転生公爵令嬢の憂鬱   作:フルーチェ

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大局的な話をつくる頭が無くって展開はアレですが、賢者世界政治部の方々もたいがいなのでまあいいかな!


帝国、終わりの始まり

 魔人再来という大事件があり生徒の一名が亡くなるという被害を受けながらも学院は通常営業らしく、翌日も平常通りの登校となった。

 分かりやすい変化といえば街中や学院のあちこちで「彼」の名を噂し囁く声が漏れ聞こえてくることだろうか。

 新英雄、シン・ウォルフォード。

 

 その実態が明らかにならず、ただ再び現れた魔人を賢者の孫が討伐したという活躍だけが広まったせいか彼を英雄視する人間が既に多くなっているようで、巷では若い女性のシン様シン様とアイドルに浮かれるような反応も覗けた。

 カート以外に被害らしい被害が出ていないこともあるのだろうが何と言うか、熱に浮かれやすい王国の国民性がよく顕れている。

 オリベイラと対峙していたこちらに関しては魔法師団や捜査局の人間が数多く居合わせていたこともあるし、逃がしてしまってもいるので幸いにして大きな話題にはなっていない。

 

 シンの活躍が隠れ蓑のようにもなっているのだろう、騒がれずに助かるのでそこだけは感謝しよう。

 そうした環境で登校してくるだけでも注目の的だっただろうシンは教室にやってきた時点で随分と疲弊した様子を見せていた。

 

「言った通りクロードやメッシーナに付いてもらって正解だったろう?」

 

「ああ……登校どころじゃなくなるところだったかもしれないなこれじゃ」

 

「ある程度は諦めろ、今度叙勲を受ければ更に騒ぎは大きくなるだろうからな」

 

 シシリーの護衛をする必要は無くなったわけだが、今度は逆に人払い目的で彼女達に付いてもらい登校しているらしい。

 加えてシンには魔人討伐の功績を称え勲章の授与が決まったらしいので、今後彼を英雄視する動きはますます過熱することだろう。

 これについてはシンを政治利用されることに忌避感を示しているという賢者、導師の両人が激怒したらしいが、国王陛下が頭を下げてまで説得したことにより承諾を得られたのだとか。

 

 隠居していたとはいえ賢者様方もまた王国民であり、シンもそれに準ずる見方が出来るような気がするのだが、王国において英雄というネームバリューはそんな振る舞いまで許すものであるらしい。

 上級国民なんてワードが頭に浮かぶが、そんなことを言えばきっとこちらが無礼と扱われてしまうだろうから口にはできない。

 

「あ、おはようターナさん」

 

「おはようございますマリアさん、朝からご苦労様でした」

 

「あはは、私はシンについてただけだし、そんなことないよ。あの二人相手じゃ除け者感あったぐらいだし」

 

 マリアが呆れ混じりの表情であの二人、と示した先には仲睦まじく労わり合うシンとシシリーの姿がある。

 相変わらず関係は良好なようで、彼らからすれば今の状況も役得といったところだろうか。

 

「……ごめんねターナさん」

 

「はい?」

 

 唐突に謝罪を口にするマリア、理由が分からずにいると彼女の方も唐突に過ぎたことを自覚しているのか自分から説明し始めた。

 

「昨日ターナさんがあいつのこと悼んでるみたいだったから、正直言って私どうしてそんな気持ちになれるのか分からなかったんだ。そりゃあ同級生だけど、シシリーに酷い真似してた奴だし」

 

 その言葉で彼女が言わんとすることの大体を察する。

 魔人化したカートだが、あの時彼の死を悲しむ人間はほとんど居なかった。

 それまでの振る舞いから彼女達からしてみればマイナスな印象ばかり目立っていた人物であるので無理からぬことと言えなくもないが、事情を明かされた関係者の間ではそんな話も違ってくる。

 

 あの暴走がオリベイラによる魔人化実験の副産物である可能性が濃厚とあっては、彼のことをそれまでのようにただの悪人とは見れない。

 そんな事実に気付かず、カートを悼んでいた私を奇妙なもののように見てしまったことが申し訳なくなったのだろう。

 

「気にされずとも結構ですよ、あの状況では無理も無い事でしょうから」

 

「でもターナさんだって大変な目にあってきた後だったわけでしょ? ちょっと無神経だったなって思うから、やっぱり謝らせて」

 

