けものフレンズ2after☆かばんRestart 作:土玉満
海底火山にはフィルターを張って平和になった…。はずだった。
ともえちゃんがセルリアンに狙われやすい体質である事に懸念を覚えたかばんさんはその原因の究明に乗り出す。
しかし、その調査の帰り道、ヒト型セルリアンとフレンズ型セルリアンに襲われる。
ヒト型セルリアンに動揺するイエイヌちゃん。
しかし、ともえちゃんのピンチに博士達には止められていた野生解放で彼女を救い出す。
短い時間とはいえセルリアンに取り込まれたともえちゃんと野生解放で身体に負担のかかったイエイヌちゃんの二人は揃って昏睡状態に陥るのだった。
妄想元ネタ紹介
【9話特殊オープニングイメージ】
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34780729
パークに訪れた危機に立ち向かうフレンズ達とヒトのMMD動画です。完成度も高くて涙なしに見れない素晴らしい動画でした。
今回は見て頂きたいので巻末ではなく巻頭でのご紹介をさせていただいてます。
「うーん……はえ?ここどこ?」
と目を覚ましたともえちゃん。
そこは映画館の客席のような場所だった。
全く寂れた様子もなくついさっきまで営業していたかのような雰囲気の客席。清掃も行き届いていて埃一つ落ちていない。
そして隣の席にはイエイヌちゃんが寝ていて、ゆっくりと目を覚ます。
「あ、ともえさん。ここは…」
そんな目を覚ましたばかりのイエイヌちゃんに顔を近づけてイタズラっぽい笑みを浮かべるともえちゃん。
「あれー?ともえさんって呼び方なのー?」
そんなともえちゃんの顔が間近にあるイエイヌちゃん。しばらく逡巡して顔を真っ赤にして瞳を伏せるようにしてから…。
「その…。えっと…。ともえ…ちゃん…。」
と真っ赤な顔のまま消え入りそうな声で絞り出すイエイヌちゃん。
「もう!もう!可愛いなあ!大好き!」
そんなイエイヌちゃんを思いっきり抱きしめてモフモフギューしまくるともえちゃん。とても嬉しそうであった。
そうしていると二人の座っている座席がいつの間にかカップルシートのようになっていた。
そして…
―カシャン
という音とともに二人の両隣の席にスポットライトが当てられる。
「おや。招かれざる友人もここにたどり着いたか。」
「二人が繋がった事で本来ここにいるべきでない友人もここに来てしまったという事か。」
そこには真っ黒な二人のフレンズがいた。
「私はカタカケフウチョウ。」
「私はカンザシフウチョウ。」
「アタシはともえ。」
「イエイヌです。」
そんな二人の真っ黒なフレンズ達の名乗りに自己紹介を返すともえちゃんとイエイヌちゃん。
二人の自己紹介を受けたフウチョウコンビは揃って頷きながら続ける。
「知っているよ。我々は黒いからね。」
「我々の黒は光をも吸い込む本物の黒だからな。」
そんな物言いのフウチョウコンビ。
「本当だ!これは黒い!」
いつの間に近寄ったのか。言いつつともえちゃんのダブルモフモフがフウチョウコンビに決まっていた!
