数多の星が瞬く闇の中にボンヤリと浮かんでいるイヅルマという街。 その空き地に例の大きな道路を敷設して、物見櫓からクラフターは世界と向き合っていた。
見下ろせばポツポツと灯る複数の窓と、川のように光を束ねる街灯の道。 少し離れた所を見やれば、同志が造った池か湖かという噴水広場が浮かび上がる。 更に街外れでは開墾した段々畑が、まるでそこだけは日中であるかのように暗黒を寄せ付けない。
ここは星空を奉じた街だったのだろうか。
あの宝石を散りばめた空のように、幽玄さを目指した街並みだったのかも知れない。
しかし、それを認める事は出来ないから、地平へと目をやった。 空と地の境界線を視界に収めれば はたして影に飲み込まれてるのは地の方だ。 それが現実だ。 理想の空は美しくも遠い。 主に足を地に付けて行動するクラフターは、ブーンに跨り空駆ける天馬の如く自由に飛ぶ村人を羨ましく思う。
だからこそ、創造主たるクラフターは影の側にいて陰より迫る脅威を打ち払いながら、ブーンを鹵獲したり製造して村人の真似事を行った。 だがやはり先人には敵わない。 それでも感動と経験は生きていく。 それは、これからも、きっと。
「この街もユーハングの毒刃が」
「いいんじゃないかしら。 整備された道に、夜も昼の如く照らす消えない松明。 年寄りや子どもも安心して歩けて、飲み水に足る噴水広場は皆の憩いの場所よ」
ハァンが薄ら聞こえたから、首をグリグリ動かして探してみる。
いた。
金髪チビと……もう1匹は親兄弟なのか、大きい金髪だ。 別の街にも金髪はいたが、少し服装は違う。 この世界の村人は髪色や服を見ても職業の判断が困難だ。 またそれも面白いと思うのだが。 飽きないし。
「…………アイツらは勝手が過ぎるけどさ、時々遠くを見てるよな。 何かに焦がれるように……期待して、夢中になって」
「突然どうしたの?」
「いや、何でもない。 らしくない事を言うもんじゃないな」
問題は突然に殴られる事だ。
理不尽である。 此方は村人との共生と笑顔と自身の利益が矛盾しない創造をしているつもりなのに。 まあ、そんな理不尽も愛そう。 どんとこい。 何もかも上手くいったらつまらない。 その分、世界は広く まだまだ楽しめる。
「あの人たちは ひとつ所に縛られるような存在じゃないのよ。 山越え谷越え、世界を越えて。 冒険して開拓して建築して……そうやって生きていくの。 楽しそうに、誇らしげに…………嘘偽りなく」
殴られるといえば、あの白帽だ。
クラフターに近いようだが、同じようにブロック設置やクラフトが出来ない。 代わりに我々の知らないアイテムを扱う。 世界が変われば勝手も変わるというものか。 アレも中々に興味深い。
「何だよ、お前まで」
「さあ? どうしてかしらね」
「あー、なんだ……この店で間違いないのか?」
「ええ。 タレコミによればね」
おや。 金色が建物に入っていく。 食料取引所だ。 どこか古くも活気がある場所で、高い評価をしている。
内部にて行われるのは食事だけではない。 面によって黒斑点の数が異なる極小のブロックを2個転がす遊戯が行われている。 アレのナニが面白いのか理解が出来ないが、訪れる村人には人気のようだ。 皆ではないが。
「しまらねぇ話だ。 天下のゲキテツ一家が、貸し付けた金を持ち逃げされるなんてよ」
見に行くか。
クラフターは思い立ち、その衝動のまま物見櫓を飛び降りた。 野太い声を街に響かせつつ、ベイクドポテトを齧って落下ダメージを満腹値にて回復させる。
エンダーパールを持っていれば、直接ダイブ出来たが仕方なし。 今は さっさと建物へ。
「おい。 何か聞こえなかったか?」
「ええ。 外から……ユーハングが来たわ」
「……もう 酒場にいようが空にいようが驚かねえぞ」
取引所に入ると、刹那的に注目されるが慣れた。 最近は それでも無視する村人も多くなってきたが、どちらにせよ驚かない。 どこにでもいるので、一々気にしていたら進めない。 此方も無視する。
ただし、今回は少し注目したい村人がいるので、遠目に取引所内を観察しよう。 金色もそうだが、所内に若造が3人いたのだ。 それから白帽もいた。 特に利益が生まれるわけでもないのに、その偶然は嬉々として村人観察の衝動へ繋がる。 何が起きるというのだね。
「なんだ、お前か。 お前も丁半博打を……って、そんなワケないか」
「あら。 お知り合いですか?」
「まあ、何人かは。 コイツは格納庫の戦闘機を勝手に弄るから迷惑してんだ。 悪気はないんだろうがな」
「良い人たちだよ? 食べ物くれるし、色々造ってくれる」
白帽と若造がハァンハァンと互いに唸りあった。 似た光景は よく見るが、どこかしんみりしている気もする。 悪い事のようでそうではなさそうだから、心配せずに観察を続行する。
「……毒にも薬にもなる連中さ。 お前らも気を付けろよ。 市営駐機場に止めてるヤツらとか」
「おっとヤベッ! 弄られたらたまんねー、先帰るわ!」
「あーっ!? アイツ、金を貸し付けたヤツじゃねぇか!」
「ちぃっ!? バレたか!」
「逃げんなゴルワァッ!」
「耳揃えて返して貰いましょうか!」
今度は金髪と、ブロックを転がしていた村人が甲高いハァンで鳴いて追いかけっこを始めて……そのまま所外に出て行った。 戻ってこなかった。 湧き潰しをしたとはいえ、危険な夜には違いない。 なのに屋外に出るとは。 勇者なのか愚者なのか。
「カナリア自警団ですっ! 食い逃げ犯がいると通報を受けて来ました! 全員動かないで……って、ユーハング人!? まさか、日頃の奇妙な行いのひとつとして無賃飲食を!?」
今度は別の街で見た、農家な赤毛がやって来た。 いけない。 またリードを付けられてしまう。 逃げねば。
「あっ! コラ待てー!?」
「やれやれ。 ユーハングがいるところ、何かしらは騒がしいな。 楽しいけどよ」
笑顔で逃げながら思う。 毎日が刺激的で楽しいと。
トラブルや困難を愛そう。 世界は複雑な冒険で溢れている。