は自由行動となる。
互いを、特に英雄の孫であるシンに対して気にする素振りを見せている生徒も居たが解散後、すぐにマリアが何事か真剣な面持ちで相談を持ち掛けていたせいかそれぞれに下校していくようだった。
マリアがシンを連れ出した廊下の先には何か思いつめたような表情でシシリーが待っている。
その様子に気になるところはあったが、シンという強力な魔法使いが既に関わっている所へ首を突っ込んでも邪魔になるだけかもしれない。
「お前もあいつが気になるか?」
と、目を向けているところを勘違いされたのかアウグスト殿下に声を掛けられてしまった。
「いえ、彼と言うより彼女達ですね。知り合いではありますので、あのようなところを見てしまうと多少気にかかります」
「そうか? 昨今のマーシァ領は優秀な魔道具を開発しているらしいからな、参考に導師様の薫陶を受けるシンの話でも聞きたいのではないかと思ったのだがな」
どうにも殿下は彼を中心として物事を考えるきらいがあるようだ。
まあ注目を集める存在ではあるのだろうから、見当外れとも言い難いが一緒くたにされてしまっては困る。
「そういえば、禁止されていないとはいえ重ね着とは、制服には十分な付与魔法が施されているはずだが不満でもあったのか?」
珍しそうに指摘を受けたのは私が制服の上に羽織っている、胸まで覆う程度の色を合わせた青いケープ。
幸か不幸か、睡眠時間に気を遣い忙しいながらも規則正しい生活を送って来たせいかこの体はそれなりに発育が良い。
否応なく際立ってしまう胸元を隠すための準備が何らかの付与魔法がかけられたものと勘違いされたようだ。
「単なる身だしなみです、個人的な考えではありますが、年頃の婦女子がみだりに肌を晒すものではないと思っておりますので」
「ふむ……? 学院の制服におかしなところはないように見えるが、変わっているな」
マジにそう思ってんのかよ、と聞いてしまいたいのをぐっと堪える。
驚くべきことに学院の生徒達は女子の制服に対してふしだらと思っていない人間がほとんどらしい、グラマラスな体型をしているクラスメイトのユーリは少し目を引いていたようだが。
ケープを用意し商会で開発済みのストッキングまで履いてきた自分の方がかえって目立ってしまっているのが不思議でしょうがない。
頭痛がしそうな現状を嘆いているそんな時だった。
「おいシシリー! 貴様俺の婚約者でありながら他の男と話すとは何事だ!」
そんな教室にまで響くような怒号が廊下から聞こえて来たのは。