「やーめーてー!」
「急にモフらないでー!」
じたばたするフウチョウコンビをモフり続けるともえちゃん。イエイヌちゃんは一つ嘆息すると…
「いや、黒さはどうでもいいんじゃないでしょうか…」
とようやく一言ツッコミを入れるのだった。
そうして一つの席にまとめられたフウチョウコンビにともえちゃんとイエイヌちゃん。
ともえちゃんは両脇にフウチョウコンビを抱えてイエイヌちゃんの脚の間に座り背もたれのようにしちゃうという完璧なモフモフフォーメーションでご満悦だった。
「今から見るのはかつてのともえの記憶。」
「ともえがセルリアンに触れた事で見る昔の夢。」
そのフウチョウコンビの言葉に納得顔のともえ。
「あ、今はアタシたち夢の中なんだ。」
「そう。現実のあなた達は今は眠っている。」
「時が来れば自ずと目を覚ます。」
そうこうしていると、映画館の上映ブザーがビーッと音を立てる。
「「さあ、真実を知ってお前たちはどうする?」」
ともえちゃん達の見るスクリーンに文字が映される。
―けものフレンズ2after☆かばんRestart 第9話『かなたの記憶』―
(カタカタとキーボードの音がして文字が削りとられ)
―けものフレンズ R―
(の文字が残る。そして再びキーボードの音がして文字が入れ替えられる)
―けものフレンズ zeRo-
そうしてスクリーンに9話特殊オープニングが映されていく。(特殊OPイメージは巻頭にて紹介させていただいています。)
の の の の の の の の の の の の の の
子供達のキャイキャイという歓声が響き渡る遊園地。沢山のフレンズ達が子供達と一緒に遊んでいたり大賑わいだ。
そこに車椅子に載せられた女の子が一人登場する。黒髪の女の子はともえにそっくりの外見をしていた。
その後ろをイエイヌのフレンズが押している。ちょっとだけ毛足が長めで身長も少しだけ高く、ほんの少し大人っぽい印象があるイエイヌちゃんだ。
「もえさん、寒かったりとか平気ですか?」
「むー。」
イエイヌちゃんの言葉にむくれたようにほっぺを膨らませてみせるもえと呼ばれた車椅子の少女。
イエイヌちゃんはしょうがないなあ、とでも言うように一つ嘆息するともう一度言い直す。
「もえちゃん。寒かったりとか平気ですか?」
「うん。平気だよ、イエイヌちゃん。」
と今度は満面の笑みで返すもえちゃん。
「それにしてもせっかく遊園地に来れたのにもえちゃんと乗れる乗り物が少ないんですね。」
「うん、それは元気になった後の楽しみにしておくよ。ジェットコースターとか!イエイヌちゃん一緒に乗ろうね!」
と目を☆マークにしちゃうもえちゃん。
「うへぇー。それは多分わたし苦手ですぅー」
対してイエイヌちゃんはお耳をへにゃん、とさせてしまっていた。
「じゃあ、こっちがいい?」
もえちゃんが取り出したのはフリスビーだった。
「そっちがいいです!」
今度は打って変わって尻尾ぶんぶんさせるイエイヌちゃん。既に目がキラキラと輝いている。
車椅子を押して周囲にあまり人のいない広場へ移動する二人。
「じゃあいくよー。えい。」
もえちゃんの投げたフリスビーはふよふよ、と短い距離を飛んで勢いを失い地面に落ちようとする。
そこをすかさず飛び出したイエイヌちゃんが地面につく直前に華麗にキャッチ。
得意気な顔で振り返ってみせて冷静を装った顔に戻ってからもえの元に戻るとフリスビーを返す。
その尻尾はぶんぶんと勢いよく振られていた。
「すごいすごい、イエイヌちゃんさすがだね。じゃあもう一回ねっ。」
再びフリスビーを構えると嬉しそうに目を輝かせるイエイヌちゃん。さらに数回もえの投げたフリスビーをイエイヌがキャッチする展開が続く。
いずれも地面に落ちる前にキャッチしてみせる。
無茶苦茶ドヤ顔であった。
何度かそれを繰り返すと、もえちゃんの息があがってしまう。
「あっ、ごめんなさい。楽しくてつい…。」
慌ててもえちゃんに駆け寄るイエイヌちゃん。心配そうに背中をさすってあげる。
「ううん。アタシも楽しかったから。」
もえちゃんは笑いながら近づいていたイエイヌちゃんの身体に手を回してギュっと抱き着きなでなでモフモフ。
