すごい。 すごいぞ。 コイツは空を飛んでいる!
開拓中に空を移動するそこそこ大きくて白い建造物を発見したから、クラフターは歓喜に包まれた。 新たな発見と探索の予感は、人生の良きスパイスだ。
それも空中浮遊するただの建造物でなし。 移動するのだ。 これにはクラフターの多くが驚いた。
浮遊する建造物ならば、多くのクラフターに建造の経験があるが、これは移動する。 この圧倒的な質量感あるモノを動かす……物理的な見た目とは違う、スケールの大きさにクラフターは感涙した。
それだけでも驚きなのに、中に入って更に驚愕する。
中には いつもの 空飛ぶモンスターが鎮座している他、村人もいたから驚いたものだ。
思えば、この世界の村人は空が身近だ。 空飛ぶモンスターに乗っているのを良く見かける。 だから、こんなトコにいても別段不思議ではないかとも思った。 思ったら途端に興味が失せたので次に進む。
ここの村人はハァンハァンうるさいから、放置に限る。 取引は たまにするけど。
「ナツオ整備班長ォ! ヤツらが入って来ましたぜ!?」
「オイコラ誰の断りで入ってんだ! また かまどを機体に積む気か……って、勝手に船内を動き回るなよ!?」
「早く追い出せ!?」
探索だ。 探索ひゃっほい。
クラフターは はしゃぎながら、狭きダンジョン内を駆け巡った。 飛び跳ねて天井にゴツンゴツンと頭をぶつけるのも構わずに。
ここがもしダンジョンか村ならば、宝箱がある筈だ。 内容がショボいモノだとしても、見つけて開ける時のドキドキ……あの興奮を味わおう。
探索も含めて、この想いは建築のみでは味わう事が出来ない。
人生に冒険という名のスパイスを。 ここから新たな発見や発想だって生まれる。
やはりか、ひとつの世界に篭ってはいけない。 作業と冒険の数だけ世界がある。 空が同じでも世界は異なる。 見聞きではない、冒険した者でしか感じられない世界が、ココにはあった。
あっ。 チェストはっけーん! なに、ふざけんな、俺にも見せろ俺もだ俺もだ!
「アイツら、また好き勝手に漁りやがって!」
「ヤツらの世界じゃ、泥棒という概念がないのかい!?」
「奪い合ってるのか、あれ」
「グワァーッ!」
しかし内容はしょっぱかった。 砂糖に ありふれたポーション。 見慣れた食料や求めるモノと違うものにガッカリした。 皆はそっと、閉めた。
まあ、良くある話だ。 それでも、こうなると分かっていても「ひょっとしたら」の気持ちは持ち続けている。 冒険や結果とは、最後まで分からないんだから。
「わ、わわっ!? こっち来たよ!」
「私のパンケーキは やらないぞ!!」
そう。 このように最後まで分からない……木製のテーブルやカウンターが並ぶ洒落た空間の中で、異色の食べ物が見えたのだから。
丸く、ケーキのようだが表面は白くない。 あんなの、見たことがない。 クラフト出来るのだろうか。
当然、初物に対する探求心から手を伸ばす。 目前の赤い服の村人が美味そうにパクついていたから、きっと美味しいのだろう。
「あーッ! ふざけんなパンケーキを返せ!」
「よせってキリエ!?」
ケーキモドキを持った刹那、赤い服の村人に殴られた。
え……ウソ。 誰もが殴られた頰に手をやり、目を丸くする。
まさかの事態だった。 思わず村人を殴ってアイアンゴーレムに殴れる事はあっても、村人から直接殴られる事は無かったからだ。
大したダメージはない。 だが、その事実の衝撃たるや凄まじく、クラフターを震撼させ、理解が追い付かず暫く棒立ちをする程だ。
殴ったね!? 今まで村人に殴られた事ないのに!
