けものフレンズ2after☆かばんRestart   作:土玉満

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④『ジャパリチップスは罪の味』

 ここはジャパリ図書館。

 今日は珍しく何かを言い争う声が聞こえている。

 ジャパリ図書館の主であるアフリカオオコノハズクの博士とワシミミズクの助手は何事だろう、と声のする方をそっと覗き込む。

 そこでは、最近このジャパリ図書館に滞在するようになったヒトのフレンズであるかばんが何かを言い争っているようだ。

 

「ラッキーさん、お願いします! ちゃんとしますから、ね?」

「ダメダヨ。カバン、ソレはダメダヨ」

 

 言い争っている相手はどうやら彼女が腕に着けているラッキービーストのようだった。

 言い争いというよりも、かばんが何かをラッキービーストに頼みこんでいたようにも見える。

 

「一体何の騒ぎなのです?」

「珍しいですね。お前たちがそうしているだなんて」

 

 けれども、そんな場面は珍しくて、博士と助手は思わず二人に声を掛けていた。

 その瞬間、ゆらり、とかばんが振り返る。

 何か今日はいつもと雰囲気が違うような?

 そう悟った時には遅かった。

 かばんが地の底からでも響くような声で二人に問い掛ける。

 

「博士さん……。助手さん……」

「「は、はい!」」

 

 雰囲気に呑まれてしまった博士と助手は思わず直立不動の姿勢で返事を返す。

 

「美味しいものを食べてこその人生。その言葉に二言はないですね?」

 

 何か迫力すら感じさせるかばんの様子に、博士と助手はカクカクと何度も頷いて見せた。

 

「も、もちろんなのです!」

 

 それに満足そうに頷くと、かばんはもう一度腕に着けたラッキービーストのコアに向けて言う。

 

「お願いします。ラッキーさん」

「しょうがないネ。程々にするんダヨ」

 

 どうやらラッキービーストもとうとう折れてかばんの願いを聞き入れる事にしたらしい。

 一体何が始まるというのか。

 博士と助手は疑問の眼差しをかばんへと向ける。

 そんな二人にかばんは指を一本ピッと立てるとこう言った。

 

「美味しいけれど悪い事、です」

 

 何やらイタズラっこがイタズラを思いついたような笑みに二人は顔を見合わせるばかりであった。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 前日譚④『ジャパリチップスは罪の味』

 

 

 さて、三人で調理場に集まるのも恒例になってきた。

 またまた材料はラッキービーストに頼んで配達してもらった。

 その食材を示しながらかばんは言う。

 

「というわけで、今日使う食材はこちらです」

 

 それはジャガイモだった。

 程よく育ったジャガイモがザル一つ分ある。

 これを使って料理をするというのはわかった。

 けれど、問題が一つ。

 

「あの……。かばん……。」

「なんでこんな時間に《りょーり》を始めるのです?」

 

 それは時間がどっぷりと日も暮れてすっかり夜になっている事だった。

 夕食も終わって、後は眠るだけだというのにこんな時間から何かを始めるつもりなのだろうか。

 か細い明かりが照らす調理場でかばんは自信たっぷりに答えた。

 

「はい、それはこの料理が一番美味しくなる時間だからです。お二人にもお手伝いをお願いしてもいいですか?」

 

 かばんが指示した作業はジャガイモの皮むきだった。

 博士と助手の猛禽類の鋭い爪ならば朝飯前の作業である。

 もう夜だけど。

 三人でしばらくの間黙々と作業だ。

 皮を剥き終わったジャガイモを今度はかばんが包丁で薄くスライスしていく。

 

「そして、この薄切りにしたジャガイモはお水に漬けておきます。お水が白く濁ってきたら新しいのに変えた方がいいですね」

 

 先日のソーダと違って今度はかなり複雑な工程が必要なようだ。

 

「博士博士。今日の《りょーり》は随分と手間暇がかかりますね」

「ええ。今日の《りょーり》は随分と時間もかかるようなのです」

 

 何度目かの水をの交換をすると、あまり水も濁らなくなってきた。

 その様子にかばんは満足そうに一つ頷くと自信たっぷりにこう言った。

 

「ええ、その分美味しいですから期待してて下さいね」

 

 こんなにも自信を覗かせるかばんなんて初めてで、博士と助手は顔を見合わせる。

 けれども、かばんが作ってくれた料理はどれもが美味しかった。

 今さら何を疑うというのか。

 