それにイエイヌちゃんは尻尾を揺らしてされるがままになっている。
「ねえ、イエイヌちゃん。元気になったらまたフリスビーしようね。」
「はい。約束です。」
「ねえ、イエイヌちゃん。アタシね元気になったら沢山のフレンズちゃんと友達になりたい。」
「なれますよ。もえちゃんなら」
「でもってみんな撫でさせてもらうんだ。」
「ええ。わたしがヤキモチ焼かないか心配ですが。」
ふふ、とお互いに顔を見合わせて笑いあう。
「それでね、フレンズちゃんと狩りごっこするんだ。アタシだって負けないんだから。」
「はい、元気になったもえちゃんなら勝てそうです。」
「それとね。いつか海で遊んでみたい。」
「はい。一緒に行きましょう。水着も用意しておかないとですね。」
一つ一つに丁寧に応えていくイエイヌちゃん。
「でも、しばらくの間イエイヌちゃんと離れ離れなの寂しいな…。」
「大丈夫です。いつまででもお待ちしてますから。約束です。」
言いつつもう一度ギュっと抱きしめあう二人。少しの時間がそのまま過ぎていく。
と、そうしていると…。
「ったく明日がもえの手術だってのに今日くらい仕事休めってんだ。おーい!もえー!いぬー!」
と手をふりふりしながらくたびれた感じのフライトジャケットを羽織ったおじさんを連れてくるのはアムちゃんだった。
アムちゃんの方は身長がイエイヌちゃんよりも低い。でもって毛足も少し短めで少し子供っぽい印象がある。
新たに現れた二人の姿を認めたもえちゃんはパッと顔を輝かせる。
「あ、お父さん!アムちゃん!」
「もうー!アム副長!わたしはイエイヌですー!」
そんな事を言いつつ二人の元へ移動するイエイヌちゃんとともえちゃん。
「悪かったな、もえ。イエイヌ。またセルリアンが出ちまってな。せっかく手術前に遊園地に一緒に行こうって約束してたのにな。」
父親はもえちゃんの前に片膝をつくと申し訳なさそうな苦笑を浮かべてみせる。
「いえいえ、お仕事ごくろうさまです。お父さん」
「はい、もえちゃんの事はお任せ下さい。分隊長。」
揃って同じように敬礼してみせるもえちゃんとイエイヌちゃん。イエイヌちゃんの方は随分と様になっていた。
「けど、後は明日の夜までは休暇だ。」
と、これまた苦笑の父親。その後ろではアムちゃんがやってやったぜ。と言わんがばかりの得意満面を見せていた。
「いいか?分隊長。お前は意地でももえの手術開始まで見守ってやれよ。このワーカーホリックめ。隊の方はアタシに任せておけ。万が一にももえをほったかして戻ってくるような事があったら全員で鉛玉をケツにぶち込むからな。」
ビシィ!と父親に指をつきつけるアムちゃん。そんなアムちゃんをイエイヌちゃんが撫でている。
「ええ。偉いですよ、アム副長。」
「いぬー!もっと褒めろー♪」
嬉しそうにイエイヌちゃんに抱き着きすりすりするアムちゃん。
そうしてから名残惜しそうに身体を離して、今度はもえちゃんに抱き着く。
「もえ。アタシは見送ってやれないけど。頑張ってこい。お前ならやれる。」
「うん。ありがとう、アムちゃん。」
嬉しそうな笑顔でアムちゃんのモフモフ堪能中のもえちゃん。
「次会う時は元気になったもえだな。どっちのもえも大好きだからな。」
「うん、アタシもアムちゃん大好きだよ」
もう一度ギュっとしてからシーンが切れる。
の の の の の の の の の の の の の の
シーンはかつての居住区へと移る。
おうちの中。リビングのテーブルにつくのはもえちゃん。父親。イエイヌちゃん。そしてミライさんにカコ博士。
家具の配置はともえちゃんが暮らしているイエイヌちゃんのおうちと全く同じだ。
「じゃあ最後にもう一度説明する。理解したら同意書にサインを。」
とカコ博士が話はじめる。それにミライさんをのぞく全員が頷いていた。
「まずは、とおさかもえ。キミの病気の概要と治療方法から説明する。もえ。キミは先天的に身体の中に持つサンドスター量が多過ぎるんだ。」
全員を見回しながら続けるカコ博士。一度言葉を切ったのは続く言葉が重たいものだからだろう。
「その多すぎるサンドスターが内側からキミの身体を壊そうとしている…これが病気の原因でこのままではキミの余命は長くても数年といったところだろう。」
