「屠龍が来たのか」
「航続距離の問題や、状況の問題からだろう。 単発の戦闘機を大量に投入すれば良い状態じゃないだろうし」
「だな。 既に何機もの戦闘機が燃料不足で帰還した」
「統制の問題もある」
リスポーンした仲間が「スカイ・クリーパー」を用意して飛び立ち、到着するまで前線を維持。 地上のクラフターは必死の抵抗を続けている。
援護してくれていたブーンの数も燃料不足からか逃げてしまい、代わりに多少大型のブーンがやって来た。 やって来ただけで、状況は改善しない。 やはりクラフターで何とかするしかないようだ。
「おい! ありゃなんだ!?」
「屠龍……いや、ユーハングの新兵器か!」
「最近、ユーハングが発掘して製造したとかいう、一式陸上攻撃機じゃない?」
「ああ、ラハマの滑走路で造ってたヤツか」
「腹にぶら下げてるのは何だ? ロケット弾か!?」
「それにしちゃ風防があるぞ。 照準器もある」
「航続距離が無いから、ぶら下げてるんじゃないの?」
「妙な運用法ですわね」
逃げていくブーンと「スカイ・クリーパー」が空ですれ違う。 ガラスブロックの中からジロジロと見てくるが、気にせず進む。
今回は村人には関係ない話だ。 クラフターの不始末は、クラフターで拭う。 いつも通りだ。 ただ、こんなシチュエーションは初めてだから心踊る。 早く飛びたい。
そんな想いと、成功させるという決意と共に「スカイ・クリーパー」に搭乗する ひとりのクラフター。 防具なんて付けない。 アイテムスロットも「空」だ。 遺品の回収は困難だからだ。 このブーンも、用途故か内装は簡易的だ。
それはそうと目の前が赤くなり、死亡メッセージが出された時……どうなるのだろう。 なんて出るのか。 気になる。 いつもは己の失敗を突き付けられる表示も、今回は、それが正しい成功なのだと思うと妙な気持ちだ。
「まさか」
「どうしたの?」
「ロケット弾……命中率を上げる為に人が直接誘導するモノだったら?」
「まさか!」
「キリエ。 彼らは死なないんだよな?」
「へ? ああ、うん。 見間違いじゃなければ」
「やりかねないぞ、自爆」
早く見えないだろうか、ドーム。 オラ、ワクワクすっぞ!
実のところ、RSブロックを用いている為に燃料切れというのは無い。 ところが、加速が止まらない可能性がある。 操縦性も、どこまで悪くなるか分からない。 すると障害物となるゲートにぶつからず、明後日の方向へサヨナラしてしまうかも知れない。 それが思わぬ災害に繋がったら困る。
故に確実に行くべく、こうして視認出来る所まで飛行する。 遠方程に座標計算も困難だ。 現地の地上隊がこじ開けた穴の位置も常にコロコロ変わるのであるし。
「むっ!」
などと、多少楽観していたバチだろうか。
ソイツは現れた。
首が3つ、全身は漆黒。 どんな生物とも似ても似つかぬ裏ボス的存在。
火の玉と圧倒的な体力と特殊能力、攻撃力で地上を無に帰す荒らしを具現化したような負の存在……。
ウィザーである。
「強過ぎるって!」
「バケモノめ!」
「何とか気を引くんだ!」
ウィザーに目を付けられてから、どれくらいの時間が経ったか。
母体の怪鳥から、必死に搭乗員やすれ違ったブーンで応戦するも、やがては効かなくなり、またも焼き鳥にされてしまった。
大翼を燃やし、黒煙を空に撒き散らす。 それでもまだ飛んでいる。 操縦士が左右に回避行動を取りつつ空中で消火作業、修復しながらも応戦。 衰弱の状態異常を受けながらも動き回る。 忙しい。
「燃料持たない!」
「不時着覚悟だ! ここでユーハングを見捨てられるか!?」
「出来ない」
「出来ないよね〜!」
「出来ませんわね」
ブーンがウィザーの周りをブンブン飛ぶ。 その小回りのおかげで被弾を避けている。 やりおる。 クラフターは見習わなきゃなと思いつつ、前を向く。 そうだ。 全ては ある目的の為に……!
見えた。
ゲートだ! ゲートが見えた!
身もブーンもボロボロにしながら、ソレを見た。 下の景色、全ての元凶にして善とも悪ともなるソレを。 潰すと覚悟し決意した目標物を。
もう良い。 ここまで来れば空いた穴を視認出来る。 後は吶喊するのみ。
「バケモノがユーハングに!」
だというのにウィザーが、此方にやって来た。 畜生。 破壊されたブーンの残材からの即席クラフトで制作した鉄剣をブンブンと振り回して追い払う。 無理か。 離れ過ぎだ。 ジャンプすれば届きそうだが体力がもう無い。
防具なしでここまでよくやったと思う。 せめて一太刀浴びせたい。
仲間に振り返る。 互いに頷き合う。
ああ、行って来い。
ああ。 後の世を生き残る事があったら伝えてくれ。 不器用にクラフトするしかなかったクラフターの生き様を……!