「わかったのです。かばん。最高に期待しているのです」

「また我々に美味しいと言わせてみせるのです」

 

 そうして期待の眼差しを向けてくれる博士と助手にかばんは頷いて見せる。

 

「さて、お水に漬けたジャガイモが白く濁らなくなってきたら、水気を切ります」

 

 かばんは薄切りにしたジャガイモを一度ザルに開けて水気を切った後に、用意したキッチンペーパーへと並べてさらに水気を切っていく。

 

「この作業は念入りにしないと後で大変な事になっちゃうので、気をつけて下さいね」

 

 手伝いの博士と助手もキッチンペーパーで丁寧に水気をとっていった。

 一枚ジャガイモの薄切りをつまみ上げてその様子を確認したかばんは満足気に頷いた。

 これで取り敢えずの下ごしらえは終わりらしい。

 

「さて、それじゃあこのジャガイモを油で揚げていきます」

「ふむ……。《あげる》と《やく》は違うのですか?」

 

 この調理方法は初めて見るような気がして、気になった助手が訊ねた。

 

「はい。フライパンや直火で直接食材に熱を通すのが『焼く』なんですが、『揚げる』は高温の油で熱を通していくんです」

「《りょーり》の仕方も色々とあるのですね。やはり味も変わってくるのですか?」

 

 今度は博士の疑問にやはりかばんは頷いて見せる。

 

「ええ。料理の仕方一つで味が変わっちゃう食材も多いです。だから料理方法一つで全然別な出来上がりになったりもします」

 

 つまり、無限の組み合わせがあるのか……!

 そう思えば博士と助手の目は期待に輝いた。

 そうこうしているうちに油の準備も出来たようだ。

 

「では揚げていきますので、お二人は少し離れていた方がいいです」

 

 かばんが薄切りにしたジャガイモを油の中へと投入していく。

 すると、ジュワァアアアア!といういい音がした。

 けれど、突然大きな音が鳴った博士と助手はビックリだ。

 

「ひぃっ!? な、なんかパチパチ凄い音がするのです!?」

「ジュワジュワ凄い音もしているのです!?」

 

 博士と助手はお互いに抱き合ってさらに油から離れる。

 

「はい、これは慣れないとちょっと大変かもしれません。それに、さっき博士さんと助手さんがちゃんと水気を切ってくれたから大丈夫なんですが、アレをサボると……」

 

 かばんは少しだけ水気の残ったジャガイモの薄切りを一枚油に投入する。

 すると……。

 

―パチパチパチ!

 

 途端に油面が跳ねた。

 

「「ひぃっ!?」」

 

 二人とも短い悲鳴をあげるとさらに油から離れた。

 

「助手。や、やっぱり火を使うのはかばんに任せるのがいいと思うのです」

「ええ、それがいいですね、博士。」

 

 そんな二人にかばんは苦笑してしまう。

 でも頼られるのは悪い気持ちではない。

 

「はい、任せて下さい。そしてジャガイモから泡が出なくなったら油から上げてキッチンペーパーの上に敷いて油を切っていきます」

 

 そうすると、香ばしい匂いが離れて見守っている博士と助手のところにも届く。

 美味しそうな匂いに博士と助手も少しずつ近づいて訊ねる。

 

「ふむ……。いい匂いなのです。これで完成なのですか?」

 

 訊ねる博士にかばんは被りを振ると、最後の仕上げに入る。

 

「いえ、後は熱いうちに味付けしちゃいます。こっちのは塩コショウで。こっちのは博士さんと助手さんも好きなカレー風味にしてみようと思います」

 

 かばんは手早く、塩をパラパラ。

 そしてコショウをゴリゴリ。粗びきにして揚げたジャガイモの薄切りに味付けしていく。

 

「そしてこっちのはカレー粉をまぶして、お皿に盛り付けたらポテトチップの完成です」

 

 お皿には黒い粗びきコショウがまぶされたポテトチップとカレー粉で茶色に染まった二種類が盛られていた。

 かばんが、「さあ、どうぞ」と勧めるので博士は早速一枚を手に取ると口の中に放り込む。

 果たしてかばんがあそこまで自信を見せた料理の味は如何ほどのものか。

 

―パリッ

 

 と軽い音が響くと博士は目を見開き、言葉にならない美味しさを表現するためか両手をパタパタさせた。

 