「うん、カコ先生がいつも説明してくれるからそこは大丈夫だよ。」
その過酷な事実にこれから立ち向かう。その真剣な表情でもえは頷きを返した。
「で、だ。そこでサンドスターポッドを使って新たに『進化』の特性をもったサンドスターをもえに付与する。そうする事でもえの身体を大量のサンドスターに耐えられる身体に『進化』させるのが治療の方針だ。」
さすがにそれには一度キョトンとした表情を浮かべてしまう。
「そっかあ…アタシ、進化しちゃうのかー…なんかピンとこないね。」
それに苦笑を浮かべるカコ博士。少し言葉を探すようにしてから続ける。
「大仰に言ってしまったが、こう言えばピンとくるかもしれないな。ヒトのフレンズになる。と」
「そっか!アタシもフレンズちゃんになれるんだ!イエイヌちゃんやアムちゃんとお揃いだね!」
って今度は大喜びのもえちゃん。イエイヌちゃんは「もえちゃんとお揃い…」ってほわわーんとした表情を浮かべていた。
「で、その『進化』はゆっくりとした速度で行われるので、もえにはサンドスターポッドの中で長い時間眠りについてもらう事になる…。いつ目覚めるのか…それは確約できない。」
と表情を曇らせるカコ博士。この仲の良さそうな家族を引き離さねばならない。いくら治療の為とはいえ胸の痛む事だった。
「うん。そっかあ…イエイヌちゃんは寂しくない?」
「寂しいですがもえちゃんが元気になってくれるならずっと待っています。約束だってしましたからね。」
もえちゃんに微笑むイエイヌちゃん。
「いずれにしても目覚めたらしばらくはこのジャパリパークで経過観察になる。これもいいか?」
とカコ博士が続けて
「つまりパーク内で遊び放題!?」
それに対してもえちゃんの目が☆マークを宿す。
「遊び放題…とはいかんかもしれんが遊ぶ時間くらいはあるさ。」
というカコ博士の言葉にやった!って小さくガッツポーズのもえちゃん。少しの苦笑を浮かべながらカコ博士はさらに説明を続ける。
「次に、サンドスター治療の副作用として予想されるのは身体能力の向上だ。実際に足が速くなる程度のものから、オリンピック選手なみの身体能力になるのか、はたまたヒトと呼べないレベルになってしまうのか。それは予想がつかない。」
「そっかー…たくさん走れたりするといいなー。イエイヌちゃんとフリスビー追っかけて競争とかしてみたい」
「そうか。」
ふ、と優しい顔で笑うカコ博士。結構重たい事を言ったつもりだったのだが、この少女は前だけを見ているのだな。と胸中で感嘆するカコ博士である。
「そしてこれは大した問題ではないだろうが…外見の変化が予想される。髪色が変化したり瞳の色が変化したりサンドスターの影響が大きいと爪の色も変化するかもしれないな。」
「ほへー…。不良って言われないかな?平気?」
「もえちゃんはいい子ですから大丈夫ですよ。」
そして、そちらの方が大問題、とでも言いたげなもえにすかさずフォローのイエイヌちゃんである。その優しい微笑みにもえちゃんもほっと一安心の様子だ。
「あとは…。サンドスターの影響で一時的に記憶に混濁が見られるかもしれない。忘れたまま思い出せない事も出てくるかもしれない。」
「大丈夫。なんでだかよくわかんないけど忘れる出来事があってもアタシはアタシな気がしてる。」
またまた告げられる重たい事態に即座に返すもえ。
「頼もしいな。」
今度こそカコ博士の口から感嘆の声が漏れた。それに何故かイエイヌちゃんがドヤ顔になっていた。
「もえちゃんはスゴイんです。」
もう得意満面なイエイヌちゃん。尻尾はぶんぶん揺れていた。
「ちなみに、思い出を忘れた代わりに、今まで知っていた事を身に着ける、という可能性もあるぞ?例えばだが本で読んだだけの技術を目覚めたら高レベルで再現できたりな。」
「おおー!ミライお姉さんがたくさん本を貸してくれてたから、アタシもしかしてスーパーアタシになっちゃうかも!?」
「そうですね。もえちゃんは本を読むのが好きでしたから目が覚めたらスーパーもえちゃんになってますよ。」
とイエイヌちゃんがふふ、と可笑しそうに笑って。
