皇歴2013年 ウズベキスタン カルシ・ハナバード空軍基地
カルシ・ハナバードはウズベキスタン共和国南部に在る空軍基地であり、対ブリタニア帝国戦における後方支援基地としての役割も有している。この基地に昨日の昼頃から政府要人が視察する事となった。視察は極秘で、要人が来訪する事を知っていたのは軍の高官と基地司令部の司令と警務部隊の精鋭チームだけである。よって基地要員としては、要人を狙った暗殺が起きる事など寝耳に水であった。しかし現実として既に要人は暗殺され、この基地に配備されていたE.U.の最新型機動兵器の先行試作機が敵方に奪取された事実は如何にもならない。
「まだ敵を排除する事は出来ないのか!」
「ダメです!敵はパンツァーを完全に使い熟しています!」
「たかが子供の乗る機体2機!何故止められない!?」
基地司令部では基地司令がレーダー要員と口論をしていた。当初司令部内部では要人が暗殺された事で困惑が広がり、更に下手人が子供二人組みである事で更にそれが広がった。それでも子供二人、簡単に事態は解決できると司令部の要員は考えていた。しかし蓋を開けてみれば、子供二人はE.U.から対ブリタニア用として貸し出された新兵器を奪い、基地内部を縦横無尽に駆け回り、破壊の限りを尽くしている。基地の警備部隊だけでは足りないと一般兵士達まで動員しているにも関わらず、未だに事態は終息していない。
「敵機A!航空機格納機へ向かっています!」
「!?」
「ば、爆撃機はまだ出撃出来ないのか!?」
「ダメだ!滑走路が壊されて出撃出来ない!」
「対地攻撃用VTOLは!?」
「敵機Bによって全滅させられました!」
「クソ!」
司令部内部ではレレーナとオルフェウスに鹵獲されたパンツァーによって齎される事態に悲鳴が上がっていた。喧騒に包まれ一部の者は錯乱してしまい、自身の業務もままならなくなってしまっている。基地司令ですらまともに対応策を示せず、前面にある巨大モニターに次々と映る基地の損害情報を見送っていた。そして思ってしまう、自分達は一体何と戦っているのだと。
司令部が混乱し、真面に指示を出せなくなっている状況でも現場の兵士達は必死に鹵獲された2機のパンツァーを破壊しようと戦いを挑む。しかし挑んで行った者から順にレレーナとオルフェウスによってこの世から永久退場させられる。しかもレレーナが駆るパンツァーは基地の兵士達を甲高い笑い声を上げながら蹂躙していき、兵士達の心を砕いて行った。まさに悪魔のような存在に兵士達には見えていた。
ある者は腰を抜かして動く事が出来なくなり、ある者は泣き叫びながら神に許しを請い、ある者は武器を捨て仲間を見捨てて逃げてゆく。しかし、悪魔は彼らを一人足りとも逃さなかった。
「ばっ化け物め!来るな!来るな!」
そう言って自分の持つ機関銃をパンツァーに向けて乱射する。しかし機関銃程度ではパンツァーの装甲に穴を開ける事は叶わない。そして悪魔によってその存在を認識された兵士は、悪魔の右手より放たれる銀の弾丸によって文字通り四肢を割かれ、八つ裂きにされて死んで行った。悪魔はその人であったものに一瞥もくれず次の獲物を刈り始める。その姿はさながら全てを破壊し尽くす"破壊神"の様だった。
ただレレーナ自身はそんな事を考えている暇は無かった。
何せ常時ギアスを使用し未来を見て敵を粉砕していき、パンツァーの精密操作で神経をすり減らしていたのだ。さらにパンツァーは基本大人が操作する為、子供の体であるレレーナでは足がペダルに届かなかったり、操縦桿を動かすのに体全体を使わないといけなかったりと、かなり体力を消費していた。子供時代に車の運転席に座った時のアクセルやブレーキに足が届かない様な感じで体全体を使わなければ操作できないのである。
その上試作機はグラスゴーの試作機同様まともな空調機器がついておらず、コックピット内はまさに灼熱地獄の様な暑さだった。
レレーナは全身の毛穴から汗が吹き出した様な汗をかき、その中で複数の敵と命のやり取りをしていた。人間極限状態になると最後は笑えてくるらしい。その笑い声が兵士達にとっては悪魔の笑い声の様に感じるのだがレレーナにそれを意識する余裕はない。
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さっきから敵がワラワラと基地内部から出て来て本当に面倒。このクソ暑いコックピット内に長時間篭って全身を使いパンツァーを操縦しているのだ。イライラを通り越して最早笑えてくる。人を殺しながら笑っているって、改めて考えるととんでもない狂人だなと…。
これじゃまるで大量殺戮だ。
「いい加減に諦めて降伏してくれればいいのに」
