相変わらずリアルはしんどい日々ですね……。
誘引・勧誘の為に設備を整えねば。
渓谷の上下で分けた かつてない賑わいを妄想するに至ったクラフターは、農業から建築まで様々な様式を取り入れて行く事にした。
川と草木が生えるだけで興味を引く村人だが、それだけで満足は出来ない。 足を止めれば興味は失せ発展は止まり、廃墟への道を辿る事になる。 実例として此方側でも放置された都市は幾度となく存在しているのだ。 場所によっては空襲されて半壊した町もある。
ただ幸か不幸か、この世界の村人は放置した都市や町にも住み着くので、全くの無駄にならないのは良い。
緑化が進む この渓谷は元から村人がいたとはいえ、発展に見合う村人の数は引き込みたいものである。 それが見た目だけだとしても、村人がいると建築した努力が認められたような気がして……クラフターは作業を邁進するのであった。
「なんだか巨大な絵を創ってます」
「あっちじゃ、額縁に収まる絵を沢山壁に貼ってます」
「こっちは……旗か。 様々なデザインがあるようだ」
「姐さんの真似か?」
新人を陣営に引き込む為に行われるアレコレを実行し、村人の研究を同時進行。
元の世界でも やっていた巨大アートに、額縁や防具立てを並べる。
これらは展示物である一方、自身のクラフターとしての能力を誇示している。 新人によるが、やはり チカラある方に視線は向くものだ。
村人もまた、似たところがあるから やってみたが案の定、興味を引いた。 よしよし。
「ええと……こちらの絵は立体感がありますね。 まるで飛び出してるかのよう」
「いや、普通に飛び出してますよ。 というか コレ、持っていた宝石や身につけていた防具だよね!? どうやって はめたの!?」
荒らしな村人がいる世界では、盗難被害を思うと鬼気迫る行為である。
特に額縁に入れずに防具立て。 ふとした拍子に奪われたら とんでもない。 飛び道具で厄介な村人であるが、我々が知る武器で武装したとしても それなり以上の脅威となる。
ふと昔を思う。 新人開拓組がジャングルバイオームで仮拠点の建設を余儀なくされた夜、闇濃き木々の間から人影が現れた。 エンチャント済みダイヤ装備を身に纏うゾンビである。 誰かがリスポーンしたのが災いして、拾われたのだ。
勇猛果敢にも石剣で吶喊、挑戦した新人5名死亡、3名重軽傷の激闘だった。
また ある夜も似た事態が発生。 全員が土ブロックを積んで朝を待つ程の激闘だった。
武器と防具は そのままにチカラなのだ。 ネザーにおけるゾンビピッグマン大集団との乱闘も、相手の武装が違えば切り刻まれていたのはクラフターであっただろう。
「そんで、こっちの ご馳走は?」
「ユーハング人が大量に用意したものですね」
「パンケーキに蒸したジャガイモに……こりゃなんだ?」
「カボチャパイってヤツらしいです。 こっちはスイカにクッキー。 甘くて美味しいです」
「このスープは?」
「ウサギシチューですね」
「むっ! こりゃ美味い!」
「うさぎ……?」
「はい。 ユーハングが連れて来た、ぴょんぴょん跳ねてる小動物の肉を使ってます。 丸焼きもあります」
「何でも良い。 美味いから」
「イける! 酒とも合わんでもない!」
「むっ……こりゃサカナじゃないかああ!?」
「マジかよ! こんなにもか!?」
「焼かれてはいるが、こりゃサカナだ! 俺は知っている」
「一生に一度、食えるかどうかな高級品がこんなにも……!」
「ユーハング人……感謝しますっ!」
用意出来る馴染みの食事からウサギシチュー等の堕落した贅沢品を、フェンスとハーフブロックで組み合わせたテーブルに大量に並び立てた。 置ききれない分はチェストにも用意してやる。
ケーキモドキは赤服が最も興味を持つが、どうも他は違うらしいので。 観察してみよう。
「だが無造作に置いても客は喜ばん! 我々エリート興業がカバーするのだ!」
「おー!」
驚くべき事が起きた。 村人は食料を運び始めると、同じ種類同士に纏めていく。
これは使える習性かも知れない。 整理整頓も資材が増えていくと管理が面倒だったが、上手いこと使えないだろうか。
思えば火災発生時も資材を移動する。 有用性はありそうだ。
「彼らが用意したブツは限定品として、割高に設定しましょうか。 物珍しいでしょうから、買い手は つきますよ」
「おっ、そうだな」
「ですが限定品とは一般的な商品の中に混ざってこそ より目立つものです。 我々も普通に出し物をしなければ」
「姐さんの絵は特別だが……そうだな。 我々も普通の料理を準備しなければ」
「イジツの定番、ケチャップ丼や唐揚げ。 カレーでも良いのです」
しかもしかも……我々に触発されたのか、向こうは珍しい品を用意してきた。
変わったボウルに、赤い塗料を入れたようなもの。 なんだアレは……いやまて。 食べている村人を見た事がある。 まさかの食べ物であったか。 何故、今まで気付かなかった!?
片や土埃を塊にしたかのようなモノも出て来た。 アレもまさかの食べ物らしい。 美味いのだろうか!?