「ねえ。イエイヌちゃん。もし思い出せない事があっても…。」
「はい!絶対に教えますよ!しかも忘れた思い出よりもたくさん新しい思い出も作っちゃいます!」
少し表情を曇らせようとしていたもえちゃんに即座に詰め寄るイエイヌちゃん。なんだか嬉しくなってもえちゃんはイエイヌちゃんを抱き寄せる。
「そして最後に…。これは努力目標になるんだが…。目覚めた後は絶対にセルリアンに喰われるな。」
「そりゃあ食べられたくはないけど、なんで?」
「もえに付与されるサンドスターの特性には『進化』というものが含まれると説明したな?もしももえが喰われたら、その喰ったセルリアンが進化してしまう可能性がある。」
ゴクリ、と一同が息を呑む。最近父親が多忙なのはセルリアンが以前にも増して頻繁に出現するようになったからだ。
何かの異変の前触れではないか、と言われているがそれは今は関係がない。
「セルリアンが進化なんてしたらどうなるのか見当もつかない。もしかしたらパークどころか世界の危機に発展するかもしれない。だから絶対に進化の輝きはセルリアンに奪われるな。」
「それを頑張るのは俺たちセルリアンハンターの仕事だ」
と父親が頷く。
「ありがとうお父さん。アタシも全力で頑張るよ。」
そうやって頷くもえちゃんの頭を父親がわしわしと撫でてあげる。
そうしてから続ける父親。軽く挙手する。
「一つ気になったんだがいいか?セルリアンがそのサンドスターポッド自体を喰ったらどうなるんだ?やはり進化しちまうのか?」
その父親の疑問に即座にカコ博士は首を横に振る。
「いいや。サンドスターポッドはもえ専用に調整してあるからポッド内のサンドスターで『進化』できるのは、もえだけだ。」
少し意地悪そうな笑みを見せてからカコ博士は続ける。
「これももえが長い検査ばかりの日々を耐えてくれたおかげだ。キミはもう少し自分の娘を誇りたまえ。」
とのカコ博士の言葉に父親はなんだかむずがゆそうな顔をして頭の後ろをかくのであった。
「以上で説明は終わりだ。同意するならサインを。」
とカコ博士が言うと、もえちゃんと父親が医療計画書にサラサラと躊躇いなくサインする。
満足気にカコ博士が頷くと、入れ替わるようにして今度はミライさんが話はじめる。
「まずサンドスター治療を受けてくれてありがとう。この世界初の試みが成功したら同じ病気で苦しむ人を救えるかもしれない。」
「こちらこそ、今日までありがとう。ミライお姉さん。そうだ、ミライお姉さんに借りてた本をお返ししないとね。イエイヌちゃん、お願い出来る?」
「はい。お任せ下さい。」
とイエイヌちゃんが大量の本を持って来る。
「どうでした?面白かったですか?」
「うん、とっても。海外の冒険家さんが書いたサバイバル本とかが超好き!あとねキャンプ本とかいろんなスポーツの本も楽しそうでよかったし料理本も美味しそうで面白かったなー」
嬉しそうに本の思い出を語るもえちゃんにミライさんも嬉しそうな笑顔を見せる。
「なるほど。もえちゃんの好みはアウトドア系のハウツー物がメインですね。元気になったら一緒に実践しましょう。もしかしたらスーパーもえちゃんになってるから私よりも上手かもしれませんよ。」
とこちらも可笑しそうに笑ってから
「で、これは私からのプレゼントです。」
と服を一式差し出すミライさん。それは今ともえちゃんが着ているのと同じデザインのものだ。
青色のベストに黒の長袖インナーにハーフパンツ。丈夫そうなブーツと一本の羽根飾りがついた帽子も添えられていた。
「そして、これとー、これ」
と肩掛けカバンにフレンズ図鑑と筆記用具を追加で出してくるミライさん。
「もえちゃん。明日はそれを着て来て下さい。元気になったらすぐ冒険に出られるように。私、もえちゃんをガイド出来る日を楽しみにしてるんですから。」
「うん!ありがとう、ミライお姉さん!ガイド、お願いね。」
「ええ。約束です。」
言いつつ二人は小指を絡ませる。
「あのね、ミライお姉さん。一つお願いしてもいい?」
「なんですか?もえちゃん。」
「フレンズ図鑑ね…。こっちの新しいのじゃなくて今まで借りてた方じゃダメ?」
「あれ、私のお下がりですよ?結構古いですし…。」