 貴族の子女としてはサバサバとした性格の珍しい子だと思っていたが、律儀でもあったらしい。

 本気で気にしていなかったのだが、ここまで言われて拒絶してはかえって彼女の気を重くしてしまいそうだ。

 

「マリアさんも意外に繊細な方ですね、では今回はその謝罪を受け取らせて頂きます」

 

「意外には余計だよ……ていうか魔人と戦ったって聞いたけど、怪我とかしてない? 大丈夫だったの?」

 

「魔法師団の方々も駆けつけて下さいましたし、相手もすぐに逃げてしまいましたからね」

 

 その問題についても何かしら突っ込まれるだろうとは思っていたが、あまり詳しく聞かれたくないので適当に流させてもらおう、としたが。

 

「謙遜するな、報告を聞いたがなんでもほとんどお前一人で撃退したようなものらしいじゃないか」

 

 どこから聞いていたのかアウグスト殿下が横槍を入れて下さった。

 こちらが社交スマイルを凍りつかせる前でそれを聞いたマリアが目を丸くし、興味を引かれたらしいシン達までもが顔を向けてきている。

 

「一人でって……魔人を、ターナさんが?」

 

「ああ、シュトローム――いや、ストラディウスか。かの魔人は居合わせたオルグラン団長を含め、魔法師団の人員では歯が立たなかったらしい」

 

 放っておけば全部解説してくれそうだったが、中断させようにも王子殿下を相手にして話を遮るのはなかなか度胸がいる。

 言葉を選んでいる内にアウグストは丁寧に事の一部始終を話してくれた、こちらの方には箝口令とか敷かれていないらしい。

 

「浮遊魔法まで使いこなす魔人だったらしいが、一歩も動くことなくそんな相手を打ちのめした手並みにはオルグラン団長が感服していたそうだ」

 

「浮遊って、空を飛べたってのか!?」

 

「とのことだ、シンでもそこまでの魔法は無理か?」

 

「ああ……まだそんな魔法は使ったことないな」

 

 まだ、ということはいずれやってみるつもりなのか、彼ならいつかやってみたら出来たとか言いだしそうな気もする。

 オリジナル言語の件以来、彼についてはひょっとしたら前世の記憶を持つ人間なんじゃないかと勘ぐっているが、探りをいれ過ぎてこちらが怪しまれるような事態は避けたい。

 同じ境遇の人間なら協力できるとは限らないし、敵よりも厄介な味方というのは世の中よく居る。

 

 上から目線のようで少し自己嫌悪してしまうが、もう少し彼の人となりを見定めたい。 

 しかしやはりオリベイラ個人が能力の高い魔人だったのか、この反応からしてカートは浮遊魔法も使えなかったようだ。

 

「やっぱり魔人の強さにも個体差があるのかな、爺ちゃんから聞いてたほど強くなかったし、それで爺ちゃん達と同じ功績って言われても、なんだかなぁ」

 

「そんなことありません、あの時シン君が居なかったら私や皆もどうなってたか……皆を守ってくれたんですから、誇りに思っていいはずです」

 

 叙勲に際して釈然としない思いはあったようで納得いかなそうにしているシンだったが、シシリーはそんなことはないと褒め称えている。 

 初め会ったときの印象は随分と繊細そうに見えた彼女だが、カートという同級生の死を気に病んでいるような素振りは無い。

 そんなことよりもシンに夢中、といったところだろうか、なかなか独特な感性の持ち主なのかもしれない。

 

「聞きたいのだが、シンにマーシァ、魔人はどの程度の脅威に感じた?」

 

「脅威、ですか……そうですね、少なくとも災害級と呼ばれる魔獣よりは遥かに危険でしょう。知性がある上に扱える魔力の量も質も並の魔法師の比ではありませんでしたから」

 

「カートの方はほとんど我を失ってるみたいだったけど、それでも虎とか獅子の魔物よりは強いと思う。それに魔物の相手は慣れてるけどあんなに邪悪な魔力を感じたのは初めてだったな、大した魔法は使ってこなかったけど」

 

 被害は抑えられたとはいえ、オリベイラは逃がしてしまっているので王族として気にせずにはいられないのだろうか。

 求められた所感を述べてみたわけだがカートに対するシンの評価、邪悪とはなかなか斬新な表現をしてくれる。

 あの怖気を催すような魔力の波長をそう表したくなる気持ちは分からないでもないが、善悪の観念を持ち込んでいいものか。

 

