けものフレンズ2after☆かばんRestart   作:土玉満

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アフターストーリー②『ともえともえ』

 

 

「フウチョウ」

「コンビの」

「「もしも劇場ー」」

 

 真っ黒な服に身を包んだ二人のフレンズ、カタカケフウチョウとカンザシフウチョウの二人がジャーン!とでも言いたそうに両手を広げて見せる。

 二人がいるのは全く寂れた様子がなく、ついさっきまで営業していました、と言っても差し支えのない映画館の客席だった。

 そこで二人は交互に前に出るようにさらに言葉を紡ぐ。

 

「ここはどこかであってどこでもない不思議な世界。」

「ここは目覚めたら泡のように忘れてしまう夢の世界。」

 

 二人はもう一度それぞれにくるり、と芝居がかった調子で身を躍らせる。

 

「そんな世界だから誰とでも会える。」

「本来なら決して出会うはずのない者でもここなら会える。」

 

 二人は手をとって声を揃えて

 

「「ほら、こんなふうに。」」

 

 と言うと芝居がかった調子はそのままに客席の一つを指し示す。

 そこはカップルシートのような二人掛けの席だった。

 そして、そこには二人の女の子が座っている。

 そのうちの一人は眠っているらしかったが、程なくして目を覚ましたようだ。

 

「うーん……?はっ!?ま、またここに来ちゃってる!?」

 

 周りをキョロキョロしながら目を覚ましたのはともえちゃんであった。

 かつて一度来た事のあるこの不思議な映画館のような場所には見覚えがあった。

 そして、隣でニコニコと自分を見ている黒髪の女の子にも見覚えがあった。

 

「起きた?ともえちゃん。おはよー。はじめまして、でいいのかな?」

 

 やけに既視感があるのはその顔立ちが自分とそっくりだからだとわかったともえちゃん。

 そう、目の前にいるのは……

 

「おおお!?も、もえちゃんだー!?当たり前だけどアタシにそっくりだー!?」

「そりゃあアタシだからね。」

 

 もえちゃんであった。

 

「会えて嬉しいよもえちゃん!なになにフウチョウちゃん達!?今日はもえちゃんとお話してもいいの!?ありがとー!」

 

 目の前のもえちゃんの手を握ってぶんぶん上下に振ったりフウチョウコンビを流れるような動作で捕まえてモフりつつお礼を言ったりと忙しいともえちゃん。

 

「だーかーらー!?」

「モフるのはやーめーてー!」

 

 とフウチョウコンビはともえちゃんのダブルモフモフを受けて手をばたばたさせていた。

 

「あ、いいないいなー。ねえ、ともえちゃん。アタシもフウチョウちゃん達撫でてもいい?」

 

 もえちゃんが言って「もちろん!」とともえちゃんが即答する。

 そしてフウチョウコンビがガビーン!と効果音が入りそうな顔で

 

「「勝手に決めないで!?」」

 

 と絶叫していたが、その意見はスルーされた。

 カタカケフウチョウをともえちゃんがモフモフして、カンザシフウチョウをもえちゃんがモフモフして、しばらく堪能したら無言のままに交換。

 お互いのペアを入れ替えた後も当然モフモフ続行であった。

 

「で、フウチョウちゃん達?今日はどんな夢を見せてくれるの?」

 

 カンザシフウチョウをモフモフしたともえちゃんが二人に訊ねる。

 それにはカタカケフウチョウをモフモフしたもえちゃんが代わりに答えた。

 

「えっとね、今日はアタシとおしゃべりする夢だってカタカケちゃん達言ってたよ。」

 

 ねー、と同意を求めつつ腕の中のカタカケフウチョウをさらにモフモフするもえちゃん。

 

「そっかそっか、会えて嬉しいよ、もえちゃん!アタシね、もえちゃんに会えたらお話したい事たくさんあったんだ!」

「うんうん。アタシもともえちゃんに会えたらお話したい事たくさんあったから一緒だね。」

 

 何から話そうかな、と思案を巡らせるともえちゃん。いざ目の前にもえちゃんがいたら色々話したい事がありすぎて話題が大渋滞。逆に何を話していいかわからなくなってきた。

 だから、一番最初に言いたい事を言う事にした。

 

「あのね、もえちゃん。アタシね、もえちゃんに会えたらお礼を言いたかったんだ。ありがとう。」

 

 一番最初に言われてもえちゃんは小首を傾げる。今まで会ったことはないのにお礼を言われるような事はしたのだろうか。と疑問が生まれる。

 

「きっとね、あの時かばんお姉ちゃんを助けられたのってもえちゃんのおかげでもあるんだよ。だからね、ありがとう。」

 