「うん、だからいいの!ミライお姉さんがフレンズちゃん達の事教えてくれてるみたいで大好きなの…!」
っていうもえちゃんの言葉に何かが直撃した顔のミライさん。
「おとうさん、もえちゃんをわたしにください。」
「やらん。」
「あげません。」
「ミライー。帰ってこーい。」
と呆れ顔の父親とイエイヌちゃんとカコ博士。
と、楽しそうな団らん風景をバックに、カメラはともえちゃんの帽子と服と肩掛けカバンから覗く古ぼけたフレンズ図鑑を映す。
そこに名前が「とおさか もえ」と書かれている様子を映してシーン終了。
の の の の の の の の の の の の の の
そこからはダイジェスト形式で父親、イエイヌちゃん、ミライさん、カコ博士に見送られてともえちゃんと同じ服を着たもえちゃんがサンドスターポッドにいれられる。
フレンズ図鑑のイエイヌちゃんのページに『たいせつなともだち!』と手書きで追加したのをイエイヌちゃんに見せると涙を堪え切れないイエイヌちゃん。
そして父親にはアムールトラのページを見せて、そこにも手書きで『とても強くてカッコイイ!』と追加されてるのを見せて、父親がもえちゃんの頭をぽんぽんと撫でる。
そうしてお別れがすんだ頃に皆に見守られながらサンドスターポッドの蓋が閉じる。
長い長い眠りの時の開始だ。
それからは、何度もサンドスターポッドを訪れるイエイヌちゃん。日々が過ぎていっても毎日通ってる様子。
サンドスターポッドに背中を預けてもたれてみたり、うろうろしてみたり、ヒマワリを持ってきたり、紅葉を持ってきたり
途中一度、この医療研究所が慌ただしくなった事があった。
セルリアンの女王が…。ヒトの子供が襲われた…。無事に助け出された…。何かを残した…。
そんな断片的な話がイエイヌちゃんの耳にも届いていたがよくはわからなかった。
ただ一つ。この医療研究所に何かが運び込まれた、という事だけは分かった。
そんな日々を過ぎても未だ変わらずもえちゃんのサンドスターポッドは開かないままだった。
とある日。
そんな日々は最悪の形で終わりを告げる。
ジャパリパーク内の火山が突如活動を活発化。サンドスター・ローを大量に放出しセルリアンが大量発生。
政府はジャパリパークの閉鎖を決定。全民間人の避難が開始された。
の の の の の の の の の の の の の の
「ダメだ。今、もえのポッドを開いても治療は完了していない。治療を途中で止めた場合、命の保障すらできない。」
「だろうな。」
もえの眠るサンドスターポッドの前で二人揃って苦虫を噛み潰したような表情のもえの父親とカコ博士。
父親はゴツイ真っ黒なプロテクターに身を包んで、その肩には自動小銃を担いでいる。
「ポット自体を動かす事が出来ない以上もえは置いていく他ない…。だが、ただ置いていくわけではない。」
言いながら、カタカタカタ、とキーボードを叩くカコ博士。
「サンドスターポッドに設定をしておいた。治療が済んだ後はもえ達は休眠状態になる。サンドスターのおかげで歳をとる事もなく飢える事もなく眠り続ける事になるだろう。」
「つまり、この中でもえはコールドスリープするようなものか…。」
唸るような声で絞り出す父親。それが現状で出来る最善ではあるが納得は出来ないのだろう。
「そう。そして休眠状態を解くパスコードは彼女の名前。それを医療関係者のみならずパーク関係者であれば誰でも入力を受け付けるように設定してある。」
と、胸ポケットから禁煙パイポを取り出し、ふぅと落胆してからそれを戻すカコ博士。
「ラッキービーストネットワークからは独立しているが、パーク職員リストに接続しているからこの先にパーク関係者になった者でも入力できる。」
コツコツ、と父親の方へ歩み、その目を覗き込むようにしながら続ける。
「それこそ、新人のなり立て飼育員や一日体験パークガイドだって大丈夫。音声入力でもかまわんよ。」
カコ博士の言葉の一つ一つが父親にこう言っているのだ。これ以上の手はない。納得しろ、と。
「いつかここに人が戻ってもえを目覚めさせる可能性はゼロじゃない。そういう事か」