ついそんな事が口から漏れる。自分は何時からこんなに無情な人間になってしまったんだろう。そう思う反面、この状況でも果敢に挑んで来る敵の兵士達を愚かで弱い奴だと思う自分もいる。ブリタニア皇族として或いは、戦争優位国の人間として負けが分かっている戦いで何故命を賭けるんだと思う。自分が分からなくなる。ただやらなければ殺される。故にやられる前に殺す。そして気付けばこちらに向かって来る者も逃げる者も居なくなり、瓦礫と物言わぬ屍だけが彼方此方に転がっていた。
「大丈夫か?レナ」
口から漏れた言葉を無線で聞き、オルフェウスがこちらに来る。すでにオルフェウスが向かった先の敵施設及び航空戦力は無力化して来たようだ。予想よりも大分早い。大方、僕の方を心配して早めに終わらせて来たんだろう。オルフェウスのパンツァーはよく見ると傷だらけである。
人に心配されるのは嬉しいものだ。ブリタニア皇族に転生してから他人に心配される事はよくあったが、下心無しに僕自身を心配してくれたのはルルーシュ兄様とナナリー、オルフェウス、エウリアだけだったと思う。
…ジェレミアも入るかな?
「大丈夫だよ。そっちも終わったみたいだね」
「あぁ。後は、司令部だけだ」
「じゃぁ其処を落としてさっさと終らせよう」
「分かった」
そう言うと二人で基地司令部のある庁舎へ戻り、司令部に向かって両腕に付いている52口径120mm滑腔砲を放つ。何度も放つ。結果司令部はすっかり瓦礫の山となり、司令部要員は攻撃の最中に庁舎の外に逃げ、降伏した。
その降伏した者達は全員を拘束して一箇所に纏めて放置した。彼らはすっかり意気消沈して怯えながら俯いていた。
「終わったな」
「そうだね。これでやっとE.U.へ戻り任務を続けられるよ」
「まぁ、増援が来るまではここに居なきゃ行けないがな」
「まだまだ時間は掛かるだろうね」
「寝てていいぞ、レナ」
「オルフェウスこそ疲れてるでしょ?寝ていいよ」
「レナよりは、体力もあるしギアスも使ってないから大丈夫だ」
「そう言われると反論できないなぁ」
「なら寝なさい」
「ぐぬぬ」
口でオルフェウスに勝てる事は稀なんだ。今回も正論で言い負かされた。
僕の方が年下で体力でも劣りギアスも使用していたのだから、僕の方が疲れているのは明白だ。けれどオルフェウス一人に監視と警戒を任せて寝るのは、いくら図太いと定評のある僕でもどうかと思ってしまう…。何かいい方法は無いだろうか。
「レナ、こう言う時は素直に甘えれば良い。これからは、お互いに助け合いながら生きて行こう」
「助け合いながら…」
「全部自分一人でやろうとしても失敗するだけだ。今レナがすべき事は体を休める事だ。監視と警戒は俺に任せろ」
まっすぐとこちらを見てそう言うオルフェウスに僕は息を飲む。イケメンが真剣な眼差しでこちらを見ているのだ。
仕方ない、今回はオルフェウスの案を採用して先に僕が休んで後でオルフェウスと交代しよう。
「…分かった。ならお言葉に甘えて、先に休ませて貰うよ」
「分かったならそれで良い」
「その代わり途中で交代ね。2時間で交代だからね!」
「分かった分かった。全く」
僕が妥協案を出した事で、オルフェウスも納得し仕方ないと言わんばかりの目で此方を見ている。しかしやっぱりお互い疲れているのだ、全部任せるのは良くないと思うんだ。
本当はギアスを使って捕虜を警戒に充てたいが、ここは離れていてもE.U.の勢力圏でどこで『時空の管理者』が見ているか分からない。あのよく分からない美女に目を付けられたら五体満足で生き残れないかも知れないから、なるべく使いたくない。特にスマイラスの側はいけない。時空の管理者を利用して友と言っていたレイラの父親である『ブラドー・フォン・ブライスガウ』議員を暗殺しているのだから。かなりスマイラスと時空の管理者は近い存在なのだろう。全くもって面倒極まりない。
そんな事を考えながらパンツァーの胴体の上に座り眠りの態勢に入ると、オルフェウスがさり気なくブランケットを掛けてくれた。本当にイケメン。
「ゆっくり休め」
「…うん」
最後にそう言って僕の瞼はゆっくりと閉じて行く。思いの外簡単に寝れてしまう事に驚き、そしてオルフェウスがいる事に安心感がある事に気付く。やっぱりオルフェウスとエウリアは、僕にとって特別なのだと改めて思った–––––––––––––––––
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「起きろレナ。迎えが来たぞ」
オルフェウスの声が聞こえるなぁ。もう2時間か…うーん。
「むむ」
「“むむ”じゃない」
おぉ、懐かしいやり取り。お母様とよくやったやり取りだ…。
あぁ起きなきゃ、見張りの交代だからね。…なんかやけに明るいな。
「オルフェウス?」
「朝だ」
朝?