 言うならば魔力を介して内に抱える憎しみを伝えられているような感覚。

 つまり魔力は感情を媒介し得るのだろうか――そういった働きは今まで意識したことがなかった。

 

「ふむ、いずれにせよオリベイラの動向次第だが、対抗策は欲しいところだな……マーシァも出来れば研究会に参加してくれると助かる」

 

「……研究会とは、何の話でしょうか?」

 

 魔法学院の生徒が学内で様々なものがある研究会のいずれかに所属させられることは知っているが、どうして今その話が出てくるのか。

 

「ん、ああそういえば昨日の話をマーシァは聞いていなかったな。実はシンに新しい研究会を立ち上げてもらうことになったんだ、おそらく他のSクラスのメンバーも皆そちらに所属するだろう」

 

 俺が提案したわけじゃないんだけど、と呟いているシンを気にすることなくアウグストはその新しい研究会とやらの名を教えてくれた。

 

「究極魔法研究会という。お前ほどの魔法使いが参加してくれれば魔人対策にも有用な魔法が開発できるかもしれん」

 

 至って真面目な顔をして、その実に頭の痛くなりそうなことをのたまった殿下に眩暈を覚える。

 ――そんなことは学生がやることではないでしょうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある公爵少女が頭を抱えている頃のブルースフィア帝国、その中心たる帝都の城では緊急に会合が開かれ、集まった帝国の政界において重要な役職を与えられている貴族達はその面持ちに不安を色濃ゆく覗かせている。

 その場で最も上座に座る、今代の皇帝として名を継いだ男、ヘラルド・フォン・ブルースフィアは不機嫌そうな苛立ちを隠しもせず、それがまた周囲の者に圧迫感を与えていた。

 

「それで、アールスハイドからの伝達について、詳細は分かったのであろうなゼスト?」

 

 皇帝ヘラルドは会議室の端に立たされているこの場に召喚された人間で唯一の平民階級であり、諜報部隊の長である壮年の男、ゼストに報告を求める。

 その内容は先だってアールスハイド王国からもたらされた情報の真偽を確かめるためのものだった。

 帝国との関係は良く無い、むしろはっきり悪いと言える王国だったが、災害と大差ない存在である魔人の情報は共有されるべきとして既に使者が派遣されていた。

 

 王都に現れた魔人が帝国方面へと離脱した、その報せだけでも帝国の人間を震え上がらせるものだったが、更にそこには彼らにとって無視できない情報が含まれていた。

 問いを受けたゼストは皇帝の苛立った様子にも怖気づいた様子なく丁寧な物腰で応じる。

 

「はっ、まず結論から申し上げますとこの度アールスハイドよりもたらされた報せは――欺瞞情報であったようです」

 

「……欺瞞、だと? どういうことだ」

 

「順を追って説明致しますと、まずアールスハイド王都に魔人が現れたという情報、これは事実のようです」

 

 淡々とそんな情報を口にしたゼストに参列する貴族達から口々に「話が違うではないか」などと責めるような言葉が飛ばされるが、当のゼストは顔色一つ変えず報告を続ける。

 

「しかしこの魔人については王国の手によって討伐済みとの確認が取れております、功労者への叙勲も近日執り行われる予定であるようです」

 

「何? 既に倒されている……だと?」

 

「はい、しかしその際に王国軍にも少なからず被害が出た模様、そこから目を逸らすための誤情報であると判断されます」

 

 過去には王国に甚大な被害をもたらしたという魔人、その脅威がこちらに向くのではないかと危惧していた帝国貴族達は既に討伐されたという報せに安堵する素振りを見せるものもいたが、変わらず浮かない顔のままでいる人間もその場には多数見られた。

 皇帝であるヘラルドもまたそんな人間の一人で、気を抜いた貴族達を威圧するかのようにテーブルへと拳を叩き付けながら声を荒げる。

 

「腑に落ちん。そんな目的であるとしても、何故奴らはあの名前を――オリベイラの名を使えたというのだ!?」

 

 それこそがヘラルドを筆頭に多くの貴族達の心中を荒立てている元凶だった。

 前帝の時代、公爵の一人だったオリベイラは自領土での平民優遇の政策を進めていた男で、それは他領からの移住を招き税収は向上、国への上納金も増えたことで貴族院の法衣貴族達からの評価も高くなり次代の皇帝として選ばれてもおかしくないまでに支持を高めていた。