 二人の前のスクリーンには超進化セルリアンを相手に大激闘を繰り広げるともえちゃん達とフレンズ達の姿が映し出されていた。

 

「あはは、あれ凄かったねえ。アタシもまさか野生解放までしちゃうとは思わなかったよ。」

「なんか出来る気がした!」

 

 ふんす、とドヤ顔のともえちゃん。もえちゃんはそんなともえちゃんの手をとって両手でギュっと握って

 

「さすがともえちゃん!かっこよかったよ!」

 

 とキラキラした目を向けてくる。

 さすがにそんな顔をされると思わずともえちゃんも照れてしまって頬が赤くなってしまう。

 

「それにね。悪い子作戦で無茶しちゃおうとか、アタシじゃあ絶対思いつかなかったよ。」

「でもね、それももえちゃんがこうなりたいって思ってたおかげだよ。」

 

 そして二人してじーっと見つめ合ったあと、同時に「「えへへー」」と照れ笑いを浮かべ合って赤くなる。

 なんだかんだでやはり似た者同士の二人だった。

 

「そうだ。あのね、ともえちゃん。アタシね、お話出来たら聞いてみたい事があったんだ。」

 

 もえちゃんがぽむ、と手を合わせるようにして訊ねてくる。

 それに笑顔のまま小首を傾げるともえちゃん。

 

「ともえちゃんはどのフレンズちゃんが一番好きなの?」

「おおお、これはまた難しい質問が来ちゃったね!?」

 

 ともえちゃんにとってはどのフレンズも大好きだ。

 けれど、一番、となると難しい。どの子もいいところがあって一番と言われると迷ってしまう。

 腕組みの姿勢でうんうん唸って考え込むともえちゃん。

 もえちゃんはそんなともえちゃんの耳元に唇を寄せると、そーっと耳打ちするように言う。

 

「アタシ知ってるよ…。………………だよね?」

 

 その耳打ちに途端にボム、と真っ赤になるともえちゃん。

 

「うぇええええ!?!?な、なんでわかるのー!?」

「へへー。バレバレですー。」

 

 肝心の名前が聞こえたのはともえちゃんだけであったが、その反応からどうやらもえちゃんの予想は正解らしい。

 してやったり、とばかりにドヤ顔のもえちゃん。

 

「アタシだって!アタシだって知ってるもん!もえちゃんの一番好きなフレンズちゃんはー……………だよね?」

 

 お返し、とばかりに今度はともえちゃんがもえちゃんの耳に唇を寄せてこしょこしょ、と告げる。

 それに、ふふ、とやはり笑顔になるもえちゃん。

 

「あはは、やっぱりバレてたかぁー。」

 

 どうやらともえちゃんの予想も大当たりだったらしい。

 もえちゃんもちょっとだけ照れ臭そうにしてみせた。

 

「やっぱり好みは似ているんだねえ…。」

「そうだねえ…。」

 

 と二人してうんうん頷き合う。

 

「「でも…」」

 

 と二人の声が重なって…

 

「「最終的にどの子も捨てがたい!」」

 

 と言いつつガッチリと熱い握手をかわすともえちゃんともえちゃん。

 二人が言った名前はお互いに二人だけの秘密である。

 それはそれとして……。

 

「「いい加減離して欲しいんだけど……。」」

 

 フウチョウコンビは相変わらず二人にそれぞれモフられたままであった。

 もう、しょうがないなー、とそろそろフウチョウコンビを解放する二人。

 フウチョウコンビにヒラヒラと手を振るともえちゃんの横顔をじーっともえちゃんが眺めている。

 

「ねえ、ともえちゃん。顔よく見せてもらっていい?」

「うん?いいよ。」

 

 もえちゃんに向き直るともえちゃん。

 もえちゃんは手を伸ばして両手でそっとともえちゃんのほっぺに優しく触れる。

 そしてしばらくじーっとともえちゃんの両目を覗き込むようにした後…

 

「うん……。やっぱりおしゃれ!」

 

 とさらに顔を近づけちゃうもえちゃん。

 ともえちゃんとしてはそれは意外な感想であった。

 

「髪色かわったりするかもっていうの聞いた時は不良っぽくなるかなーって思ったけど、ともえちゃん見てるとおしゃれ!」

 

 目をキラキラさせるもえちゃんにともえちゃんは苦笑しかできない。

 何せ自分で何かしてるわけではないので、おしゃれかどうかはわからないのだ。

 

「そういえば爪の色とかもこうだけど…。」

 

 と自分の翡翠色の爪を見せるともえちゃん。それにもえちゃんの目はさらにキラキラと輝いた。

 

「おおお!いい!いいよ、ともえちゃん!バッチリ似合ってるよおしゃれだよ!」

 