と父親がサンドスターポッドを見つめて複雑そうな表情を浮かべる。これ以上カコ博士に悪役をさせるのも悪い、と折れた格好でもある。
「私に出来るのはこのくらいだ…。すまない。」
ふう、と嘆息すると苦笑とも言える複雑な笑みを作る父親。
「いいや。ありがとう。博士は最善を尽くしてくれた。もえもきっとそう言ってくれるさ。」
その言葉にカコ博士は悔しそうに唇を噛みしめて視線を落とす。
「博士は行ってくれ。俺には…まだやらなきゃならん事が残ってる」
「ああ。四神がフィルターを張ったとしてもセルリアンは残る。あいつらを駆除しないといつまで経ってもパークは再開できんからな。頼んだ。」
とカコ博士は暗い表情のままで踵を返して去っていく。
その場に残ったのは、父親とサンドスターポッドの前のイエイヌちゃんの二人のみ。
サンドスターポッドの前にはイエイヌちゃんが微動だにせず父親に背中を向けている。
まずは彼女の名を呼ぶ父親。即座に
「わたしはここに残ります。」
と返事が返ってくる。きっと何をどう言ったところでその返答を変える気はないのだろう。
「そうだよな。お前ならそう言うと思ったよ。だから…。留守番を頼む。もえともえの帰るうちを守ってやってくれ。」
そこでハッとした表情で振り返るイエイヌちゃん。その物言いに父親が含まれていないではないか、と言いたげだ。
「実はな。政府のバカどもが核搭載の無人爆撃機をこちらに飛ばしたらしい。核で無理やり異変を鎮めようって算段のようだ。せっかく四神がフィルターを張ってくれてもこれじゃ台無しだ。」
そんな…。と絶望の表情を浮かべるイエイヌちゃんの頭を父親がぽむぽむ、と撫でる。
「ってわけで俺はちょっと爆撃機を堕としてくる。」
ちょっとそこまでお散歩に。そのくらいの気楽さで言う父親。
無茶だ、という言葉を飲み込むイエイヌちゃん。
「なあ、イエイヌ。もえの友達でいてくれて、俺たちの家族でいてくれてありがとう。もえの事、頼むな。」
しばらくの間迷うように言葉を探すイエイヌちゃん。
だが、結局出てきた言葉はたった一言。
「はい。お任せ下さい。」
それだけだった。
イエイヌに満足気な笑みを見せる父親。胸ポケットからマジックペンを取り出すとキュポっと蓋をとりサンドスターポッドに走り書きをしていく。
『Message to Moe』
もえへ。
沢山友達を作ってくれ。沢山笑ってくれ。沢山美味いもんを食ってくれ。
そうしたら俺は幸せだ。
最後にもえを目覚めさせてくれたヤツへ。出来れば、もえの家族になってやってくれ。
と書き残された文字を映してシーン終了。
の の の の の の の の の の の の の の
四神が張ったフィルター。フレンズ達の奮闘。そしてセーバルのおかげでパークの異変は治まりつつあった。
そんな中、火山の頂上付近にいる父親とアムちゃん。
「しっかし分隊長、ほんとにいいのか?クビじゃすまねーぞ?」
「いいに決まってんだろ。それに除隊してパークガイドになんのが俺の夢だったんだよ。それが早まるなら願ったりかなったりさ」
セルリアンハンターの黒いプロテクターに身を包んだ二人。遠くの空を眺めながら軽口を叩きあう。
「分隊長がパークガイドぉ!?にあわねー!」
「いいだろ!?夢くらい見させろ!」
「ガイドは無理でもアタシ専属の飼育員にだったら雇ってやってもいいぞ?」
「お前の我がままに年中付き合わされるとか身体がいくつあっても足りねーよ!?」
と軽口を叩きあう二人。そのおしゃべりがピタリ、と止んで遠くの空に揃ってギラリ、と鋭い視線を投げかける。
そこにキィイイイイイイと航空機の爆音が響く。
「よっしゃ。ほんじゃあアムールトラ副長。ちょっくら頼むわ。」
「ああ、チャンスは爆撃機が高度と速度を落として投下体勢に入る一回しかない。上手く決めてくれよ。」
ガシャガシャ、とプロテクターを外す父親。
肩に歩兵携行用の地対空ミサイルを抱える。
やがて爆音を響かせながら火口に核を落とそうと近づいてくるステルス無人爆撃機。
「よし!今だ!」
「いくぞ!分隊長!ぐるああああああああああっ!!」
咆哮と共に野生解放したアムちゃん。
助走をつけて父親を掴み上げるとそのまま空高くへとぶん投げる!