「わーっ! 何してんの!?」
「コイツら怒らせちゃダメだろ!」
「忘れたのか!? コイツらの戦闘力はヤベェのを!」
「うっさい! みんな離せ! おいお前! パンケーキを ちょっとでも口に付けてみろ、ぶっ飛ばすから!」
「パンケーキは新しいの作るから、ね!?」
「許さん!」
取り敢えずの習慣で観察を始める。 赤い服の村人は周りの村人に取り囲まれ 揉みくちゃになった。 繁殖が始まりそうだ。
みんな興奮してハァンハァンハァンと発情している。 この赤い村人は随分人気なのだな……どんな子が生まれるのか見てみよう。
満腹値を上げて回復するついで、ケーキモドキを齧りながら観察だ。 おっ。 このケーキモドキは美味いぞ!
「あーっ! 食べた! コイツ私のパンケーキ食べたあああ!!」
「煽ってるとしか思えませんわね」
「ぶっ飛ばす!」
ハァンハァンと繁殖の傾向を見せながら、一向に増えない。 代わりに動きが激しくなっていく。
頑張って増えようとしているのだとクラフターは予想した。 小麦を与えれば生まれるかも知れない。 ところが、誰も都合良く小麦は持ち歩いていない。
仕方ないから手持ちのケーキモドキを与えてみた。
「なに? その半端、返してくれるの?」
「齧っていた筈なのに全く減ってないのですけれど」
「でも食った事に変わりないよね、そういう事で大人しく殴られろ」
「もうやめろっての!?」
興奮が少し鎮まったと思ったら、静かに興奮したハァンを鳴き始めた。 この世界の村人は知的に見える一方、摩訶不思議である。 攻撃すらしてくる。
このまま観察していても面白いが、まだ捜索していない場所を思い出したクラフターは、再び駆け出した。
まだ見ぬ部屋へ。 そこには期待を裏切らぬ新たな発見が待っている。 この世界はつくづく面白い───クラフターは見下ろして、くつくつと笑みを浮かべる事になる。
「グワァーッ!」
見下ろしたところ……ニワトリが1匹ウロウロしているのだ。 いや、これはニワトリに見えてニワトリではない。
ベテランクラフターは、様々な動物を見てきたし観察もした。 した、つもりだ。
ところが、どうだ。 このようにまだ未知の生物がいるではないか!
いやあ、世界とは広大で未知に溢れているなぁ! やはり人生やめられない!
さて、コイツはどういう特性があるのか。 食べ物で懐柔出来るのか。 興味が尽きない。
何やら威嚇しているようにも見えるが、ニワトリに毛を足した大きさだ。 歴戦のクラフターは、警戒はすれど、これくらいでビビらない。
「ああ!? 船長がっ!」
「船長逃げて! 超逃げて!?」
何をドロップするのだろう。 鶏肉か? 羽か? いや、レアドロップがあるのかも。
何にせよロープも用意していないし、懐柔用のエサもない。 複数いたら試し斬りをしたが、他に見当たらないからやめておく。
駆け出しの頃でなし、見つけた動物を片っ端から葬る事はしたくない。
まあ、諦めも肝心だ。 慌ててはいけない。 直下掘りからの溶岩プールへのダイブのような真似はしない。
クラフターは互いに頷き合い、空飛ぶ建造物を後にした。
「す、すげぇ。 ヤツら船長の威厳で逃げたのか」
「すごいぜ船長!」
「グワァーッ!」
夕日をバックに、エリトラ滑空で地表に戻りながら思う。
村人に学ばされたと。
ケーキにアレンジを加えて、また違った味を生み出し、まだまだ謎と生物がいる可能性を示唆してくれた。
世界は有限のようで無限に広がるのだ。 それは物理的な問題ではない。 発想と発見、実行などから世界は続いていく。 新たな世界の扉すら開く。
嗚呼。 世界は可能性やワクワクに満ちている!
帰ったら早速、ケーキモドキのレシピを模索しなきゃ。 あの動物も懐柔出来るか試したい!
あの赤い服の村人との取引もしてみたい!
それらの可能性と夢を乗せた、あの空飛ぶ建造物の仕組みも知りたい!
この広大なイジツ世界……資源は乏しくとも、ワクワクは いっぱい溢れているんだとクラフターは思えた。