 さらに勢いを増すもえちゃんに戸惑うともえちゃん。だが褒められて悪い気はしない。その相手が他ならぬもえちゃんなのだから尚更だった。

 

「何かしてるわけじゃないけど、もえちゃんがそう言ってくれるならアタシも嬉しいかな。」

「ふっふっふ、ともえちゃんには色んな服が似合いそうだよ。普段のボーイッシュな感じもいいけどガーリーな感じでも全然イケるよね。あああ、でもでも思い切ってゴシックな感じもいいかも!?」

 

 とどんな服がともえちゃんに似合うか、と想像を膨らませているもえちゃんはやはり二人の違いを浮き彫りにしていた。

 

「やっぱり、アタシともえちゃんは違うんだね。」

 

 ポツリ、と言うともえちゃん。

 それにもえちゃんも先程までの大騒ぎが嘘のようにじーっとともえちゃんの瞳を見る。

 

「そうだね。でも、その方がいいよね。」

 

 その言葉に二人は揃ってうん、と頷き合う。

 お互いが違う人物というのは二人にとっては当たり前の事で悲しむべき事ではなかった。

 

「「だって…。」」

 

 と二人の声が重なり、お互いに続く言葉も一緒なんだろうな、という予感があった。

 そしてそれはその通りであった。

 

「「映画館デートできるもんね!」」

 

 二人の考えが一緒だった事に何だか嬉しくなってお互いにギューと抱きしめ合うともえちゃんともえちゃん。

 

「「これやっぱりアタシだー!」」

 

 同じようで全然違う。違うようでやっぱり同じ。

 そんな不思議な関係の二人だった。

 

 

「二人とも。間もなく夜の闇は終わりを告げて再び光の世界が始まろうとしている。」

「この世界も再び泡沫の夢の如く溶けて消えてしまう。」

 

 とフウチョウコンビが芝居がかった動作でやってくるがともえちゃんともえちゃんは声を揃えてこう言った。

 

「「ごめん!もう少し簡単にお願い!」」

 

 そんな二人のリクエストに心底残念そうな表情をしてからフウチョウコンビは声を揃える。

 

「「もうすぐ朝だから、ともえが目を覚ますよ。」」

 

 それに今度は分かりやすかった、と満足気に頷く二人。

 

「そっか…。もうそんな時間かあ…。もえちゃん、またお話できるかな?」

 

 ともえちゃんは後ろ髪引かれる思いだった。もしかしたらこれで最後なんて事にならないだろうか、と心配でもあった。

 

「うん。夢の中でまた会えるし、アタシもともえちゃんと一緒に色んな楽しい事や嬉しい事を感じてるからね。」

 

 もえちゃんはともえちゃんを安心させるように微笑んで見せた。

 また会える、と分かったともえちゃんはパッと顔を輝かせる。しかももえちゃんが見守っててくれる、というのは何とも嬉しい事だった。

 

「ならずっと一緒だね!」

「うん!」

 

 嬉しそうに手を取り合う二人。

 

「じゃあ、また今度ね!」

 

 言いつつ席を立つともえちゃん。それをもえちゃんとフウチョウコンビが手を振って見送った。

 

 

 

「ふぁあああああ。なんかいい夢みた気がするなー。あ、おはようみんなー!」

 

 こうして、目を覚ましたともえちゃんの一日が始まろうとしていた。

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart アフターストーリー②『ともえともえ』

―おしまい―

 

 




【後書き】

 アフターストーリー第2回目の主人公はともえちゃんとそして、もえちゃんでした。
 かばんRestartを書き終わった時、ともえちゃんの前身ともいうべき“とおさかもえ”ちゃんはこれでいいのか。という想いが残っていました。
 けものフレンズR合同企画に参加した際にはもえちゃんを主役とした番外編を作ってみたりもしたのですが、それだけではちょっともったいないような気もしていました。
 
 結局自分の中ではもえちゃんはともえちゃんの中で一緒に色んな事を体験したりしてるに違いない、と思っています。
 ただ、この二人ってなんだかんだでいいコンビになりそうだよなあ、という想いもありました。
 実際この二人がお話したらどうなるんだろう、という妄想を実現させたアフターストーリーでもあります。
 この二人が所謂ガールズトークというものをしたら、きっとこんな話をするんだろうな。と今回のお話を書きました。
 次回作の『けものフレンズRクロスハート』では、かばんRestartとは別な世界線でとおさかもえちゃんも遠坂萌絵としてともえちゃんのいいお姉ちゃんをしてくれています。
 もしも興味を持っていただけましたら是非ご一読いただければ幸いです。
(けものフレンズRクロスハート https://syosetu.org/novel/198989/

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