一気に空高く舞い上がる父親。歩兵携行用地対空ミサイルの狙いを定める。
「歩兵がステルス爆撃機を堕としちゃいけないなんてルールはなかったぜ!」
揺れる視界の中でLock on!
カチリ。と引き金を引き絞る。
放たれた対空ミサイルは無人爆撃機に直撃。火山の中腹へと墜落していく。
(BGMがここで入れ替わって画面には後の報告書らしきものが映される。巻末にてアムちゃんがラストバトルに挑む時に流れてるBGMイメージを紹介させていただいてます。)
後の報告書にはこう書かれている。
核搭載無人爆撃機は墜落。原因不明。爆撃は失敗。
分隊長は行方不明。MIAとして認定。
アムールトラ副長は核爆弾にサンドスター・ローが取りつきセルリアン化した物と交戦。
ここで映像が戻って…
「おいおい。こんな化け物アタシ一人で倒せってか?ちょっと冗談キツイぜ…」
アムちゃんの目の前には墜落した無人爆撃機からのっそりと姿をあらわす巨大な核爆弾型セルリアンがいた。
「だがなぁ!!ここはもえといぬが生きる大地だ!てめぇなんぞが壊していい場所じゃねーんだよ!!」
アムちゃんの瞳に炎が宿って野生解放!!
「セルリアンハンターの誇りにかけて…てめぇは今ここでアタシがぶっ壊す!!」
と、咆哮と供に突撃したところで映像が切れて報告書に戻る。
アムールトラ副長は核爆弾型セルリアンを駆除する事に成功するも核物質に汚染されたサンドスターを取り込んでしまい凶暴化。なんとか捕らえて治療を試みるも拘束具を引きちぎって逃走。以後行方不明。
研究班からの報告によれば核物質の影響でフレンズと動物の中間に位置する生き物になってしまいさらに凶暴化してしまったとの事。この特殊個体をビーストと呼称。
研究班は核物質に汚染されたサンドスターを使い切れば或いは治療の可能性があるかもしれない、と付け加えている。
そこで報告書は終わっている。
そして……。
「もえちゃんを守るのがわたしの使命…。ずっと…ずっと待ってますからね!もえちゃん!」
医療研究所に迫る黒い大型セルリアン。
ただ一人、その大型セルリアンと対峙するイエイヌちゃんの背中を映して…。
そして9話特殊エンディングへと移行する。
(9話特殊エンディングイメージは巻末にて紹介させていただいています。)
けものフレンズ2after☆かばんRestart 第9話『かなたの記憶』
―おしまい―
次回予告
かつての記憶を夢に見たともえちゃん。
目覚めた彼女達が危惧するのは『進化の輝き』を奪ったセルリアンの事だった。
その調査へと乗り出す事にしたかばんさん達を待ち受けるのは最恐最悪の敵だった。
次回、けものフレンズ2after☆かばんRestart 第10話『迫りくる災厄』
お楽しみに!
妄想元ネタ紹介
【アムちゃんがラストバトルに挑む時に流れているBGMイメージ】
https://www.nicovideo.jp/watch/sm35030933
曲名は『虎独』との事です。切なくも戦いに赴く悲壮感とかがよく現れている曲だと思います。
【9話特殊エンディングイメージ】
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34875495
万能エンディングに影絵をつけたMAD動画になるのかな?影絵だけでもストーリーがわかる素晴らしい動画です。
言い訳の後書き
カコ博士にはちょっとぶっきらぼうな口調が似合うと思っています。
原作的にはもう少し女性らしい口調だと思うのですが、自分の中にあるカコ博士のイメージを優先しました。