「…朝!?」
「迎えも来たぞ」
「なんで!?どうして!?」
なんで朝まで僕は、寝ているの?あれ?起きれなかった…だと。
「疲れてたんだよ。起こしても起きなかったんだから」
「うわぁ、嘘!」
「ぐっすり眠れただろ?」
「…うん。ごめんね」
「構わない」
構わなく無いんだよなぁ。起こされたのに起きれないって言うのは、流石に命のやり取りをしているのに致命的だよ。
「心配しなくても、レナは俺が守ってやるから」
「…エウリアの守りもあるのに大変だよ。自分の身は自分で守らなきゃ」
「エウリアは本国でレナが手を打っただろ?それにレナの『
確かに全知全能はあらゆるギアスを使用できる上に『ワイヤードギアス』と呼ばれる先天性のギアスなので契約の影響を受けない。そしてV.V.と契約でさらに力を増大させてた。本来であれば一度に一つのギアスしか発動出来なかったにも関わらず、契約後は一度に二つの能力を使えるようになったのである。簡単に言うと『ザ・パワー』を使いながら『ザ・スピード』を使えると言うことである。自分で言うのも何だがチートである。
それでもギアスを使用する僕自身の体がそれについて行かないのだ。体力的にも精神的にも…。
「もっと成長すればマシに成るんだろうけどね」
「まだ11歳だろ」
「オルフェウスは、13歳だね」
「あぁ、お兄ちゃんだろ?」
「そうだね」
そんな優しい笑みで見られると照れるなぁ。でもこう言う会話は、本当に貴重なんだ。
そんな事を考えていると"ラチェット”率いるブリタニア軍第4師団第401大隊がカルシ・ハナバード基地にやって来た。ラチェットたちは基地に来て驚いた顔をしていた。何せ自分たちが救援に呼ばれ来てみたら既に敵の基地は瓦礫の山と化し、司令官達の身柄も拘束された状態だったからだ。特に驚いた顔をしていたのはローゼンクロイツ伯爵だった。僕も驚いた、何でお前が居んだよ。
ローゼンクロイツ伯爵。
こいつはTVアニメでルルーシュ兄様が皇帝時に行なった改革に反対し、ジェレミアに鎮圧された貴族の一人だ。この世界では反ヴィ家の貴族の一人でギネヴィア・ド・ブリタニアの後援貴族をしている。
事の次第をラチェット達に説明している時、多くの将兵達は驚愕したり、怪訝な表情を浮かべたりしていた。ただローゼンクロイツは苦虫を噛み潰したような苦悶の表情を浮かべていた。大方僕を助けて恩を売り、都合の良いように利用したいと思っていたのだろう。あわよくば此処で殺されてくれればラッキーみたいに考えていたに違いない。それとも救出作戦時にドサクサに紛れて殺すつもりだったのかも知れない。そう簡単にお前達の思い通りになると思うなよ。拠点の情報をリークした奴も含めて、必ず全員に引導渡してやる––––––––––
次回
『帝都狂乱-序』
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また誤字報告して下さった方々有難う御座います!これからも間違い等有りましたらよろしくお願いします!
<用語>
『ザ・スピード』
・”コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー”に登場するアリスのギアス能力
・過重力で相対的に超高速を得るギアス
『ザ・パワー』
・”コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー”に登場するダルクのギアス能力
・なんか凄い力(筋力?)を発揮できるギアス
<人物>
●ラチェット
・小説でブリタニア第4師団長で将軍
・ウズベキスタンで黒の騎士団・中華連邦連合軍と交戦した
●ローゼンクロイツ伯爵
・アニメ版において名前だけ登場
・設定は、本作オリジナル