「ああ!?」
意を決して、瀕死の搭乗員は、ブーンから飛び立ちジャンプ斬りを喰らわした。 成功した。 満足したとばかりに良い笑顔を浮かべて彼らは大地へと落ちていく。 流れ雲で地上までは見えなかった。
「くそー! バケモノめ!」
「お、おい! うしろ! 零戦が突っ込んでくるぞ!」
「まさか!」
それでもウィザーは生きていたが……どこからともなくブーンがやって来た。 初期スポーン地点にあったブーンだ。 別のクラフターが搭乗している。
そのまま全力でウィザーに体当たりして……爆発四散した。 今度こそウィザーは倒れた。 大量のブーンのクラフト材と共に、ネザースターも地上へと消えていく。 後で回収案件だ。
「あああ……!」
「くそっー! 結局私たちは無力か!」
「行け! 行けユーハング!」
ありがとう同志たちよ。
ありがとう、ブーンと村人よ。
高度を維持出来ず、操縦不能となった母体に残っていた操縦手はスカイ・クリーパーを切り離す。 刹那。
後尾から全力の青白い炎を出し、凄まじい速度で降下。 ゲートの高度で水平飛行に戻す。
穴の隙間は僅か。 でも十分だ。
地上隊が必死に荒らしを食い止めている中───。
スカイクリーパーはドーム内のゲートに突入。
大爆発を起こし。
ドームごとゲートを消し飛ばしてしまった。
そのクラフターの身体もろとも。
死亡メッセージは「スカイクリーパーで自爆した」だった。
そのままだったから、少しガッカリした。
どういうわけか、エンド世界を攻略して飛び込んだゲートの時のように、よく分からない字が下から上へと流れていき、気が付いたら初期スポーン地点だった。 いつもの光景だった。
「うっうう……死んじゃ意味ねーじゃねーかよ」
唯一違うのは、白帽がメソメソとして、背中を小さくしている事か。 またクラフトにでも失敗したのだろう。 まあ、よくある事だ。
肩を叩いて励ましてやる。
「へ………………生き返ったああああああ!!?」
デカいハァンを鳴かれたから、全力で後退。 いけない。 クリーパーみたいな起爆動作かも知れない。
「無茶しやがって!」
次には駆け寄られ、壁際に追い込まれ、顔を打撃され、細くも強力な腕に体を拘束され、小柄ながら恐るべき攻撃力を秘める白帽に密着されたクラフターは もはや為す術なく身を強張らせていた。 伝わってくる振動に全てを悟り、瞑目する。
もう駄目だ。 どうか初期スポーンの中心で大爆発が起きませんように。
「忘れるなよ。 お前らだけじゃないんだ。 私たちも心配するし、教えて欲しい事も……礼を言いたい事が山程ある。 それを言わせずに去るなんて許さねえからな!」
クラフターは、ふと思った。
もう間も無く爆発か即死の類が起きるが、村人はどうなるのだろうか。
クラフター以外の諸々は死ねば消滅するのが世界の法則である。 それでも世界にはそれら諸々は存在し続ける。 生き物もモンスターもスポーンするからだ。 村人だけは注意が必要だが、世界は広く、番を見つければ増やすことは可能である。
今まではそれでよかった。 何の疑問もなかった。 スポナーの発見と確保に血眼になったのも素材収集が目的であって、クリーパーのスポナーがないことへの憤懣も火薬需要を原因としていたに過ぎない。
しかし、今、スカイ・クリーパーにより自爆してリスポーンしたクラフターは世界を問い質したい気持ちに駆られた。
白帽は? 赤服達村人はリスポーンするのか?
リスポーンするのであれば別にいい。 どこで目覚めようともクラフターは元の村人を見つけ出すだろう。 根拠もなしにそんな確信がある。 どこか誇らしい確信だ。
もしもリスポーンしないなら……クリーパーなどと同じくただのスポーンであったなら、はたしてそれは『村人』だろうか。白帽や赤服をしていれば同じものであると認められるだろうか。
眩いばかりの生を見せつける村人は……この素晴らしき個体群は……特別な、唯一無二の存在なのではあるまいか。
あるいは、リスポーンもスポーンもしないとしたら。
クラフターの生きる世界から村人が永遠に失われてしまうのだとしたら。
「え……?」
使い慣れた右手と、ぎこちない左手とで、クラフターは白帽を挟んだ。 膨張させまいとしたのだ。 そうすることで爆発を止めたかった。 或いは感情を抑え込みたかった。
その成果だろうか、白帽の震えは止まった。 しかし、今度はクラフターが震えていた。 どうしてかは分からない。 分からないが、願わくば二度とあのような自爆物は造るまい。 そう想ったのである。
「おーい! わっか は消えたぞ! だけどユーハングが……生き返ってるううううう!?」
「おやおや? 何やら良い雰囲気だね班長さーん?」
「ちげーよ!? そんなんじゃねー!」
またも甲高いハァンが響いて、どうしようもない。
まあとりあえず。 皆が笑顔のようだから、クラフターは食事をする事にした。 安心したら腹が減ったのだ。