自由と休みが欲しい……。
駆け出し、ルーキー、新米、若造。
新人をどう表現するかはさておき、若い子を見ると開拓や新築にしろ、新たな息吹を感じてならないクラフター。
それはここ、イジツ世界の各地でも見受けられる。 食料取引所にいた6人組も、他の町にいる若人も。 それが我々と異なる村人であってもだ。 この世界は生きとし生きる者の世界であり、これからも そうやって未来は続いていくのだと皆は莞爾として頷くのであった。
「シャーッ!?」
それはそうと猫が欲しい。
生きとし生きるものだ。 拠点に連れ帰り、クリーパー避けにする。 空飛ぶブーンの中にはクリーパーのように景観や建造物を爆破してくるヤツがいる。 なら猫を置いておけば効果があるかも知れないと思って、猫を追い掛けた。
別に元の世界から連れて来れば良いのだが、初期スポーンまで戻るのが面倒だ。 ゲートは彼処にしか無いのだ。
クラフターは魚を持つ側の腕を無闇に振り回しながら、イヅルマなる既存の町にしては綺麗で明るい方の町中を走り回る。
見つけた気品のある猫を懐柔しようとしているのだ。 素早く逃げるから魚を食べさせられない。 元の世界でも少し面倒だったが、今回も面倒だ。 だがそれ故に価値が生まれる。
「ユーハングが魚を振り回しながら、走り回ってる!?」
「時々、建物や地面に叩きつけてます!?」
「妙なことを」
「猫を追い掛けているみたいです」
「猫に魚を食わそうと?」
「そんな、高級な食材を猫に食わそうとは」
「ユーハングからしたら、直ぐに手に入る食材なのかも」
「……とって食おうと?」
「困りますっ! 私たちの手柄がー!」
困ったヤツだなコイツぅ〜。
ペチンペチンと魚を地面や建物の壁に叩きつけながら追い掛けて……ああ、路地裏で見失った。
だが近くにいる。 僅かに視線を感じる。 ギラリとしたものだ。
これみよがしに生魚を食する。 1匹食べた。
マズくはないが焼いた方が良い。 満腹値の意味でもだ。 もっと言えば食料取引所にあるフリー素材「ショーユ」なるモノと組み合わせると美味いかも知れない。
取り敢えずもう1匹を取り出して生魚を振り回す。 旨みよ飛び散れ。 どうだ食べたかろうと。
出てこない。 出てこないか猫。 しかし本番はココからだ。
クラフターは近くの壁に近寄った。 そして……打つ。 壁を打つ。 魚で。 ベチィンベチィンッと旨みが音に乗る。 勢い余って壁を1ブロック分壊してしまった。 エンダーマンに抜かれた箇所みたいに。 仕方ないから丸石で補修して再度打ち始める。
「魚で壁が壊れましたああああ!?」
「ど、どうして魚で?」
どうした猫よ。
獣染みた視線を隠せて無いぞ? 更にギラギラさせて、どこまで耐えようというのかね?
そぉら、またも壊してしまった。 もう一度補修して壊せば……はて、どうなるというのか。 クラフターは首を傾げる。 猫が寄って来るなら良いが、この行為そのものに意味があるのだろうか。 興奮のあまり、何か大切なモノを失っていたようだ。
「あっ! 猫がユーハングの魚に!」
「だめえええ!? 食べられちゃう!?」
かと思えば、目当ての猫が寄って来た。 ギラギラと物欲しげに魚を見つめるから、与えてみた。 どことなく嬉しそうである。 この世界でも猫は猫だった。
悄然としたクラフターは、せめて本来の目的を果たそうと魚を与えていく。 食べていく姿に癒されていたら、ふと気付いた。
「あれ。 食べるわけじゃない?」
「太らせて食べる気なんじゃ?」
「さ、流石にユーハングが謎だらけでもそこまでは……し、しないよね!?」
「とにかく確保です、お姉さま!」
飼い猫じゃん、この猫。
何故気品がある違和感ですぐに気が付かなかったのだろう。 そも、山猫じゃないじゃん。 ここジャングルバイオームじゃないじゃん。 普通に既存の町中じゃん。
恐らくこの地に住まう村人の猫だと予想した。 己の失敗を恥じていると、案の定というべきか、白い服をした村人集団がやって来たと思えば猫を掬い上げて走り去っていく。 風のようだった。
クラフターは追い掛けるでもなく天を仰ぐ。 目的が失われたから。
この切なく胸を刺す思い。 目的や行動の意味を失い、無気力になる悲しさ。 世界に対して嘘と偽り、誤魔化しをしてしまったような辛さ。 リスポーンとは違う、何かをロストした苦しみ。
周りを見る。 陽に照らされて輝く美しき町だ。 その中を子ども村人がハァンハァンと元気良く走りまわる。 空は稀にブーンが飛び去る。 大きな空飛ぶ建築物もいる。 いつもの光景だった。
それでも地面の舗装具合や湧き潰し、防衛設備の少なさに問題を感じるから、その改善を僭越ながら行おう。 何かの罪滅ぼしだ。
「すいませんが」
そう気持ちを切り替えたら。
猫を連れ去った白服のひとりが声を掛けてきた。 髪の毛は赤色。 何かね赤毛の白服よ。 これ以上、何を奪おうというのだね。
「カナリア自警団、団長のアコです。 迷い猫の確保協力に感謝します。 ですが、その、すいませんが器物破損の現行犯で、貴方も本部まで同行願います」
何事かハァンと鳴いたら、リードを取り出して……なんとクラフターを繋いだ!