「博士……。そんなにですか」

「助手も! 助手も食べてみるのです!」

 

 もうすっかり定番になってしまったやり取りをしてから助手もポテトチップに手を伸ばす。

 

「これは……。アツアツのジャガイモが驚く程軽い食感になっていて、しかも味が後を引くのです。ついつい次の一枚に手を伸ばしたくなるのです」

「凄いのです……!これは止まらないのです……!」

 

 猛烈な勢いでポテトチップが減っていくが、ふと博士と助手の手が止まった。

 その理由は……。

 

「確かに美味しくて病みつきなのですが、すぐに喉が渇いてしまうですね」

 

 というものだった。

 水をとってこようか、と助手が席を立とうとしたところで……。

 

「それには及びません。ここで登場するのは先日作ったソーダです。もう作って冷やしておいたのでどうぞ」

 

 と、準備が良い事にかばんが博士と助手の前に炭酸の泡を立てるソーダの入ったコップを置く。

 ポテトチップで喉が渇いていた博士は軽く一口ソーダで喉を潤してからもう一枚追加のポテトチップを口に放り込む。

 

「~~~~~~!?!?」

 

 声にならない声で両手をパタパタさせる博士。どうやら感想は言葉にならなかったようだ。

 

「博士……。そんなにですか」

「助手も! 助手もやってみるのです!」

 

 博士に促されて助手もソーダを一口。喉の渇きが治まったのでポテトチップを一枚。

 

「な!?!? これは甘いの後にしょっぱいが来てなんとも味わい深いのです!? それにこっちのカレー風味のやつと組み合わせるとしょっぱい、甘い、辛い、しょっぱいと無限ループなのです!?」

「もう、もう手が止まらないのです! この組み合わせは何だかとてもイケないもののような気がするのに手が止まらないのです!?」

 

 再び猛烈な勢いで減っていくポテトチップ。

 そして、ふと気が付く。

 先日のソーダ作りも今日という日の為の布石だったのではないか、と。

 だとしたら……

 

「博士……我々はかばんの手中で躍らされていたというわけですね……」

「それでもかまわないのです……こんなに美味しいのですから……」

 

 博士と助手はもうすっかりこのポテチ&ソーダの組み合わせに骨抜きにされていた。

 

「ちなみに、ソーダとポテトチップの組み合わせはあんまり身体によくないって言われてます。だから食べ過ぎはよくないですね」

「ソウダヨ。食べ過ぎは、ダメダヨ」

 

 かばんの言葉をラッキービーストが肯定していた。

 しかも……。

 

「特に、これを夜に食べるのはますます身体によくないと言われています。ですが……」

 

 その言葉の続きは博士にも何となくわかった。

 

「よくないからこそ美味しいというわけですね……。これはまさに罪の味というものなのです」

 

 よくないと分かっていても、やめられない。

 これを愚かと笑わば笑え。

 美味しいものを食べてこその人生なのだ、と博士は何度も頷いていた。

 

「ところで、気になっているのですが……」

 

 助手がおずおずと口を開いた。

 どうしても気になっている事があったのだ。

 

「何故材料がまだ余っているのですか?」

 

 そう。

 さっき揚げたものの他にもまだ薄切りにしたジャガイモが残っているのだ。

 その理由は、まあ、推して知るべしなのだがかばんは敢えて二人に訊ねた。

 

「博士さん……助手さん。足りますか?」

 

 これは悪魔の誘惑というものだ。

 しきりにかばんが腕に着けているラッキービーストが「ダメダヨ。ダメダヨ」と警告を発している。

 だが……。

 

「ダメと言われても抗い難いのです……!」

「その挑戦……受けて立つのです。我々はおかわりを待っているのです……!」

 

 毒を食らわば皿までというものだ。

 その答えに満足気にかばんは残る材料を再度揚げ始めた。

 再びポテトチップを山盛りにしたお皿を持ってきたかばんに博士はニヤリとする。

 

「かばん……。お主もワルよのぉ……です」

「まさか博士!? これが、かつてヒトが食べたという『ヤマブキイロノオカシ』というものですか…!?」

 

 こうして夜中のポテチパーティーは遅くまで続くのだった。

 翌朝、三人揃って仲良く胃もたれした事を付け加えておく。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 前日譚④『ジャパリチップスは罪の味』

―おしまい―


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