けものフレンズ2after☆かばんRestart   作:土玉満

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④『別れの予感』

 それからしばらく。

 もうクロちゃんはすっかり大きくなってパッと見は成鳥と変わりません。

 朝は…。

 

【ともえ】「もうー。クロちゃん朝ご飯もうすぐ出来るからちょっとまっててねー。」

 

 ともえちゃんにまとわりついて朝ご飯のつまみ食いを狙います。

 それが終わったらバサバサと翼をはためかせて玄関へ飛んでいって…。

 

【ゴマ】「ただいまぁー…!ってうぉあ!?クロぉ!?だから頭に止まろうとすんな!?ツメが痛いんだよぉ!?」

 

 ランニングから帰って来たゴマちゃんと遊んで…。

 

【アム】「くぁー…。」

【クロ】「くぁー…。」

 

 朝ご飯が終わったら、お気に入りのソファーで寝転ぶアムちゃんの懐に潜り込んで一緒に欠伸したりして楽しく一緒に暮らしています。

 でも、一番一緒にいる時間が長いのはイエイヌちゃんでした。

 今日はお昼の前にも日課の見回りです。

 

【イエイヌ】「最近は一人でいる時間が本当に少なくなりました。」

 

 こうして見回りをする時は、誰か一緒の事も多いですが、今日みたいに一人の時だってあります。

 ですが、最近は一人で見回りに出かける事はすっかりなくなりました。

 

【クロ】「くぁー?」

【イエイヌ】「はい、クロちゃんのおかげですね。こうして一緒にお散歩…じゃなかった見回りが出来るのはとても楽しいです。」

【クロ】「くぁー♪」

 

 クロちゃんは今はイエイヌちゃんの肩に止まって一緒に見回りです。

 そして、クロちゃんを連れている時にイエイヌちゃんは決まってある場所を訪れます。

 それは…。

 

【イエイヌ】「クロちゃん。ここがあなたと会った場所ですよ。覚えてますか?」

 

 クロちゃんと会った場所でした。

 近くの森では他のカラスが飛んでいるのも見えます。

 

【イエイヌ】「クロちゃんはもう群れに帰ってもちゃんとやっていけるでしょう。」

【クロ】「くぁー?」

【イエイヌ】「ええ。ですがわたしは寂しいです。」

【クロ】「くぁー…」

【イエイヌ】「でも、いつかは選ばないといけません。群れに帰るか、わたし達と一緒に暮らすか。」

【クロ】「くぁー…」

【イエイヌ】「そんな顔をしないで下さい。今すぐ選ばなきゃいけないわけじゃないですから。」

 

 不安そうな顔になったクロちゃんの喉あたりをイエイヌちゃんは指でくすぐるように撫でてあげます。

 それだけでクロちゃんは上機嫌になったようでした。

 

【イエイヌ】「ですが、一人ぼっちは寂しいですから。クロちゃんが一番楽しく暮らせる方法を考えていきましょう。」

 

 ずっと長い間を一人で過ごして来たイエイヌちゃんです。

 それがどれだけ辛い事なのかはよく知っていました。

 クロちゃんが自分たちと一緒に暮らしていても、いつか孤独を感じてしまう日がくるかもしれない。

 イエイヌちゃんが一番心配なのはそういう事でした。

 

【イエイヌ】「ともかく帰りましょうか。そろそろお昼の時間ですし。」

【クロ】「くぁー!」

【イエイヌ】「はい。そうですね、おなかすきましたね。今日はジャパリまん何味にしましょうか?」

【クロ】「くぁー!くぁっくぁー!」

【イエイヌ】「はい、そうですね。じゃあ、今日は今までとは違う味にチャレンジしてみましょうか。」

 

 こうしてクロちゃんとイエイヌちゃんは仲良くおうちへ戻っていきます。

 クロちゃんのご飯はジャパリまんです。

 これはかばんさんから貰ったアドバイスの一つです。

 ヒトやフレンズには美味しくても、野生動物には身体によくない食べ物もあるそうです。

 その点、ジャパリまんなら色々な動物が食べても平気なように調整されているので安心です。

 

【ともえ】「クロちゃん、すっかり大きくなったねえ。」

 

 ついこの前まで小さく小さくちぎったジャパリまんじゃないと食べられなかったクロちゃんですが、今は自分のクチバシでつついてジャパリまんを食べられます。

 お水だって餌箱にお水を注いであげたら自分で飲めるのです。

 

【アム】「クロ、えらい。」

【ゴマ】「これもあたしの教え方がいいおかげだなッ!」

 

 なんと、今日は丸々一個のジャパリまんを一人で完食しちゃったクロちゃんです。

 食べ盛りのクロちゃんはどんどん成長していくのでしょう。

 そうしてご飯が終わったクロちゃんは今日は、イエイヌちゃんの肩に止まって翼をばたつかせて見せます。

 