 現皇帝であるヘラルドとその一派はかつてそんなオリベイラを疎んじ、謀を企てた側の人間達。

 

 その思想に感銘を受けたとして経営方針を学びたいとする要請に当時のオリベイラは快く応じ、帝都に滞在して貴族達に指導を行っていた。

 そうしてオリベイラが空けてしまった領地でヘラルドは配下の者に若い女性を中心とした誘拐事件を起こさせ、それが領主の手によるもので平民優遇の政策はその為の餌であったと噂を流していく。

 オリベイラ自身は平民にも分け隔てなく接する、温厚な人柄で慕われている人物だったが、その父は旧来の帝国貴族然とした人間であり、貴族に対する不信感を拭いきれなかった平民達は都合よく踊らされていった。

 

 偽の憲兵による、偽の誘拐犯検挙、そんな様を見せつけられたストラディウス領民達は暴動まで起こしてしまい、折り悪く第一子の出産が近づいていた妻の為に領へと戻ったオリベイラはそんな現場に直面することになる。

 優れた魔法使いだったオリベイラはそんな領民達との抗戦で魔力を暴発させ死亡、したものと今まで考えられていた。

 そんな彼が実は生きており、しかも魔人になっていたなどと聞けばヘラルドらが落ち着いていられるわけもない。

 

 もし真実が伝わっていれば復讐されると分かり切っているが故に、オリベイラ・フォン・ストラディウスと名乗る魔人が帝国に向かったという報せを聞いた彼らはこの日まで、いつ彼がやってくるのかと精神を擦り減らし続けていた。

 

「そちらについては王都にて、旧ストラディウス領からの亡命者が確認されておりました」

 

「亡命者だと? なぜそんなことが分かった?」

 

「王都に潜ませております協力者からの情報です、その者が王国関係者と接触を図った形跡があり、その折に何らかの、帝国が気にせざるを得ない情報がもたらされた可能性は十分にあるかと」

 

 そこまでゼストが報告し終えると室内がシンと静まり返る。

 やがて長い黙考の後に口を開いたのはそれまで苛立った姿ばかりを見せていたヘラルドだった。

 

「……魔人が討伐されたというのは定かなのだな?」

 

「はい、そちらは裏付けもとれております、王都の市井はその話題で持ち切りだったそうです」

 

「フン、そういうことか……アールスハイドめ、姑息な手を」

 

 やっと得心がいったという体で息を吐くヘラルドにその思考が掴めずにいる側近達が恐る恐る口を開く。

 

「陛下……王国の意図がお分かりに?」

 

「無論だ、ゼストよ、以前の報告によれば王国は今魔物の発生事案が増加し、軍もその対応に追われているそうだったな?」

 

「――はっ、そのようでございます」

 

「つまりは魔物の対応に加え、魔人の対処で損害を受けた隙を我が国に突かれまいとしているのだろう」

 

「おお……と、いうことはつまり」

 

 その推測に感動し、期待を覗かせる貴族達の前でヘラルドは尊大な様を見せつけるように立ち上がると手を振って見せる。

 

「皆の者、戦の準備を進めよ、今こそアールスハイドを手中に収める、千載一遇の好機であるぞ!」

 

 異を唱えることすらできない覇権国家となること、侵略による領土拡大を続けて来た帝国にとっての悲願が近づく予感に室内の雰囲気は会合が始まる前から一変していた。

 熱に浮かされた貴族達がヘラルドに賛同を示す中で一人、ゼストのみは冷えた目でその様を眺めている。

 国家を運営する立場にありながら、この場の貴族達にゼストのもたらした情報、それが具体的な数値もなく不確かなものがほとんどであることを指摘する者は誰もいなかった。

 

 それはこれまでゼストという男とその部隊が敵国の内情を探り、国防の隙を調べ上げ帝国の侵略行為を支えてきた実績の持ち主であることが大きかったとはいえ、迂闊に過ぎることを気にしないままに彼らは破滅への一歩を踏み出してしまうのだった

 




今回の帝国ざっくり変化点

シュトローム「興が乗って正体バラしちゃったからフォローよろしくね☆ミ」

ゼスト「」

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