そしてそして……おどろおどろしいモノすら出てきた事でクラフターを震撼させる。 それは茶色の塗料を水に近いようにドロドロにし、フラットに近いボウルに入れている。
これすらも食べ物だという。
何という事だ……クラフターは戦慄と共に身を震わせた。
塗料を食うのか、この村人どもは!
まさかの事態だった。 塗料を食うとかニワトリやブタとは まるで違う。 というか、先ず その発想に至らない。
塗料はあくまで染色材であり、食うとか 有り得ないのが常識だった。
だが確かに……建造物の見栄えを良くする為に色に色々とこだわりを持つように、食料の見た目にもこだわるということか。
クラフターは思わず歯軋りした。 握り拳を震わせ、悔し涙と感動で視界が滲んだ。 流れぬ様に空を見上げる。 不思議だな……青空で雨でもないのに、顔が濡れていくよ。
何故、我々は建築ばかりに興味がいったのか。 今まで食事とは腹を満たす為にするだけの行為であり、効率や利便性のみを考えてきた。 偶に山頂や牧草地の中心とか、食べる風景を変える事はあったが、食事そのものに変化を与える発想に至らなかった。
またも教えられたな……村人に。
「な、なんかユーハング人が震えてますが」
「あれだけ建築の仕事で腕を振り回したんだ。 腹が減ったんだろ」
「なら我々の食事を与えてみますか」
そんな中。 スッと静かに前に出される染色された食料群。
食え……さすれば分かる。
そう語られたかの様に感じたクラフターは、恐る恐る手を伸ばし……取り敢えず赤いヤツを食べた。
して、全クラフターは刮目する!
美味い……ッ! 美味すぎる……ッ!
感動の嵐だった。 千切れんばかりの腕振りと首振り、腰振りが止まらない!
赤い塗料は強い酸味がある中に、僅かに甘味を感じる気がする。 それを中和するかのように自然な甘味を出してくる下に隠された白い塗料群。
見た目は簡素ながら酸味と甘味のバランスが素晴らしい。 原点にして頂点かのような食料である。
まさか この様な食べ物があろうとは!
一方で、土埃のような茶色いモノも食べる。 ひとつひとつが小さく、群を成して ひとつの食料としているようだ。
して、これもっ! 美味い!!
鶏肉だ。 これは鶏肉である!
ジュワッとした肉汁と柔らかな弾力、牛肉と異なるアッサリとした感じ……。
して、肉を覆う茶色の部分はパリッとして、脂身と別の味を感じさせる。
野生的に皮を裂き、肉を喰らう。 して味わえる脂身と柔らかな肉。 丸焼きとは似て異なる、このワイルドに美味いモノに何故今まで気が付かなかったのだろうか。
そしてラストに、茶色のドロドロを食す。 1番食欲が湧かないモノだったがしかし、口に入れた瞬間に概念はひっくり返された!
美味い。 美味いじゃないか……ッ!
衝撃だった。 着色による見た目の良し悪しはあるが、全ては見た目だけではない……またも教えられてしまう。
濃くも赤いヤツとは異なる味だ。 辛味、甘味、酸味、旨味……様々なモノを贅沢に取り入れていながら喧嘩をしない見事なハーモーニーであり、全ての食料を研究して到達したのではないかと思わずにはいられない。
この完全と完璧を追求しようとしたかのような食料。 ウサギシチューより贅沢な品かもしれない。 実際、何らかの肉やジャガイモ、人参なんじゃねと思われる感触がある。
して、それなりに腹も膨れる。
これは贅を極めた高級品なんじゃないだろうか。 金りんごなんて目じゃない。
それを村人は日常的にパクついていたというのか……?
素晴らしい。 素晴らしき この世界。
して足元に気が付かなかった己が悔しい。 以後、コレを研究し、ケーキモドキのようにレシピを発見しなければならない。
「なんか、皆して空を見上げてますよ?」
「彼らは時々こうなるようです。 よく分からない生態ですねぇ」
「食事に感動してるとか?」
「ユーハングの世界からの文化なら、こういうのは ある気がするんですがね……イジツで大分アレンジが加わったのでしょうか?」
よし。 村人研究と勧誘を続行しつつ、料理のレシピも開拓しなければ。
取り敢えず村人に礼をしておこう。 マルチの経験から、何か資源の供給や建築の手伝い等の施しを受けた場合、何か対価を支払わねばとも考える。
新たな発見と目的を与えてくれたのだ。 そうだな、村人の交渉で使われる定番のエメラルドを渡そう。
「うん? なんだ、デカい箱なんか置いて……うおっ!? これ中身、全部宝石じゃないか!?」
「緑色に輝く宝石……! 全部綺麗に同じ形……しかも大きい!」
「な、なんポンドするんだ!?」
「くっくっくっ。 彼らは意味不明ですが、有益な存在ですねぇ」
村人の甲高いハァンを聞きつつ、クラフターは作業台へ向き直る。
この世界は建築のみならず、美味い食事への興味も持たせてくれる。
勧誘されているのは、かくして どちらなのかな。
クラフターは自傷気味にくっくっと笑う。 世界は まだまだ発見と謎、驚きで楽しめる。 そう思えるのであった。