【ともえ】「クロちゃん、またイエイヌちゃんと一緒にお散歩いきたいんじゃないかな?」

【イエイヌ】「お散歩じゃなくて見回りですっ」

【ゴマ】「どっちも変わんねーじゃねえか…。」

【イエイヌ】「ち、違いますよっ」

【ともえ】「まあまあ。お昼の後片付けはアタシがやっておくから。」

【ゴマ】「それなら、あたしは腹ごなしに軽くひとっ走りしてくるかな!」

【イエイヌ】「ええと…じゃあアムちゃんはどうしますか?」

【アム】「おなかいっぱい。寝る。」

【ゴマ】「おいおい、アム…。喰ってすぐに寝ると牛のフレンズになっちゃうらしいぞ?」

【アム】「牛、違う。アム、トラ。」

 

 言いつつもアムちゃんは早くもお気に入りのソファーで丸くなってしまいました。

 それを見届けたゴマちゃんも食後の運動に走りに行ってしまいます。

 ともえちゃんは食器を洗ったり後片付けをはじめました。

 イエイヌちゃんもともえちゃんのお手伝いをしようとしましたが…。

 

【ともえ】「こっちは大丈夫だからクロちゃんをお散歩に連れてってあげてね。」

 

 というのでお昼の後もお散歩…じゃなかった、見回りに行く事にしました。

 イエイヌちゃんの尻尾もぶんぶんと激しく揺れていますが、これはお散歩ではなく見回りなのです。お仕事なのです。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 もう一度一通り縄張りの見回りを行ったイエイヌちゃんとクロちゃん。

 やっぱり異常はないようです。

 

【イエイヌ】「平和ですねえ…。」

【クロ】「くぁー…。」

 

 開けた原っぱでイエイヌちゃんはゴロンと仰向けに寝転びました。

 クロちゃんはそんなイエイヌちゃんのお腹の上で丸くなります。

 今日もいい天気で吸い込まれそうな青空が広がっていました。

 そんな空を飛んでいく鳥達。

 群れをなして見事な編隊飛行を見せるのは鴈か何かでしょうか。

 

【イエイヌ】「わたし達はいつまで一緒にいられるでしょうか…。」

 

 そんな姿を見るとイエイヌちゃんの頭の中にはクロちゃんのこの先が心配されます。

 クロちゃんはイエイヌちゃんのほっぺにすり寄るようにしてみせました。

 

【イエイヌ】「そうですね、あまり心配しても仕方ないですね。」

 

 イエイヌちゃんは自分の心配性に苦笑いしてしまいました。

 クロちゃんは今はこうして一緒にいるのです。

 こうして先の事を心配してもクロちゃんだって不安に思うだけです。

 

【イエイヌ】「そうだ。これを持ってきたんですよ、フリスビー。クロちゃん、一緒に遊びませんか?」

【クロ】「くぁー♪」

 

 気を取り直したイエイヌちゃんは持ってきたフリスビーを取り出してみせると、クロちゃんも翼を広げて喜びました。

 

【イエイヌ】「それじゃあいきますよー。」

 

 イエイヌちゃんの投げたフリスビーが空高く舞い上がります。

 それを見たクロちゃんは翼をはばたかせてイエイヌちゃんの肩から飛び立ちました。

 

―バシン!

 

 と音を立てて空中でフリスビーを蹴ってみせたクロちゃん。

 フリスビーは地面へと落ちていきました。

 これはクロちゃんの狩りの練習も兼ねている遊びなのです。

 カラスという動物は自分よりも身体の小さな鳥を狩って食べる事もありますし、もっと身体の大きな鳥とだって巣や仲間を守る為に戦う事だってあります。

 こうした遊びはいつかクロちゃんが野生の生活に戻った時にも役に立つでしょう。

 さらに数回、イエイヌちゃんがフリスビーを投げてクロちゃんがそれを撃ち落としてを繰り返します。

 

【イエイヌ】「すっかりこの遊びも上手になりましたね。クロちゃんスゴいです。」

 

 パチパチと拍手してみせるイエイヌちゃんにクロちゃんもなんだか照れたような仕草をしてみせました。

 そうして遊んでいたらいつの間にか空も夕方へと差し掛かっているようでした。

 近くの森にカラスの群れが鳴き声をあげながら戻っていく姿も見えます。

 

【イエイヌ】「私たちも帰りましょうか。」

【クロ】「くぁーっ。」

 

 まさにカラスが鳴くからかーえろ、と二人で仲良く家路へつこうとした時の事でした。

 先程カラスの群れが戻っていった森の方からバサバサバサ、と一斉にカラス達が飛び立つのが見えました。

 これは何事だろう?とイエイヌちゃんもそちらをじーっと見つめます。

 すると、風に乗ってある匂いがイエイヌちゃんの鼻に届きました。

 

【イエイヌ】「セルリアンだ…。」

 

 なるほど、森にセルリアンが現れたのだとしたら、あのカラス達の不自然な動きも納得です。

 イエイヌちゃんの鼻にもセルリアンの匂いが届いている以上間違いはなさそうです。

 

【イエイヌ】「クロちゃんはここにいて下さい!」

 

 言うが早いかイエイヌちゃんは森へ向かって駆け出しました。

 

 


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