なんという事だ……戦慄と共に身を震わせる。
家畜にする気だ、この赤頭!
まさかの事態だ。 クラフターはクラフターであって、家畜ではない。 育て増やして、肉や革を得る側だ。 まさか、この白服は我々を取って食おうというのか。
食えずとも、全ロストした時点でパクられるモノはある。 困る。 それは荒らし行為のソレだ。 逃げなければ。
「あっ、こら! 暴れちゃ駄目です!」
駄目だ。 ああ、リードからは逃げられない!
飛び跳ねて足をジタバタしてみる。 駄目だった。 間に土ブロックを設置して解除を試みる。 駄目だ、リードがブロックに連動して上に上がる。 首が締まる。 窒息ダメージが入ったから直ぐに土を壊した。
「何をしてるんです!? というか、何で突然土壁が出来たり壊れたりするんですか!?」
ツルハシとスコップがあれば穴を掘ったが、生憎と持って来ていない。 拠点に置いて来てしまった。
かくなる上は、村人を殺すしかない。 植林と伐採作業用のダイヤ斧しかないが、十分だ。 赤頭をカチ割ろう。
淡々と次から次へと対策方法が出て来ては行動をしていくクラフターだったが、次の瞬間には白服の仲間が戻って来たので中断する事になった。
「団長……首になんで縄?」
「アコ、私の知らない そういう趣味が?」
「ち、違います! 手首に縛った筈なのに首に勝手に縛り直されていて……!」
「い、いや……理屈が分かりません」
「お姉さまは、決して そんな事をしません!」
クラフターは斧の代わりに魚を出して齧る。 満腹値で窒息ダメージを回復しつつ、癖で村人を観察する。
緑髪は、眠そうな顔をしている。 胸部が牛みたいだ。 上位金りんごみたいな希少性の輝きを放つ金髪も牛みたいな胸をしている。 バケツを持ってきたら、ミルクが取れるかも知れない。
オレンジ色ぽい村人は、農業を営むクラフターか。 心得がある雰囲気を感じる。 ダイヤクワを持ってるのかも知れない。
紫髪は猛者の雰囲気がある。 ダイヤフルエンチャント装備で挑まねば返り討ちにあいそうだ。
「きゃっ!?」
「なんか、こっち見ながら生魚を食べ散らかしてます!?」
「気味が悪い」
「ユーハングは謎に満ちてるわ」
「お姉さまは、私が お守りします!」
ひとつの結論に到達する。
コイツら、農業を営む作業員と赤髪の家畜なんだと。
赤髪が長で、緑と金色は牛である。 オレンジ色は畑系の作業員。 紫色は家畜を捕獲したりシめる役割か。
クラフターは改めて戦慄と共に身を震わした。 この世界の村人は謎に満ちている。 見た目は村人なのに、まさかミルクが取れる可能性を考えていなかった。
暴力を振るわれる経験はあるが、まさかまさか……。
「とりゃっ!」
ドスリッ。
紫色に拳を叩き込まれた。 またも暴力である。 違うのは威力と異常状態の効果だ。 ワンパンで暗転して身動きが取れなくなる。
いやぁ、この世界は広いなぁ。
ズルズルと引き摺られる感覚を僅かに感じながら、クラフターは何処かに連れられて行く。
木柵に囲まれるのだろう。 ジャンプでは越えられない、1.5ブロックくらいの大きさの。
最悪、素手でも柵を壊して脱柵しよう。 家畜はやはり、勘弁だ。 自由万歳。